ラナ=デミギア
ラナ=デミギアという女は、シーラーナ人のようであった。
子供のように見えるが、シーラーナ人は若くみえるから、もしかするとメイよりも年上かもしれない。痩せぎすで童顔、両手を膝にのせて、姿勢よく道場の床のうえに正座。無邪気にほおえんでいるように見える。正座すると床につくほどの白髪、結びも結いもせず、流れるにまかせている。浅黒い肌とは対照的に、ただ白い。
服装は、ズボンに丈長のスカート。メイのものとは違って、薄い朱色の、むこうがわが透けて見えるような軽いスカートである。ズボンは、これと対象的にぴっちりした素材で、動きにくそうに見える。その上に縞柄の帯を締めて。
上半身は、メイのものとさしてかわらない、ふつうの着物であるが、かえって不似合いに見えた。都の人間はこんなものは着ないと、メイは思っていた。見たわけではないが。
「はじめまして、」
ラナ=デミギアは、子供のように澄んだ声でそういいながら、上品なしぐさで裾をおさえて立った。右手には、フード付きのマントのようなものを畳んで抱えている。空いた左手をすっと差し出して、
「ラナ=デミギアと申します。宮廷武術指南役を代々仰せつかっておりますデミギア家の、家人の一人です。よしなに」
「あぁ……、」
その家名にも、肩書にも、心当たりはない。
手を、握る。握手という習慣は、このあたりにはない。やはり都の人間なのだなと思う。
「オツペル=サラン様の武名を伺ってきたのですが、遅かったようですね」
丁寧な口調ではあるが、少し、不躾ではないか。
そう、思いながら、メイは握手をした手を離そうとした。
離れない。
ラナが力をいれている様子はない。ただ、すいついたように動かない。
ぐっと力をこめて、むりやり引き剥がそうとする。腕の筋肉が盛り上がり、汗がにじむ。
離れない。
これは、どうしたことか。
「……オツペル=サランの後継者は、あなたですか?」
にこやかに笑ったまま、ラナはそう尋ねてきた。
メイは唇をかんで、反射的に、脇に目をやった。
モリスは、少し離れたところで、かるく目を伏せて立っている。
とたんに、すっと手が離れた。
「よろしければ、……一手、ご指南頂けませんか。ねぇ?」
子供のように、ちいさく首をかたむけて、ラナ=デミギアはそう申し出た。