運命の乙女(19)
あかりに自分達の目的を伝える事にしたが、そこでひとつの問題が発生した。
さすがに地球の問題をこっちの現地人に聞かせるのはまずいだろうと、あかりを取り巻き達から離して別の場所で話そうと思ったのだが、取り巻き達が拒否したのだ。
嫉妬の塊である運命の乙女の取り巻き達はあかりと自分が2人きりになるのを頑なに認めなかった。
というか、本当に2人きりになったらそれこそフミコが何をしでかすかわからないので自分とフミコ、あかりの3人で話すことになると思うのだが、嫉妬に狂った男共には通じないようだ。
さて、どうしたものか? と考えたが、実際のところは現地人に聞かれても問題ないのだ。
そもそも転生者、転移者、召喚者から能力を奪い、殺してしまえばその世界から彼らの記憶や痕跡は消える。
ならば最終的に忘れてしまう以上は自分との会話を聞かれてもさほど問題はないのだ。
それでも、記憶に残らなくても彼らの知らない世界、知識を一時的にでも与えてしまうことは問題であるのだが……その行為は本来の目的である転生者、転移者、召喚者たちが広げた次元の亀裂を修復する行為とは反してしまう。
イレギュラーは極力少ない方がいいのだ。
とはいえ、そもそも身元を明かしている転移者を除けば基本的に転生者、転移者でなければ地球について現地人に話を聞かせる事に問題はない。
召喚者であれば尚更「異世界」から人材を呼び寄せているのだ、元いた世界の事を隠す必要はないだろう。
それでも現地人に話を聞かれたくないのは自分達の目的が能力を奪った後で当人を殺すからであって、これを聞けば当然現地人は黙っていない。
現地人とも戦わなくてはならなくなるからだ。
だからこそ、あかり以外には聞かせたくないのだが、どうにも無理なようだ。
そしてこれは取り巻き男子たちとの戦闘は避けられない事を意味している。
そうなると一体どれほどの戦力差があるのか検討がつかない。
何せルークとクラウス以外の面子がどれだけの戦闘力を保持しているのか不明なのだ。
ヒースとヘンリーは透明化と転移以外の能力は不明で、名も知らぬ坊ちゃんに関しはまったくの情報なし、未知数だ。
これらを退けてあかりの能力を視て奪い、殺すというミッションをクリアしなければならない……
(まったく厳しい状況になったな……まぁ、やるしかないんだが)
思ってため息をつき、ポケットからスマホを取り出す。
「俺たちがどうやってこの世界に来たかなんだが……色々と説明しなければならない事が多いんだが、まずはこれを見て欲しい」
言ってスマホを起動させ、動画アプリを開いてそのままあかりへとスマホを渡した。
スマホを受け取ったあかりはスマホの画面に目を落とし、そして言葉を失った。
動画アプリが流す複数のニュース映像を見て、驚愕していたあかりはようやく言葉を紡ぎ出す。
「な……何これ?」
「それが今現在、地球で起こっている事だ」
「何よそれ? 一体何がどうなってるの!?」
今まで明るく振る舞っていたあかりだが、地球の現状を伝えるニュースを見て明らかに動揺していた。
そんなあかりからスマホを取り上げ、彼女の目を見てすべてを話した。
地球で起こった出来事、超高次元の存在であるジムクベルトの襲来とそれが地球に現れた原因。
その原因を取り除き、ジムクベルトを次元の亀裂の向こうへと押し返す方法。
そのために数多の異世界を巡っている事、その旅の道中でフミコに出会った事……すべてを話した。
話した上で改めてあかりに宣告する。
「これが俺たちの旅のすべてだ。話した通り、俺は地球を救うため転生者、転移者、召喚者達から能力を奪い、殺していかなければならない」
「……本当に、それしか方法がないの?」
「自称神が知らせてないだけで本当は他に方法があるのかもしれない、けど……残念ながら現状ではそれ以外の方法を知る術はなし、今はこの道を突き進むしかない」
「……そんな」
「悪いな……あかり、君に恨みはないが地球を救うためだ。君から能力を奪い、そして殺す!」
言ってアビリティーユニットを取り出すため懐に手を入れる。
あかりは今話したすべてを受け入れらずに戸惑っていたが、そんなあかりを後ろへと下がらせてルークとヘンリーが間に割って入ってきた。
「おい少年! さっきから聞いていれば俺様の婚約者を殺すだと!? ふざけるんじゃないぞ!」
「ルーク、一体いつあかりさんが君の婚約者になったか知りませんが君の意見には賛同ですね! あかりさんを殺すなど許しませんよ?」
ルークとヘンリーはこちらを睨んでその手にそれぞれ短剣にエストックを構える。
さらにクラウスもルークとヘンリーの横に並ぶとメガネをくいっと左手で押しあげて右手に氷の剣を握る。
「俺はどうやらお前を信用しすぎていたようだな……まさかあかりのやつを殺すのが目的だったとは」
言ってクラウスは氷の剣の剣先をこちらに向けてくる。
「よくも騙してくれたな!? ただですむと思うなよ?」
クラウスがそう言うと、3人は今にもこちらに斬りかからんとする勢いを見せる。
そんな3人の後ろでは名も知らぬ小さな坊ちゃんが30センチほどの細い棒のような杖を手に取って構えており、その後方であかりの手を取ってヒースがこの場からあかりと共に逃げようとしていた。
そして、あかりとヒースの逃走にはフミコも気がつく。
「かい君! あの女逃げちゃうよ!!」
「わかってる! ここで逃げられたら振り出しに戻っちまう! なんとしてもここでケリをつけないと!!」
そう、ヒースは透明になるわけではないが、周囲が彼が消えたと誤認識させて見失ってしまうスキルを持っている。
あれがヒース以外の人間にも適用できるのかわからないが、仮に今それを使われたら終わりだ。
そうなる前になんとかしないと!
「あかりを追うぞ!!」
「うん!!」
すぐに走って追いかけようとしたが、当然目の前には4人の男達が行く手を阻んでいる。
「俺様が行かせると思うか!?」
「カイト、君にも事情があるのだろうけど、あかりさんには近づけさせませんよ!」
ヘンリーは言って構えていたエストックを突き出し、こちらの心臓を狙ってきた。
同時にルークも短剣を振るって雷撃を放ってくる。
「ち! やっぱこいつらと戦わないとならなくなるよな!!」
叫んでアビリティーユニットを取り出してレーザーの刃を出す。
ヘンリーの突きをレーザーブレードを振るってはじき返し、ルークが放った雷撃をレーザーブレードで受け止める。
「フミコ!! 頼む!!」
「うん! 任された!!」
フミコはその手に2本の銅剣を持つと重ね合わせて枝剣とし6匹の緑色の大蛇を出現させヘンリー、ルーク、クラウスへと放つ。
「いっけー!!」
「させません!!」
しかし、6匹の緑色の大蛇は3人の前で竜巻に阻まれる。
「僕の事を忘れないでください!!」
そう叫んだのはルーク、ヘンリー、クラウスの後ろで杖を構えていた小さい貴族のお坊ちゃんだ。
手にした杖を指揮棒のように振るい風を自在に操る。
彼の手にかかればあらゆる風はオーケストラのようにハーモニーを奏でる。
それが彼のスキル『ウインド・コンダクター』だ。
故に彼に付けられた二つ名は”指揮者”
幼くても風を扱う事に関しては王国で右に出るものはいないと言われている実力者だ。
「このまま押していきますよ!!」
小さい坊ちゃんがそう叫んで杖を振るい、風の威力が強まってフミコの放った6匹の緑色の大蛇を弾き飛ばした。
「え!? うそ!?」
驚くフミコに次の一手を打たせないようクラウスが動く。
「悪いがこれ以上はやらせん!!」
クラウスが氷の剣を振るい周囲の空気を冷やしていく。
やがて氷点下となり結晶が多く生まれたそこに小さな坊ちゃんが生み出した風が重なる。
「あかりのやつは殺させん!! ダイヤモンドダスト!!」
それはクラウスの氷と”指揮者”の坊ちゃんの風との融合スキル『細氷』
相手の周囲を氷点下10℃以下に冷やし無数の極小の氷晶を暴風と共に相手へと叩きつける技だ。
この技はクラウスと”指揮者”の坊ちゃんの決めの連携技の定番であり、これが決まればいつも戦闘は終結している自慢の攻撃である。
「かい君!! これはまずいよ!!」
「わかってる!!」
叫んで慌ててアビリティーチェッカーを装填、聖斧のエンブレムをタッチして聖斧の能力を発動。
アビリティーユニット・アックスモードを地面に振るって地面を起伏させ大地の壁を作る。
「フミコ! こっちへ!!」
「うん!!」
フミコは慌てて自分の元へ飛び込んでくる。
そんなフミコを抱き寄せて大地の壁に慌てて隠れる。
直後、作り上げた壁の周囲が一瞬にして氷漬けとなった。




