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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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ギルドの街(5)

 「カルテルの邪魔をしていいって、どういう事だ?」

 「ほっほっほ、言葉通りじゃ。連中にちょっかいを出しても良い……具体的には連中が誰かと争っている場面に遭遇したら加勢してカルテル側を撃退しても良いと言ったところじゃの? まぁ完全に組織を壊滅させるところまでは許容できんが……そもそも少数ギルドのみで壊滅させられるような組織ではないがの」


 そう言ってカグは笑うが、額面通りには受け取れなかった。

 今まで散々次元の亀裂の拡大に繋がるから極力異世界の事情には関わるなと言っておきながら、 なぜ突然方向転換したのか?

 カルテルの目的はこの地に封印された邪神の復活だというが、やはりカグと何かしら関係があるのではないか?


 「一体何を企んでやがる?」

 「ふむ、たくらむとは?」

 「とぼけるな! 以前も運命の乙女と背徳の女神の名前が出た時、背徳の女神とは無関係だと最初は言ってやがったが結局は知り合いだったじゃねーか!! 今回も同じじゃねーのか?」


 そう言って詰め寄るが、カグは気にした素振りを見せなかった。


 「ふむ、確かに貴様がそう思うのも無理はないの……しかし残念ながらこの地に邪神など、そもそも封じられておらん」

 「……どういう事だ? ケティーが言ってたように、邪神が存在したという史実はないという事か?」

 「数千年前に災厄が起ったのは事実じゃ。しかし、それは邪神などという存在ではないし、この地に封じられたわけでもない」


 カグは邪神がいたという話を否定するが、ならカルテルの連中の目的を邪魔していいという理由がわからない。


 「……別段邪神なんていないって言うならほっといても構わんだろ? なんでこれまでの前提を覆してまで関わってもいいなんて言うんだ?」

 「前提を覆すとは言っとらんがの? ()()()()()()()()()()()()()()じゃ」

 「同じようなものだろ? なんでだ?」

 「それはの……邪神なんてもんは存在しないが厄介な事になるからじゃ」


  カグはそう言うとカラスの姿であるにも関わらず邪悪な笑みを浮かべる。


 「連中が呼び起こそうとしとるもんは貴様もよく知っとるもんじゃよ、忘れたわけではあるまい? 貴様が旅をしている目的を」

 「……ちょっと待て それってまさか」

 「ジムクベルトじゃ、連中が呼び起こそうとしておるのはの……」

 「な!? 一体どういう事だ!? ジムクベルトは今地球にいるんじゃないのか!?」


 予想だにしない名前に思わずカグに顔を近づけて怒鳴ってしまったが、カグは気にした風でもなく淡々と答える。


 「そうじゃ、今もジムクベルトは地球におる。でなければ貴様が旅をする意味がないからの?」

 「じゃあ一体……」

 「まぁ、貴様が混乱するのも無理はない。しかし勘違いするでないぞ? ジムクベルトは今も地球におり、そこから動くことはない……故に連中が呼び起こそうとしているのは正確に言えばジムクベルトの()()()()()じゃ」

 「権能の一部?」

 「そうじゃ……簡単に説明すれば数千年前、この地にジムクベルトは出現した。しかし地球に出現したような完全な状態じゃなく、ごく一部の権能のみの顕現じゃった。それでもこの異世界を大混乱に陥れるのに十分じゃったがの……結局は不完全な顕現ゆえにすぐに次元の彼方に去ってしまうが、去った後もジムクベルトが出現した跡地には次元の歪みが生じ、長らく立ち入る事ができなかった。それ故に人々はこの地を恐れ、手を出そうとは思わなかったのじゃ……じゃからこの地は無干渉地帯と呼ばれ、国家の支配が及ばない地域となってしまっておる」


 カグの話を聞いて納得がいった。

  周辺国が形式の上では領有権を主張しながら、この地域を支配するために進軍していない理由。

 周辺国が互いに牽制し合い、また無干渉地帯にギルド、空賊連合、キャプテン・パイレーツ・コミッショナー、カルテルが存在するからというだけでは説明になっていなかったが、そのような曰く付きの土地ならば積極的な介入はしたくないはずだ。

 たとえジムクベルトの事が正しい史実とは受け止められなくとも、ジムクベルトが去った後の大地の異常は記録され、長らく人々の生活に影響していたはずなのだから……


 「しかしそうなると、仮にカルテルの連中がジムクベルトをこの地に呼び戻した場合どうなるんだ? 地球にいるジムクベルトはいなくなって、この世界にジムクベルトが姿を現すのか?」


 これは当然の疑問だ。

 いくら人類では到底理解の及ばぬ超高次元の存在とはいえ、同時にかけ離れた2つの次元に…… 別々の世界に存在はできないはずなのだから……


 ならば、仮にどちらかの世界にしかジムクベルトが存在できないのだとしたら、考えようによっては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何せ、地球からこちらの世界にジムクベルトは乗り換えるわけだから……

 考えようによってはむしろ、カルテルの手助けをすれば……この異世界を見捨てれば地球は救われる事にならないか?


 これは最低な考えであることは重々承知だ。

 でも、神ですら殺せない相手を手っ取り早く地球から追い出す手段があるのなら、それに賭けてみるのはごく普通の事ではないか?

 しかし、カグはそんな考えを自分が持つことくらい百も承知だった。

 ゆえに警告してくる。


 「馬鹿な考えは持たないことじゃな? 言ったじゃろ、かつてこの異世界に顕現したのはジムクベルトの権能の一部じゃと」

 「……つまり、完全な状態のジムクベルトはこの異世界には降臨しない?」

 「そういう事じゃ。本体は地球に今もいる。居座っておる。それ以上でもそれ以下でもない。何よりその状態で他世界に権能の一部が出現したら面倒な事になる」

 「どういう事だ?」

 「普通に考えて分からぬか? かつてこの地に権能の一部だけが顕現した時はジムクベルトの本体は次元の狭間じゃった。じゃが今は地球に本体が完全な状態で顕現している。そんな状態でこの地に権能の一部を呼び起こしてみろ、どうなる?」

 「どうなるって……」


 そこまで言われて気付く。

 次元の亀裂からジムクベルトは現れた。そして、その亀裂はこの世界と地球とも繋がっている。

 そんな2つの世界で本体と一部が同時に顕現したら、亀裂どころの騒ぎではない。完全に次元が断裂してしまう。

 それがどういった事態を招くのか……想像できない。


 「何が起る? 2つの世界が繋がる? いや、衝突する? もしくは互いに干渉し合って消滅する?」


 いくらでも最悪なシナリオは思い描ける。

 少なくとも楽しい未来は訪れそうにない。


 「さて、どれも正解でどれも間違いかもしれん……何せそのような事態を今まで経験した事がないからの? そして、そこまでしても恐らくはジムクベルト自体には何の影響はないじゃろうな?」

 「……なんだよそれ」


 こちらは世界が消滅して、その次元に生きるすべての生命が途絶えてしまうというのに、あの怪獣は「何か世界がなくなったし、他の所へ行こう」といった軽いノリで去って行くわけだ。

 理不尽すぎはしないか?

 だからこそ、神を自称するカラスは言う。


 「2つの世界の自爆に巻き込んでもやつは殺せん! だからこそ、カルテルの目的は達成させるわけにはいかんのじゃ!」

 「……なるほどな」


 その事は納得した。

 しかし腑に落ちない点はある。


 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 制限を緩和したんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 それを聞くとカグはカラスとは思えない表情を浮かべる。


 「わかっとらんの? あくまでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「なるほど……要するに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってわけか」

 「そういう事じゃ! 気にしすぎる事はないが気にしすぎないのもよくない、そのレベルじゃの……じゃからまぁ、この地の転生者なりを捜すついでに妨害できそうならしてよい。それくらいの気合いで十分じゃ」


 そう言うとカグは翼をはためかせてどこかへと飛んでいってしまった。


 「……まったく、軽い調子で言いやがって! 暇で手を出せそうならやってもいいって割には内容が最悪な結末に繋がりすぎなんだよ!!」


 文句を言ったところで状況が変わるわけではない。

 とにかく今はギルドのランクを上げるしかない、それだけは事実だった。




 ドルクジルヴァニアの中心地、通称ユニオン通り。

 ここには市内最大の繁華街があり、そしてユニオンギルド統括本部であるドルクジルヴァニア市庁が存在する。


 表向き、ドルクジルヴァニア市庁はあくまでも市政の施設である。

 統括市長であり、ユニオンギルドマスターのヨランダ=ギル=ドルクジルヴァニアが執務をおこなっている場所であるが、建前上はギルドとは関係がない市役所だ。


 ゆえにユニオンギルドの総本山の施設は別に存在する。

 とはいえ、市庁から目と鼻の先にその建物は存在するのだが……


 ユニオンギルド総本部。その建物は見るからに荘厳な外観であった。

 その立派な建物は内部もかなり広く、ギルド同士の話し合いなどが行えるスペースはもちろんの事、依頼を請け負う商談スペースや報酬を保管する金庫、採取や調達してきた依頼品を保管する倉庫など地下施設も充実しており、敵や強盗、暴徒対策も厳重に施された施設となっていた。


 そして1階エントランスフロアで最も人がたむろし、賑わっているのが壁に掲げられた巨大なクエストボードの前だ。

 各ギルドに斡旋されていない依頼の内容を書いた羊皮紙は大体このクエストボードに貼られ、各々がそれを見ながらどの仕事を受けるか検討し論争する。


 そういった活気が受付嬢が仕事を終え、営業を一旦閉じる深夜帯まで続く。

 とは言え、そこのクエストボードに貼られた依頼はある程度のランクにならないと受けられないらしい。


 なので、まずはクエストボードではなく受付カウンターで受付嬢から現時点でのランクで受けられる仕事と、どれだけ仕事をこなしたらランクが上がるのか聞かなければならない。


 「すみません……お尋ねしたいのですが」


 そう言って手が空いてそうな受付嬢に声をかけてみると、まさか声をかけられるとは思ってなかったのか、慌てて読んでいた本(恐らくは仕事とは一切関係ないであろう小説などの娯楽本)を慌てて隠し、引き攣った笑顔で対応してきた。


 「はい! ご用件はなんでしょうか?」


 直後、彼女の背後で大量に山積みされた本やら資料やら何やらが雪崩を起こして崩壊した。


 「あわわわわわ!!! 一体何が!? ちょっとお待ちを! うっそー!! あれ? お昼までに提出しなきゃいけない報告書どこ!?」


 受付嬢が慌てながら散らばった色々な物を片付けようとして余計に散らかしている光景をカウンター越しに見て思わず渋い顔になってしまった。


 あ、これ声かける相手間違えたわ……

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