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巨人

 さて、さきほども述べたが、中庭のすみには、白布がかけられた大きな箱のようなものが置いてあった。

 大きい、という言葉では足りないかもしれぬ。白布のてっぺんの高さは、館の二階の窓とちょうど同じくらい。周囲をぐるりと囲むには、5人で手をつないで少し足りぬほど。

 持ち主は、ラモン=シリウスという男であった。

 短い銀髪、浅黒い肌。痩せた肉体。ラナ=デミギアと同じ、シーラーナ人であろう。それにしては、いささか顔のつくりが濃いようだが。

 一般に、シーラーナ人は童顔である。この男も、見たところは二十代のようだが、実際はいくつなのかわかったものではない。

 チュニック、レギンス、革の短靴。それから、白い手袋。背中には、いくつもポケットのついた革の背負い鞄。

 もうひとり、連れがいる。

 ギメイ=マドマという少女である。シーラーナ人ではなく、帝国の主要人種であるダージ人のようだ。金髪、緑の目、そして筋肉質がダージの特質だが、ギメイはずいぶんと痩せている。

 かっこうは、ラモンと同じ、シーラーナふうの男装である。肩にかかるくらいの金髪は、布でぎゅっとまとめて縛る。目の下には、小さな泣きぼくろ。紅い頬、ぱっちりした目。顔だちは幼く見えるが、十三、四というところか。楽しげにぎゅっと唇をまげて、わらっている。

 ふたりは、白い布の両端をつかんで、ばっととりはらった。

 あらわれたのは、奇妙な機械であった。

 膝を抱えて座ったような、巨大な人形に見える。腹と胸はむきだしで、内臓のかわりに、巨大な歯車とぜんまい、それから奇怪な鉄線のからまったようなものが、いくつも入っている。手とおぼしきところは、金属でしっかり覆われていて、にぎった拳はまるで岩の塊のよう。

 からくり仕掛けでできた、巨人である。

 ラモンは、外枠に器用に足をかけて、するすると上っていった。巨人の胸のところに、両側を歯車とベルトにはさまれて、椅子がひとつ据えてあった。ラモンがそこに座ると、両手をのばした先には三本のレバーと、ワイヤーにつながった持ち手があった。

「どうだい、おれの作品は。」

 ラモンは、中庭に立っている戦士たちを見下ろして、自慢げにいった。

 それから、左手でワイヤーを二回引くと、両脇の歯車がそれぞれ違う速度で動きだした。一瞬後には、まがっていた巨人の膝がのびて、立ち上がっていた。

 天をつくようであった。


 さて、対戦相手は、ザジ=ダームという男である。

 赤毛に、明るい茶の瞳。ダージとパミリスの混血であろうか。頬のこけた髭面に、きつい目つき。不機嫌そうな表情で、じっと、ラモンのいるところを見上げている。

 ゆったりした、灰色の巻衣のようなものを着ている。帯は、黒。どんよりと、淀んだ空気を身にまとうようにして、立っている。

 腰に、大小の剣が二本。これが武器であろうか。しかし、巨人に効果があるとは思われぬ。


 ずん、と巨人の足音。


 小川でかこまれた試合場に、踏み出してきたのである。

「……反則じゃないの、」と、誰かがつぶやいた。キュナ=ナルパの相方の女であった。

 ラモンも、ザジも、意に介していないようにみえる。

 巨人は、ラモンを座席に載せたまま、試合場に立った。ただ、立つだけで、試合場のおよそ三分の一を占めている。

 ザジは、その反対側の端に立って、左手を懐に入れている。

 右手は、だらりと垂らしたままだ。

「では、はじめましょうか。」

 ラナは、かるく頭をふって、うすい微笑みを唇にのせてから、いった。

 機上にあるラモン、それから、すっと立ったままのザジに、順に視線を投げて、

「よろしいですね。……はじめ!」

 さけんで、合図の手をふりおろす。

 試合開始であった。

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