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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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フミコ対ザフラ(1)

 「探知開始」


 リーナは目を閉じて千里眼の指輪を人差し指にはめた右手を掲げる。

 すると千里眼の指輪から波動のようなものが周囲に広がっていき、リーナの脳内に情報を伝える。


 「見つけました! ですが……かなり離れたところにいます」


 そう報告するリーナはどこか困惑したような表情をしていた。

 襲撃してきたギルドのメンバーは全員岩の壁の中に閉じ込め、ギルドマスターは今、死体を操られる形でカイトと戦っている。

 なら、死体を操っているこの探知した相手は一体何者なのだろうか?

 敵として探知した以上は宗教ギルド<幸運を運ぶ神の鐘復古運動>のリーナが知らないメンバーか、あるいは協力関係にある者なのか……


 何にせよリーナが居場所を特定した以上、これを叩き潰すのみだ。

 フミコは息を整えると靴を履き替える。

 それはカイトが錬金術で造った跳躍力を飛躍的に向上させる靴であった。

 これによって建物の屋根から屋根への移動や障害物を飛び越えての移動のスピードが増す。

 一気に襲撃を仕掛けるには必須のアイテムである。


 「リーナちゃん、敵の居場所はどこ?」

 「は、はい……場所はこの先の」


 そう言ってリーナが大まかな場所を指で指そうとした時だった。

 ケティーがこれを制する。


 「はいはい、ストーップ!」

 「ちょっとケティー、なんで止めるの!?」

 「なんでってフミコ、あんたリーナちゃんが指さした方向にただ闇雲に進んでいって敵を発見できると思ってるの?」

 「そ、それは……」


 ケティーにフミコは言い返す事ができなかった。

 そんなフミコを見てケティーはため息をつくと懐からインカムを取り出しフミコへと放り投げる。


 「わっと!?」


 それをフミコは慌ててキャッチする。

 ケティーは無言で耳を指さして、つけろと伝えると自分もインカムを耳につけた。

 そしてリーナを自分の元へと引き寄せるとやさしくリーナの耳にインカムをつけてあげる。


 「あ、あの……これは?」

 「インカムだよ? まぁ言ってもリーナちゃんには分からないだろうけど」

 「一体何なんですかこれ?」

 「そうだね~今はわかりやすく遠くにいる仲間と会話ができるアイテムとだけ言っておこうかな」


 そうケティーは笑って言うとフミコに指示を飛ばす。


 「じゃあ敵の場所まではこっちで誘導するから、はい行った行った!」

 「ケティーあんたねぇ! ちゃんと誘導しないと怒るからね!」

 「はいはい」


 ケティーが適当にあしらうように言ったのでフミコは何か言い返そうとしたが、堪えてリーナへと声をかける。


 「リーナちゃん、じゃあまずはどっちか教えてもらえる?」

 「はい、向こうです」

 「オッケー! じゃあ行ってくる!」


 リーナが指さした方向へとフミコは深呼吸して駆け出すと屋根の端を蹴って飛翔し、少し離れた隣の建物の屋根へと飛び移る。

 そして、目に止まらぬ速さで屋根から屋根へと移動していった。


 そんなフミコの背中へとリーナは叫んで声を届ける。


 「フミコお姉ちゃん頑張ってーー!!」


 しかし、直後リーナの耳についたインカムからフミコの声が届く。


 『リーナちゃん、ちょっと声が大きいよ? 鼓膜破れるかと思ったよ』

 「え???? 何??? フミコお姉ちゃんの声が??」


 困惑するリーナの反応を見てケティーが腹を抱えて笑う。


 「あーはははは!! いいリアクションだよリーナちゃん!」

 「え??? あのケティーお姉ちゃん?」

 「あー、ごめんごめん……言ったでしょ? 遠くにいる仲間と会話ができるって」

 「あ……」

 「だから叫ばなくったって、このマイクに普通に喋れば声は届くよ」


 そう言ってケティーはマイクをトントンと小指で突く。

 それを見てリーナは恥ずかしさで顔を真っ赤にしてしまう。


 「まぁ、先に詳しい説明しなかった私も悪かったけどね」

 「そ、そんなケティーお姉ちゃんのせいじゃ……」


 慌てたように言うリーナの頭をケティーは「いいから、いいから」と言って撫でると懐から拳銃を取り出す。


 「さて、じゃあここからは私もリーナちゃんの護衛とフミコの援護に回らないとね……まぁフミコに援護はいらない気もするけど……」


 そう言って取り出した拳銃、スプリングフィールドXD-Sにマガジンを装填、シングルアクションを行って引き金に指をかけない形で動作を確認する。


 「よし、問題なし! マガジンも9x19mmパラベラム弾モデルを装填したから7発だし十分でしょ」


 そう言ってケティーはリーナと共にフミコが向かった方角を見つめる。




 フミコは屋根から屋根へと飛び移りながら死体を操っている敵の元へと駆ける。

 時折、屋根から敷地を仕切る壁の上へと飛び降りて壁の上を走り抜け、再び屋根へと飛び移ったりをして一気に目標へと迫る。


 『フミコお姉ちゃん、少し進路が逸れています! もし可能なら2時の方向に進路を修正してください!』

 「わかった! 進路を修正するよ」


 フミコは言われた通り2時の方向に向きを変え、雑貨屋の物置小屋に飛び移ると、そこから雑貨屋の屋根へと間髪入れず飛び移って周辺の建物の屋根を伝いながら移動していく。


 フミコもリーナも時計の針の位置による方角の誘導方法に最初戸惑っていたが、移動していき、誘導していく中でケティーが補佐しなくても通じるようになっていった。


 そして、ついにフミコは死体を操っているであろう敵の元へと辿り着く。


 「そろそろ建物の屋根を伝っての移動ができなくなっちゃうな、この先は広場になってるし……」

 『問題ありませんフミコお姉ちゃん、敵はその広場にいます!』

 「広場に?」


 リーナの言葉を聞いてフミコは足を止め、進むのを止める。

 屋根の上に飛び出した煙突の上に移動して広場の様子を確認する。


 その広場は人気がないのか閑散としていた。

 噴水を中心とした円形の広場であるが、路上に敷き詰められた煉瓦は長い間整備されておらず荒れ地のような様相だ。

 広場の周囲の建物も今は住民も商人もギルドもいないのか空き家のようで今にも崩れそうな廃墟であった。


 そんな誰からも忘れ去られたような広場の中にただ1人、何者かがぽつんと立っていた。

 その者は黒と紫の色で形成され髑髏などの意匠が施されたローブを纏っており、遠くからでも禍々しいオーラを感じる。


 フミコには死霊術士というものの知識がないためわからなかったが、見る人が見ればその格好は死霊術士だとわかっただろう。

 標的はどう見てもあれで間違いないはずだ。


 「あれだね……広場に他に人はいない。標的しかいないんだったら他の人への迷惑は考えなくていいから思う存分暴れられる」

 『はい、フミコお姉ちゃん、敵以外の反応もないか探知してみましたが問題ないです』

 「ありがとうリーナちゃん、じゃあちょっと暴れてくる!」

 『気をつけてください、ご武運を祈ります』

 『まぁちゃっちゃとと片付けて戻ってきなよ』


 リーナとケティーの堅い言葉と軽い言葉を聞いてフミコは少し頬を緩める。

 しかし次の瞬間には気を引き締め、真剣な面持ちとなる。


 銅矛を手にして構え、深呼吸すると煙突を蹴って一気に広場へと猛スピードで突っ込む。

 目にも止まらぬ弾丸のごとき速さで広場にいる死霊術士のような格好をした何者かへと銅矛の穂先を突き出す。


 普通ならこの襲撃は成功しただろう。

 奇襲によるこの一撃を防ぐことはできない。

 気付いた時にはもう遅く、体が銅矛に貫かれているはずだ。

 そう、普通ならば……


 しかし、そうはならなかった。


 「な!?」


 フミコの放った銅矛の突きは死霊術士のような格好をした何者の目の前で()()()()()()()のだ。

 弾丸のごとく突っ込んできたその突きを受け止めたのは果たして何だったのか? 穂先と見えない何かがぶつかって激しく火花を散らす。


 「ち!」


 フミコは諦めて一旦後退して距離を取る。

 そして冷静に見極めようとする。


 (今の何? 一体何に阻まれたの? かい君がこの前奪った魔術障壁のような能力? いや違う……そんな感覚じゃなかった、今のはなんというか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)


 そう、シールドのような類いじゃない、何者かと力比べをして受け止められたような感覚だ。

 とはいえ目の前には死霊術士のような格好をした何者かしかいない。

 広場にはフミコとその者の2人しかいないのだ。第3者はいないはずである。

 しかし……


 「誰か、いる?」


  そう呟くフミコの目の前で異様な光景が生じた。

 死霊術士のような格好をした何者かの前の空間が不自然に揺らいだのだ。

 まるで光の屈折が起ったように、何もないはずの空間に違和感が生じる。


 「ねぇリーナちゃん……()()()()()()()()()()()()1()()()()?」


 そうインカムに小声で聞くと、リーナは困惑したような声で答える。


 『いえ……違います。そんな……一体どこから? どうやって出てきたの? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?』

 「リーナちゃん!?」

 『リーナちゃん、しっかり!!』

 『あ、あぁ……ケティーお姉ちゃんごめんなさい! フミコお姉ちゃんごめんなさい! えっと……敵は1人じゃないです……2人います! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』


 リーナの言葉に困惑してしまう。

 いきなり増えた? 一体どういう事だ?

 でも目の前には死霊術士のような格好をした何者かしか立っていない。


 とはいえ、その何者かの目の前は不自然に空間が揺らいでいる。


 「まさか、姿が見えない敵?」


 かつて、背徳の女神陣営と運命の乙女陣営が争っている異世界で出会ったヒースは透明になる力を持っていた。

 しかし、それは自身の姿を透明にするのではなく、自分以外の認識を阻害するという『潜伏』というスキルだった。

 それゆえにその『潜伏』が通じなかったフミコにはヒースの姿がわかったが、今は違う。

 完全に姿を確認できないのだ。

 なので確認する。


 「リーナちゃん、敵2人の位置は確認できてるんだよね?」

 『はい……どうしたんですか?』

 「あたしには1人の姿が見えない。恐らく透明になって姿を隠してる!」

 『え!? 何ですかそれ!? そんな魔法やマジックアイテム聞いた事ないです!』


 リーナの言葉にフミコは一瞬眉を潜めるが、今は悠長に考えている暇はない。


 「とにかくリーナちゃん、可能なら敵の動きを逐一報告して! 見えない敵が相手じゃ仕掛ける事もできない!」

 『わかりました!』


 不安そうなリーナの声を聞いて、もう少し余裕を見せて落ち着かせるべきかと考えるが、こちらもそうも言ってられない。

 姿の見えない相手と戦うなど経験のない事だ。

 果たしてリーナのサポートがあっても対処できるかどうか……


 「本当に困ったな……かい君!」


 祈るようなその言葉は果たして想い人に届いたかどうか……




 死霊術士のような格好をした何者かはジョセフの死体を操ってカイトと戦うのに夢中でフミコの襲撃に気付かなかった。

 なのでこちらに銅矛を突き出してくるフミコを見て、一瞬驚いたがそれだけだった。

 しまった! と慌てたりする事もなく、ジョセフの死体を操るのを解いて防御に切り替えるという行動もしなかった。

 どこか他人事のように「あぁ、なんか穂先突き出して突っ込んでくるわ-」と呑気に構えていた。


 別段何かをするでもない、そんな死霊術士のような格好をした何者かの目の前でフミコの穂先は何かに阻まれて止まり、火花を散らすと諦めてこちらから離れて警戒しているようだった。


 「やれやれ……油断しすぎじゃないか? ハーフダルムよ」


 そんな言葉がどこからか聞こえてくる。

 その言葉を発したのは、死霊術士のような格好をした何者かとフミコの穂先の間に入って攻撃を受け止めた何者か。

 透明なため姿が見えない何者かだ。


 しかし、死霊術士のような格好をした何者かにはその姿が見えているのか、はたまた不自然に歪む空間の様子から位置を特定しているのか、その透明な何者かのほうを向いて軽口を叩く。


 「油断くらいしてやらないとハンデにもならないだろう? 違うか?」

 「はん、そういう余裕ぶちかましてる奴から死んでいくんだぜ? 物語の鉄則だ、知らないか?」

 「生憎とフラグ製造、回収主義者の言葉には耳を貸さないようにしてるんでな」

 「言ってろ……ところでよ、()()がそうなのか?」

 「()()?」


 死霊術士のような格好をした何者かは最初、透明な何者かが言ってる意味がわからなかったが、すぐに理解する。


 「あぁ、そうだ、そうだったな。()()()()()()()()()だったな! いかにも、()()がそうだ」

 「なるほどな……」


 死霊術士のような格好をした何者かの言葉を聞いて透明な何者かは姿を透明にしているというアドバンテージを捨てるかのように姿が認識されそうなほどの強い殺気を放つ。


 「あぁ、あぁ、まったく……そうかそうか、()()がそうか……まったく腹が立つ! よくもぬけぬけと! ()()()()()()()()()()()!!」


 透明な何者かの言葉に死霊術士のような格好をした何者かは苦言を呈す。


 「GX-A03の適合者(まるさん)にとってはあいつは正ヒロインだろう」

 「黙れ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだぞ!! それをぬけぬけと! 絶対に許さん! ()()()はここで殺す!!」


 透明な何者かの殺意がより一層増す。

 表と裏、本来なら混じり合うことがなかったはずの2人の戦いが始まろうとしていた。

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