青光
その瞬間、青い光が満ちた。
*
ほんの少し前。パナンは地下室の扉の前で、通路をふさぐように立っていた。目の前には、槍をもった男たち。背後は暗い。
とん、と地面を蹴る。浮くように。
それを追うように、槍の穂先が暗闇に入ってくる。
自分の体が、きちんと影に入ったのを確認してから、蹴る。
槍を、である。
握ったところが支点になるように、穂先を。それから、もうひとりの槍を、右手で叩く。
ふたつの槍が、バツ印を描くように、持ち主の手を離れて交差した。
穂先と石突が、狭い通路につっかえて固定される。即席のバリケードである。
まだ、闇の中だ。
次の槍が侵入してくる。その槍を引く。簡単に持ち手を離れる。それをもう一度、こんどは縦に、天井と地面にひっかけて、さらにバリケードを強固にする。
矢。
避ける。
だれかのうめき声が聞こえる。流れ矢であろう。
モリスの足音に注意を向ける。そろそろ、地上についた頃か。あともう少し、時間を稼がねばならない。いっそ、ここで全員倒してしまうか。そのほうが早いかもしれない。
ラナ=デミギアは別として。
もうひとり、槍を向けてくる。バリケードの下から足を蹴る。倒れる。倒れた場所は、まだ闇の中。もうひとりが倒れた体に足をひっかけて、転ぶ。その額をかるくはじいて、昏倒させる。できるだけ、優しく。
少し、飽いてきた。
いっそ、殺すか。全員。
そうすれば、ラナ=デミギアは怒るかもしれない。おれの相手をする気になるかも。
そんなことを、思う。
いや、べつに、断られたわけではない。武芸者同士だ。戦いたければ、つっかければ良い。そう、思う。
やってやろうか。
闇から、ラナ=デミギアを見る。ほほえんで立っている。ぞろりとした、およそ戦いには向かない白い衣装をきて、
かすかに、青く輝いて。
そのことに疑問を感じる間もなく、パナンは光に包まれた。
次の瞬間、パナンは脇腹に何かが触れるのを感じた。強い『気』であった。いや、掌だ。たぶん、ラナ=デミギアの手。だが、感じたのはその手の形より、まずは気であった。
物理的な衝撃ではなく、螺旋状に動く、増幅された気を送り込む技術。
パナンはなすすべもなく吹っ飛んだ。通路の、ほとんど端まで。無傷ではあった。自分も気でガードしたからだ。それしかできなかった。青い光に注意をそらされた上、あまりに、完璧な一撃だった。
これほどに体得しているものは、おそらく、自分かエマ=ナンラだけだ。
パナンは床を蹴って跳ねた。天井を叩き、もう一度床へ。相手の注意をそらそうと動きながら、目をあける。が、瞼が開ききる一瞬前に、知った。
ここには、もう誰もいない。
たくさんの死体と、落ちた武器だけ。
ラナ=デミギアは、消えていた。




