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【web版】オネエ魔術師と拾われ弟子◆汚城掃除婦は今日も憂鬱◆  作者: ナユタ
◆第二章◆

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★6★ 森の結界に異常あり。


 工房と店舗の空間を結びつけて仕事を開始してから二時間。


 いつも通り常連客の話し相手や在庫の管理で時間が流れていく店内。十一時半を回った夏の陽射しは店から貴族の客足を遠退かせるけど、客とのお喋りに疲れている時はちょうど良い。


 暇は暇だけど、どうせ今日はこれをレイラに渡すために店を開けたようなものだから、空いた時間に今晩の献立を考える。夏場はどうしてもあっさりしたものを作ることが多くなって、動物性の栄養が減るから肌や髪には良くない季節。油分は取りすぎても駄目だけれど、過度に取らないのも同じく駄目だもの。


「せっかくあのお馬鹿の肌がマシになって少しは前向きになったんだし……何かご褒美になりそうなものが良いわよねぇ」


 何よりも意外なことに、アリアは魔術適正がある。普通の人間にあたしが魔力を注ぎ込んだところで、それを媒介に魔術を操るのは難しい。


 そもそも魔力は血に馴染んだ質というのが人によって違う。そこは魔法使いも、魔術師も、魔導師だって変わらない。そんな目に見えない理の鎖の如く魔力は存在する。要は最初から持っていない人間は生涯持てないということだ。


 それでも少しだけ可能性があるとしたら、両親のどちらかが魔力持ちか、数代前に魔力持ちがいる場合。でもその場合だとしても、あの子に魔力がほんの少しでも自前で魔力を持っていたら、このあたしが出逢った時に分からないはずがない。

 

 しかも昨日はスライム相手に手こずっていたアリアに発破をかけたけれど、本当は僅かに驚いたのだ。この短期間にあたしの魔術詠唱の真似が出来るようになったことも、咄嗟とはいえ陣に陣を重ねて魔術の構築をしてみせたことも。天性のものだとしたら記憶がないことが惜しい。


 きちんと叩き直してやれば、今からでも下級魔法使いくらいにはなれるかもしれない。魔術師の弟子としての仕事ももらえるようになるだろう。身元が確かでないあの子でも掃除以外の特技が増える。それは今後あたしの手を離れる時に必ず強みになることだろう。でもそのためには一つ大きすぎる問題があった。


「記憶が戻れば、か――……」


 店番用に置いた丸椅子に腰かけ、カウンターにもたれかかりながらその表面を指先で叩く。儘ならないことを考えるのは性に合わない。でもそれが成り行きとはいえ七年も面倒を見てきた相手のことならば、ほんの少しくらいは悩んでやっても良い気がしていた。色々なことが煩わしくなって、生まれた国すら捨てたのに。


「らしくないわねぇ……これが焼きが回ったってやつか」


 人目がないところでも使うようになったこの言葉遣いを、国を出てから初めて再会した時に聞かせたジークの顔を思い出して、若干懐かしい気分になる。郷愁なんてものはどこをひっくり返してもない性分。真面目になんて生きる気力はない。


「……あの傷跡をつけられた当時を思い出せば、あの子はきっと今度こそ壊れる」


 アリアの傷から感じる気味の悪い魔術の痕跡。記憶を塗り潰されるほどの恐怖を刻んだ構築の技術とその人間性を疑う外道さ。導き出された答えはやっぱり――。


「あの子の可能性を摘むのは勿体ないけど、今のままで良いわね。魔法や魔術が使えたからって幸せになれるものでもないし」


 わざと明るい独り言を口にしてカウンターを叩くのを止めた直後。無粋な音を立てて店のドアを叩く馬鹿がいた。叩き方で分かる。如何に古い付き合いとはいえども、そろそろ関係を切ろうかと思い立つ程には面倒事しか持ってこない男だ。


 ぼんやりとガラス越しに透けて見える輪郭に「壊したら弁償させるわよ」と投げかけると、ドアへの暴行がピタリと止む。その現金さに呆れつつ錠を外してドアを開いたけれど、先に店内に飛び込んで来たのは意外な人物だった。


「おうルーカス、邪魔するぞ」


「営業中に失礼しますベイリー様」


「ジークはいつも邪魔しにくるけど、レイラはいったいどうしたの? 今日の約束は確か閉店後だったわよね?」


 軽い口調の割に微妙な表情のジークと、明らかに緊張した表情のレイラを前にしてそう当然の疑問を口にすれば二人は一瞬視線を交わし合い、ジークに顎で促されたレイラが不安そうに口を開いた。


「先程わたしの母校の図書館に試験で使えそうな記述のある本を借りに行ったのですが、そこで教授達が話している会話を聞いてしまったのです。その内容が少し気になったのでお耳に入れておこうと参りましたわ」


 彼女の声音の固さに黙って続きを待っていたその時。

 森に張っておいた結界が、何か大きな力で破られるのを感じた。

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