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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
8章:DifferentWorlds

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異世界カンフー(前編)

 次元の狭間の空間、その中でも東京ドームほどの大きさの建物であるトレーニングルーム。

 しかし、内部は外観以上の広さがあり、異世界から戻るたびにその世界での経験から必要だと感じた施設を追加設置するため施設も数がどんどん増えていき、拡張に歯止めがかからない状態となっていた。


 そんなトレーニングルームの中で最初期からあり、もっともトレーニングルームと呼ぶにふさわしい施設がある。

 武道館ほどの広さのその施設はAR機能を使って対人、対人外戦闘を疑似体験できる戦闘シミュレーションルームであり、異世界から帰還してアビリティーユニットのメンテナンスが終わった後で最も使用する頻度の高い施設であった。


 通称ARルームと呼んでいるそこは、戦闘シミュレーションができる性質上、異世界で奪った新たな能力を試すには絶好の場所で、メンテが終わった後はいつも能力のテストを行っていた。


 そんなわけで、自分は今ARルームで奪った能力のテストを行っているのだが、その手にアビリティーユニットは握っていない。

 アビリティーユニットは腕に巻き付いたブレスレッド型ベルトに装着している形のアビリティーユニット・ブレスレッドモードとなっており、今は武器としては機能していない。


 そんなアビリティーユニットを手にしていない状態で姿勢を低くし、両拳を握り、構えを取る。

 そしてAR機能が生み出した架空の人型の敵へと武術を仕掛けていく。

 それはさながらカンフーのようであった。


 架空の人型の敵相手にカンフー映画顔負けのアクションで圧倒し、勝利するとARルームの壁に突如ドアが出現し、ドアを開けてフミコが入ってきた。


 「かい君おつかれ! すごいね20連勝だよ!」


 そう言ってフミコは笑顔でタオルと水筒を差し出てきた。

 「ありがとう」と言ってフミコからそれを受け取るとタオルを肩にかけて水筒の中身を一気に飲み干す。


 「ぷはぁ! 生き返る!」


 気温が適切な温度で保たれている次元の狭間の空間とはいえ、施設内のしかも運動を行うこのような場所ではやはり暑さは感じるものであり、今日にいたっては朝から籠りっぱなしであったため久々の水分はいつも以上においしく感じた。


 「20連勝と言っても所詮はAIが生み出した仮想敵相手だからな……実際これがAIじゃなく本物の相手に通用するかどうかは俺自身が武術を真に習得できるかにかかっているし」


 そう言って腕に装着しているアビリティーユニット・ブレスレッドモードを見る。

 今どうしてARルームでカンフーなんかをやっているのか?

 それはまさに奪った能力がそのカンフーだったからだ。


 カンフーと言ってもその言葉で一括りにできるほど中国拳法は単純ではなく、数多くの武術の流派が存在する。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから仕方なかった。


 遡ること1日前、自分達は新たな異世界に足を踏み入れていた。




 「はぇ~~~! これはすごいな!!」


 思わずそう口に出してしまうほどに、その光景はすごかった。

 まるで水墨画の題材のような切り立った鋭角な崖の岩山が乱立しており、まるで仙人が住んでいそうな中国奥地の山の風景が広がっていた。


 思わずスマホで写真を撮りまくってしまうが、フミコはさらにテンションが高かった。

 これは自分も悪いのだが、フミコの場合絶景に興奮しているのではなく、ここが中国のような風景だという話に食いついたのだ。


 これは無理もないだろう。

 日本は島国ゆえに古来より大陸から最新の技術を学び輸入してきた。

 それゆえに中国という国から受ける影響は日本史において多大であり、常に畏敬の念を抱いてきた。

 日本の皇室が今だ唐や宋の文化を継承した形の皇位継承の儀式を行っているのがいい例だろう。


 そしてフミコが生きた弥生時代、倭国大乱の時代は特に中国という存在は大きすぎる。

 何せ他国よりも優位に立つため、自分は中国の皇帝から信任を得ているという証を得ようと各国は躍起となっていたからだ。

 いい例が金の判子である漢委奴国王印であろう。

 あぁいった物を得られれば自分達のバックには大陸がいて、尚且つ倭の国王と認められているという証明にもなる。

 周辺他国に権威を示せて牽制もできるわけだ。


 倭国大乱の時代に中国の事を当時の日本人である倭国の民たちがどう呼んでいたのか、魏と素直に呼んでいたかはわからないが、中国という概念を簡易ラーニングで理解しているフミコが興奮するあたり、当時の中国というものがどう受け止められていたかがわかるというものだ。

 だからこそ、先へ進むにつれてフミコのテンションはどんどん高まっていく。


 やがて山道を進むと聳え立つ断崖にぽっかりと開いた巨大な穴、そこへと続く整備された道と穴へと向かって伸びる長い階段の前へと辿り着く。

 その光景はさながら中国、湖南省にある有名な観光地である天門山そのものであった。


 そんな絶景を前にフミコのテンションは最高潮で興奮気味に階段の先の巨大な穴を見上げると。


 「これを登りきった先に、あの穴の向こうに洛陽があるのね!」


 と感慨深い表情をしながら言い出した。

 洛陽って確か魏の首都だったか?

 三国志も中国5000年の歴史も地理も詳しくないからあまりよく知らないが、確か洛陽は河南省だったはず……

 対して今目の前に広がってる天門山っぽい景色の天門山は湖南省、日本からは遠くもっと南で大陸内部のはずだ。


 まぁ、異世界だからそんなの関係ないだろうし、自分も地理やそこらの歴史に詳しいわけじゃないから黙っておくか……


 そんな事を考えているとテンションが高いフミコがいつのまにかサクサク進んで階段をかなり登っていた。

 そして上からこちらに叫んでくる。


 「かい君ーーーー!!!! はやくはやく!! 洛陽はすぐそこだよーーーー!!!!」


 そんなフミコのテンションに思わず苦笑してしまう。

 どう考えても穴の先に洛陽はないと思うが、まぁ絶景が広がっているのは間違いないだろう。


 「わかってる!! すぐ行くよ!!」


 叫んで階段を駆け上がる。

 はてさて、一体どんな景色が待っているのやら……




 階段を登り切って巨大な穴の前についた時には息切れを起こしていた。

 想像以上に長い階段で傾斜も急だったからだ。

 見上げたときに気付くべきだったが、ペース配分を間違えて体力が限界だ。


 一方のフミコは興奮してテンションが高いため疲れを感じていないのか、はやく穴の先に広がる景色を見たいといった面持ちだ。


 なので、水筒の水を飲んで息を整えてからすぐに穴の先へと向かう。


 「うわぁぁぁ!!! すごい!!」

 「へぇ~これは壮大というか大パノラマだな!」


 そこに広がる景色は疲れを吹き飛ばすものがあった。

 山の下に広がる大平原、その中に荘厳と佇む都。

 城壁に囲まれたまさにTHE中国の都といった都市がそこにあった。


 城壁都市の奥には故宮博物館のような外観の宮殿らしきものも確認できる。

 時代的にフミコが思い描く中国なのかはわからないが、まさに中国ファンタジーの世界そのものが広がっていた。


 「ねぇねぇ! かい君!! はやく行こう!! はやくはやく!!」


 目を輝かせてフミコが興奮しながら急かす。

 慌てなくても、あの都は逃げないぞ? と苦笑したその時だった。


 岩場の影から複数の人影が出てきた。


 「ん? なんだ?」


 突然の事に警戒して懐からアビリティーユニットを取り出す。

 フミコも興奮した状態からすぐに真顔になって銅剣を手にする。


 そんな自分達を見て岩陰から出てきた者達はヘラヘラと笑いながらその手に刃物などを構える。

 どうやら山賊の連中のようだ。


 「ケケケ、兄ちゃんよぉ? ここから先は通行料が必要なんだよ?」


 典型的な賊のセリフに頭が痛くなりそうだった。

 本当にこんな事言うんだなと関心しそうになる。


 「はぁ……申し訳ないが、あんたらに払う金は持ち合わせてないな?」


 そう言うと山賊達はケラケラ笑い出すと。


 「だったらてめぇの持ってる物すべてよこせ! あと女も置いてけ、それで許してやる!」


 典型的なセリフを言い出した。

 思わずため息が出てしまう。


 「断る。あんたらにくれてやる物もないし、フミコを置いて行くつもりもない。てめーらには釣り合わない女だ」


 そう言ってアビリティーユニットに銃身を装着する。

 そんなこちらの動作を見て山賊達はより一層下品に笑うと。


 「じゃあ仕方ないな? ここでお前は殺してやるよ!」

 「グヘヘ! 女は俺たちが気持ちよくしてやるから安心しなよ?」

 「久々の女だ!! ヒャッハー!!」


 あー頭が悪くなりそうだ……

 本当にバカそうな集団だな? そう思ってアビリティーユニット・ハンドガンモードをアホ面で迫ってくる山賊達に向けて適当に引き金を引いた。


 そして数秒もしないうちに山賊達は軒並み地面にひれ伏していた。

 たった1人を除いて。


 「ぐ……何だその武器は!?」

 「答える義理はないな?」


 そう言って最後の1人に銃口を向けて引き金を引こうとした時だった。

 その最後の1人の山賊が突然刃物を手放したのだ。


 そして右足を後ろに下げ、アキレス腱を延ばすような体勢を取ると軽くステップを踏み、一気にこちらへと迫ってきた。

 そして飛び上がるとこちらに蹴りをかましてきた。


 その動きに一瞬面食らったが、慌てて腕でガードする。


 「ぐ!?」

 「チョラーーーー!!! ヒョエーーーー!!!!」


 続けざまに山賊は左右交互に繰り返しながらこちらに蹴りを繰り出してくる。

 思わぬ反撃に慌てたものの、しかし対処できないほどではない。

 冷静になれば、蹴りもそれほどの威力はなかった。

 しかし……


 (なんだこの動きどこかで?)


 そう考えて思い出す。

 この蹴り主体の格闘術、いつだったかテレビのオリンピック競技特集で見た事がある。


 「この蹴り技、まさかこれテコンドーか!?」

 「知ってたか兄ちゃん、ご名答! これは俺たちのかつてのボスが使っていた武術よ!!」


 そう叫んで山賊はさらに蹴り込んでくるが、さきほどからこちらにダメージはまるでなかった。

 なんというか、素人が見よう見まねでやり初めましたといった感じだ。


 なのでガードするのをやめて、こちらも試しに蹴り返してみる。

 すると山賊はいとも簡単に体勢を崩した。

 こいつ……テコンドーやるより刃物振り回してヒャッハーしてるほうがまだましなんじゃねーか?


 (まぁいいや、かつてのボスが使ってたって事はそいつが転生者なりの可能性が高い。さっさと倒して聞きだすか)


 そう思った時だった。

 突然どこからか刃物が飛んできて山賊の肩に突き刺さった。


 「あがぁぁぁぁぁぁ!?」


 その事に山賊はたまらずその場に倒れ込み悶絶する。

 見ればその肩には湾曲した刀身の柳葉刀のようなものが突き刺さっていた。


 なんだ? と思って柳葉刀が飛んできた方を見ると、そこには1人の男が立っていた。

 見るからに中国拳法やってますよ! と一目でわかる黒い武術服を着たその男は悶絶する山賊にこう尋ねる。


 「お前、それをかつてボスから教わったと言ったな?」


 しかし悶絶する山賊はまともに返答できない。

 それでも構わず武術服の男は続ける。


 「つまりはテコンドーの継承者はお前ということだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


 言って男はどこからか三節棍を取り出すとそれを素早く振り回して気合いを入れ最後にポーズを取ると雄叫びを上げた。

 その格好に、その武器に、その動作に、その雄叫び……

 まるでブ○ー○リーかジャ○キーチ○ーンを連想してしまう。


 「私は王良伯(おうりょうはく)……少林拳の担い手だ。跆拳道(テコンドー)、ここで死すべし!」


 言って王良伯と名乗った武闘家は山賊へと襲いかかった。




 赤く染まった地面から王良伯は柳葉刀を引き抜いた。

 そして彼は合掌する。

 すると彼の体が光に包まれる。


 「なんだ!?」

 「少林拳が勝ち残ったがゆえの祝福ですよ」


 そう言って王良伯はこちらを向く。


 「あなた方もテコンドーを知っていたようですが継承者ではないですね?」

 「あぁ……そういうあんたはどうなんだ?」

 「私も継承者ではないですね……何せ()()()()()()()()()()()()ですから」

 「?」


 言ってる意味がわからなかったが、そんなこちらの表情を見て王良伯は何かを察したのか、こう言い直した。


 「私は元からこの世界にいたわけではなく、一度死んで再びこの世界に生を受けた者ですからね」


 王良伯と名乗った男はそう言った。

 つまりは……


 「異世界転生者……!」


 どうやらいきなり当たりに出くわしたようだ。

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