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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
7章:運命の乙女

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運命の乙女(17)

 首都トルディウム、そこは工業都市グラスガムとはまったく景色が違っていた。

 産業革命レベルの交通機関は禁止されているらしく、馬車が行き交う所を見るに、この街とグラスガムとでは文明レベルに差が生じてそうだ。


 とはいえ、環境面で言えば明らかにこの街のほうが住みやすいだろう。

 着いたばかりだが空気が澄んでいるのがよくわかる。


 そんな街へと足を踏み入れて周囲を見回しているとヘンリーが話しかけてきた。


 「ようこそトルディウムへ! 気に入ってもらえたかい?」


 ヘンリーはそう言って笑ってみせるが、着いてすぐに気に入るも何もないだろうと思う。


 「それを聞くなら観光名所くらい案内してくれたらどうだ?」

 「ははは……それもそうだね? とはいえ僕は王子という立場上、気軽に街中を散策できないんだよ」


 そう言ってヘンリーは肩をすくませた。

 まぁ、それはそうだと思う。


 この国における王族が国民からどう思われているかはわからないが、少なくとも気軽に街中をぶらぶら散歩などはできないはずだ。

 少しの外出でさえ警備の者が周囲を取り囲んで移動するため、まともな散歩などできないだろう。

 お忍びで外出するにしても身を隠すのに苦労するはずだ。


 「そうかい、わかったよ。で、これからどうするんだ?」


 運命の乙女の他の仲間とどこで落ち合うかはわからないが、土地勘のない自分やフミコでは首都に着いたところで、ここで別れたら路頭に迷うだけだ。

 それにここまで連れてきてくれた以上はヘンリーにクラウスも自分達を運命の乙女とその取り巻き達に会わせてくれるのだろうし、彼らに付き従うしかない。


 「そうだね、集合場所ならすぐ近くの公園を指定してある。そこに皆いるはずだよ」

 「公園? 気軽に街中を散策できないと言ってた割にはそんなところで落ち合うんだな?」


 そう言うとクラウスがため息をついた。


 「勘違いしてそうだが、一般人が気軽に入れる公園じゃないぞ?」

 「ん? どういう事?」

 「行けばわかる」


 クラウスはそう言うとそそくさと先に歩き出した。

 そんなクラウスにヘンリーが慌てて声をかける。


 「ちょっとクラウス! そんな急がなくても」

 「うるさい黙れ! 俺は馴れ合う気はない」

 「はぁ……ほんとその性格なんとかならない?」

 「ほっとけ」


 クラウスはそう言うとそっぽを向いてしまった。

 ヘンリーは苦笑いして「じゃあ行こうか」と言うとクラウスの後に続く。




 しばらく大通りを歩いていたが、やがて人通りがまばらとなっていく。

 気のせいか通りに面した建物も徐々に減っていき、いつしか柵で囲まれた庭園の入り口の門の前に辿りついていた。


 どことなく赤坂離宮前庭への入り口の門やヴェルサイユ宮殿入り口門に似ている気がする。


 「なぁヘンリー、もしかして公園ってここのことか?」

 「そうだよ?」

 「……いや、どう見ても違うと思うんですけど?」


 あっけらかんと言うヘンリーを見て思わず引き攣った笑いを浮かべてしまった。

 隣でクラウスが「だから一般人が気軽に入れる公園じゃないと言っただろ?」とため息をつきながら言っていたが、いや気軽に入れるか入れないかのレベルじゃないと思うんですが?


 あれですか? 貴族や王族は広い庭のある離宮というか別荘を公園と思ってるのですか、そうですか……

 そりゃ庶民は市民革命も起こしたくもなるわ……


 「まぁ、とにかく入ってくれ」


 ヘンリーがそう言うと中から執事のような格好をした人達が数人やってきて門を開ける。


 「殿下、皆様すでにお待ちです」

 「わかった、ご苦労」


 ヘンリーはそう言って門の中へと入っていく。

 そんなヘンリーに自分達もついていき中へと入った。




 門の中はとにかく広かった。

 ものすご~く遠くに建物が見えたが、あれが離宮らしい。

 しかし建物が霞んで見えるあたり、あそこまでの距離を考えたくなかった。


 まぁさすがに徒歩で移動とかはないだろう……

 敷地内でも貴族や王族は馬車で移動するとか言うし、地球でも観光地化している欧州の元宮殿内には観光列車が通ってるというし、徒歩はさすがにないよな?


 そんな思考を巡らせていると、整備された庭園の中にテーブルと椅子が設置されているのが目についた。

 そしてヘンリーとクラウスはそのテーブルへと向かっている。


 どうやら、あそこが集合場所のようだ。

 確かにそのテーブルには数人がすでに腰掛けていた。

 何人かは知った顔である。


 1人はルーク。

 どうやら無事だったようだ。

 金融街の崩壊に巻き込まれたわけでもなく怪我をしている様子もない。


 もう1人はヒース。

 こちらは相変わらずのようだ。


 そしてヒースの横に小さな男の子もいたが、服装からして貴族のお坊ちゃまなのだろう。

 平民のお子様には見えなかった。

 いや、実際はどうなのかわからないが……


 そして、そんな3人の中心にいて談笑しているもう1人……

 遠目で見てもわかる。

 ルークもヒースも貴族の小さなお坊ちゃまも、皆その人物へとアピールするかのように話しかけているようであった。


 そんな談笑の中心にいる人物へとヘンリーが大きな声で「おーい!」と声をかけ手を振る。

 クラウスは興味なさそうにそっぽを向いているが、今まで見てきた嫌そうな態度は取っていない。


 これだけ見ればもうわかる。

 5人の男の中心にいる人物、あの女性こそ間違いなく運命の乙女だ。


 その女性は遠目に見ても、自分と同年代の少女であろう事はわかった。

 ただ見た目で判断してはいけないし、近くで見たら実は大人の女性の可能性もあるので現段階では何とも言えない。

 そして顔つきは自分と同じ東洋人、東アジア圏のように思える。

 ただこれも近くで見てもないことには何とも言えない……


 服装は現地の人がよく着ている服装であったが、これは召喚されてから時間も経っているだろうし、服装の判断は意味をなさないだろう……


 となれば、後は名前を聞いて地球を知っているか確かめるしかない。


 (さて、ストレートに聞いていいものか?)


 そう考えていると、隣でフミコが何か納得したように頷いていた。

 どうしたんだろうと思ってフミコの方を向くと、フミコが歩きながら本を開いてうんうんと頷いていたのだ。


 「フミコ? 何読んでるんだ? ていうか危ないから歩きながら本読むのやめなさい」


 そう言うとフミコは顔をあげて本から目を離し、こちらを向くと本の表紙を見せてくる。


 「これ見てたんだけど……」


 そう言ってフミコが見せてきた本は昨日の朝、次元の狭間の空間の食堂で朝食を摂っていた時にフミコが読んでいた例の本だった。


 「初心者でもわかる異世界ガイドブックって……そういえば持ってきてたなその本……」


 なんでその本を今読んでるのか? と疑問に思ったが、フミコはその本を閉じてしまうとドヤ顔でこう言った。


 「うん、この本を再度読んで確信したよ……あの子が地球からの異世界召喚者で間違いない!」

 「フミコ、なんでそう思った? その根拠は?」

 「この本に書いてあった……異世界転生した者、転移した者、召喚された者はなぜか異世界で異性からモテる!!」

 「……お、おぅ」

 「だから、男に囲まれてるあの女の人がそうで間違いない!!」


 フミコは鼻息荒くそう言い切ったので、もう「そうだな」としか言いようがなかった。


 おい、そのガイドブックまじで大丈夫か?

 これはフミコにこれ以上適当な知識が植え付けられる前に取り上げた方がいいかもしれないな……


 そんな事を考えてると、ヘンリーの呼びかけに気付いて女性が手を振り返してきた。


 「おーい!! 殿下ー! クラウスー! おつかれーーー!!」


 女性は両手を口にあてて、大きな声でそう言った。

 それを聞いてヘンリーは小走りで女性の元へと向かう。

 クラウスは「ふん」と鼻で笑っていたが、歩く速度が若干速くなったような気がしないでもない。


 こうして自分達は運命の乙女の待つ集合場所へとたどり着いたのだった。

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