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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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新たな仲間(6)

 拳と拳がぶつかり合う。

 直後、周囲に衝撃波が飛び散った。


 力は五分五分といったところか? すぐに拳を引いて次の一手を繰り出そうとしたが相手の方が速かった。

 ジョセフは目にも止まらぬ速さでもう一方の拳を上段から振るってくる。

 普通なら反応できない速度であったが、複数の武術を扱える能力のおかげか体が勝手に動いた。

 ジョセフの放った拳を上受けで受け流し反撃の突きを放つ。いわゆる上受突だ。

 しかし、これをジョセフは手のひらで受け止めた。


 「ち!」


 その事に舌打ちして、突いた腕を引き戻し、セオリー通り受けた手で熊手打ちを入れてその場から離れジョセフと距離を取る。


 「いい反応だ。貴様、その武術はどこで覚えた?」

 「さて、教える気はないね」

 「そうかい」


 言うやジョセフは再び目にも止まらぬ速さで拳を繰り出してくる。

 素人ならこの速さには対応できないだろう。しかし武術の能力のおかげか自然と体が動いた。

 即座に動きを見極め、千鳥足でジョセフの懐に入り込んで拳を内に受け、これを逸らしそのまま突きを脇腹に放つ。

 少林寺拳法の仁王拳の中でも基本的な内受突だ。

 ジョセフは苦悶の表情を浮かべるとたまらず後ろに下がって距離を取った。


 「ふぅ……少し油断したな。しかし深追いはしないか? 一気に畳みかけるチャンスだっただろうに」

 「かもな……けどまぁ、一気に勝負をつける気はない」

 「ほう? どういうつもりだ?」

 「てめーは一発一発拳に怒りをこめてぶん殴って倒す! リーナを苦しめた罪を思い知らすためにな!!」


 そう言って力強く拳を握ってみせた。

 そう、この拳に……そして蹴りに、頭突きに、肘に、手刀に怒りをすべて乗せて倒す。

 ワンパンでノックダウンなどさせてたまるか!

 痛みは一瞬など悪党には手緩い! しかし、ジョセフはその言葉を聞いて何を思ったか突然大声をあげて笑い出した。


 「クックック……アーハッハッハッハッハ!! 何を言い出すかと思えばバカバカしい!」

 「何がおかしい?」

 「おかしいに決まっているだろう! ハーフをどうしようが人間の勝手だ! その事に対して苦しめた罪を思い知らすだと!? ふざけるのも大概にしろ!!」


 言ってジョセフは構えを取る。

 その腕に足に風が纏わり付く。


 「その言葉、そっくりそのまま返してやる!! いたぶって己の非を自覚させてやる!!」


 ジョセフが地を蹴り、恐るべき速さでこちらの懐に入り込んでくる。

 次の瞬間にはこちらに風を纏った拳を繰り出していた。

 しかし、焦りはなかった。


 「己の非を自覚するのはお前だ」


 言って少し体を逸らす。

 それだけでジョセフの拳を避ける事ができた。

 続けざまにジョセフはもう一方の拳も繰り出してくるが、これも体を捻るだけでかわす。

 間髪入れずジョセフは風を纏った足を蹴り上げるが、顔を少しずらすだけで十分に避けることができた。

 そして、そのままジョセフの死角に入り込む。


 これは入身。相手の攻撃をかわし、それと同時に相手の死角に直線的に踏み込んで行く合気道の技のひとつだ。

 そして合気道は相手の動きを利用して相手を制する護身術。

 つまりは攻撃を繰り出した相手の懐に入り込み、相手のその運動量をそのまま相手への反撃に転換する技術だ。


 入身によって優位な位置を確保し、そのまま背後に回り込む。

 一瞬だが驚くジョセフの表情が見えたが、気にする事なくジョセフの首を自分の肩に引き寄せてそのまま大きく円を描くような動きでジョセフを差し上げて斬りおろし、屋根の上に仰向けに叩きつける。

 合気道では一般的な技である入身投げだ。


 屋根に叩きつけられたジョセフは痛みから悶えだすが、そのまま痛みが引くのを待ってやる義理はない。

 ジョセフの顔を掴み強引に立たせると、そのまま自分の頭を痛みで悶えているジョセフの腕の下に入れる。

 そして正面からジョセフの腕を抱え込む形で腰に手を回し、準備が整った。


 「くらいやがれ!! ノーザンライト・スープレックス!!」


 叫んでそのままジョセフを後ろに投げつけた。

 受け身が取れないプロレスの投げ技にジョセフはたまらず悲痛な叫びをあげる。


 「これで終わったと思うなよ?」


 ジョセフにプロレスの投げ技を決めて立ち上がると、屋根の上で悶え苦しんでいるジョセフを見下ろし拳をゴキゴキと鳴らす。

 このクソッタレにはちょっとやそっとの痛みじゃ手緩い、徹底的に痛めないと気が済まない。


 「さて……クソッタレギルドのマスターさんよぉ、覚悟はいいか?」


 そしてここからプロレスの数多の技やレスリング、柔道の固め技、絞め技が永遠とジョセフにかけられ続ける技の見本市が開催されジョセフの悲痛な叫びが響き渡った……




 「ふぅ……すっきりしたぜ!」


 あらかたの技をかけて清々しい気分になったので爽やかな汗が出た。

 空を見上げれば晴天、うん見事なまでに心模様とリンクしているな!


 そう思って横を見るとフミコとケティーが呆れた表情をしていた。


 「かい君……さすがにやりすぎじゃないかな?」

 「相手に同情はしないけど川畑くん、無抵抗な相手への仕打ちではない気がするよ?」

 「え? 何で? 2人ともこいつの肩持つの?」

 「別に持たないけど……やりすぎだと思う」


 そう言うフミコとケティーの横ではリーナがどうしたらいいんだろうって顔をしていた。


 「はぁ、まぁいいや……じゃあとどめはリーナちゃんにしてもらうか」

 「え? わたしですか?」


 指名されたリーナは驚き慌てふためく。


 「で、でも……」

 「言っただろ? 一発ぶん殴ってやらないとって! 今までの鬱憤を晴らす一撃を放ってやれ!」


 そう言って笑顔を向けるとリーナは戸惑った表情で隣のフミコとケティーを見る。

 2人はリーナに笑顔を向けると。


 「まぁ、かい君がほとんどいたぶってしまったけど、最後の一発はリーナちゃんが決めるべきだと思うよ?」

 「そうそう、遠慮はいらないよ? 川畑くんがほぼいたぶってしまったけど」


 そう言ってリーナを後押しする。


 「なんで2人していたぶったのを強調するんだ? まぁ、たしかにリーナちゃんの分はもう少し残しておくべきだったかと思うけど……」


 まぁ、技をかけてるうちに興が乗ってきたのは事実だが、とどめはまだ刺していないのだからいいだろう。

 なのでため息をついてリーナへと手を差し出す。


 「さ、リーナちゃん……ここからは君の出番だ。思いっきり殴ってやれ!」


 リーナはまだ戸惑った顔をしていたが、やがてたどたどしくこちらの手を取る。


 「本当に……いいんですか?」

 「あぁ、遠慮はいらないぞ?」


 そう言ってリーナの手を引いて倒れているジョセフに近づこうとした時だった。


 「ぶざ……げるなぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突如、ジョセフの周囲に突風が吹き荒れ、こちらが近づいてくるのを妨害する。


 「こいつ! まだこれだけの力を!?」

 「ハーフごときがぁ!! 我を殴ろうなど許される事ではないぞ!!」


 吹き荒れた突風が自力で起き上がれないジョセフの体を無理矢理起こす。

 そして体中に風を纏わり付かせた形でジョセフが立ち上がった。


 「ここまでの屈辱……たたでは済まさんぞ!!」


 ジョセフが叫ぶと呼応するように周囲に突風が吹き荒れる。

 思わず吹き飛ばされそうになるが、なんとか踏みとどまる。


 「クソッタレが! あれだけボコボコにしたのにまだ戦える力残ってるのかよ!?」


 ジョセフの復活に怯えた表情となったリーナを背後に隠して目の前の敵を見据える。

 そしてふと、昔を思い出した。


 どうして思い出したのかはわからない……たぶんあらゆる武道とまではいかないが、王良伯が異世界で奪った数多の武道が扱える能力を使用している事も関係しているかもしれない。


 自分は地球では無趣味で世間の出来事に無関心な高校生だった。

 当然部活動などやっておらず、世間のスポーツ情勢にも興味はなかった。


 とはいえ、小学校の頃は少し違った。

 その頃は周囲の友達と放課後学校に残って色んなスポーツをして遊んだり、週に一度空手教室に通ってたりもしていた。

 そして、その当時最も熱中していたのが週刊少年誌に連載されていたボクシング漫画だった。


 その漫画の影響でボクシングジムに通おうと考えていたほどだ。

 結局家の近所にジムがなかったため空手教室に通うことにしたのだが、そのボクシング熱は中学に進学するまで冷めなかった。


 中学生になってからは空手教室に通うことはなくなり、自然とボクシング漫画も読むことはなくなった。

 どうしてそうなったのか……なぜ熱が冷めたのかは思い出せないが、とにかく中学進学を境に自分は世間への関心を失い、無趣味で無関心な人間となった。


 それでも記憶の中ではまだ小学生の頃に読んだ漫画の内容が残っている。

 体も白帯で全然才能がないと先生に言われ、結局昇段もできなかった空手教室での出来事を覚えている。


 本当に、唐突にその時の事が思い出された。


 「はぁ……センチメンタルになる要素なんて何もないんだけどな……」


 ため息をつき、苦笑いを浮かべる。

 そう言えばあのボクシング漫画でこんなセリフがあったな……絶対に勝つという決意が足りない、断固たる意志が無かったんだと……


 「確かに、リーナちゃんの分を残しとこうって考えて舐めプしていたのかもしれないな」


 そう口にして深呼吸する。

 そして両手でパンと頬を叩き気合いを入れる。


 「リーナちゃんの分を残しとこうなんて考えは捨てないとな、あのクソッタレはここで仕留める!!」


 言ってアビリティーチェッカーをアビリティーユニット・ブレスレッドモードに取り付け、武道の能力と併用する形で新たなエンブレムをタッチする。

 そのエンブレムには+1が表記されていた。


 「こい! ゴリラアーム!!」


 叫んだと同時、自身の腕が大きく膨れ上がり変化する。

 それはゴリラの腕、そのパンチ力は人間のそれと比べものにならない。


 その能力は魔物の擬態能力+1。

 とある異世界で最弱の魔物に転生しながらも他の魔物に擬態する事で成り上がった転生者から奪った能力だ。


 ゴリラアームとなった両腕を見て、ボクシングの構えを取る。

 まずは軽くシャドーボクシングで動きを確認する。


 小学校の時の記憶をふと思い出してボクシング漫画の事を思い出したとは言え、それだけでボクシングができるようになるわけではない。

 しかし今は魔物の擬態能力だけでなく武道の能力も引き続き継続している。

 そして王良伯はボクシングも取り込んでいたようだ、つまりは……


 「あぁ、そうだな……右ストレートでぶっ飛ばす!!」


 言って突風が吹き荒れる中へと突っ込んでいく。


 「来たな!!」


 風を纏うジョセフは突風を気にせず踏み込んできたこちらを見て狂気に顔を歪める。

 そして風が纏わり付いた拳を振り下ろしてくるが、単純な動きゆえに軽いフットワークでかわせた。

 続けざまに連続で拳をこちらに放ってくるが、すべてをかわし懐に入り込む。


 「ぐぬ!!」

 「まずはジャブだ! 打つべし!! 打つべし!!」

 「がはぁ!?」


 素早くジョセフの顔面にジャブを連続して放つ。

 ジャブは当然、威力はない。が、相手を翻弄したりダメージを蓄積する効果がある。

 何よりジャブはこちらが攻撃の主導権を握り、次の技へと繋げる足がかりだ。

 そしてジョセフはジャブを連続してくらい、反撃よりも防御に重心を置こうと行動を切り替える。

 なので、次なる行動に移る。


 「続いてフックだ!」


 右腕を大きく横に振りかざして一気に横からのパンチを放つ。

 そしてこれはただのフックではない。ゴリラアームで放つ、いわばゴリラパンチだ。

 ジョセフはフックをくらい、脳が揺さぶられる気持ち悪い感触を味わって吐きそうになっていた。


 そんなジョセフに倒れる事は許さず怒りのボディブローを放つ。


 「これは前にリーナが所属してたお前らに潰されたギルドのぶんだ!!」

 「ぐはぁ!!」


 腹部に渾身のゴリラパンチをくらい、ジョセフは顔を歪ませて血を吐き出す。

 しかし、そんな事で止まりはしない。


 「そしてこれはお前らにいたぶられたリーナのぶん!!」

 「げほぉぉ!!!」


 叫んで怒りのレバーブローを続けざまに放つ。

 肝臓のあたりを殴られ、ジョセフは白目になってよろめく。

 そんなジョセフに対して腰を下ろして肘を曲げ、拳に力を込める。

 渾身の一撃を放つために息を吸い込む。


 「そしてこれは……廃墟同然だったものを滅茶苦茶掃除して綺麗にしたばかりなのに、てめーの襲撃のせいで改修が必要になった屋根の怒りのぶんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 「ぐへぼぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 叫んで曲げた肘を下からジョセフの顎目がけて一気に突き上げる。

 その渾身のゴリラ・アッパーカットをくらい、ジョセフの顔面は歪んで涙、鼻水、涎すべての体液を垂れ流して宙を舞った。


 宙を舞うこと数秒、ジョセフは今度こそ完全に戦闘不能状態となって屋根の上に落下したのだった。


 「……終わったな」


 言ってゴリラアームを解く。

 リーナの分は殴った、もう奴に用はない。

 あとは警邏に引き渡すだけだ。そう思って後ろを振り返るとフミコとケティーは呆れた表情をしていた。


 「いや川畑くん、どう考えても最後のやつ順番が違うでしょ……リーナちゃんの分を最後にして殴らないと締まらないよ?」

 「……かい君、さすがにこれは擁護できない」

 「え? うそ? なんで?」


 そう言って談笑を始める。

 決着はついた。そう思ったからだ。

 しかし、そうではなかった……


 「あ……あへ、あぐ、ぐへ」

 「!?」


 言葉にならない言葉を発してジョセフはフラフラと立ち上がったのだ。

 その生命力に思わず驚いてしまう。


 「まじかよ……?」


 とはいえ、見る限りまともに戦えるような状態でないのは明らかだった。

 さきほどのように風を纏わり付かせるような事もない、本人も自分が今立っているのか倒れているのかすらわかっていないだろう。


 「いい加減もううんざりだ。本当なら捕まえて警邏に差し出すべきなんだろうがここで始末する。くたばりやがれ!」


 言ってムエタイの構えを取る。

 回し蹴り一撃で終わらせようと思ったのだが、その時異変が起きた。


 「おぉ……神よ! ついに我は神の願いを! あぁ、素晴らしい! このジョセフ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 恍惚の表情を浮かべ、空へと両手を広げたジョセフはそのままその両手で手刀を作り、勢いよく自らの心臓へと振り下ろして、()()()()


 「な……!?」

 「あいつ一体何考えてるの!?」

 「は!?」


 突然のことに自分も含めたこの場にいた全員が唖然としてしまう。

 自らの手刀で心臓ごと自らの右胸を突き刺したジョセフは血を吐いて絶命したかに思われた。

 しかし、直後雰囲気が変わる。


 さきほどまでとはオーラがまるで違う様相になったジョセフがそこにはいた。

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