親友の最期は闇雲の中
「こんばんは。 はじめまして」
見知らぬ少女に声をかけられた。
バックパックを背負って、スポーツバックを肩からさげている。
更には剣道の防具も持っているだろうか。
とにかく大荷物の学生だ。
暗くて色まではよくわからなかったが、恐らく紺色のブレザーを着ていた。
「はじめまして。 なにかご用でしょうか」
俺は訝しげに挨拶を返した。
「用があるというわけではないんです。 ただ、あなたがいつもここにいるので気になってしまって」
ここは特に言うこともないような大通り脇の歩道。
街灯は立っておらず、ただ立ち並ぶ店の明かりと車のライトだけが辺りを照らしている。
「実は親友がここで亡くなったんです」
「親友が……お悔み申し上げます」
「いえいえ。 もう何か月も前のことですから」
「何か月も前……?」
少女は首を傾げた。
「あなたがここに来るようになったのはここ一ヶ月くらいでしたよね」
「ええ。 そうなんですけど……」
事のいきさつを話そうとも思ったが、聞いていて面白い話ではないと思った。
しかし、親友と俺の関係というのはお互い好き勝手にやるというものだったし、別に気にしなくてもいいとも思った。
「実は、ここで亡くなったということを聞いたのは最近の話なんですよ」
少女は首を傾げたままだ。
普通は人間がどこで亡くなったかなどすぐにわかることだ。
フィクションの殺害現場誤認トリックなどではあるまいし。
「あくまでわからなかったのは俺だけです。 知ってる人に教えてもらえなかったということですね」
「それは……なんでなんでしょう。 あなたは理由をご存じなのですか?」
わけありというところが興味を抱かせてしまったのだろうか。
少女は遠慮もなしに質問を続ける。
「単純な話ですよ。 きっと親友の親族の方は、俺に後追いをしてほしくなかったんでしょうね」
「親公認で仲が良かったということですか?」
「そう言われるとなんか恋人みたいですけど、そんな感じですね」
お互いの家で飯を食べたこともあるし、公認と言えば公認だろう。
「あの、ところで……。 やっぱり、なんでもないです。 いろいろとお聞きしてしまって、申し訳ありませんでした」
彼女は数秒間手を合わせて立ち去って行った。
結局、俺は彼女に本当のことを話さなかった。
後追いするかもしれなかったから、死亡場所を教えてもらえなかった。
少し無理がある嘘だとは思っていたが、なんとかバレずに済んだみたいだ。
親友のご両親が俺にそれを教えなかったのは、俺が執念深くここに通ってしまうからだ。
犯人を探すために。
いや、犯人というと少し語弊がある。
親友をスクーターで轢いた人に会ってみたい。
その人はなにも悪くなかったという。
なぜか車道に飛び出してきた親友を、たまたま運悪く、ちょうどスクーターが通過してしまった。
スクーターの運転手は親友を轢いたあと、すぐに救急車と警察を呼んだ。
だから、その人のことを恨んだりはしていない。
ただ、親友の最後を身近に知りたい。
人伝の人伝ではなく、最後に一緒にいた人の言葉で知りたい。
しかし、実際見つけるのはかなり困難だとも思っていた。
自分のせいではないとはいえ人を殺してしまったら、俺は二度とスクーターに乗れないと思う。
例え大荷物で移動することになったとしても、俺は徒歩を選ぶだろう。
だから、現在スクーターに乗っているというのは参考にならない。
自動車ではなくスクーターだから、市内くらいには住んでいてほしいものだが。
俺にできることは、現場の近くをうろつき回るだけだ。
限りなく見つけられる可能性が低くても、なにもしないよりかは可能性はある。
今日も明日も、俺はここに来る。
ところで、最後にあの女子高生はなにを聞こうとしていたんだろう。
そんな小さな疑問が、寒風のように体に染み渡っていった。