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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第二章◆

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*10* 言霊ってあるんだね?


 ゴツゴツとした厳つい石造りのテーブルの上。レイラさんの白い指先から生み出されたレース編み用の絹糸のような魔力が、術者である彼女の意思を介して編み上げられ、宙に芸術的に構築されていく。


 溜息が溢れそうな繊細な輝きを放って編まれていた魔術はけれど、その途中で絡まって動きを止め、構築された時のように宙に溶けた。レイラさんは煙か飴細工のように消えてしまった魔術の名残を切なげに眺めると、こちらに視線を寄越して微苦笑を浮かべた。


「せっかく意見を聞こうと思ってお呼びしたのにごめんなさい。また駄目だったわ。どうしてもここから先の座標を思いつかなくて」


「私は仕事のついでだし、師匠も少し早い出勤くらいの話だから大丈夫ですよ。それに今の魔方陣も途中までは本当に凄く綺麗でしたよ。ね? 師匠」


「そうね、悪くはないわ。今みたいな美しい術式は好まれるし、試験官によってはこのままでも通す可能性はあるわね。でもあんたはそれだと納得出来ない、と」


「はい。出来れば本番までに確実に形にしておきたいですわ」


 疲れの滲む、けれど充実した表情を浮かべて頷く彼女の肩口から、ここ最近輝きを取り戻し始めた赤みがかった茶色の髪が流れ落ちる。先週作ったばかりの森林スライム製髪用パックの効果恐るべし。


 あのワイバーンに乗った宮廷魔導師に襲撃されてから三週間。あれから何の動きもないのは不気味だけれど……今はもっと大事なことが目前に迫っているのでひとまず保留にしている。


 何と言っても八月も残すところあと四日しか残っていないから、本日はレイラさんたってのお願いで、九月十日の魔術師昇格をかけた試験に向けて、最後の追い上げに付き合っている。


 顔用に使えたんだからと直後に髪用に転用した師匠は流石だ。同じ物の被験者になった私とレイラさんでは元の素材が違うのは致し方ない。


 このまま師匠の言っていた食生活を続けていけば、十月までに彼女の美貌は取り戻されることだろうと考えていたら、ふと目が合った師匠がニンマリと口角を上げた。瞬時に激しく嫌な予感が背中を走る。


「ふぅん? 良い心意気ね。煮詰まってる時は違う人間の構築するところを見てみると閃くことがあるわ。というわけだから、アリア。あんたが何か一つやって見せてあげなさい」


 ……ほらね。だがしかし長い付き合いだから、これくらいの予測はついているので驚きませんとも。ちょっとしかね。


「も~……師匠のことだから絶対何か無茶なことを言い出すと思ってましたよ。でも残念、無理です。お粗末な私の魔術構築なんかよりも、師匠の完璧なやつを見せてあげれば良いじゃないですか」


「あんたはこのあたしの弟子なのに、いつまで経ってもお馬鹿ねぇ。完璧なものを見せたって、手直しをする箇所を思いついたり出来ないでしょう。こういうのは不完全なものを見せて自分ならどうするかを分析させるものなのよ」


 師匠のしれっと自身の有能さをひけらかすところが好きだ。私達のやり取りを聞いていたレイラさんはちょっと驚いた表情をしたけれど、すぐにただじゃれているだけだと気付いたのか「わたしからもお願いしたいわ」と笑う。


 そう言われてしまっては俄然ヤル気が出たので、笑いを取るつもりで最近クオーツを相手に披露していた魔法陣を見せようと思ったのだけれど、そこに待ったをかける人物が現れた。


「おーい……ギルドの営業前にここで魔術談義をするのは構わんがな、時計はしっかり見ろよー? 他の奴等に見つかって困るのはお前さん達の方なんだぞ。特にあの宮廷魔導師の坊っちゃんとかな」


「うわぁ、止めてくださいよジークさん。せっかく向こうが接触してこないのにそういうこと言うの。言霊って怖いんですよ?」


「へいへい。つってもなぁ、お前さん達があの坊っちゃんを置いていったあと、本当に死んでるみたいに眠りっぱなしだったんだぞ? おかげでオレは自宅に戻れないで二日間ここで泊まり込みだよ。文句くらい言わせてくれっての」


 そう言いつつ苦々しい表情で頭を掻くジークさんに対し、師匠が間髪入れずに「どうせ自宅に戻ったって中年男の独り暮らしなんだし、別に良いじゃない」「オレは睡眠には質を求めるたちなんだよ。職場で寝たところで疲れなんて取れるわけがねぇだろ」とかやり始めた。何だろうね、この長年付き合いのあるお店の売れっ子と常連感は。

 

 簡単に割って入れない二人の関係性(昔一緒にパーティーを組んでた)に若干嫉妬し、レイラさんの隣に並んでこっそり舌打ちをする。それを聞きつけたレイラさんに「今度舌打ちの仕方も教えてね」と言われ、易々と人前で舌打ちをするのを控えようと思った。


 結局最後は「ほらほら、お喋りは終いだ。時間だぞ」というジークさんの言葉に追い立てられ、師匠の「しょうがないわね。後で見てあげるから、またうちの閉店時間に来なさい」というグダグダな感じで、それぞれの仕事の持ち場に散ったのだけど――。

 

 森に戻ってクオーツと畑の手入れに性を出して。ついでに朝レイラさんに披露しようと思っていた魔術構築を練習中の頭上に、三週間前と同じ陰が降ってきたのは、それからたった四時間後のこと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 某ホラー映画のテーマソングを思い出しました きっとくるー てやつです 「来やがった!」てなりました クオーツ、焼き払え! (・w・)***===ΞΞ炎
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