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新たな仲間(4)

 巨大な緑色の大蛇が襲撃しようとしていた連中を呑み込んでいく。

 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>の本部である建物の屋根の上に立って眼下のその光景を眺めていた。

 そして手にしているアビリティーユニット・アックスモードを見る。


 「やっぱ聖斧の能力も向上してるよな……魔法の能力が+2になった事で連動したのか?」


 この建物を中心とした数キロに渡る地域を完全に囲い込んだ岩の巨大な壁は聖斧の能力によるものだが、極寒の異世界で喜多村卓也からこの能力を奪った時はここまで大規模には展開できなかった。

 魔法の能力と連動しているのか、それとも奪った能力が増えれば増えるほど、どの能力値も上がっていくのか……何にしてもいずれどこかのタイミングで検証しないといけないかもしれない。


 そんなわけで当初はある程度の範囲を囲って中にある程度の敵を閉じ込めて潰し、取り逃したその他は個別に追跡して潰すか、今度襲撃してきたら次はお前だぞという脅しをかけてそのまま逃がすかと考えていたのだが、リーナの千里眼の指輪による探知のおかげで襲撃してくる連中の数と位置が特定できたため、すべてここで潰すことにした。


 以前リーナが襲撃してきたギルドに所属していた事もあって、ギルド構成員の数も正確に把握している。

 襲撃にはどうやらギルド構成員全員が参加しているようであり、リーダーの一人を除いて、全員を岩の壁の中に囲い込めたようだ。


 襲撃してきたギルドのリーダーは少し離れたところで指示をだしているのか、近づいてくる気配はないようなので、とりあえずはその他を全滅させる事にする。

 周辺の住民やギルド、商人には事前に話をつけておいて退避してもらっているため遠慮なく岩で囲い込んだ地域を攻撃できる。


 岩で囲んだ中の地域をフミコが枝剣で出した緑色の大蛇が蹂躙していく。

 動揺した襲撃グループたちはただ慌てふためくだけで何もできずに大蛇に呑まれていった。


 とはいえ、全員をすぐに一網打尽にはできなかった。

 すぐに我に返り走って逃げる面々も当然いるわけで、そんな連中には聖斧の能力である重力操作の攻撃、グラビティーをかけて地面に縛り付け動けなくし緑色の大蛇にそのまま呑み込ませる。


 こうして襲撃グループはほぼ壊滅したのだった。




 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>の本部である建物の屋根にカイトとリーナは立っていたが、同じく別の部屋から建物の屋根の上に上がったフミコとケティーも同じく眼下の光景を眺めていた。


 「いやーほんとむごい光景だよね」


 ケティーが眼下で緑色の大蛇に襲撃犯達が呑み込まれていく様子を眺めながら、心にも思ってなさそうに言う。

 そんなケティーの言葉を聞いて枝剣を掲げて地面へと緑色の大蛇を放っているフミコは呆れた表情となった。


 「ものすごく棒読みで言うあたり、むごいとか思ってないでしょ?」

 「まさか~」

 「だったら下に行って助けてあげたら?」

 「なんで? リーナちゃんをいたぶってた連中でしょ? 助ける義理なくない? むしろここ襲撃してリーナちゃんを確保した後、あわよくば私達も拉致しようと考えてたかもしれない連中だよ? 死んで当然」

 「まぁ、その通りなんだけどね。ほんと気持ち悪い……」


 そう言ってフミコは部屋の隅に現れた害虫を見て不快な気分になったような目を眼下に向ける。


 「ていうか、何であたしがかい君と一緒じゃなくてあんたと一緒なわけ?」

 「そりゃまぁ、川畑くんはギルドマスターなんだしリーナちゃんと一緒にいたほうがいいでしょ」

 「納得いかない!」

 「それは懐いてくれてたリーナちゃんを取られたっていう嫉妬? それとも川畑くんを独占されたっていう嫉妬?」


 そうケティーがニヤニヤしながら聞くとフミコはため息をついた。


 「答える気はない」


 大した緊迫感もなく話し込んでいると、緑色の大蛇の攻撃を逃れて壁の外へと脱出しようとする者が一人現れた。

 緑色の大蛇から逃れようとする者はカイトがグラビティーをかけて動けなくしているが、その者はどういった手段を使ったのか? グラビティーの効果を受けることなく岩の壁をよじ登って脱出しようとしている。


 「あー、一人逃がしちゃうかも」

 「よじ登ってるんだったら隙ありまくりでしょ? 大蛇6匹いるんだったら1匹差し向ければいいんじゃない?」

 「それしたら多分壁も壊しちゃう」


 そう言ってうーんと考え込む仕草を見せるフミコを見て、ケティーがやれやれと肩を竦める。


 「まぁ、ここは手筈通りバックアップの私の出番でしょうね……正直、出る幕はないと思ってたけど」


 そう言ってケティーはどこからかライフル銃を取り出しグリップを握って構える。

 そのライフル銃は現代地球のライフル銃と違い、どこかSF映画に登場しそうな近未来チックなデザインのライフル銃だった。


 「さーて、この銃仕入れたはいいけど、まだ性能チェックしてなかったんだよね~試し撃ちはしたけど実戦ではどうなんだろう? って感じだったけど、遠慮しなくていい相手で試射できるって最高だよね」


 そう言って舌をペロっと出して舌なめずりすると、ケティーはスコープを覗き込む。

 そんなケティーをフミコは呆れた表情で見る。


 「悪趣味」

 「どこが? 普通でしょ?」


 言ってケティーは引き金を引く。

 独特な音を発して弾丸が銃口から放たれ、壁をよじ登っていた者にヒットし地面に落とす。

 そして地面に落ちたその者は緑色の大蛇に呑まれた。


 「まぁ、感触はそこそこかな?」


 そう言ってケティーはスコープから目を離し構えを解く。

 そんなケティーにフミコが疑問を投げかける。


 「今の銃撃、何? 撃ち墜としたけど撃ち殺したわけじゃないよね? 威力が弱いの?」

 「あーフミコは川畑くんの使うアビリティーユニットのライフルモードやハンドガンモードの銃しか知らないから無理ないか……銃には殺傷能力以外にも求められる性能や役割があるの」

 「?」

 「まぁ、基本は確かに殺傷能力だよね……でも殺傷能力のない銃だってある。まぁ撃つ弾が殺傷能力がないだけの場合もあるけどね……暴徒鎮圧用や訓練用のゴム弾とか麻酔弾とか演習用の塗料弾とか……それ以外では水圧銃とかエアガンとか信号弾を撃つ連絡や報告のための銃だとか、まぁ色々とね」

 「はぁ……」

 「で、今のはそんな非殺傷能力の弾を撃ったわけ。この銃自体、そういった専用の銃だしね。撃ったのはアンチシール弾。護符を無効化する銃撃ね」

 「護符を無効化?」

 「そ、あの壁よじ登ってたやつ、川畑くんのグラビティーが効いてなかった。たぶんそういう魔法を防げるマジックアイテムを持っていたんだと思う。杖を出して魔法を使った様子もなかったし、恐らく魔法使いではないだろうからね……だったらそのマジックアイテムの効果を無効化する攻撃を加えてやろうと思ったわけ」


 結果効果は覿面、壁をよじ登っていたチンピラは壁に張り付いていたところを新聞紙やらで叩き墜とされた害虫にように地面に落ちていった。


 仮に相手が所持していたマジックアイテムがあらゆる攻撃とまではいかないまでも、ある程度の攻撃を無効化できる物であったなら、通常の狙撃では撃ち落とせなかっただろう。

 相手の所持しているものが何かわからない以上は結果を検証できる攻撃をまずは行う。それがケティーの出した結論。

 そして護符を無効化するアンチシール弾だからこその結果なのだ。


 「でも仮に魔法使いだったらどうするつもりだったの?」


 そうフミコが聞くとケティーは小馬鹿にした表情をフミコに向けた。


 「あんなチンピラ集団に魔法使いがいると思う?」

 「その顔ほんとムカつくな! 近くにリーナちゃんがいなければ殴ってるところだぞ?」

 「日和ったな?」

 「あぁ!?」

 「はいはい、フミコひょっとしてこの異世界の基本情報忘れた?」


 そうケティーが言うとフミコはムスっとした顔となる。


 「覚えてるよ! この異世界では魔法は誰でも使える秘術じゃない。メイジと呼ばれる血族の者達と亜人しか使えないでしょ?」

 「そう、そして魔法が使えるメイジはこの異世界では貴族であり王族であり皇族。つまりは支配階級やら特権階級……まぁ中には落ちぶれた没落貴族もいるでしょうけど、基本あんなチンピラ集団にメイジが紛れてることはない。紛れたとしてもメイジとして他を威圧してリーダーになってるはず、だからあの集団にいる可能性はないんだよね」


 そうケティーは断言する。

 この異世界において魔法は亜人と人間の限られた血族であるメイジしか扱う事ができない。

 それは魔法という秘術がこの異世界においてはメイジの血筋にしか継承されないからだ。

 メイジの血が混じっていない者がある日突然魔法の才能に目覚めるといった出来事はこの異世界では発生しない。

 ゆえに魔法を使えるという事は貴族である証なのである。


 そして、メイジ以外では亜人しか魔法は扱えない。

 だからこそ貴族は平民にとって身分以前に怪物のようなおぞましい存在であり平伏すべき相手、そして亜人も畏怖すべき恐怖の対象なのだ。


 とはいえ人間の貴族であるメイジの扱う魔法と亜人たちの扱う魔法はそもそも種類や意味合いがまったく違う。


 人間の貴族や王族のメイジが扱う魔法は系統魔法と言われ、亜人たちが扱う魔法は自然魔法と言われる。

 どちらも発動するのに必要とする力の源や技術が丸っきり違うため、この異世界で魔法と一括に言ってもメイジと亜人、どちらが使用するかによって効果や結果は変わってくるだろう。


 (まぁ、とはいえ常に魔法が飛び交う戦場に身を委ねでもしてないかぎり普通の人に違いはわからないんだけどね……)


 そう思ってケティーはひと仕事終えたと両手を大きく伸ばしてリラックスする。

 後は残ったリーダーだけだ、まぁ川畑くんがすぐに片付けるだろう。

 そう気軽に考えていた。

 この時はまだ気付いてなかった、襲撃犯のリーダーの背後に控えている存在に……

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