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旅の始まり(6)

 他者の能力を奪うツール、神を自称する老人はアビリティーユニットのことをそう言った。

 これは他者のもつ能力を奪い取ることができ、奪った能力を我が物として使用できるという。

 能力を奪い取るたびにメニュー画面にエンブレムが増えていき、それをタッチすればその能力を使えるというわけだ。

 ただし、誰彼構わず能力を奪えるわけではない。能力を奪うには条件をクリアする必要がある。その条件というのが


 一つ、奪う能力を事前に目視しておくこと。

 二つ、能力を奪う相手が異世界転生者、異世界転移者、異世界召喚者であること。


 ということらしい。


 「……ちょっと待て、なんだよその条件? めちゃくちゃ厳しいというか理解不能なんだが?」

 「ふむ、事前目視のことかの? 安心せい、たとえ複数能力を保持していたとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「なんだよそれ、ちょっとずるくないか?」


 目視した能力しか奪えないってのが普通のような気がするが、このアビリティーユニットはそんなのお構いなしに何か片鱗でも見てれば根こそぎ吸い取れるらしい。

 なんだよそのチート性能……恐ろしいガジェットだ。

 その力が奪われたとしても俺にはまだ奥の手が! ってお決まりの展開が通用しない代物ってのは相手からしたら恐怖でしかないだろう。


 「まぁチートっぽく聞こえるかもしれんが逆に言えば能力を隠し通されたままじゃと絶対に奪うことはできん」

 「まぁ、そりゃ適当にその辺の人から何かもわからない能力ポンポン奪えたらそりゃチート以外の何物でもないが……というかその条件で言うと今さっきなんで能力を奪うことができたんだ?」


 というかあのおっさんから奪った能力って何だよ? と思ってエンブレムを見てみる。

 エンブレムというよりどこかパソコンを連想するピトグラムのようだ。


 「そりゃ貴様が以前にあの者の能力を見とったからじゃろ、心当たりはないかの?」

 「心当たりと言われてもなぁ……というかこの奪った能力って何だ?」

 「ふむ、これはプログラミング能力かの。パソコンのマークが良い証拠じゃ、あの者はSEだったのかもしれんの」

 「SEからプログラミング能力奪ったって……その地味な感じどうなの? というかSEからそれ奪って平気なの?」

 「奪える能力ということは仕事でプログラム組むのとは別種の特殊な力ということじゃから問題なかろう。しかしラッキーじゃったの、アビリティーユニットは定期的なシステムメンテナンスが必要じゃからプログラミング能力があればこれでその問題は解決じゃ。で、それらしき力をお主は見てないかの?」

 「言われてもねぇ……ん? そういえば……」


 確か今朝、避難所のパソコンにネットを繋げるようにしたのは彼だったような気がする。

 このインフラ壊滅状態の情勢でだ。

 もしかしたら、あれがそうだったのかもしれない。


 「つまりお主はあの者の能力を事前に見とったわけじゃい」

 「なるほど……で、あんたはそれを知ってたから能力を奪う練習台にしたわけだ。でも、それだと2つ目の条件はどうなるんだ?」


 能力を奪うための2つ目の条件、奪う相手が異世界転生者、異世界転移者、異世界召喚者であること。

 これを聞いても何のことがさっぱりなんだが能力を奪えた以上、彼はその異世界○○者シリーズのどれかということになる。


 「どうも何も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということじゃよ。簡単なことじゃ、それ以上でもそれ以下でもない」

 「転生者って……」

 「まぁ、あの者の生い立ちなど貴様は微塵も興味ないだろうから簡単に言うとじゃな……あの者はこの世界とは別の世界で生涯を終え、この世界に転生したということじゃ。そしてすべてではないがそういった者達には()()()()()()()()()()()()

 「転生特典?」

 「転移者や召喚者についてもそうじゃが、まぁ自分の住んでた世界とは違う世界に行くことになるんじゃ備えはあったほうが良いじゃろ? いわゆるチート性能付与ってやつじゃの」

 「別世界に行ってその世界で有利になるチート能力付与って……甘やかしすぎではないのか?」

 「言いたいことはわかるが、まぁすべての者ではないとはいえそれくらいないと異世界に行っても動いてくれないんじゃの……世知辛い世になったもんじゃ」

 「……神ならそういうご時世の空気くらいなんとかしろ」

 「できたら苦労せんわい! まぁ要するに奪う能力はそういった特典で得た物が大半じゃの」


 要するに、このアビリティーユニットは別世界へと移る際に付与されるその世界で有利になる能力を奪い取るツールということだ。

 しかし、それなら神自身が取り上げたら済む話ではないのか? 与えることができるのなら取り上げることも簡単だろうに……

 ところが、どうも移った先の世界でさらに特典の力を伸ばされるとどうにも手がつけられなくなるらしい。

 神を自称する割には案外間抜けと感じてしまう。


 「で? その転生特典没収装置で俺に何をしろと? これで一体どうやってジムクベルトを間接的に追い出すって言うんだ?」

 「ふむ、それでは核心部分の説明といこうかの……ジムクベルトがどうして地球に出現したのか? それがまさに転生者、転移者、召喚者たちに原因があるのじゃ」

 「つまり転生者が連れてきたのか? もしくは転生特典でジムクベルトを?」

 「違う。転生者、転移者、召喚者とは言っても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「?」

 「逆じゃ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのじゃ」

 「地球から異世界へと転生、転移したり召喚された人たちが原因?」

 「ふむ、さきほどの宇宙の話を思い出せ。ブラックホールの中に更に宇宙があるという話じゃ」


 神を自称する老人によるとブラックホールの中に宇宙があり、その宇宙の中にもブラックホールがあり、またその中にも宇宙が……という話だったがこれらは単純に階層のような構造にはなってないらしい。

 同じ宇宙の中にもブラックホールは複数存在し、それらの中に宇宙が存在し、またその宇宙の中にも複数のブラックホールといった感じに図面として描き起こすのが困難なほど複雑に宇宙は存在する。

 その宇宙一つ一つが確立した一つの世界であるらしい。

 それら多くの世界へと法則を無視して移動したのが彼ら転生者、転移者、召喚者だというのだ。


 彼らの定義は様々だが、基本的にこの世界で死んで別の世界で記憶を継承したまま再び生まれた者やこの世界で死んだ時の姿のまま記憶もそのままに別世界に現れた者を転生者。

 この世界で死んではいないが死にかけの状態で突然別世界に移動していたり、気づいたらいつのまにか別の世界にいたり、何の変哲もないところと別世界が繋がっていて自由にこの世界と別世界を行き来できる状態になったりした者を転移者。

 別世界の呼びかけに応じて招かれる形で召喚されて別世界に降臨したり、いわゆる神隠しのように本人の意思に関係なく別世界へ引きずり込まれた者を召喚者と呼ぶようだ。

 

 そして問題はこれら転生者、転移者、召喚者があまりに数多く存在し、彼らが理由はどうあれ別世界へと向かう際に通った道が次元の歪みを多く生んでしまい次元の狭間を漂うジムクベルトを引き寄せてしまったというのだ。

 それだけだと次元の狭間、宇宙と宇宙の間の無空間を漂う超高次元の超上位種たるジムクベルトが地球に出現することにはならない。問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にあるという。


 「要するに転生特典を更に現地で進化させた転生者、転移者、召喚者たちはその次元においてイレギュラー因子となったわけじゃ、それは次元振動を起こし彼らが通ってきた道の歪みを更に広げるものとなった……結果、次元に亀裂が生じることとなった。その煽りを食らうのは他でもない歪みの元の世界、つまり地球じゃ」

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と……そういうことか」


 なんとも迷惑な話だ。向こうの世界でそれぞれが勝手気ままに暴れ回るたびにこっちにしわ寄せがくる。

 しかも向こうの世界が呼び寄せたりしたケースも多く、向こうの世界の都合でこの世界が壊滅の危機に遭っているというのは納得できるものではない。


 「そういうことじゃ、よってアビリティーユニットを使い勝手気ままに異世界で能力を振るい次元の歪みを生じさせ亀裂を生みジムクベルトを地球に出現させている異世界転生、転移、召喚者たちからその能力を奪い歪みを正していき次元の亀裂を消滅させる必要があるわけじゃの。間接的にジムクベルトを追い出すと言ったがこういうことじゃ」


 神を自称する老人は言い終わるとすべての説明を終えたとばかりにドヤ顔を向けてきた。

 なんだかイラっとする顔だったが、ようやく自分に何を求められてるかがわかった。


 「つまりこういうことか? 俺に異世界に出向いて片っ端から能力を奪ってこいと、そういうことか?」

 「その通りじゃ! ようやく本題に入れたわい……まぁまだ色々と説明しなきゃならんことはあるが、本質はその一点に尽きるのう」


 なるほど、確かに最初からこれを言われても「は?」となっただろう

 だが、ここまでの説明でもまだ納得してない部分、理解できてない部分、腑に落ちない点がいくつかある。

 とはいえ、今はまずここを聞かなければならない。

 今一番気になってる点、それは……


 「異世界、別世界、別次元、別の宇宙……どう言ったらいいかはわからんが、とにかくそこに出向いてって……どうやって行くのかはこれから説明してくれるんだろうが……とにかく能力を奪ってくるのはいいけどよ。その後どうするんだよ?」

 「どうとは? 異世界を移動する方法ならこれから説明するわい」

 「それも気になるが能力を奪った後、転生、転移、召喚者達はどうするんだ? そのままその世界に置いとくわけにもいかないんだろ? 歪みを作った張本人たちなんだから……いちいち地球に連れ帰ってくるのか?」


 当然の疑問をぶつけたわけだが、神を自称する老人は何食わぬ顔でこう言った。


 「何を言ってるんじゃ? ()()()()()()()()()()()()()()()?」

 「……は?」

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