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追想
一ヶ月後──
馬車がゆれている。
客車は白い幌で覆われていて、外はほとんど見えない。御者台とのあいだにも薄い白布が垂らしてある。都の入り口にあたる宿場町で、迎えの馬車に乗ってから、そろそろ半日。
二人には、広すぎる馬車だ。
メイは、ぼんやりと膝をかかえて、進行方向右側の隅に座っていた。モリスは、反対側の隅に。馬車に乗ってからこのかた、ほとんど会話はない。
メイは、脇に置いてある革の肩掛け鞄から、紙でつつんだ堅焼き餅をとりした。帝都に入るまえに遅い朝飯を食べたが、そろそろ昼すぎになる。いつ着くのか、説明は何もない。
堅焼き餅は、モリスの好物だ。宿にきていた物売りから買った、草色の。ちらりと見る。目は合わない。なにを考えているのか、あぐらをかいてじっと前を見ているようだ。
眉をぎゅっと寄せて、ため息。餅をかじる。甘い。
前は、こんなふうではなかった。
おかしくなったのは、1年前。
思い出したくもないが、忘れるはずもない。あの道場破りが、やって来たときからだ。