メタ名探偵
私は「メタ名探偵 米田崎 芽多子」。唯一無二のメタパワーでどんな難事件も解決に導いてきました。世の中には様々なメタ能力を持つメタ探偵が存在していますが、私をそこら辺のド三流共と一緒にしてもらっては困ります。
例えば、登場人物の性格や顔つき、言動の傾向により犯人を見出だす「キャスト探偵」、どこか遠くを寂しげに見つめる視線やペンダントの裏側に貼り付けられた古ぼけた写真など意味深な描写を元に捜査を行う「フラグ探偵」、その場に居合わせた全員を順番に名指しする「総当たり探偵」……私にとって彼らは探偵ごっこに興じる幼稚な子供に過ぎないのです。
私に備わっている最強のメタパワー。それはありとあらゆる物語の結末を覗くことができる力。たとえ、状況が二転三転する複雑怪奇な事件であっても、必ずたった一つの終着点が存在します。この摩訶不思議な力の前では、いかなるどんでん返しも、巧妙なミスリードも無効なのです。
私は早速、この事件の、そしてこの小説のラストを確かめることにしました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「犯人は、あなたですね? 川合 聡子さん」
「はい……私がやりました」
彼女は、ついに観念して、弱々しくそう呟きました。こうして、今回も私の華麗なメタ名推理により事件は無事解決したのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はあ、なんとあっけないことでしょう。またつまらぬ推理をしてしまいました。しかし、既に事件は解決したも同然。強大すぎる力を手に入れてしまった故の無気力感は常に私を苛みますが、それでも人々の笑顔を守るためだと思えば、この程度の苦痛など大したことはありません。
私は目の前の彼女を指差し、高らかに堂々と告げました。
「犯人は、あなたですね? 川合 聡子さん」
「はい? 何を仰っているんですか?」
普通の探偵なら「話が違うじゃないか」とみっともなく慌てふためくことでしょう。しかし私は全く動じません。なぜなら『物語の結末は決して裏切らない』からです。いくら彼女がとぼけようとも、最後に笑うのが私だという事実は揺るぎません。故に私はゴールに向かってただ迷わず着実に進み続けるだけです。
ただ、正直にいって、彼女が想像以上に手ごわかったのは認めます。
「全く意味が分かりません」「一体何の話をしているんですか」「身に覚えがありません」「あなたとは初対面ですよね」「そもそもどんな事件の犯人だというのですか」「いい加減にしてください」「清掃業務は終わったので失礼します。請求書はこちらに……」「しつこいですよ!」「これ以上続けるなら警察を呼びますからね!」
……並みの探偵なら、彼女の恐るべき狡猾さと図太さの前に怯んでしまっていたでしょう。
こんなこともあろうかと、彼女のお茶に睡眠薬を混ぜておいて正解でした。どうやら一筋縄ではいかないようなので、推理の続きは地下の防音室で行うことにしました。
決着がついたのは、それから数か月後のことでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「犯人は、あなたですね? 川合 聡子さん」
「はい……私がやりました」
彼女は、ついに観念して、弱々しくそう呟きました。こうして、今回も私の華麗なメタ名推理により事件は無事解決したのです。