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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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ギルドの街(2)

 世界の穢れが集うといわれる悪徳の街ドルクジルヴァニア、その街の一角、繁華街から少し外れた通りにその建物はあった。

 道沿いに面した建物の正面玄関は廃墟のような様相でとても人間が中に住み込んで活動できるような印象は受けないが、その建物の中からは今物音がこだましていた。


 「というかなんで私はここで掃除なんかしてるわけ?」


 そうエプロン姿で不満を漏らすのはケティーだ。

 廃墟同然だった建物内部の掃除を手伝ってくれていたのだが、ついに根を上げたようだ。


 まぁ気持ちはわからなくもない……自分だって正直気が進まないが、当分この異世界で活動する事が確定した以上はあてがわれたこの街での活動拠点であるギルド本部を「とりあえず使える程度」には綺麗にしなければならない。

 何せ、ここで寝泊まりするかは別として、ギルド本部である以上はギルドユニオンから仕事の斡旋にきたり、仕事の依頼人が来たりなど人の往来が発生する。

 そんな場所が廃墟同然というのはさすがにまずいだろう……


 というか空き家が他になかっただけかもしれないが、こんな物件をギルド本部に使えと寄越してきた市政も一体何を考えているのかと思う。

 とは言え愚痴ったところで廃墟同然の建物が新築のような綺麗さに勝手になるわけもなく、手を動かして掃除するしかないのだ。


 「仕方ないだろ? 3人しかいないギルドなんだし……現地人を使用人として雇うわけにもいかないんだから」


 そう言うとケティーは不服そうに頬を膨らませる。


 「だからって何で私もギルドのメンバーに入れられてるわけ?」

 「そうだよかい君! ケティーはいらないよ! あたしとかい君の2人っきりの時間に邪魔者だよ!」


 フミコが窓を拭きながらそう言うとケティーが一瞬フミコを睨む。

 あ、これ喧嘩はじめて掃除が進まなくなるやつや……これはまずい、阻止しないと!


 「そりゃ情報は多い方がいいって思ったからだよ。ケティーならこの異世界にも来た事があるんだろうし、あと移動の面でもムーブデバイスは次元の狭間の空間に素早く戻るのに便利だし」


 そう言うとケティーが怒鳴ってきた。


 「ちょっと川畑くん!? ムーブデバイスで私以外も一緒に移動できるって事は他の人には内緒にしてって言ったよね!?」

 「あ……えっと、うん、そう言えばそうでしたね」


 そう言えば、そうだったと目を泳がせてしまう。

 ギルド統括本部でギルドを設立した後、街から次元の狭間の空間へと繋がる空間の歪みまで飛行魔法で飛んでいって次元の狭間の空間に戻り、ケティーを連れてムーブデバイスで街まで戻ってきたため、つい口が滑ってしまったのだ。

 とはいえ、以前の騒動でケティーが他人と移動できるのはすでにフミコにはバレてると思うのだが……

 しかし、そういう問題ではないらしい。


 「川畑くん!! 共有してる秘密をバラすっていけないと思うよ!? なんでそういう事するの!?」


 ですよねーと心の中で思い、謝罪しようとした時だった。

 窓を拭いていたフミコが冷ややかな表情でこちらへと振り返る。


 「もう知ってるよ? というかあの時の事まだ許してないよ? 2人の共有してる秘密? はぁ? 泥棒猫がいっちょ前に何寝ぼけた言ってるのかしら?」


 フミコのその冷ややかな言葉でケティーが言うところの異世界でのデートから帰ってきてからの恐怖が蘇る。

 やめろ、その話題は勘弁してくれ! 心臓に悪い……


 「よ~しわかった! 俺が悪い、全面的に悪いすみませんでしたぁぁぁ!! だから一旦この話題はここで打ち切りって事ではやく掃除を終わらせよう!! やることは山積みだぁぁぁぁ!!!!」


 今にもバトルが勃発しそうだったフミコとケティーの間に割って入って叫ぶとバケツと雑巾とモップを担いで別のフロアへと緊急退避する。


 うん、今は掃除に集中だ!! 現実逃避だぁぁぁ!!


 その後、フミコとケティーがどうなったかは知る由もないが、とにかく自分は無茶苦茶掃除した。

 すべてを忘れ去るようにそりゃーもー隅から隅まで、建物の外も綺麗に掃除した。


 おかげでギルド本部となる建物は見た目も綺麗ピカピカとなった。

 うむ、我ながらいい仕事をした!

 額の汗を拭って建物の中に入る。

 そして、仕事をやりきった後のさわやか爽快な清々しい気分を追いついてきた現実が一気に打ち砕いた。


 「えっと……お二人さん?」


 建物の中に入ると、まだ荷物が何もない椅子とテーブルしかない客室でフミコとケティーがそれぞれ椅子に座ってテーブルを介して睨み合い火花を散らしていた。


 うん、どうしよこれ……


 「と……とりあえず現状の情報の精査をしようか~~な?」


 冷や汗をかきながらニコニコ笑顔の疑問形で窺ってみるとフミコがニッコリスマイルでこちらを向く。


 「うん、そうだね! 今後の事も話し合わないといけないね! 二人でね!!」


 そう言うと立ち上がったフミコが自分の腕に手を回してきて、別の部屋に自分を連れて行こうとする。

 しかし直後、フミコとは反対の腕にケティーも手を回してくる。


 「えぇー川畑くんは私の持ってるこの世界の情報が聞きたいんでしょ? だったら二人で話し合う相手ってフミコじゃないよね?」


 ケティーがそう笑顔で言うとフミコが物凄い形相でケティーを睨む。


 「おい、泥棒猫! あたしのかい君に気安くくっついてるんじゃねーぞ?」

 「一体いつ川畑くんがフミコの物になったのかな? 付き合ってもないのに? そもそもどこぞの世界じゃ転生者に釘付けになって見向きもされなかったらしいじゃない? 魅力がないって残念ね?」


 ケティーが嘲りの眼差しを向けるとフミコが完全にブチ切れた。


 「てめーこのアマ!! 表でろ!!」

 「望むところだこらぁ!!」


 2人が毎度の喧嘩を始めそうになったので、これはまずいと思い勢い余って素早く腕を2人の腰に回して2人ともを抱き寄せる。


 「今はまずは情報の整理が大事だろ!! 3人で!!」


 自分でも何やってんだと思ったが、咄嗟のことなので許していただきたい。

 何よりこんな事したらフミコはともかく、ケティーは確実に怒るだろう……何せ自分をからかうためにいつもは自ら接触してくるが、逆にそれを自分がやられたら何するんだ! と怒るはずなのだ。

 その事で怒りの矛先がフミコから自分に逸れたらいいかという「セクハラ!」と罵られるのを甘んじて受けようと、そういった考えだったのだが……


 「川畑くん……こういう事は2人きりの時にしてほしいな?」


 そう言ってケティーは赤面した顔を背けてしまった。

 あれ? 何か思ってた反応と違うぞ?

 一方のフミコは幸せそうにそのまま抱き寄せられた勢いそのままに顔を自分のお腹に埋めて。


 「かい君、抱き寄せるならあたしだけにしてよ……でもあたしのほうを先に抱き寄せてくれたからまぁ許します。うふふふ、幸せ」


 と言ってしばらく離れようとしなかった。

 こちらは通常運転というか予想通りの反応だったがケティーの反応は……

 うむ、あまり考えないようにしよう。


 「とにかく、今は情報の整理と今後の方針の確認だ!!」


 邪念を振り払うように叫んだ。




 「ケティーはこの異世界には何度も来た事があるんだよな? 何か転生者なりに繋がる情報はないか?」


 まだ何も荷物がない客室に寂しく設置された椅子とテーブルに腰掛けてまずは情報が何かないかの確認をする。

 しかしケティーはうーんと唸って難しい顔をする。


 「正直、この地域周辺の情報は少ないんだよね……候補がありすぎるというか、なさすぎるというか……」


 ケティーが微妙な事を言うとフミコが鼻で笑う。


 「要するに何も分からないって事じゃない、かい君この女使えないよ?」

 「おい、言い方! つーかフミコよりは役立つ情報持ってるわい!」


 フミコとケティーが今にも喧嘩を始めそうになったので慌てて話題を元に戻す。


 「と、とにかく情報が少しでもあったほうがいい! 何か些細な事でもいいから!!」

 「うーん、というかこのドルクジルヴァニアを中核とした無干渉地帯が未知の領域だからね」

 「そうなのか?」

 「うん、ここら一帯はどこの国も属さない土地で、それ故に治安が悪いって有名だから周辺国の行商人は滅多な用事がない限りここには来ないからね……だから私はこの異世界には何度か来てるけどもっぱらアルティア王国だし」

 「アルティア王国?」

 「ここら一帯の無干渉地帯に接してる国だよ。そうだね……まずは周辺国家の状況と無干渉地帯について話したほうがよさそうだね」


 ケティーはそう言うとテーブルの上に地図を広げた。


 「これが大陸南端の地図ね、そしてドルクジルヴァニアを中核とした無干渉地帯がここ、広さは川畑くんにわかりやすく言うと北海道くらいの広さかな?」


 そう言って海岸線の当たりを指さす。

 どうやらこの地域は海に接してるらしい。


 「無干渉地帯の周りにはアルティア王国、メルホルン公国、ハウザ諸王国郡、ボルヌ帝国、エルフ領メーカが接しているけど、これらの国々が無干渉地帯の領有権を形式の上では主張してる。だからここら一帯はどの国にとっても未回収の係争地ってわけ」


 なんともややこしい地域だ。

 地球でいえばインド、パキスタン、中国が領有権を主張するカシミール地域なんかが当てはまるのだろうか?

 とはいえ、地球と決定的に違うのはその無干渉地帯がこのギルドの街を中心に周辺国が手出しできないほぼ独立国のような状態になっていることだろう。


 「まぁ、問題はこの無干渉地帯がここギルドの街ドルクジルヴァニアだけで支配されてるってわけじゃないってことなんだよね」

 「どういう事だ?」

 「川畑くん、ギルド本部で聞かなかった? 敵対組織の事」

 「……敵対組織?」


 それは初耳だ。

 確かに何か隠してそうな雰囲気はあったが、別のギルド組織があるという事なのだろうか?


 「いや、聞いてないけど他にも大きな街があるのか?」


 しかしケティーは首を振る。

 そして地図から目を離して天井を指さす。


 「はるか上空だよ……空賊って聞いた事ない?」

 「……空賊?」

 「そ、それが対立組織……そして、他にも海上にもいるし、言うことも憚られる厄介な組織もある」


 どうやらこの無干渉地帯ではギルドの他に陸海空にも似たような組織があり、対立しているという……

 もしかしたら転生者なりはこのギルドの街ではなく、そういった対立組織にいる可能性もあるかもしれない。

 これは相当に骨が折れそうだなと思うのだった。

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