表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/537

新たな仲間(7)

 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>本部の建物がある地区の一角にその男はいた。

 亜人やハーフ、ありとあらゆるはみ出し者が集まるこの街において、その男の格好は特に注目を浴びることはない。

 全身は地球の中世西洋甲冑のフルプレートアーマーに身を包んでおり、ほとんどの人間がどこぞの国の元軍人か傭兵だと思うだろう。

 人によっては「騎士だ!」と言うかもしれない。


 しかし、彼から漂うオーラはとても騎士とは思えぬ禍々しさであった。

 彼の癖なのか腰に帯剣した剣の柄を時折とんとんと小指で突きながら男は思考に更ける。

 そして兜で顔が隠れているため素顔は覗けないがどこか楽しそうであった。


 「日々の成長というものは毎日寝食を共にしていれば気付きにくいものだが、目を少し離せば嫌でも目についてしまう……さて、以前と比べてどうだ?GX-A03の適合者(まるさん)、少しは成長したか?」


 そう言って中世西洋甲冑のフルプレートアーマーに身を包んだ彼は胸元からジャラジャラと音を立てて無数のハンターケース型の懐中時計を引っ張り出す。


 その無数の懐中時計は「スキルオーダー」と呼ばれる神格が宿るユニットである。

 カイトのアビリティーユニットとは基本性能値やコンセプトがまるで違う代物だ。


 フルプレートアーマーの何者かは引っ張り出したスキルオーダーの中の1つを鎖から引きちぎる。


 「これで何度目だったか?」


 そう言って鎖から引きちぎった懐中時計を握り少し天を仰ぐ。

 彼はこれまで何度かカイトの旅に横やりを入れている。


 最初は疑似世界、その時は「フェイク」のスキルを使いピエロの格好をした次元の迷い子に偽装して直接戦った。

 背徳の女神陣営と運命の乙女陣営が戦うとある異世界では背徳の女神陣営にカイトが運命の乙女の取り巻きだと嘘の情報を流して攻撃をけしかけた。

 とある異世界では魔法アカデミーのゴタゴタに巻き込まれるよう裏工作を行い、大地が大海へと沈みゆく異世界ではそれを祈祷で食い止める聖女に反発する反聖女グループにカイトたちを襲うようけしかけた。


 そして今回、彼は久しぶりに直接戦ってみようと思ったのだ。

 現地の人間や組織を動かして裁量を図るのも悪くないが、やはり直接拳や剣を交えてこそ見えてくるものがある。


 握った懐中時計を左手のガントレットに装着していたブレスレッドの窪みにはめ込む。


 『ネクロマンサー』


 懐中時計から発せられた音声と共に西洋甲冑の姿が変化する。

 黒と紫の色で形成され髑髏などの意匠が施されたローブを纏った、どこか死霊術士を連想させる姿となった。


 「さて通信簿をつける時間だぜGX-A03の適合者(まるさん)、俺が採点評価してやろう」


 そう言って右手を掲げる。

 すると掲げた右手に半透明の髑髏のようなものが浮かびあがった。

 それはまるで自ら意思を持ったようにケタケタと笑い出すとどこかへと飛び去っていく。



 半透明の髑髏はギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>本部の建物までやってくると、言葉にならない言葉を発してフラフラと立ち上がったジョセフの体に乗り移った。


 「!?」


 その瞬間、ジョセフは一瞬痙攣し、そして乗り移った半透明の髑髏は死霊術士を連想させる姿へと変化した何者かへと呪力のパスを繋いだ。


 「繋がったか……」


 死霊術士を連想させる姿へと変化した何者かはそう呟くと一息ついて言葉を発する。

 その言葉は呪力のパスで繋がったジョセフの頭の中に直接届く。


 「敬虔なる神の信徒よ、そなたの働き見事であった。そなたの信仰は誰にも負けず余の元へと届いた。余の敵を屠れなかったのは残念だが悔やむ事はない、そなたは十分に働いた。後は余に任せよ。余がそなたに変わって余の敵に罰を与えよう……そのためには地上へと舞い降りるための器がいる。余の器となれ敬虔なる神の信徒よ。自害し余に地上で活動するための肉体を差し出せ」


 その言葉はジョセフの心を掴むのに十分すぎるものだった。



 「あ……あへ、あぐ、ぐへ」


 ジョセフはなんとか残る力を振り絞って起き上がるが、それが限界だった。

 体が言うことを聞かずフラフラとしてしまう。


 言葉もうまく発することができない。

 さきほど殴り飛ばされて屋根に激突した時に喉をやられたのだろうか?

 呪文を発せられなければ魔法を発動できない、腕も骨が折れているのかうまく動かせず杖を手に取ることができない。


 これはさすがに詰んだか?

 ジョセフがそう思った時だった。何かが体の中に入ってくる感覚を覚えた。

 思わず身の毛がよだつがすぐに至福の時が訪れる。


 「敬虔なる神の信徒よ、そなたの働き見事であった」


 突如、頭の中に声が響いた。

 その神々しいまでの響きに思わず心ときめいてしまう。


 「この声は……もしや神!?神が我に直接御言葉を!?」


 興奮するジョセフを余所に言葉は続く……


 「そなたの信仰は誰にも負けず余の元へと届いた。余の敵を屠れなかったのは残念だが悔やむ事はない、そなたは十分に働いた」


 その言葉のすべてが、ジョセフの心を感動で満たしていく……


 「はぁぁぁ!!なんというお心遣い!!なんという懐の深さ!!あなた様の敵を倒せなかった我を労いお許しになるとは!!このジョセフ、なんと言葉を返せばよいのか!!どうご奉公してこの御慈悲に報いればよいのか!!」


 ジョセフは興奮でまともな思考回路が破綻していた。

 その言葉が本当に神のものなのか疑いもしない、ゆえにその言葉を鵜呑みにする。


 「後は余に任せよ。余がそなたに変わって余の敵に罰を与えよう……」

 「なんと!あなた様自ら不肖な我の尻拭いを買ってくださるとは、このジョセフどう償えばよいのか!」


 もうジョセフは何も考えない、ただ神の声に従うのみ……


 「そのためには地上へと舞い降りるための器がいる」

 「おぉ!!降臨なさる!!この地へと我のために降臨なさるのですね!!おぉ!!そのお姿を我はついに拝見できる!!なんという誉れ!!なんという至福!!あぁ!!」


 だからこそ、その言葉にも抵抗しなかった。

 疑問にも思わなかった。

 躊躇しなかった。


 「()()()となれ敬虔なる神の信徒よ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「この体を差し出せと?この身を御身の器としてくださるのですね!?あぁ素晴らしい!!なんというこの上ない名誉!!幸福とはまさにこの事!!この体が!!血が!!神の器となる!!他の誰でもない!!この我の体がぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 自害せよ!その言葉が繰り返し頭の中に響くが、恐怖や不気味さなどジョセフは感じない。

 むしろ福音に聞こえて自害せよという言葉が心地よい。


 かつて住んでいたアルティア王国の都、その街中ですれ違った端整な顔立ちのイケメンたち。

 また王立アカデミーでいつも女学生や女性教員に職員たちの視線や心を釘付けにしていた王族に連なる者や上級貴族の子弟や教授たち。

 軍では参謀本部のエリートたちに、このギルドの街に来てからは上級ランクのギルドのエースたち……すれ違った女性に声をかければすぐにもお持ち帰りができそうな嫌味な連中……


 やつらは気苦労を知らないだろう……

 求めれば女が手に入る、向こうから寄ってくる。名誉も才能と家柄が勝手に引き連れてくる。

 成功も栄光も確約されているそんな連中が憎くて仕方がなかった……


 だが、今は違う!連中がないものを我は持っている!

 神の声を聞いているのは我だけ!

 神からねぎらいの言葉をかけられているのは我だけ!

 神から体を差し出せと求められているのは我だけ!そう我だけだ!!


 どれだけすました顔のイケメンだろうが王子だろうが侯爵だろうが階級の高い軍人だろうが上級ランクのギルドのエースだろうが我には勝てない!

 なにせ連中は神から体を求められていない!求められたのは我だ!我だけだ!!

 我だけが神に体を捧げ神と交わることを許されている!!


 そう我だけが!!この我だけがだぁぁぁ!!

 たまたま生まれた家が良かっただけで、その家の恩恵で得られたものを、財力とコネだけで自身は何も努力もせずに得た特権を自身の才能と勘違いした連中、家柄や親のすねにかじりつくだけで本人には何の才能も取り柄も人徳もないのに、すまし顔で自分は偉い選ばれた人間だと勘違いする連中、そんなバックホーンに釣られただけで本人には何の興味もない、興味があるのは後ろにある金と特権だけだというのに自分の魅力に釣られて周囲にいつも女がいると勘違いして勝手に女を語る連中……

 そんなバカどもがどうあがいても得られないものを我は手に入れた!!


 「あぁ……勃起が止まらない」


 ジョセフは恍惚の表情を浮かべ、天に向かって両手を掲げる。


 「おぉ……神よ!ついに我は神の願いを!あぁ、素晴らしい!このジョセフ、神のためとあらば喜んでこの身を贄と捧げましょう!!」


 この身は神と1つとなり我が魂は祝福を受ける。あぁ、素晴らしい!!

 ジョセフは心の中で叫び空へ広げた両手で手刀を作り、勢いよく自らの心臓へと振り下ろし右胸を突き刺した。

 そしてジョセフはそのまま絶命したのだった。



 「ふむ……死んだか」


 死霊術士を連想させる姿へと変化した何者かはそう呟くと左手を真横に振るう。

 すると左手の人差し指にはめてある髑髏の装飾が施してある指輪が紫色の光を放った。

 直後、死霊術士を連想させる姿へと変化した何者と絶命したジョセフの遺体がリンクする。


 感覚を確かめるように死霊術士を連想させる姿へと変化した何者かは自らの手を開けたり握ったりする。

 そして同様の動きをリンクしたジョセフの遺体もおこなっていた。


 「接続完了、動作に問題なし……しかし酷い体だな、まるで使い物にならん代物だぞこれは」


 言って死霊術士を連想させる姿へと変化した何者かはため息をついた。

 手頃な素体で十分と思っていたが、この素体は失敗かもしれん、と少し後悔してしまう。


 「まぁ、今更()()()()()()を捜すのも面倒だ。今回はこれで我慢しよう」


 ジョセフの想いとは裏腹にその遺体に乗り移った者は負ける事前提でジョセフの遺体を動かす。


 「さぁはじめようかGX-A03の適合者(まるさん)、楽しい試験の時間だ」


 ジョセフの遺体が死霊術士を連想させる姿へと変化した何者かの意思と連動してカイトへと襲いかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ