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青光

 その瞬間、青い光が満ちた。



 ほんの少し前。パナンは地下室の扉の前で、通路をふさぐように立っていた。目の前には、槍をもった男たち。背後は暗い。

 とん、と地面を蹴る。浮くように。

 それを追うように、槍の穂先が暗闇に入ってくる。

 自分の体が、きちんと影に入ったのを確認してから、蹴る。

 槍を、である。

 握ったところが支点になるように、穂先を。それから、もうひとりの槍を、右手で叩く。

 ふたつの槍が、バツ印を描くように、持ち主の手を離れて交差した。

 穂先と石突が、狭い通路につっかえて固定される。即席のバリケードである。

 まだ、闇の中だ。

 次の槍が侵入してくる。その槍を引く。簡単に持ち手を離れる。それをもう一度、こんどは縦に、天井と地面にひっかけて、さらにバリケードを強固にする。

 矢。

 避ける。

 だれかのうめき声が聞こえる。流れ矢であろう。

 モリスの足音に注意を向ける。そろそろ、地上についた頃か。あともう少し、時間を稼がねばならない。いっそ、ここで全員倒してしまうか。そのほうが早いかもしれない。

 ラナ=デミギアは別として。

 もうひとり、槍を向けてくる。バリケードの下から足を蹴る。倒れる。倒れた場所は、まだ闇の中。もうひとりが倒れた体に足をひっかけて、転ぶ。その額をかるくはじいて、昏倒させる。できるだけ、優しく。

 少し、飽いてきた。

 いっそ、殺すか。全員。


 そうすれば、ラナ=デミギアは怒るかもしれない。おれの相手をする気になるかも。


 そんなことを、思う。

 いや、べつに、断られたわけではない。武芸者同士だ。戦いたければ、つっかければ良い。そう、思う。

 やってやろうか。

 闇から、ラナ=デミギアを見る。ほほえんで立っている。ぞろりとした、およそ戦いには向かない白い衣装をきて、

 かすかに、青く輝いて。


 そのことに疑問を感じる間もなく、パナンは光に包まれた。


 次の瞬間、パナンは脇腹に何かが触れるのを感じた。強い『気』であった。いや、掌だ。たぶん、ラナ=デミギアの手。だが、感じたのはその手の形より、まずは気であった。

 物理的な衝撃ではなく、螺旋状に動く、増幅された気を送り込む技術。

 パナンはなすすべもなく吹っ飛んだ。通路の、ほとんど端まで。無傷ではあった。自分も気でガードしたからだ。それしかできなかった。青い光に注意をそらされた上、あまりに、完璧な一撃だった。

 これほどに体得しているものは、おそらく、自分かエマ=ナンラだけだ。

 パナンは床を蹴って跳ねた。天井を叩き、もう一度床へ。相手の注意をそらそうと動きながら、目をあける。が、瞼が開ききる一瞬前に、知った。

 ここには、もう誰もいない。

 たくさんの死体と、落ちた武器だけ。


 ラナ=デミギアは、消えていた。


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