表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/33

決勝戦

 モリスは、走っていた。 



 試合開始と同時に、エマが跳んだ。とん、とん、とん、とすぐに間合いを詰めて、右手を振るおうとする。かるく握った拳、動かしながら、二本の指を立てる。狙うのは、

 ザジが抜いた。

 抜き撃ち、横薙ぎに。

 エマはとっさにのけぞって、剣を避けた。いや、避けた、はずだった。

 首から血がしぶいた。

 それでも、エマは澱まず、姿勢を低くして蹴りを放った。ザジの膝が大きな音をたてた。倒れる。剣をかかえるようにして、地面を転がる。エマは追わなかった。いや、追えなかった。首の出血がひどかった。

 エマは構えをなおし、くるんと全身を回転させる、奇妙な動きをした。

 体内の螺旋を整え、増幅させる、螺旋闘術の秘技である。

 血が止まっていた。

 ザジも立ち上がった。右手で剣を構え、左手を懐に入れている。

 右膝は、曲がらないようだった。

 エマは、もう一度、右手を振ってつっかけた。今度は指ではなく、拳。胸。いや、首筋の少し下。深い意味はない。そこが一番狙いやすかったからだ。いや、

 そう、誘導されたような気がする。

 間合いが縮まる瞬間の、ザジの不自然な動き。右膝がかすかにバランスを崩したように見えた。が、『調整』であったようにも。

 エマは、寸前に拳を止めた。ザジの懐からかすかに覗く、異様な色にきらめく抜き身の刃に触れる寸前に。

 罠であった。

 動きを止めたエマを、右手の剣がおそった。避けようとして姿勢を崩した。胴を横なぎ。一撃で両断される。はずだった。エマの両足が地面から離れ、仰向けに倒れるように上半身をのけぞらせた。目にもとまらぬような動きであった。

 肉が裂ける音がした。

 エマの右脇腹の肉と、血が、ザジの剣に残った。ふたりはまた離れて、向き合った。エマは脇腹を押さえて、しゃがみこんでいた。

 脚がかすかに震えていた。

 ほんの一呼吸のあいだ、ふたりは睨みあった。エマは立ち上がった。それと同時に、ザジはもう一度、こんどは両手で剣を構え、きっさきをまっすぐエマの首筋にむけた。

 エマのからだが、動いた。さきほどと同じ、回転する動きだ。それが完了する前に、ザジは地面を蹴った。一瞬で間合いがなくなる。くるりと一周したエマの顔の目の前に、刃があった。

 避けられる自信はあった。ただ、あまりに疾かった。

 のけぞる動きにひきずられるように、刃が喉元に。


 触れる──


「殺すな!」

 モリス=サランの声。その瞬間。いや、刃が動きだす前から、声は聞こえていたのだろう。それが脳に達したのが、今だというだけだ。この剣は、そんなに遅くない。

 止まった。

 皮膚に触れたところで、ザジが手を止めた。ふたりは密着した状態で、刃をあいだにして向き合った。この状態から反撃することもできる。けれども、

「……降参だ。」

 エマは目を伏せて、小さく手をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ