機械の翼
ラモンは、ふたたび機上にいた。
メイはそれを見上げてから、ちょっと目をふせた。すこし、迷っていた。
かたん、とレバーをたおす。
巨人が動きだす。それを追うように、審判が試合開始の合図をする。
メイは、跳んだ。
上にではなく、前に。
とん、とん、とん、と三歩で、巨人の脚の下をくぐりぬけ、背後にまわる。
──とん!
跳んだ。上に。
ふわり、と舞うように。
動いている巨人をつかまえるように、肩の上に立つ。くるりとバランスをとって、見下ろす。巨人の骨組みのすきまから、操縦席を。
誰もいない。
一瞬、頭の中が真っ白になる。いや。さっきの試合を見ていただろう、と自分にいいきかせる。ここにいなければ、下だ。まさかいきなり巨人を捨てるとは思わなかったが。
探す。
いない──。
しゅっ、と肩口に熱い痛みが走る。
木製の巨人の肩に、なにかが刺さっている。太い、杭のような、矢。
上だ!
見上げる。凧。そう思った。いや、翼か。大きな翼を背負ったラモンが、頭上にいた。木の骨組みに、革を貼ったものか。薄くて、月の光が透けてみえる。骨組みからは曲がった棒が二本、突き出していて、ラモンの両手の近くにある。これを握って動かすのか。
だが、今は、ラモンの両手はふさがっている。
前の試合でつかったのと同じ、奇妙な弩をにぎって、こちらを狙っているからだ。
とっさに、ころがる。狭い、巨人の上で。
次の矢がすぐ横に刺さる。
ぐらりと、足元がゆれる。巨人はまだ、動いている。いや、倒れようとしているのか。どうして。がくんと膝をつく。メイが。それから、巨人も。
がしゃんと、いやな音がした。巨人のフレームをつきやぶって、巨大な歯車がとびだす音だった。それから、岩巨人と戦ったときに駆動していた灰色の筒も。体重に耐えられず、自壊しているのか。動けない。足元が不安定すぎる。
やられる──
反撃する方法を、必死で探す。剣を投げる。火炎の呪文。いずれも、届きそうにない。死んだふりをして、相手が降りてくるのを待つ。こっちのほうがまだ、望みがありそうだ。そのまま殺される可能性のほうが、ずっと高いが。
死ぬ。
そのことを、意識する。さっき、一度体験した。覚えてはいないが。生と死は武芸者のならい。戦いのなかで死すのならば。父ならば、迷いはしないだろう。
手がふるえる。
父のことは忘れよう。別のことを考えよう。たとえば、
モリスのことを。
がっ、と次の矢が木板をつらぬく。メイの脇腹をかすめて。全身から汗が噴き出していた。喉がからからだ。震えがとまらない。怖い。
モリスがいっていたことを、思い出す。
「──降参です!」
やっとそれだけを、メイは、かわいた口から叫んだ。
*
からくり巨人はもう動けなかったので、ガル=デミウが岩巨人をつかって排除した。ギメイ=マドマは残念そうにしていたが、ラモンは満足そうだった。
怪我をしたものは、エマ=ナンラが治療した。
さて──
敗者復活戦で勝ち上がったのは、マテル=パナルとラモン=シリウスということになる。
そのふたりと、これまで勝ちあがったエマ=ナンラとザジ=ダームの4人で、準決勝戦をおこなうことになった。
まず、エマとラモンが戦い、つぎに、ザジとマテルが戦う。それぞれの勝者が最終戦を戦う。
そういうことになった。




