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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
8章:DifferentWorlds

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異世界カンフー(後編)

 「異世界転生者?」


 王良伯は首を傾げた。

 どうやら自身がそういう存在だという認識はないようだ。

 あくまでその伝道者という存在としか捉えていないらしい。

 まずはそのあたりの事情から聞いた方が良さそうだ。


 「いまいちよくわかってないんだが、伝達者ってのは一体何なんだ?」


 そう聞くと王良伯が眉をひそめる。 

 

 「あなた方はこの世界の者ではないようですが、本当に伝道者の事を知らないのですか?」

 「あぁ……その当たりの事情はまったくわからない」

 「そんな人達もいるのですね……」


 王良伯はしばらく考え込んでいたが、やがて事情を話し始めてくれた。


 この異世界ではかつて最強の武術を決める武闘大会が数年に一度のペースで開催されていた。

 その大会は大いに盛り上がり、複数の国から大勢の観客が押しかけ、多くの参加者が腕を競った。


 その武闘大会で優勝することはまさに誉れであり、栄誉であった。

 それ故にある時から大会期間外での複数の流派によるつぶし合いが発生しだす。


 武闘大会に参加する流派が減れば、それだけ参加者が減る事になる。

 つまりは優勝の可能性が高まるのだ。

 こうして無秩序なつぶし合いという混沌が始まり、これをきっかけとして多くの流派が消滅し、結果この世界の武道は衰退し、大会も開催ができなくなった。


 なんとか大会を再開できないものかと多くの人が模索したが、すでにつぶし合いによって消滅してしまった流派は復興の目処が立たず、武闘大会の意義はなくなってしまっていた。


 そんな時、誰かがこんな提案をしたのだ。

 失われた流派の思想や技術は取り戻すことはできない。

 ならば()()()()()()()()()()()()()()と。


 外、つまりはこの世界とは違う別の世界から武闘の流派を取り入れ、普及させれば良い。

 それによってまた流派同士のつぶし合いが起こるかもしれないが、ならば在来種と外来種の闘いというように、つぶし合いを生き残ったこの世界古来の武道と別の世界から取り入れた武道の闘いにすればこの世界固有の流派同士のつぶし合いは起こらないだろうと……


 この提案を元に、この世界の奇術師たちが協力し異世界へとパスを繋ぎ、武道の心得のある者をこの世界に呼び寄せたのだ。


 そのパスは地球へと繋がり、地球で命を落とした者たちの中で武道に精通していた者がこの異世界へと呼び寄せられた。


 そして彼らはこの異世界で新たな生を受け、武道を伝える伝道者となり、彼ら亡き後その意思を引き継いだ者が継承者と呼ばれているという。


 「なるほどな……つまり、あんたは小林拳の伝道者としてこの世界に転生したわけか」

 「そういう事ですね、そしてさっき殺した山賊は伝道者の意思を引き継いだ継承者というわけです」


 王良伯の言葉を聞いて血の海に沈む山賊達の亡骸に目を向ける。

 武道の意思を引き継いだというわりには真っ当な連中ではないが、そこらの継承の問題はどうなっているのだろうか?

 犯罪者だろうが武術を引き継いでくれるなら来る者拒まずというわけなのか?


 「そういや、あいつを倒した後に少林拳が勝ち残ったがゆえの祝福って言ってたがあれはどういう意味だ?」


 そう聞くと王良伯は深呼吸した後、姿勢を低くしてそのままテコンドーの動きをしてみせた。

 その事に驚いて思わず目を見開いてしまう。


 「あんた少林拳だけじゃなくテコンドーもできたのか!?」

 「まさか……私は南派少林拳しか教わってないし、できないですよ。()()()()

 「本来は?」

 「えぇ、ここでは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ」

 「ちょっと待て……それって」

 「気付きましたか? つまり、外来の武道は相手を倒して吸収し、最後の1つになるまで戦うってことなんですよ。勝ち残った最後の武道が在来の武道と最強の武道の座をかけて戦うのです。あの会場でね」


 そう言って王良伯は山の下に広がる大平原、その中に荘厳と佇む都の中にあるいかにも中国の寺院といった外観の建物を指さす。


 その寺院の敷地内には遠く山の上から見ているにも関わらずハッキリとそれとわかるほどの規模の観客席を有する、まるでド○ゴンボールに登場する天○一武道会の武舞台のような施設があった。


 「あの舞台で生き残ってすべての外来武道を取り込んだ武道と在来の武道が激突する武闘大会が行われるわけです」

 「そうか、だからあんたは伝道者、継承者関係なく地球なりの外来武道を扱う連中を倒して回ってるんだな?」

 「えぇ、そうです。まぁ恐らく伝道者は私だけで、もう継承者しかいないでしょうけどね」


 王良伯はそう言った。

 つまりはこの異世界には今、転生者は目の前の中国人しかいないというわけだ。

 そして、彼の話から察するに彼の能力は自分と似通っている。


 倒した相手の武術を取り込み、それによって習得した事になり扱えるようになる。

 倒した流派の数だけ武術の型が増える能力。


 (普通に考えたら恐ろしい能力だよな……1つの流派だけなら、その流派の特性なんかを研究して対策を立てられるだろうが、複数の流派を扱えるとなると何をどう対策したらわからなくなる)


 言うなればK-1に登場した選手が、まさしく総合格闘技の名にふさわしい1人オール格闘戦術を見せるようなものだ。

 どれか1つしか格闘技能を持たない相手選手からすればたまったものではない。


 「ちなみに今までどれだけの数の武道というか継承者を倒してきたんだ?」


 そう聞くと王良伯は腕組みして唸るように目をつむる。


 「う~ん……どれくらいだろう? 特に気にしてなかったからな……」


 そう言ってとりあえず覚えてる限りを挙げていく。

 北派の少林拳に太極拳、八卦掌、白鶴拳などの中国武術に空手や柔道、相撲、合気道、琉球古武術などの日本武道。

 さきほど習得したテコンドーをはじめ、ハプキドー、圓和道といった韓国武道にインド武術のカラリパヤット、タイのムエタイ、モンゴル相撲、ベトナムのボビナム、カンボジア武術ボッカタオ、ミャンマーのラウェイ、東南アジアのシラット。

 そしてボクシング、レスリング、プロレスなどなど、もはや統一性もあったものではなかった。


 よくもまぁ、少林拳とそもそも競えるのか? ってのと戦ったもんだなと関心してしまうが、だからこそまともに戦ったら確実に負けそうだなとも思ってしまう。


 なので素直に何も言わず能力を奪うことにした。

 幸いにもさきほど王良伯は習得したばかりのテコンドーを見せてくれた。

 条件は整っているはずだ。


 よくわからない、どこぞの武術で殴られる前に終わらせようと懐からアビリティーチェッカーを取り出そうとして、一様身の上を聞いてみることにする。


 「なぁ、そういやあんたは地球で命を落としたから、この世界に伝道者として転生したんだよな?」

 「そうだが今更どうしたんだい?」

 「なんで命を落としたんだ? 地球では少林拳で殺し合いとかはしてないんだろ?」


 そう聞くと王良伯は少し困った顔をした。


 「そうだね……地球では大学で少林拳の道場に通ってましたが殺しあいの試合は当然してないですね。少林拳では」

 「?」

 「あなた方は日本人でしょう? ひょっとしたら情報が伝わってるかは怪しいですが……」


 そう言って王良伯は言葉を一度区切って、こう言った。


 「私はその時、大学の友人、いや志を共にする仲間達とデモを行ってました。天安門広場で」

 「て、天安門!?」


 驚いて思わず声を挙げてしまった。

 フミコは意味が理解できず首を傾げているが無理もない。

 簡易ラーニングでは学習してない事だろう、なら弥生時代の人間にわかるはずはない。


 しかし、今までいくつもの異世界を訪れてきた中で自分が地球にいた年代と転生、転移、召喚された者たちが地球でいた年代が数年ズレていることはいくつかあった。


 しかし、これは完全に歴史の教科書レベルのズレだ。

 どう考えても王良伯は1989年に中国で起こった民主化運動の果てに発生した天安門事件で命を落としている。

 30年近く前の人間の転生者と出会うのは初であった。


 なんだか、このままだと本当にこの先教科書に載ってるような偉人の転生者なりと出会いそうな勢いだ。

 しかし、天安門事件とは恐れ入った。


 1989年は何かと歴史の節目と言われる年である。

 日本においては昭和天皇が崩御し、昭和という激動の時代が終わりを迎え、平成の時代が始まった年である。

 世界においてはベルリンの壁崩壊によって東西ドイツの統合が実現、東西冷戦に終止符が打たれた。

 その反面、ベルリンとは正反対に中国では天安門事件で中国当局が完全に武力でデモを押さえ込み、民主化を阻止した。


 中国はこの武力弾圧によって西側諸国から批難され、制裁を受けるが、いち早くG7で各国に働きかけ中国と寄りを戻したのが日本であった。

 日本の働きかけもあって、西側諸国も後に続き制裁が解除されていく。

 これ以降、日中の友好と仲違いを繰り返す歴史が始まるのだ。


 そんな歴史の起点で命を落とした人物を前にどう声をかけるべきか迷う。

 何せ、30年以上経ってもかの国では彼が夢見て目指した未来は達成されているとは言い難いのだから……


 「その反応、ちゃんと情報は外国にも伝わってるみたいですね」

 「それはまぁ……というか歴史上の出来事なので」


 そう言うと王良伯は驚いた表情をした。

 無理もないだろう。

 自分が参加し命を落とした運動が歴史上の出来事だと言われて素直に受け止められる人物がいるだろうか?


 (打ち明けた以上はちゃんと説明するしかないだろうな……さて、どう言うべきだろうか?)


 考えて、口を開く。

 あくまで自分が知っている範疇、日本で伝わり、解釈されている範囲での事の顛末を伝える。

 結果やその後の歴史がどうあれ、やはり日本人と中国人では感じるものは違うだろう。

 なのであくまで客観的な視点での結果を伝える。


 その後の世界史や中国史、日中関係は聞かれない限りは答えないことにした。

 しかし、天安門後に関しては王良伯から聞かれることはなかった。


 自分達の活動の結末を知った時点で大体は悟ったのだろう。

 だから聞いてきたのはこちらの事だった。


 なので地球で今何が起っているのか素直に話した。

 そして自分たちの旅の目的も……


 話している途中で能力を奪ってから話せば良かったかと後悔したが、天安門の結末を話した時点でこの選択肢は潰れていた。


 後はいつも通り、相手の反応を見て、その結果戦って、能力を奪い、殺すだけだ。

 いつも通りのクソッタレな結末……


 そんな繰り返しを、この歴史上の事件で命を落とした中国人はどう見るだろうか?

 他国と違い、現代の日本で権利のために命を賭けたデモ活動など経験するわけもない世代の自分をどう見るだろうか?


 そう思いながら、話を終える。

 そして、いつものクソッタレな結末が始まるのだった。

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