パナン=ミムル
「敗者復活戦にて、戦っていただきますのは、ケイ様、マテル様、ラモン様、ガル様、メイ様、キュナ様。──」
ラナ=デミギアではなく、トガをきた男の下人が、ろうろうと告げていた。
メイも、ほかの戦士たちも、とっくに並んでいた。モリスたち3人は、ぼそぼそと言葉をかわしながら中庭に出て、かるく目を伏せてまぎれた。
ケイは下人にうながされて、ゆっくりとマテルの横にならんだ。モリスはメイの後ろについたが、少ししてすっと下がった。
メイが、とがめるような目線をこちらに投げてきた。
モリスは、そっとメイの耳元に口をよせて、
「……メイ様。どうか、お気をつけて。命を大事になさいませ」
なんですって、とメイは口の動きだけでいった。下人がまだ何かいっていたが、耳に入らなかった。
「今夜は、……生き延びてください。もう、手遅れかもしれませんが。」
心臓が、とくんと大きく跳ねた。
それから、メイが大きく振り向いたとき、モリスはもうそこにはいなかった。
*
「ほォ、」
中庭から屋内にひっこむやいなや、パナンはモリスの目を見ていった。
「あんた、あの嬢ちゃんよりも強いんだな。」
「なんです、やぶからぼうに。」
「いやァ、」
ぽこん、とおどけて頭をたたくようなしぐさをして、
「ナニ、似ているなと思ってサ。」
「なにがです。」
「おれと、あんたさ。……まあ、ともかく、仲良くやろうさ」
モリスはうろんげに視線をさまよわせた。中庭にラナ=デミギアがいなかったことが気にかかった。
「……で、なにを探るというんです。」
「さァね。おれぁ、関係ないんだよ。たまたま、通りかかっただけだ。あの、ケイという輩は、いろいろと考えているようだが……」
ぼくだってそうです、といいかけて、モリスは口をつぐんだ。
ケイ=バムンの思惑がどうあろうと、関係ない。蘇生術の真偽をたしかめなくては。
メイの心臓は、止まってしまったのだから。
か、か、とパナンは笑った。
「やつらの事情も、ラナとやらの正体も、知るものかよ。が、あの井戸の死体が、蘇生術に関係しているとしたら、そいつは大いに興味があるね。おれの認識では──」
そこで、パナンは意味ありげに言葉をきって、眉をあげてみせた。それから、
「おれの認識では、人間にそんなことはできない。人間が死ぬと、生命の流れはすぐに失われ、足元から脳天までつらぬく螺旋の道も、消えてしまう。それを蘇らせる方法はない。そのはずだ」
「……それは、螺旋闘術とやらの理論ですか」
「そうさ。あんたの、……なんだっけ、魔剣術? とやらでは、違うのかい。」
「死者を蘇らせることはできない、……ということでは、同じです。」
「そうだろうな。ケイ=バムンだったか、あいつがつかう幻術だかいうのも、同じことだろう。蘇生術が本当にあるなら、ぜひその秘密を知りたいね。なんなら、あのラナ=デミギアを直接ぶちのめして、吐かせたいくらいだ。あんたも、そうだろう?」
「ぼくは……、」
首を振って、息をつく。右手の指がかたかたと動く。無意識に。
「ぼくは、蘇生術について知らねばなりません。……サラン家の当主、メイ=サランの命がかかっているのですから。」
「生と死は武芸者のならい。違うかね?」
パナンは、ぴたりと口調をかえた。
「死を覚悟せずにここには来るまい。戦いのなかで死ねば、誰かがあとを継ぐだけのこと。もしおれが死ねば、エマ=ナンラが。メイ=サランが死ねば、あんたが継ぐ」
「ぼくは、……サラン家の跡継ぎではありません。」
モリスは乾いた唇でそう答えた。
「そうかね。……そんなに、強いのに。」
モリスはぞくりと背筋をふるわせた。
この老人は、どういう目をしているのか?
「さて……では、行こうか。あの若造のいうことをきくのはシャクだが、ね」




