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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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新たな仲間(3)

 世界の穢れが集うといわれる悪徳の街ドルクジルヴァニア。その街の一角、繁華街から少し外れた通りに新規ギルドの本部である建物はあった。


 道沿いに面したその建物はつい先日まで廃墟のような様相でとても人間が中に住み込んで活動できるような状態ではなかったが、今は見違えるほどにまともな建物に戻っていた。


 そんな建物を複数の人影が向かいの建物や小屋や路地の影から監視していた。

 それらの人影はやがて建物を包囲するような配置に散らばっていく。


 「くっくっく……まったくどれだけ逃げても無駄だよハーフヴァンパイア! どこまでも追いかけて見つけ出してやる!」

 「けけけ……今度はどんなギルドに逃げ込んだんだ? 邪魔するようなら潰すがな!」

 「なぁ、前回と同じで潰したギルドに女がいたら犯していいんだよな?」

 「あぁ、はやく暴れてー!!」


 そう口々に話しながら位置についていく人影たちはまるでチンピラのような集団だった。

 唯一例外なのが他の人影たちと違って少し離れた所でチンピラたちにマジックアイテムで指示を送っている白い法衣を纏った聖職者のような格好をしている男だ。

 彼だけはチンピラたちのような下品な言葉も使わず汚い外見もしていない。


 彼の名はジョセフ、()()聖職者だ。

 聖職者なのに自称というのは彼が説く説法に原典などなく、彼が広めようという宗教など世に存在しないからだ。

 俗に言う新興宗教である。


 そして、その新興宗教の信徒が今建物を包囲しようとしているチンピラたちである。

 ようは信じているか信仰しているかは不明だが、チンピラ達にしか説法は響かなかったようだ。

 いや、それすら本当に響いているのか、本当に共感しているのかすら怪しい。


 ゆえにジョセフはより敬虔な信徒を得るため、その説法を世に広めるためギルドを結成した。

 そのギルドとは宗教ギルド<幸運を運ぶ神の鐘復古運動>


 そのギルドの宗教観と思想は独特で共感を得られるようなものではない。

 とてもまともとは思えないからだ。


 しかし、チンピラのようなはみ出し者にはすべてを理解していなくても共感していなくても賛同できる部分が多くあった。

 その教えの中にこんなものがある……


 「幸運が失われたこの世に天から再び幸運を呼び戻すため、この世の穢れの象徴である混血児を100日間徹底的に痛めつけ祓い清めよ。そして101日後にその混血児を人柱として聖地に生きたまま埋め聖典を碑文として帰した石碑を建てよ。それが第一歩となる」


 その教えを実行するため、チンピラたちは混血児を取り戻しに向かう。

 ただ暴れられる場所を求めて……




 2階の一室の窓際に立って姿を隠しながら外の様子を窺う。


 「見た感じこっちには5、6人ってところかな? フミコ、そっちはどうだ?」


 2階の別の部屋で同じく外の様子を確認しているフミコにスマホで連絡を取り聞いてみる。


 『こっちも似たような感じかな? たぶん5人ほどだと思う』

 「そうか……ケティーそっちは?」

 『似たようなものね……完全に包囲されてると思うよ?』

 「まぁ、そうだろうな……さて、それじゃあ手はず通りに行きますか」

 『『了解』』


 スマホをポケットにしまうと窓の外の様子を確認しながら自分の背後にいる暗い表情をした小さな女の子に話しかける。


 「あいつらに酷い事されたんだよな? 復讐したいか?」

 「……ふくしゅう?」

 「そうさ、やられっぱなしじゃ嫌だろ? 連中の親玉をぶん殴るくらいしてやらないと!」


 そう声をかけるが反応は薄かった。


 「どうして……?」

 「ん?」

 「どうして殴り返すさなきゃいけないの?」

 「……うーん、まぁリーナちゃんが殴るつもりはないって言うのなら構わないけど。俺はそれくらいしても罰は当たらないと思うけどな?」

 「わたしは……ハーフですよ?」


 リーナはそう言って下を向いた。

 ハーフが人間を殴ったりしたらどうなるか、何を言われるかわからない……そう考えているのかもしれない。

 だから伝えないといけない、卑屈になる必要はないと。


 「それがどうした」

 「……え?」

 「俺はそんなの気にしないよ、リーナちゃんがハーフだろうが何だろうがね。この街の大多数はそうじゃないかな? だから今襲ってきてる連中なんてごく少数、マイノリティーさ。そんなのを気にする必要はない」


 そう言うとリーナは少し戸惑った表情をした。


 「でも、たとえ少数でも……その少数がきっとこの後も襲ってきます。わたしが人間を殴ったと知ればきっと色んな人が怒ります……きっと迷惑かけちゃいます」

 「だったら迷惑をいっぱいかければいい」

 「……え?」

 「自分がハーフなせいで俺やフミコやケティーに迷惑がかかると思ってるなら、存分に迷惑を俺たちにかければいい、俺たちはそれを受け止めて君を守る。だから遠慮しなくていいんだ」


 そう言って窓から目を離し、リーナに笑って見せた。

 そんな自分を見てリーナはどう思ったのか、目に涙を浮かべると自分のお腹へと抱きついてきた。

 そしてお腹に顔を埋めて涙声で問いかけてくる。


 「いいんですか? きっと……きっときっといっぱい迷惑しますよ?」

 「それがどうした、そんなもん些細な事だよ」


 そう言って自分に抱きついてお腹へと顔を埋めているリーナの頭を撫でてやる。


 「絶対に後悔しますよ? ……やっぱりハーフなんか……仲間にするんじゃなかったって……」

 「後悔しないさ、するわけないだろ? それを今から証明してやる」

 「わたしが……ハーフがいるせいで嫌な思いをするかもしれませんよ?」

 「リーナちゃんが今まで経験してきた事に比べたら大したことないさ、だから気にしなくていい」

 「でも……きっと」


 リーナは涙声で続けようとする。

 現在進行形で迷惑をかけている自分を受け入れてくれるわけがない……そう思っているのだろう。

 だからこの子にはっきりと伝えなければならない、自分がハーフだからなんて気にしなくていいと。


 「リーナちゃん、卑屈になる必要はない。自分がハーフだからとか、そんな事俺たちに言わなくていい! 俺たちは気にしない。理由はすべてが片付いたら話すけど、信用してくれないか? 俺たちのこと……そして頼って欲しい、任せて欲しい」


 そう言ってお腹に抱きついているリーナを一旦引き離すとしゃがみ込んでリーナと同じ目線に合わせて問いかける。


 「リーナちゃん、君はどうしたい? どうしてほしい?」

 「わたしは……」


 そこでリーナは言葉に詰まった。

 その言葉を口にしていいのだろうか? そんな思いを抱いてるのかもしれない。

 だからその呪縛を解いてやる。


 「いいんだ……言っていいんだよ本心を! 君自身の思いを聞かせてくれ!! それに俺たちは答える! 絶対に!!」


 そう力強く言葉を口にした。

 その言葉が通じたかはわからないが、リーナは唇を震えさせながら言葉を紡ぐ。


 「わたしは……嫌です……もうハーフだからって痛めつけられるのは……ハーフだからって肩身が狭い思いをするのは嫌です!! だからお願いです……助けてください!! もう嫌なんです!!」


 リーナはそう涙ながらに叫んだ。

 ようやく本心を晒すことができて感情が爆発したのか、涙が止まらず嗚咽していた。

 そんなリーナを優しく抱きしめる。


 「よく言えたな……その言葉が聞けて安心したよ。大丈夫、心配しなくていい。俺たちが絶対に君を救ってあげるから」


 そう言って優しくリーナの頭を撫でてやる。

 リーナが泣き止むまでしばらくそうしていたが、やがてリーナは涙を拭いて顔をあげる。


 「あ、あの……マスターありがとうございます」

 「その呼ばれ方はあまり慣れそうにないからできれば他の呼び方にしてほしいんだけど」

 「いえ……マスターはギルドマスターですから!」


 そう鼻息荒く言われるとどうにも断りづらくなってしまう。


 「……まぁリーナちゃんがそう呼びたいって言うなら止めはしないけど」

 「はい! ではマスター、わたしもお手伝いします! お役に立ちます!」


 そう言ってリーナはポケットから指輪を取り出す。


 「それは?」

 「マジックアイテムの千里眼の指輪です、これで敵の正確な位置と数を把握できます」

 「そう言えば最初の自己紹介の時に言ってたな。探知系のアイテムか……どれくらいの範囲を調べられるんだ?」


 そう聞くとリーナはとんでもない事を言い出した。


 「効果範囲に限度はないです。望むならどこまででも」

 「……マジか」


 そんな便利な代物があるなら誰しも困らないだろうし、そもそも戦争すら起きずらくなるのではないか? と思うが、しかし実際はそううまくはいかないようだ。


 「ただし探知範囲を広げれば広げるほど精度は落ちます。より狭く場所を限定したほうが精度は高まりますから広範囲の探知には実際は不向きかと」

 「まぁ、そりゃそうだよね……」

 「でも、この周辺の地域を探知する程度なら問題ないと思います」


 そう言うリーナを見て、ここは素直に頼ってみるかと頷く。

 これがリーナの自信に繋がるのなら。


 「じゃあ探知のほうを頼む。周辺の敵の位置と数を教えてくれ」

 「はい! お任せくださいマスター!」


 リーナは笑顔で答えると右手の人差し指に千里眼の指輪をはめる。

 そして目を閉じて右手を頭上へと掲げた。


 「探知開始」


 リーナが呟いたと同時に頭上に掲げた右手の人差し指にはめられた千里眼の指輪から波動のようなものが周囲に広がっていく。

 やがてそれはこの建物を中心とした周辺地域へと広がり、その中にいる者すべての数と位置をリーナの脳内に伝える。


 「マスター、正確な場所と数がわかりました!」


 そう言ってリーナは頭上に掲げた右手を下ろし、笑顔で情報を伝えてくる。




 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>の本部である建物に隠れながら近づき、これを包囲したチンピラのような宗教ギルド<幸運を運ぶ神の鐘復古運動>のメンバーたちであったが、次の瞬間彼らの表情は驚愕に満ちることになる。


 ゴゴゴゴゴゴと嫌な音を立てて突然地面が揺れ出したのだ。


 「な、なんだ!?」

 「地震だと!?」

 「いや違う!! あれを見ろ!!」

 「なっ!? なんだと!?」


 慌てふためくチンピラたちの視線の先、そこでは地面から突然巨大な壁が生え出していた。

 それはギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>の本部である建物を中心とした数キロに渡る地域を完全に囲い込んでしまう。


 その巨大な岩の壁の出現に驚き困惑するチンピラたちだったが、やがて自分達が岩の壁によってこの周辺区画ごと閉じ込められた事に遅まきながら気付く。


 「お、おい……もしかしなくてもやべぇんじゃねーか?」

 「あぁ……なんか嫌な予感がするぜ」

 「さ、さっさと逃げたほうがいいんじゃないか?」

 「逃げるったってどこにだよ? 完全に壁の中に閉じ込められたんだぞ?」


 そう口々に言いながら今だその場に留まったままのチンピラたちは、次の瞬間恐怖で言葉を失ってしまう。


 地響きがして、何かが雪崩れてくるような音が遠くから聞こえてくる。

 それは徐々に大きくなっていき、やがて彼らの目の前に巨大な岩の壁で取り囲んだ中の区画の地面に放置されていたであろう、樽や壊れた馬車の荷車などの大量の瓦礫を押しだしながら無数の巨大な緑色の大蛇の顔が迫ってきたのだ。


 「なっ……!! なんじゃこりゃーーーーーーーーーー!!!!!!」


 無数の巨大な緑色の大蛇の行軍にチンピラたちは為す術なく呑み込まれすり潰されていった。

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