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運命の乙女(18)

 小走りで運命の乙女の元へと向かうヘンリーとクラウスを見て、こちらも合わせたほうがいいのだろうか? と思い、小走りでついて行こうとすると思いっきりフミコに背中をつままれた。


 「痛っ!? なんだよフミコ?」

 「かい君ちょっと浮き足立ってる」

 「ん? そりゃ運命の乙女とようやく対面するんだ。ゴールが見えたかもしれないんだから、浮き足も立つだろ?」

 「そういう意味で言ったんじゃないんだけど」

 「……じゃあどういう意味で言ったんだ?」

 「知らない!! かい君のムッツリスケベ!!」


 そう言ってフミコはそっぽを向いてしまった。

 え? 今の流れで何でムッツリスケベになるの? どうしたんだ? と思ったが、これから合う相手が運命の乙女だからかとようやく気付いた。


 今までは運命の乙女の取り巻き男子ばっかりだったが、これから会うのは運命の乙女だ。

 独占欲の強いフミコとしては自分が女子に会いに行くのが面白くないのだろう。


 そう思ってもらえて嬉しい反面、これから先もこういった展開になった場合、似たような反応をされるのかとも思ってしまう。


 そう思って、ではフミコは取り巻き男どもの事はどう見ているのだろうと考えてしまう。

 これまでルーク、ヒース、クラウス、ヘンリーに対しては警戒したり無視したり、眼中にないといった態度を示しているが、連中は曲がりなりにもイケメンだ。

 そこのところは意識していないのだろうか? と考えてしまう。

 

 考えて、そういえば学校で古文の授業の時に教師がこんな話をしていたのを思い出す。

 それは確か源氏物語を取り扱っていた時だったか……

 教師が現代において源氏物語をドラマで本当に正確に当時の基準で再現しようとしたら、某有名アイドル事務所所属のタレントに某有名モデル雑誌出身のイケメン俳優は絶対に光源氏役にはなれないだろうという話をしたのだ。


 これは当然で、時代によって好かれる顔、モテる顔、一般的な好みは変わってくる。

 現代では「ブサイク」と称される顔の特徴でも、時代によっては「イケメン」「モテ顔」に変化する事があるのだ。


 つまりはフミコはルークやヒース、クラウス、ヘンリーを「イケメン」として見ていない可能性がある。

 まぁ、弥生時代にそんな「モテ顔」の定義や流行があったのかは不明だが、少なくとも弥生時代的には響かないのだろう。


 しかし、そう考えると、では自分の顔は弥生時代的にはどうなのだろう? という疑問が湧いてくる。

 だが、これは聞かない方がいいのだろう……

 何せ遙か大昔の弥生時代では俺、モテ顔だったんだぜ! って言葉に一体どれほどの意味があるのだろうか?

 言ってて虚しくなってくるだけである。


 まぁ、フミコが自分をここまで慕ってくれる理由は精神世界での出来事なのだが、それ以前の最初に出会った時の反応を思い出すに、自分は弥生時代のモテ顔ではないだろう。


 と、そんな割とどうでもいい事を考えてるうちに運命の乙女達がいる集合場所のテーブルの前に辿り着いていた。


 「殿下、クラウスおかえりー!」


 そう笑顔でヘンリーとクラウスに言ったのは運命の乙女だ。

 間近で見れば見た目は自分と同年代に思える。


 そんな彼女は両手を広げて笑顔でクラウスに「ハグしてこい!」と圧をかけているが、この女正気か?

 クラウスは顔を背けて「そんな事するか、はしたないぞ!」と回答しているが、それを照れ隠しと捉えたのか、運命の乙女は「クラウス照れなくてもいいのに~」と笑顔でさらにクラウスに接近していく。


 飛行船内でクラウスが「こっちが迷惑している」と言っていたがこういうノリの事なんだろうなと理解した。

 そんな運命の乙女とクラウスのやり取りをヘンリー、ルーク、ヒース、小さな貴族の坊ちゃんは恨めしい顔で見ている。


 うわー……こいつは酷ぇ……

 なんという陰険男子集団……

 こんなオタサーの姫を祭り上げる集団には絶対入りたくねー! とつい心の中で叫んでしまった。


 そんな男達の嫉妬の視線にクラウスは気付いて勘弁してくれとため息をついているが、運命の乙女は気付いていないのか、それとも気付いてて気付かないフリをしているのかクラウスとじゃれ合おうとクラウスへと迫っている。


 うん、これを一体いつまで見なければならないんだ?

 はっきり言ってきついぞ?

 正直話を早く進めて欲しいのだが?


 そう思ってわざとらしくゴホンと咳払いをした。

 そこでようやく運命の乙女も自分が他を置き去りにしていた事に気付き、あははと笑いながら手で髪の毛を掻いて照れ隠しをしていた。


 「ごめんごめん、なんだがクラウスに会うの久しぶりだからつい調子に乗っちゃった」

 「ふん……言うほど日数経ってないだろ!」

 「えぇー!? 5日は長いよ! クラウス薄情だなー?」


 そう言って頬を膨らました運命の乙女がまたクラウスとイチャつきだしそうな雰囲気を醸し出したので、再びゴホンと咳払いをしなくてはならなくなった。


 なんなんだろうかこれは?

 あれか? 運命の乙女にとって逆ハーレムメンバーで一番のお気に入りはクラウスなのか?

 他の取り巻き男子共残念だったな、どうでもいいけど……


 「お楽しみなところ申し訳ないが、確認いいかな?」


 話が進まないのでそう言うと、クラウスが別に楽しんでねー! と睨んできたが無視した。

 うん、もうこれ以上こいつらの事情に関わりたくない。

 早く本題に入ろう、そうしよう。


 「君が運命の乙女でいいんだよな?」


 聞くと、女性は笑顔で頷いた。


 「そうだよ! 私は日野あかり。この世界の危機を救うため地球から召喚された運命の乙女さ!」

 「……やっぱり、運命の乙女が異世界召喚者だったか」


 彼女は自身を日野あかりと名乗った。

 どう考えても日本人名、しかも本人は地球から召喚されたと言った。


 ターゲットは確定した。

 あとは能力を視て奪い、殺すだけだ。


 「異世界召喚者……? ってどういう事?」


 運命の乙女であるあかりと名乗った女性がその言葉に食いつく。

 もう隠す必要もないだろうし、すべてを明かす事にする。


 「あぁ、俺も同じく日本から来たんだよ。あとこの子も時代は違うけど日本人だよ」

 「え!? ほんとに!?」


 そう言うとあかりが顔を輝かせて自分とフミコを見つめてくる。

 その純真な笑顔に自分もフミコも思わず一歩後退ってしまう。


 あ、わかってたけどこの子、グイグイくるタイプの子だ……

 ちょっと相手するだけでも疲れるなこれ……


 「ねぇ! 時代が違うってどういう事なの!?」

 「え、えぇっと……話せば長くなるんだけどこの子はフミコ、弥生時代の人間なんだ」


 そう言ってフミコを紹介するとあかりはより一層顔を輝かせて、目にも止まらぬ速さでフミコの手を取ると一気にたぐり寄せる。


 「弥生時代ってほんとに!? すごーい!! フミコちゃんよろしくね! 弥生時代の話とか聞かせてほしいな? あ、邪馬台国って行った事あるの? どんなとこ? ねぇねぇ聞かせて!!」

 「え? あ? あの? えっと?」


 あかりのまくしたてにフミコは混乱して何も言えず、ついにはあかりの手を振りほどいて完全に自分の背後に隠れてしまった。


 前回の極寒の異世界ではアドラと仲良くなってたし、アドラも似たようなグイグイくるタイプのように思えたが、どうにもあかりとはそうはいかなそうだった。


 まぁ、アドラとの場合、コイバナという盛り上がれる話題があったからかもしれないが……


 「あちゃーフミコちゃんに嫌われちゃったかな?」

 「ははは……どうだろ?」


 そう言って引き攣った笑いを浮かべた後、自分も自己紹介をする。


 「改めて、俺は川畑界斗。君と違って俺は異世界渡航者だ」

 「異世界……渡航者?」

 「そう、君みたいに召喚されてこの世界に来たわけじゃなく、文字通り渡航してきたんだよ」

 「え? 何それ! すごい!!」


 あかりはそう言うと目を輝かせて、さきほどのフミコの時と同じく目にも止まらぬ速さでこちらの両手を握るとぐいっと体を寄せてきた。


 顔もぶつかりそうなほど近い距離まで近づけて「詳しく聞かせて!」と言ってくる。

 いや、この子距離感おかしいでしょ?


 初対面の男子に、それもまだ自己紹介をしてるレベルの相手にここまで普通接近するか?

 しかも両手をガッチリ握ってるし……スキンシップちょっと過剰じゃね?


 そう思って完全にドン引きしてしまった。

 あれだわ、これ……計算なのか天然なのかわからないけど、クラスで必ず1人はいる同性から嫌われるタイプの女子じゃないかな?

 うん、男に媚び売りすぎじゃね? って言われるタイプの人だわ、間違いない。


 そうそう、だからこれはあかりって運命の乙女の本来の性質で異世界召喚者だから異性からモテてるとかじゃないな。

 元からこういう男子を惑わすタイプの方だわ……うん、だから男子諸君、残念ながら君たちまんまと惑わされたわけですよ?


 そういうわけだから、あかりって子の無自覚ノット・ソーシャルディスタンス攻撃なわけだから、そんな鬼の形相で睨まれてもね? 自分知りませんよ? ってやつですよ……

 うん、ヘンリー、ルーク、ヒース、名も知らぬ坊ちゃん……たぶん俺以外の人間がここにいてもあかりは同じ事してると思うよ?


 あとクラウスよ……興味ないってフリしながらチラチラこっち見て時折眉間にしわ寄せるの止めような?

 ツンデレ野郎の称号あげるよ?


 まぁ、オタサーの無自覚姫に騙されてきた野郎どもの嫉妬と憎悪の視線はどうでもいいわ。

 ほんと、どうでもいいんだけど……問題は野郎どもとは違う方角から届く視線というか殺意というか怨嗟ですよ……


 あの~フミコさん? ちょっと怒りのあまり直視できない顔になってはるんですけど?

 なんか物凄い形相というか……たぶん画像化したら利用規約に抵触する可能性のある画像って注釈ついて詳細を隠されたり、映像化したら放送コード引っかかるタイプの正規ヒロインの女の子がしちゃいけない限界超えた顔になってますよ?


 うん、やめよう。

 ヒロインがその顔よくない!

 というかフミコさん見てましたよね? この距離感がおかしい系女子がパーソナルスペース一方的にぶっ壊してきたの見ましたよね?


 だから、その憎悪向けるのやめてくれません?


 そう思って、これ以上は命の危険を感じたので無理矢理あかりの手をほどいて距離を取る。

 それでも野郎共とフミコの怨嗟の視線は消えなかった。


 「ま、まぁとにかく! 俺たちはこの異世界に自分からやってきたんだ! そこが君の召喚されてきたのと決定的に違うかな?」


 若干声が裏返ったが、気にしてる暇はない。

 さっさと本題に入ってミッションを遂行しなければ色々とまずい気がする。


 「本当なんだすごい!! 召喚されずに自分たちだけでこれるってどうやったの!?」


 あかりは周囲の取り巻きの野郎共の反応を気にせず笑顔で聞いてくる。

 なので事実を伝える事にした。

 地球の惨状と自分たちの旅の目的を……

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