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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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忌々しき過去の記憶(1)

 ザフラはフミコへと幻影とともに一気に斬りかかっていく。

 とはいえ、幻影はすでに看破されているという可能性にはフミコの直前の動きで気付いていた。


 (だが、それがどうした!! 相手はすでに手負いだ! たとえ幻影を看破していようが、直前に幻影を増やせばラグが生じるだろ!!)


 そう思ってザフラは斬りかかる。

 基本的に興奮すると頭に血が上って深く思考が巡らせないタイプなのだ。

 だからこそ呆気なくフミコにクファンジャルを銅剣で叩き落とされ、そのまま斬りつけられてしまった。


 「がっ!?」


 勢いよく斬りかかった所を得物を叩き落とされ、そのまま斬りつけられたザフラは勢いそのままに前のめりに倒れる。


 (まずい、トドメを刺しに来る!)


 そう思ってザフラは慌てて上半身を起こす。

 直後、銅剣から銅矛に得物を持ち替えたフミコが穂先を容赦なくザフラの背中目がけて振り下ろしてくる。

 これをザフラは横へと転がって回避すると素早く起き上がって右手を地面に落ちたクファンジャルへと向けて呪力で一気に引き寄せる。


 戻ってきたクファンジャルを掴むと地を蹴って跳躍し、フミコと距離を取る。

 そしてクファンジャルを構えてフミコを見据えた。


 (ち! ふざけやがって!! わたしの『イリュージョン』を突破したと言うのか!? 『インビジブル』に続いて!?)


 ザフラは間合いを取りながら左手でお腹を軽くさすって無事なのを確認する。


 フミコに銅剣で斬りつけられた箇所はブルカが斬り裂かれているだけで血は流れていない。

 当然である。何せ斬り裂かれたブルカの隙間から覗く、その下に着込んでいるのは下着などではなく防刃ベストなのだから……


 (あぁ……まったく最悪だ。()()()()()に救われるだなんて)


 ザフカは忌々しく思って舌打ちする。

 普段は気にしないが、攻撃を受けたことで嫌でも思い出してしまう。

 自分が防刃ベストをいつでも欠かさず着けている事を……

 場合によっては防弾チョッキにも変わるその経緯を……

 クソッタレなかつての境遇を……

 かつて投げかけれられた言葉を嫌でも思い出す。




 「いいか、その防弾チョッキはお前達を守るためのものだ! アメリカの十字軍の犬に成り下がった公安の奴らは我々を見たら躊躇せず撃ってくる! 周囲に同胞がいても躊躇わずだ! 流れ弾が同胞に当たろうが気にしない! 我々が使命を果たす事のほうがより被害が出るのを知っているからだ! だから使命を果たす前の人質作戦は通用しない! つまり、公安にバレた時点で確実に撃たれる!! しかし我々は使命を果たすまで死んではならない! 確かに最後には目標と共に自爆して死ぬ! 神のため死ぬ!! それが聖戦だ!! しかし、自爆するまで死んではならぬ!! 殺されてはならぬ!! そのための身を守る防護服だ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()だ!!」


 本当に嫌になる。

 思い出したくもない事を思い出してしまう。

 かつて地球にいた時の事を……

 地獄だったあの日々を……




 あれが故郷だったか、それとも捕らえられて連れてこられた街だったか、もはや思い出せない。

 そういった事が多すぎてもはや自分の原点すらわからない……


 自分がどの宗派だったか、どんな宗教だったか、どんな民族だったか、どんな国だったか……

 それすら思い出せない……

 それくらい自分は多くの集団、組織にさらわれ、その都度それぞれの宗派に改宗させられた。

 宗派が違えばその宗派に、異教徒にさらわれれば異教への改心を強制された。


 幼いが故に理屈はわからなかった……ただ街や村や集落が襲われ昨日までとは違う組織や勢力に連れ去られ、勝手に嫁ぎ先を告げられ、知りもしない言葉を話す外国人と結婚させられる。


 その外国からの傭兵が戦闘で死ねば別の外国人の元へと嫁がされる。

 そこに拒否権は当然ない。

 支配される側の自分に逃れる術はないのだから……


 何度目かの改宗の後、その時自分がいた武装グループの支配地域に上空から何やら投降を促すビラが撒かれた。

 そのビラを撒いていった飛行機に対して、武装グループの戦闘員たちは届きもしない機関銃を上空に撃ちつけたり、虎の子の対空ロケット弾を放ったりしていたが効果はなかったようだ。


 戦闘員たちは空に向かって口々に。


 「卑怯者! 降りてこい!」

 「ここはお前達の土地じゃない!」

 「汚い異教徒が!!」

 「十字軍に死を!!」

 「アメリカに死を!!」

 「いつか兄弟がかならずお前たちの同胞を殺す!必ずだ!!」


 などと叫んでいたが、こんな地上で吠えたところで聞こえやしないだろうと冷めた目で見ていた。

 

 そう、誰の目から見てもこの武装グループが追い詰められているのは明白だった。

 つい先日は武器、弾薬の支援をおこなっている団体の施設が空爆され供給が途絶えたらしい。

 陸路も連合軍の警備が強化され迂闊に動けない。

 これはもう終わっただろう……そう思った。


 しかし、そうはならなかった。

 酔狂な事に、この武装グループを支援しようという国際団体のNGOがやってきたのだ。

 曰く、彼らは欧州だかの難民支援を行う人権団体なんだとか……


 彼らの本当の目的は武装グループが捕らえて人質としている某国のジャーナリストたちの解放だったようだが、NGOの面々は武装グループと交渉し、自分たちのような連れ去られてきた女性や奴隷として連れてこられた幼い子供たちを解放して自分達に託すなら、アメリカをはじめとした有志連合の攻撃を遅らせるよう国際社会に訴えるし、人質解放のための身代金も弾むというものであった。


 武装グループはこれをのみ、自分は他の女性や子供達、某国のジャーナリストたちと共に解放され、晴れて地獄の日々から抜け出す事ができた。

 その時はそう思っていた。


 でも、世界はどこまでも自分に対して残酷だった……



 自分達を解放して保護してくれたNGO団体の面々と共に、反政府組織や武装グループの支配が及ばない地域、政府やそれを支援するアメリカを中心とした国際社会が安全に活動できる地域の街にやってきたのだが、そこでの平和な生活は1週間も続く事はなかった。


 政府軍優勢だったはずのその街の周辺の情勢が一変したのだ。

 多くの窮地にたっていた武装グループが結束・統合して1つとなり、更に大物のテロリスト要する国際組織に忠誠を誓って、そこに合流し、反政府勢力がパワーバランスをひっくり返したのだ。


 瞬く間に街は反政府勢力の支配下に墜ち、政府軍やアメリカ軍のアドバイザー、有志連合の義勇軍は政府軍の有効支配圏まで撤退した。

 またしても自分は武装グループの奴隷へと成り下がったのだ。


 きっと自分はこのサイクルから一生逃れることはできないのだろう……

 そう諦めるしかなかった。


 そして、その日はやってくる……




 政府軍やアメリカ軍、有志連合の義勇軍は街から去ったがNGO団体は街に留まり人道支援を継続していた。

 たとえ反政府組織に利用される事になろうと病院だけは維持しようとしていたのだ。

 しかし、そんな慈善行為は当然反政府組織に利用される。


 彼らの指導役でもある大物テロリストがその病院をあろう事が自らの隠れ蓑にしたのだ。

 いわば人間の盾だ、そこに大物テロリストがいるとわかっていても国際社会は無関係の人間を巻き込むことはできない。

 ましてや病院を攻撃するなど、いくら国際手配を受けている大物テロリストを排除するためとはいえ国際社会の批判は免れない。

 だから病院は攻撃できない、ゆえに病院を隠れ蓑としたのだ。


 どれだけ街の上空を戦闘機が飛び交おうと、街の武器庫を空爆しようと本丸の病院は安全。

 そんな日々が続いた。

 NGO団体の職員も、病院を盾にされるのは悔しいがよくも悪くも国際社会の注目を浴びてる以上は攻撃されないから安心して医療支援ができると言っていた。


 しかし、その日、その前提が崩れた……




 街が反政府組織の手に落ちてから自分は再び名も知らぬ外国人戦闘員の元に嫁がされていた。

 そして、その戦闘員は大物のテロリストに近い存在なのか、よく自分は病院に奉公に駆り出された。

 そこで、同じく外国人戦闘員の嫁にさせられた同年代の子と仲良くなったのだが、いつものようにやりたくもない奉公が始まろうとした時だった。

 空襲警報が鳴った。


 とはいえ、それは日常茶飯事だ。

 またどこかの武器庫が空爆されるのだろう……そう思っていた。

 しかし、我が物顔で上空を飛ぶどこぞの国の戦闘機はあろう事がここにミサイルを撃ち込んできたのだ。


 大物テロリストが潜伏しているこの場所を……

 攻撃すれば確実に国際社会から批判を浴びるこの病院を……


 あっという間に病院は倒壊し、瓦礫が辺り一面に散らばった。

 医療器具や薬が瓦礫の下に埋もれ、血だらけの患者がいたるところに倒れていた。

 多くの手や足が瓦礫から生えているのも確認できる。

 それらを血だらけになりながらもNGO団体の職員達が必死で引っ張り出そうとしていた。


 いたるところで救急車のサイレンが鳴るが、そのすべてが再び襲ってきた戦闘機の機銃掃射によって見るも無惨なスクラップにされていく。

 上空を飛ぶ戦闘機には救急車が装甲車にでも見えるのだろうか?

 あまりにも酷すぎる光景だ。


 「ザフラ、逃げよう!! ここにいたら殺される!!」


 そう言って仲良くなった同年代の外国人戦闘員の嫁にされた子が自分の手を掴んで走り出した。

 その事に一瞬驚くが、ここにいたって自分には何もできないし、救助を手伝ったところで今だ上空を飛ぶ戦闘機の機銃掃射に巻き込まれるだけだ。

 ならば逃げるしかない、決心してこけないように注意しながら一緒に走る。


 「噂では米軍と政府軍が病院に居座ってたやつの死体を確認しに街に強襲してくるかもって!」

 「じゃあどうするの!? どこに逃げるの!?」

 「決まってるでしょ! 米軍の元に行くのよ! 投降して保護してもらうの!! 私達はテロリストじゃないんだから!!」


 そう言う彼女はしかし、次の瞬間、横から飛び出してきた車に轢かれてしまう。

 目の前で彼女は宙を舞い、地面へと叩きつけられた。

 その事に思わず悲鳴をあげてしまい、錯乱状態のまま倒れた彼女の元に向かうとした時だった。


 飛び出して彼女を轢いた車から運転手が降りてきたのだ。


 「あ、なんでお前がここにいんだ?」


 それは無理やり結婚させられた外国人戦闘員の夫であった。

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