ザジ=ダーム
さて、次の試合は、ザジ=ダームとキュナ=ナルパであった。
ふたりは、はりつめた空気の中、対角線上に向かい合っていた。
キュナが前の試合で負った火傷は、モリスの魔術で、すっかりよくなっている。
ザジも、巨人の手で打たれたダメージは、もう残っていないようだ。
とん、と跳ねるように、キュナが横に動いた。
動きながらも、まっすぐに、ザジの手元を見つめている。
ザジの手は、かるく添えるように、剣の柄を握っている。
剣は、斜めにキュナのほうを見ているが、それを握る手と腕は、きれいに脱力している。
さらに、横に動く。
ザジは、動かない。
とん、とん、とん、とキュナがザジのまわりを回るように動く。誘うように、二度、拳を動かす。
ザジは動かない。
キュナが、ザジの右側方までまわっても、ザジは動かない。
キュナの眉があがった。
たん、と大きな音をたてて右足を踏み出す。
疾い。
たん、たん、たん、と三歩で間合いを詰めて、ザジの側頭部に向けて拳をふりかぶる。
風が走った。
一瞬後、キュナは大きくのけぞって、姿勢を崩していた。前髪がはらりと切れて落ちる。 横なぎにぬきはなったザジの剣を、寸前でかわしたのである。
右手を柄に添えていたとはいえ、ほとんど棒立ちの姿勢から、しかも横から突っ込んでくる相手にむかって抜き撃ちをしたのだ。
それでこの速さというのは、異常であった。
かわしたとはいえ、キュナは完全に姿勢を崩している。ほとんど、尻もちをつく寸前だ。
剣が空中でひるがえって、こんどは逆方向から。
キュナは、ごろごろと地面をころがって逃げた。逃げざまに、手で体を支えながら、両足でザジの足もとを蹴る。が、当たらない。
ザジは、後を追わない。
ふたたび、間合いが離れる。キュナが立ち上がる。
間をおかず、こんどはザジが動いた
たん、と右足を踏み出し、左から右に、きっさきを横に走らせる。
キュナは反射的に体をのけぞらせた。また、姿勢がくずれる。
きっさきが滑る。が、届かない。
そう、見えた。
次の瞬間、キュナの首から血がしぶいていた。
キュナは一瞬、おどろいたような顔をして、それから顔をザジにむけた。
勢いよく流れる血を、とめようともしない。
どこか、遠くをみるような目をしていた。
ザジは、無造作にもう一度剣をふるった。キュナはよけようともしなかった。
そのかわり、跳んだ。
拳鍔をはめた拳を大きくふりかぶって、前へ。
その拳が、ザジの頬に触れた瞬間、動きが止まった。
それから、落ちた。
キュナの胴が、下半身から離れて、血と臓物が散らばっていた。
ザジは、眉ひとつ動かさずに、剣を鞘に収めた。ザジの体は返り血にまみれていたが、その刀身には、曇りひとつなく、きれいなままであった。




