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パナン=ミムル

「敗者復活戦にて、戦っていただきますのは、ケイ様、マテル様、ラモン様、ガル様、メイ様、キュナ様。──」

 ラナ=デミギアではなく、トガをきた男の下人が、ろうろうと告げていた。

 メイも、ほかの戦士たちも、とっくに並んでいた。モリスたち3人は、ぼそぼそと言葉をかわしながら中庭に出て、かるく目を伏せてまぎれた。

 ケイは下人にうながされて、ゆっくりとマテルの横にならんだ。モリスはメイの後ろについたが、少ししてすっと下がった。

 メイが、とがめるような目線をこちらに投げてきた。

 モリスは、そっとメイの耳元に口をよせて、

「……メイ様。どうか、お気をつけて。命を大事になさいませ」

 なんですって、とメイは口の動きだけでいった。下人がまだ何かいっていたが、耳に入らなかった。

「今夜は、……生き延びてください。もう、手遅れかもしれませんが。」


 心臓が、とくんと大きく跳ねた。


 それから、メイが大きく振り向いたとき、モリスはもうそこにはいなかった。



「ほォ、」

 中庭から屋内にひっこむやいなや、パナンはモリスの目を見ていった。

「あんた、あの嬢ちゃんよりも強いんだな。」

「なんです、やぶからぼうに。」

「いやァ、」

 ぽこん、とおどけて頭をたたくようなしぐさをして、

「ナニ、似ているなと思ってサ。」

「なにがです。」

「おれと、あんたさ。……まあ、ともかく、仲良くやろうさ」

 モリスはうろんげに視線をさまよわせた。中庭にラナ=デミギアがいなかったことが気にかかった。

「……で、なにを探るというんです。」

「さァね。おれぁ、関係ないんだよ。たまたま、通りかかっただけだ。あの、ケイという輩は、いろいろと考えているようだが……」

 ぼくだってそうです、といいかけて、モリスは口をつぐんだ。

 ケイ=バムンの思惑がどうあろうと、関係ない。蘇生術の真偽をたしかめなくては。

 メイの心臓は、止まってしまったのだから。


 か、か、とパナンは笑った。


「やつらの事情も、ラナとやらの正体も、知るものかよ。が、あの井戸の死体が、蘇生術に関係しているとしたら、そいつは大いに興味があるね。おれの認識では──」

 そこで、パナンは意味ありげに言葉をきって、眉をあげてみせた。それから、

「おれの認識では、人間にそんなことはできない。人間が死ぬと、生命の流れはすぐに失われ、足元から脳天までつらぬく螺旋の道も、消えてしまう。それを蘇らせる方法はない。そのはずだ」

「……それは、螺旋闘術とやらの理論ですか」

「そうさ。あんたの、……なんだっけ、魔剣術? とやらでは、違うのかい。」

「死者を蘇らせることはできない、……ということでは、同じです。」

「そうだろうな。ケイ=バムンだったか、あいつがつかう幻術だかいうのも、同じことだろう。蘇生術が本当にあるなら、ぜひその秘密を知りたいね。なんなら、あのラナ=デミギアを直接ぶちのめして、吐かせたいくらいだ。あんたも、そうだろう?」

「ぼくは……、」

 首を振って、息をつく。右手の指がかたかたと動く。無意識に。

「ぼくは、蘇生術について知らねばなりません。……サラン家の当主、メイ=サランの命がかかっているのですから。」

「生と死は武芸者のならい。違うかね?」

 パナンは、ぴたりと口調をかえた。

「死を覚悟せずにここには来るまい。戦いのなかで死ねば、誰かがあとを継ぐだけのこと。もしおれが死ねば、エマ=ナンラが。メイ=サランが死ねば、あんたが継ぐ」

「ぼくは、……サラン家の跡継ぎではありません。」

 モリスは乾いた唇でそう答えた。

「そうかね。……そんなに、強いのに。」

 モリスはぞくりと背筋をふるわせた。


 この老人は、どういう目をしているのか?


「さて……では、行こうか。あの若造のいうことをきくのはシャクだが、ね」

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