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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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フミコ対ザフラ(3)

 金銀錯嵌珠龍文鉄鏡によって敵の透明化を解いたフミコであったが、すぐさま相手へと畳みかける機会を逃してしまった。

 姿を現した相手が全身黒ずくめの格好で得物はナイフ。

 敵のリーチがわかった以上、防戦に徹する必要はない。


 しかし、なぜか足が止まってしまった。

 どうしてかは説明できないが、勘が今畳みかけるのはまずいと告げたのだ。


 ゆえにフミコは相手の行動をじっくりと観察できた。

 相手が自らの腕にナイフを突き立て、巻き付けた何かを斬り落とすのを、そして敵が6体に増えるのを……


 「増えた? 一体何が?」


 フミコは困惑してしまい、一瞬どう対処すべきか迷ってしまう。

 なのでリーナに敵の数はどうなっているのか聞くという単純な行為をしないまま6体に増えたザフラを迎え撃つ事となった。


 6体に増えたザフラは2手に別れると左右からフミコへと襲いかかる。


 「まぁ普通はそう来るよね!」


 フミコは銅剣を手放すと銅矛を手にし待ち構える。

 それを見て左右に3人ずつ別れたザフラは左右どちらも1人を除いて2人が先行してフミコへと斬りかかる。


 左右から迫る4人分の殺気にフミコは銅矛を大きく弧を描くように振るって攻撃を加える。

 しかし、その攻撃は殺気を放って迫る4人を捉えるが直後、4人の姿は消え穂先は空を切る。


 「な!?」


 空振りに終わった自らの攻撃を見て驚くフミコへと右方向からそちらに残っていたもう1人が一気に迫る。

 鬼気迫る勢いでフミコへとクファンジャルを振り下ろしてくるザフラに対してフミコはすぐに銅矛を手放し再び銅剣を手にして構える。

 この時フミコは殺気を放って迫る相手に集中して左方向に残っていたもう1人のザフラの事を視界から外してしまう。


 その隙を見逃さず左方向のザフラも動き出す。


 「このぉぉぉ!!!」


 フミコは振り下ろしてくるクファンジャルに向かって銅剣を振るうが、やはり刃と刃がぶつかることなくザフラの姿は消えて銅剣が空を切る。


 「また!?」


 困惑するフミコの背後から殺気が迫る。


 「しまった!?」


 慌てて振り返ろうとするフミコの左腕をザフラがクファンジャルで斬り裂いた。


 「く!?」


 フミコが腕を斬り裂かれた痛みに苦悶の表情を浮かべると、ザフラはその表情を堪能するかのようにその場の留まる。

 ブルカで全身を覆っているがゆえにザフカの表情を窺い知る事はできないが、恐らくは愉悦に浸っている事だろう。

 どこか笑っているような雰囲気を漂わせている。


 「この!!」


 そんなザフカに対してフミコは痛みを堪えながらも銅剣を振るう。

 その銅剣をザフカはクファンジャルで受け止める。

 今度は姿が消えて攻撃が空を切る事はなかった。


 「どうした? 剣に力が入ってないぞ? 簒奪者!」

 「さんだつしゃ? 一体誰だそれ? あたしはフミコだ!!」

 「はん、知るか! 簒奪者の名前に興味はないね! 簒奪者は簒奪者、それ以上でもそれ以下でもないわ!!」

 「さっきから言ってる意味がわからないよ!!」


 フミコとザフラ、互いに叫んで激しく銅剣とクファンジャルを斬りつけあう。

 そうして互いに相手の力量を推し量ったところでザフラが地を蹴って距離を取り、再び数人に増える。


 「また!?」


 さきほどと違って4人に増えたザフラはそれぞれが素早く移動してフミコを取り囲む。


 「ち!」


 フミコは左手にも銅剣を出して二刀流で構えるが、さきほど斬り裂かれた左腕の傷が痛んで一瞬苦悶の表情を浮かべる。

 その隙をザフラは見逃さず4人が一斉に仕掛けてくる。


 まずは痛んでいる左腕を1人が狙ってくるが、これを痛みに耐えながらも血をまき散らして銅剣を振るって斬り裂こうとするが、さきほどと同じく姿が消えて銅剣が空を切る。

 直後、反対方向から1人が迫ってくるが、これを右手に構えた銅剣を切り上げて、振り下ろして斬り裂こうとするが、やはりこれも姿が消えて空を切る。


 「もう! どうなってるのこれ!?」


 叫んで正面から迫る1人へと左手の銅剣を腕の傷に負担をかけないよう遠心力を使う形で体を捻って振り回す形で斬りつけるが、これも姿が消えて空を切る。


 おかげでバランスを崩して前のめりになってしまう。

 そんな状態をザフラは当然見逃すはずはなく、最後の1人がバランスを崩して隙だらけの背後へと迫り、右足を斬り裂いていく。


 「ーーっ!!!!」


 バランスを崩した状態で右足を斬り裂かれ、たまらずフミコは地面に倒れ込む。

 そんなフミコをザフラは振り返って見下ろす。

 ブルカで表情は窺えないが、どのような表情でフミコを見下ろしているかは容易に想像が付く。


 なので苦悶の表情を浮かべながらフミコは問う。


 「なんで……すぐに次の攻撃に移らないわけ? トドメを刺しに来ない理由は何?」


 そんなフミコの問いかけにザフラはまるで笑いを堪えるように体をカタカタと揺らすと、左手で顔を押えて小声で笑い始める。


 「くっくっくっく………あーっはっはっはっはっは!! あー気分が良い!! 気分が良いぞぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ついには堪えきれなくなったのか、左手で顔を押えながら天を仰いで大声で笑い出し叫び出す。


 「それだ! その顔だ!! その表情が見たかった!! そしてもっと悔しがる顔を見せろ簒奪者!! その顔を堪能しながらゆっくり殺してやる!! すぐには殺さんぞ、楽に死ねると思うな!!」


 ザフラは叫んで再び人数を増やす。

 それを見てフミコは痛みに耐えながら何とか体を起こす。


 「リーナちゃん、敵の反応はどうなってる?」


 フミコはインカムに呼びかける。

 敵の斬撃を受けて負傷したが、しかしそれでようやくフミコは冷静になれた。

 リーナなら探知で何か掴んでるはず、そんな単純な事にようやく気がつけた。

 しかし……


 「リーナちゃん?」


 インカムからの反応がなかった。




 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>本部の建物の屋根の上にてカイトと操られたジョセフの死体との戦いは続いていたが、その屋根の端にリーナとケティーはいた。

 ジョセフの死体を操っている者を叩くべく飛び出したフミコを誘導するためリーナは千里眼の指輪を使い、そのリーナの護衛をケティーがおこなっているのだが、事態は思わぬ方向に推移する。


 死体を操っているであろう敵の場所まで誘導できたはいいが、そこで突如敵が新たに増えたのだ。

 しかもあろう事かフミコには姿が見えていないという。

 その事にリーナは困惑してしまう。


 リーナは確かにすべての系統魔法や自然魔法、マジックアイテムを知っているわけではないが、それでもそのような魔法は聞いた事はない。

 それに、もしもそんな便利な魔法やマジックアイテムが存在するならば、それに対する対抗策のマジックアイテムが存在していなければならないが、そのようなものは聞いた事も見た事もない。

 まったくの未知の現象に遭遇していると言える。


 『とにかくリーナちゃん、可能なら敵の動きを逐一報告して! 見えない敵が相手じゃ仕掛ける事もできない!』

 「わかりました!」


 フミコの言葉にリーナは不安そうに答える。

 確かに対峙しているフミコには相手の姿が見えないのだろうが、リーナは千里眼の指輪で相手を探知する事ができる。

 つまりは敵の動きを逐一知らせる事は可能だろう。

 しかし、問題があった。


 そもそも千里眼の指輪は限られた範囲の敵の数や位置の把握が主な目的のマジックアイテムだ。

 確かに望めば無限に探索範囲を広げられるが、広げた分だけその探索範囲の探知したい相手の情報は薄れてしまう。

 何より気力が続かない……どういうわけか集中しないと狭い範囲の短い時間しかこのマジックアイテムは使えないのだ。

 故に万能というわけではない。


 しかしリーナは役に立ちたいという一心からその無理を押し切って探索範囲を広げ、意識を集中して敵の位置を割り出し、いつもより長い時間を使ってフミコを誘導している。

 かなり無理をしているのだ。当然そうなれば限界も近い。


 にも関わらず、探知を維持したまま戦闘の誘導となると気力が持つかどうか……


 (でも、わたしのために戦ってくれている皆さんの役に立ちたい! 無理をしてでも探知を続けて誘導しないと……それだけしかわたしにはできないんだから!)


 リーナは汗を拭って意識を集中する。

 そんなリーナをケティーは心配そうに見つめる。


 「リーナちゃん、大丈夫?」

 「はい、ケティーお姉ちゃん、問題ありません!」

 「そういう風には見えないけど……」


 ケティーの心配をよそに、リーナは無理をしてフミコの戦闘を補佐する。

 そして、限界はやってきた。


 ちょうどフミコがゼフラの『インビジブル』を破り、ゼフラが『イリュージョン』を発動した時だった。

 リーナがフラつきだしたのだ。


 「ちょっとリーナちゃん!? 大丈夫?」

 「はい……大丈夫……です」


 そう言いながらもリーナの視界がぼやけていく。


 (あれ……? おかしいな、目の前の景色がブレる……意識も遠のいていく……だめだ、探知もできなくなってる……まだフミコお姉ちゃんの戦闘は終わって……ないのに)


 リーナの目は焦点が定まらなくなっていた。

 そして倒れそうになったところをケティーに抱きかかえられる。


 「危ない! リーナちゃん、しっかり!!」

 「え……? わたしどうして」

 「倒れそうになったんだよ! まったく無茶しすぎだよリーナちゃん」


 そう言ってケティーはリーナを一旦座らせると鞄から何かを取り出す。

 それは何か液体が入った瓶であった。


 「あの……ケティーお姉ちゃん……それは?」

 「ん? MP回復薬だよ」

 「えむ……ぴい?」

 「あー具体的なアイテム名をわかりやすく言うと商標に引っかかるからわかりやすくかみ砕いて言ったつもりだったけど、この異世界にそもそもMPって言葉の概念がなかったか」

 「……?」

 「とにかく、これを飲む!!」


 そう言ってケティーは取り出した瓶を閉じている蓋を外してリーナにMP回復薬を飲ませた。

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