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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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ギルドの街(3)

 「しかし、このギルドの街が空賊と対立って……無干渉地帯の支配権とかそういう争いをしてるのか? でも無数のギルドがひしめき合うこの街とただの空賊が睨み合ってるってにわかに信じられないんだけど……」


 疑問に思ったので聞いてみるとケティーが地図をトントンと叩きながらため息をついた。


 「勘違いしてるようだけど、そもそも相手の空賊の規模がどれほどかわかってる?」

 「さぁ? せいぜい数十人とか? そもそも空賊自体がどういった連中なのか想像しにくいんだけど……」


 これは率直な意見である。

 何せ地球で学生をしていた頃は無趣味だったのだ。もし自分が映画や小説、漫画、アニメ、ゲームをこよなく愛するインドアのオタク少年だったならば空賊と聞いて即座に理解しただろうがそうではない。

 皆がやっているような有名なソシャゲも自分は特にやっていないため漠然としたイメージも湧かない。


 これまで巡ってきた異世界でもそういった連中は存在したんだろうが、運良く遭遇する事も話題を聞く事もなかった。

 だから空賊に対する知識がない、これは仕方のない事なのだ。


 「まぁ、1つの空賊のグループだけだったらそれくらいの規模だろうね? 母体の飛行船を運行する面子にそこから飛び出して別個小型の飛空挺で標的を襲撃する面子……普通ならその程度の集団が街規模でギルドの互助組織を組んでるドルクジルヴァニアに対抗できるはずがない」


 そう、本来なら規模でいえば話にならないはずなのだ、しかし……


 「空賊と言っても連中のグループは無数に存在する。ギルドがこの街に無数に存在するようにね……そして、空賊の連中はギルドの街ドルクジルヴァニアに対抗するためにこの街のシステムを真似したんだよ」

 「真似をした? 一体何を真似したんだ?」

 「互助組織だよ。ギルドユニオンに対抗するため、バラバラだった無数に存在する空賊団を束ねて巨大な集団にしたんだ。それが空賊連合……ギルドの街ドルクジルヴァニアが最も厄介としている相手だね」


 そもそも空賊は空高くにいくつも存在する浮遊する島や遺跡を根城にして、まだ未発見の浮遊している遺跡を探して見つけ、盗掘したりして生計を立てている。

 言うなれば空の探求者でもある一方で、空を自らの縄張りと考え、そこを荒らす者は襲っていいと考えている。


 そこで標的にされるのが自分たちの領域に土足で入り込んでくる各国の飛行船だ。

 物資を輸送する貨物飛行船やVIPを楽しませる遊覧飛行船、民間の旅行客や賓客を目的の街まで運ぶ運行船などは格好の餌食となる。

 時に軍の飛行船すら内容によっては襲うほどだ。


 ゆえにギルドにとっては本当に邪魔な存在と言える。

 何せギルドに寄せられる依頼の中には移動中の要人の警護や物資の配送なども多く含まれる。

 空輸中に空賊が襲ってきてはこれらの依頼を遂行できないのだ。


 それに空賊は時に地上の村や施設、遺跡も襲撃する。

 上空から常に襲えそうな村や集落を物色しているのだ。

 だからこそ、空賊に襲われそうな土地に村や集落を普通は築いたりしないし、そんな土地に住むなら空からの襲撃には備えておかなければならない。

 そんなわけで、空賊のおかげでドルクジルヴァニアからさほど離れていない郊外ならともかく、すぐには救援に駆けつけられない離れた場所にある村や集落はここしばらくは過疎が進んでいる。


 当然、そうなると街へ入ってくる食料や資源の量も減少するわけで、空賊対策はまさに街の死活問題と直結してるとも言える。


 「しかし、そんな死活問題ならさっさと空賊連合を叩けばいいんじゃないのか? さすがに本拠地が割り出せてないなんてマヌケな事はないんだろ?」

 「そりゃね……空賊連合の本拠地は神話の時代の遺物じゃないか? と言われてる空中遺跡。空を浮遊してるから一定の場所には留まっていないけど、まぁ大体の位置は把握してるはずだよ」

 「じゃあなんで?」

 「攻めないのはドルクジルヴァニアと空賊連合の力がほぼ拮抗しているから……それと空賊連合の本拠地を叩くには大規模な討伐部隊を上空まで運ばないといけないけど、当然それを空賊連合が見過ごすはずがないしギルド側に圧倒的不利な状況だよね?」

 「確かに……だから討伐部隊を編成して攻撃できない?」

 「そういう事……」


 確かに、相手の本拠地が遙か上空である以上は決め手がない限りは手出しができないし出しずらい。よって今の状況を維持するしかないというわけだ。

 そして、問題はそれだけに留まらない。


 「そして、空賊連合を叩きにいけないのはドルクジルヴァニアが対立している組織は空の他にも存在してるからなんだよ」

 「それがさっき言ってた海上か……」


 確かに上空の敵の本拠地を叩くために多くの主力を投入すれば、その隙をついて海上の別の対立組織が街を攻撃してくるかもしれない……迂闊に大規模な作戦は起こせないというわけだ。


 「そう、海上にいる敵はある程度予想はできてるだろうけど海賊ね……海賊も個々では大した事ないけど空賊連合と同じく互助団体を結成して対抗している。海賊同盟なんて最初は言ってたけど今はキャプテン・パイレーツ・コミッショナーなんて名乗ってるわね」

 「キャプテン・パイレーツ・コミッショナーね……船長だけで決めごとしてる互助団体って結束力あるのか?」

 「さてね? 海賊の掟なんて知らないからどうなのか知らないけど、離反や反乱がないあたりは結束力があるって事じゃない?」

 「ふーん、なるほどね……しかし海賊なんて、それこそ空賊からすればいいカモなんじゃないのか? 海上だと逃げ場なんてそうそうないだろうに」


 そう、空賊は上空で襲われても何かしら地上への逃げ道はありそうなものだが、海の上ではそうはいかない。

 海賊が輸送船や豪華客船を襲った後で空から空賊に襲われたら美味しいところをすべて持って行かれはしないだろうか?


 しかし、海賊側もそこは対策はしているようであった。


 「この異世界の海賊は僅かながら飛空挺をもっているわね、だから規模は小さくなるけど空賊の真似事はできるの……まぁさすがに空賊みたいに高高度を飛行したり、飛行船を襲ったりはできないけどね……海賊船がターゲットの船を襲撃したり、港町や漁村を襲ってる間の対空警戒なんかが限度かな? 後は襲ってる船から逃げ出した小型艇を追いかけるくらいか」

 「そりゃまた対策がしっかりしているようで」

 「まぁ、過去に色々あったらしいからね……空賊と海賊が手を組んだら厄介だけど、そうならないのは過去の遺恨が大きいとか……」


 素人からしたらどちらも賊に違いないが、相容れぬ何かがあるようだ。

 しかし、おかげでこの無干渉地帯にパワーバランスが発生しており、ある意味で平和が保たれてるとも言える。


 「で、キャプテン・パイレーツ・コミッショナーもどこかの無人島が本拠地だったりするのか? それとも本拠地を悟らせないように海上を移動する巨大な要塞戦艦でもあったりするのか?」

 「さすがにそれはないね……普通に無人島だよ。かつてこの地域に存在した太古の帝国の遺跡を本拠地にしてるみたいだね……ただ、地図には存在しない島と言われてて、ギルド側はその島が存在する海域の海図を持っていないんだよね。空賊連合は上空から捜索して場所は知ってるだろうけど」

 「それって地上に本拠地を置くギルドにとってかなり不利なんじゃないのか? だって海賊の本拠地の正確な場所がわからない以上、本拠地を叩きに行くことはできないし、それ以外でも下手に海上移動ができないって事じゃないか」


 そう、本拠地のおおよその位置がわかっている空賊連合と違ってキャプテン・パイレーツ・コミッショナーは本拠地の正確な位置はおろか、おおよその位置すらわかっていない。

 そんな相手を叩くにはかなり長い準備期間と下準備、調査が必要だ。

 そして、その調査においてどれだけの犠牲がでるかはわからない。

 何せ、地上に脱出できる術がある上空と違って海上は逃げ場がない。


 仮に不測の事態に襲われた場合、救援はすぐに呼べないし、助かる見込みもない。

 広い道標がない海上で迷い彷徨い続け、食料や飲料水などが尽きればもはや死を待つしかない。

 あてもなく本拠地を捜すなど愚の骨頂なのだ。


 さらに海上で敵に襲われた場合、逃げ場はどこにもない……

 それこそ、飛行能力か、優れた潜水技術と遠泳技術でもない限り生き残れないだろう……


 「まぁ、実際海上輸送の類いはこの無干渉地帯じゃ自殺行為だね。漁村の漁師たちですら最低限以上の武装をしていざという時の護身術を身につけて漁にでかけるわけだし」

 「……マジかよ、この地域で漁師になるのハードル高すぎだろ」


 そう言えば、地球じゃ北朝鮮の軍人が漁船に乗って漁をすると言うが、この地域で漁業を生業にするにはそれこそ軍人でないと厳しいのかもしれない。


 「あと海賊の連中は海岸の村だけじゃなくて陸地の奥深くの村も襲ったりするよ?」


 ケティーの言葉で目が点となった。

 え? 海賊が船下りてそんな事して大丈夫なの?

 そりゃ海賊映画で無人島の奥地のお宝求めて上陸ってのはよくあるけど、陸地の勢力の支配地域までくるの? 船を海岸に置いて?

 バカなの?


 「え? まじで? 海賊だよね?」

 「なんか勘違いしてるようだけど、海賊だって年がら年中無人島で大冒険と盗掘してるわけじゃないし、船を襲うって言っても毎日毎月船を発見できるわけじゃないからね? 広い海原でこちらが海賊の本拠地を発見できないのと同じく、向こうだって広い海原で情報なしにお宝がある船を見つけ出すなんてできないから!」

 「まぁ、言われてみればそうだな」

 「だから、そういった船の情報を求めて港町や漁村を襲ったり、儲けがない時はそういった海岸の町や村を襲撃して略奪したりするわけ……まぁ冬になる前に蓄えをしておこうって魂胆だろうね」

 「ここの海は冬は船が出せないほど凍るのか? 越冬のための略奪ってまるでデンマークや北欧のヴァイキングじゃないか」

 「まぁ、そういった側面もあるかもね……冬でも海は凍ったりしないけど、やっぱり物資の移動は減るからね。逆に言えば冬は海賊の活動が沈静化するから冬がキャプテン・パイレーツ・コミッショナーの本拠地の捜索や海上輸送には最適かもしれない」


 とはいえ、海賊の活動が沈静化する冬のうちに海上輸送できる物はしておこうという考えは海賊側もお見通しで、冬でも練度も士気も高い精鋭の海賊団は活動しているのだとか……

 だから冬が到来したからといって完全に海上航路が安全になるわけではない

 リスクが多少減るといったところだろう。


 「なるほど……しかし陸地の奥深くまで海賊が攻め入るってのは意外だな……海岸の町や漁村なら沖合に海賊船を停泊させてか、それこそ大胆に港や桟橋に乗り付けてってのはあるかもだけど、そこから更に上陸していくって事だろ?」

 「別段手段はいくらでもあるよ、たとえば川を上っていくとかね」

 「川を?」

 「そう、それなりに川底が深いところならある程度まで海賊船で乗り付けて、そこから小型艇で上流へ上っていくわけ。だから海岸から離れた内陸でも河川敷の村は意外と危険なんだよね」

 「……マジかよ、まぁ確かに河川の水運って海の物資を内陸に運ぶ時の基本だけど、でもそういう河川の警備って普通厳しくやってるもんじゃないのか?」


 そう、ギルドと海賊が敵対してる以上は主要な海へと流れる河川は封鎖なりなんなりしているはずだがしてないのだろうか?

 しかし、そんな事はギルド側も百も承知のようで、河川守備と警戒を目的とした専門のギルドが存在すようだ。


 「そんなギルドが存在するならなんで川に入られてんだ?」

 「主要な川は警護してるけど、それ以外の小さい河川はそうじゃないってわけ」

 「どういうことだ? 小さい川だと海賊船はそもそも近づけないんだろ?」

 「そうだね、それに海に流れてるけど、そもそも川と呼べるのか? ってレベルの幅の川もあるし、()()()無理だよね」

 「?」


 どういう事だろうと思っているとケティーがとんでもない事を言い出した。


 「川畑くん、何も小型艇は海賊船から海に下ろして、そのまま川に入っていくって事をしなくてもいいんだよ?」

 「どういう事だ?」

 「例えば、川から遠く離れた海岸沖に海賊船を停泊させて小型艇を下ろし、浜辺に乗り付ける。それから小型艇を下りた海賊達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、時には山越えをする。そして山奥なり、谷底なりまで小型艇を担いで適当な小型艇を浮かべられそうな川辺にでたら小型艇を下ろして乗り込み、川を進むってわけ」

 「……は?」


 言ってる意味が理解できなかった。船を担いで陸地を進む? 山越え谷越えをする?

 言うなれば祭で神輿を担いで商店街や神社の参道を進むようなものだろうか?

 いや、しかしそれで山越え谷越えができるだろうか? しかも敵に見つからずできるだけ速くに……


 しかも行きはいいだろう、荷物と言えばせいぜい自分達の武器ぐらいだろうから。

 しかし、襲撃を成功した帰りはどうだ? 略奪した物資や食料、あまり考えたくはないが拉致した女性など荷物の重量は格段に増えるはずだ。

 それをまた、ある程度川を下ったらまた担いで浜辺まで戻るのか?

 正気の沙汰とは思えない……自分には絶対に海賊稼業は無理だろう。


 「聞いてるだけで疲れてくるな……」

 「確かにね。でも、そこまでしてくるのが海賊。だからこそ、陸の奥深くに住んでいても油断はできないわけ」

 「空に海にまったくろくでもないな……」

 「まぁ、でも一番厄介なのは同じ陸にある組織なんだけどね」


 そう言ってケティーは真剣な表情でギルドにとって最後の対立組織の名を告げる。


 「本当に厄介なのは同じ無干渉地帯の陸地にある組織……ドルクジルヴァニアから遠く離れたアビス山脈、その中腹に存在する遺跡を本拠地とする彼らの事は『殺人ギルド』だったり、元が山賊や夜盗の集団が合流してできた団体であることから『旧山賊協定』なんて呼ばれたりしてるけど、今の彼らはそんな生やさしいものじゃない……彼らは自らをこう名乗っている、邪神結社<カルテル>と……」

 「カルテル……」


 ギルド、空賊連合、キャプテン・パイレーツ・コミッショナーの3つの組織がそれぞれ動かず、潰し合わない理由こそがまさにカルテルという組織の存在であった。

 この地において、この組織こそがまさに鍵と言える、そんな気がした。


 カルテルという組織とその目的、そしてギルドと他の組織との力関係を知る事が、この異世界で今まさに起っている出来事と転生者をあぶり出すヒントになるはずだ。

 だからこそ、ケティーに問う。


 「その組織は一体何なんだ?」

 「そうだね……言うなればカルト宗教だよ」

 「……カルト宗教?」

 「うん、全くもって理解に苦しむ目標を掲げてる」

 「それって一体何だ?」

 「それはね……」


 ケティーはそこで一旦言葉を句切った。

 そして間をあけて告げる。


 「この地に眠る邪神の復活だよ」

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