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短剣

 まず動いたのは、ラモンの乗る巨人のほうであった。

 ぐっと、姿勢を低くして、右のこぶしをザジが立っているところへ向ける。

 ちょうど、片膝をついたような姿勢である。

 ザジから見ると、はるかな高みから、金属製の拳が落ちてくることになる。

 ザジは、さっと走った。

 上半身をほとんど揺らさない、独特の走りかたであった。

「おっと、」

 ラモンは、とまどったような声をあげて、レバーをひく手をとめた。巨大な拳に遮られて、ザジの動きはよく見えない。それに、一度動き出した巨人の動きは、容易には変えられない。

 結局、最初に狙った場所に、そのまま拳をふりおろすしかなかった。

 ザジは、拳がおちた場所から少しさがったところで、じっとラモンを見上げている。

 あいかわらず、片手は懐にいれたままだが、もう片手は、剣の柄をにぎっている。

 巨人が、きゅらきゅらと奇妙な音をたてて、拳をまたふりあげる。

 ザジは動かない。

 ふたたび、巨人がこちらに狙いをつけるまで、じっと待っているようだ。

 ラモンは、緊張したおももちで、ふたたびレバーを操作した。巨人は、こんどは拳ではなく手を広げ、掌を下に向けた。

 ちょうど、掌で、虫を叩こうとするように。

 ザジの脚に、緊張が走った。ふたたび、走ろうとしている。

 巨人の手が動くのと、ザジが地面を蹴るのは、同時であった。


 がっ、とにぶい音がした。


 巨人の硬い指が、ザジの脇腹に当たった音であった。

 巨人は、掌を地面に叩きつける、と見せて、試合場全体をなぎはらうように、横向きに右手をふるったのである。

 ザジは、試合場の端、ぎりぎりまで走ったが、避けきれなかった。

 なすすべもなく、五歩ばかり吹っ飛んで、地面をごろごろと転がった。試合場の反対側の端、小川に落ちかけたところで、止まった。

 同時に、巨人の動きも止まっていた。

 レバーを握っていたラモンの右手が、震えている。

 もう片手は、右肩のあたりをおさえている。

 操縦席の床に、赤い血が、ぼたり、ぼたりと落ちる。


 大人の指ほどの長さの、ほとんど刀身ばかりの小さな短剣が、肩に刺さっていた。


 いつのまにか、ザジの左手が、懐から出ている。

 巨人の手に打たれる寸前に、懐で握っていた短剣を投げたのである。

 ザジが、立ち上がった。左手が、だらりと下がっている。巨人に打たれて転がったさいに、肩をやられたらしい。

 かまわず、跳んだ。

 ふわりと、巨人の腕の上に着地し、そのまま奔る。

 肘の関節を飛び越え、脚の力だけで巨人の肩にとびのり、また跳ぶ。

 空中で、抜剣している。


 ラモンは、懸命にレバーを動かそうとするが、手に力が入らない。


 右手に長剣を握ったザジが、操縦席にとびこみ、無造作に刃を突き入れようとする──


「降参! 降参します! やめてぇッ!」

 ギメイ=マドマの悲鳴が響いた。

 ザジの剣は、ラモンの喉に潜りこむ寸前で、ぴたりと止まった。


 決着であった。

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