蘇生術
メイ=サラン。
ガル=デミウ。
キュナ=ナルパ。
三人の死体が、板の上に寝かされている。
ラ、ラ、サ・ハルナ、サリ、マリー、カル、カル、シー、サラルーナ…、
三人のまわりを、ラナ=デミギアが、ゆっくりと呪文をとなえながら歩く。
一周するごとに、月光が強くなっていくように見える。
白い、もやのようなものが、じんわりと地面から染みだして来る。月光とまざりあって、粘液のように見える。
ぞわりと、動いた。
その粘液が、である。
足から、少しずつ上半身へとずるずると這っていき、しまいに口へ。
きらきらと、光沢を放ちながら、
モリスは、思わず目をそむけた。
*
「……不覚をとりました。」
自分にいいきかせるように、メイはそうつぶやいた。
ここは、デミギア家の客間のひとつである。
部屋のなかには、ベッドがふたつと、ちいさな机がある。ダージふうの、意匠化された植物のもようが脚に刻まれた、高価そうな机である。
メイは、部屋のはしにあるゆったりした長椅子に、前のめりに座って、うつむいている。
「あの、奇妙な動きが……、惑わされました」
「……たしか、螺旋闘術、とか。」
モリスは、立ったままそういって、しずかに頷いた。
「あの動きをした後、異様に筋肉がふくらんでいました。魔術のようなものでしょうか」
「あぁ、……でも、呪文もなしに?」
「……そういうことになりますね」
モリスは腕組みしたまま、じっとメイのほうを見た。
直接見たわけではないが、胸の傷はもうすっかり治っているようだ。
たぶん、体内も。
「鎧も、……壊されてしまいました。」
「……ええ。」
メイの着ていた鎧は、机の上に置いてある。
呪語を記した鉄片を重ねあわせてできた半身鎧である。エマの拳がうちこまれたところだけ、鉄片がひしゃげ、ちぎれて、ばらばらになっている。
剣で思いきり打ち込んでも、このようにはならない。
どれほどの力……いや、疾さで、拳を叩きこんだのか。
よしんば、修練の結果としてそういうことができるとして、ここまでの威力で打ったら、拳そのものが耐えられないのではないか。
いや、それよりも……
「……あの、呪文、」
「え?」
「いえ…なんでもありません」
モリスは、メイから目をそらした。なんとなく息がつまるような気がして、
「……ちょっと、様子を見てきます」
小さくそういって、部屋を出た。




