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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
7章:運命の乙女

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運命の乙女(16)

 握手を求めてきた差しだしてきたヘンリーの手を見て、どうすべきか考える。

 そもそも、自分が飛行船で大変な状態だったことをこの王子はどうして知っているのだろうか?


 運命の乙女陣営だった場合、この情報は知り得ないはずだ。

 クラウスと共に飛行船で首都に向かってるという情報は共有していても、ついさっきの出来事をもう知っているのは変ではないか?


 しかも、緊急脱出した時に即興で決めた合流地点に待機してるなど都合が良すぎる。

 首都の空港の飛行場で待っているならまだしも、ここにいて待っていたなどありえない。


 だとすれば考えられるのは背徳の女神陣営。

 先に飛行船から落ちて姿を消したラピカから情報を受け取っていた可能性だ。


 それでも、ラピカから情報を受け取ってここを割り出せるかは疑問だが、あの背徳の女神の力。

 黒い靄ならなんとかなるのではないか?

 

 そう考えて、握手を躊躇っていると背後から声が聞こえてくる。


 「お~い! かい君~!!」


 振り返るとフミコが大きく手を振ってこちらへと走ってきていた。


 「お、君の仲間も来たようだね?」

 「あぁ……そうだな」


 フミコは自分の隣まで走ってくると、両膝に両手をついて息を整える。

 汗だくで息を切らしているあたり、着地してからここまで休む間もなく走ってきたのだろう。


 「大丈夫かフミコ? 疲れてるならひとまず座っといていいぞ?」

 「はぁ……はぁ……平気だよ……それよりこの人誰?」

 

 フミコの言葉にヘンリーは苦笑いを浮かべて「はぁ、さすがに連続はへこむ」とつぶやいていた。

 まぁ、昨日今日異世界から来た人間に遭遇するなんてレアな経験は早々ないだろうからドンマイ! としか言い様がない。


 そうこうしていると、クラウスが地面を自分が進む進路上のみ凍らせてそこを滑ってくるという、スケートしてるのか何なのかよくわからない移動方法でやってきた。


 まぁ足を怪我している以上、まともに歩けないだろうから仕方ないのだろうが、なんともシュールな光景だった。


 「まったく、ここがわかりやすい合流地点ってのはわかるが起伏が激しい小高い丘になってるじゃないか……他にわかりやすい合流地点の目印はなかったのか?」


 そう愚痴を垂れながらクラウスが近づいてくると、そんなクラウスにヘンリーが声をかける。


 「やぁクラウス、調子はどうだい?」

 

 するとクラウスはヘンリーの顔を見るや舌打ちした。


 「最悪だ」


 そんな2人を見て一様の確認を取る。


 「2人は知り合いなのか?」

 「なんだ? ヘンリー、お前まだ言ってなかったのか?」

 「いや~どうにも警戒されちゃって……はは」


 苦笑いをして頭を掻くヘンリーを見て、クラウスがメガネをくいっと持ち上げると鼻で笑う。


 「ふん、そりゃお前のような胡散臭い王子を見たら誰でも警戒するさ」

 「酷い言われようだな? ……場所が場所なら不敬罪になってるぞ?」

 「それはどうだろうな? 案外誰もが思ってることでスルーするかもよ?」


 そうやって言い合っている2人を見て、とりあえずヘンリーは運命の乙女陣営のようなのでヘンリーへの警戒を解く。

 とはいえ、根本的な疑問である「なぜアドリブで決めた合流地点に先回りできたのか?」が解消されていない。

 だから聞いてみた。


 「ところで王子はどうやってここに俺たちが来るってわかったんだ?」


 するとクラウスがこの疑問に答える。


 「それは俺が連絡したからだ」

 「クラウスが? いつの間に」


 この疑問にはヘンリーが答える。


 「これは何というか運命の乙女の能力というかね……僕らの仲間の1人に遠く離れた味方ともコンタクトが取れるスキルを持った者がいるんだけど、そのスキルを仲間全員が使えるように運命の乙女が拡張したんだよ」

 「……なんだそれ」

 「まぁ、そう思うよね? 他人のスキルを弄くるスキルなんて聞いた事がないし」


 そうヘンリーは困った顔をして言った。

 どうやらそれが運命の乙女の能力の一環のようだ。


 「なるほど……でも連絡を受けて数分でここまで来れるものなのか? ヘンリーはこの近くにたまたまいたのか?」

 「まさか! 僕は連絡を受けるまでは離宮にいたよ?」

 「は? どういう事?」


 ヘンリーの言葉を聞いて一瞬混乱したが、すぐにクラウスが説明してくれた。


 「こいつのスキルだ。『転移』といってかなりレアなスキルだな」

 「それって任意の場所にすぐ移動できるって事か?」


 この質問には本人が答える。


 「そうだね……僕自身が知ってる場所だったり、具体的に連想できる場所だったら可能だね。知らない場所やどこだったか忘れてしまった場所は無理だけど」


 ヘンリーの言葉を聞いて、RPGなどのゲームによくある「一度行った事がある街やダンジョンにはすぐに移動できる」というチートな性能ではないのだなと思うが、それでも便利な能力に違いはなかった。


 「なるほどな……じゃあヘンリーはこの場所を具体的に連想できたというわけか」

 「まぁ、首都郊外の牧草地帯でこの木は有名というか行商人たちの目印だからね?」


 そう言ってヘンリーは木を見上げる。

 確かに、これだけ地平線上まで何もない場所では誰しもがこれを目印にするだろう。

 ようやくヘンリーに対する疑惑をすべて解消する事ができた。


 「そうか……警戒して悪かったな。俺は川畑界斗、この子はフミコだ。改めてよろしく」

 「こちらこそよろしく」


 そう言ってヘンリーと握手を交す。

 そしてヘンリーは同じくフミコにも握手を求めた。


 「フミコさんだったね。よろしくね?」


 さすがに王子というだけあって気品ある所作で一礼してフミコに手を差し出すが、フミコは手を出そうとはしなかった。


 「はい、よろしくお願いします」


 それだけ言うと握手せずに自分の背中に隠れてしまう。


 「フミコ? どうした?」

 「かい君以外の男の人と触れ合うとかありえないし! かい君もそう思うよね!!」

 「……お、おぅ? それは……どうだろうな?」


 うむ、なんとも反応に困る事を言い出した。

 まぁ、なんだかんだでヘンリーもクラウスもムカツクほどにイケメンだからそっちに気を引かれていないのは安堵というか、ほっとする限りというか……

 どう表現していいかわからないが、これはこれで本当にいいのだろうか? とも思ってしまうのだった。


 「ははは……これはフミコさんにはあまりちょっかいをかけないほうが良さそうだね?」


 ヘンリーはそう言ってクラウスのほうを向くが、話を振られたクラウスは不服そうな顔をする。


 「なぜ俺に言う?」

 「いや? 特に他意はないよ?」

 「だったら俺に振るな! くだらない」


 そう言ってクラウスはそっぽを向いてしまった。

 ヘンリーはそんなクラウスの態度に苦笑いする。


 「まぁ、あんなだけど根はいい奴なんだよ」

 「ヒースもそんな事言ってた気がするけど、それはわかるよ」


 クラウスがどういった人物なのかは空港からの短い時間しかまだ一緒にいないが何となくわかる。

 だから、これ以上この話題を続けても意味はないだろうと話を本題に戻す。


 「ところで、ここには俺たちを迎えに来たって事でいいんだよな?」

 「そうだね、僕の『転移』のスキルがなければ首都まで2日は歩くことになるね?」

 「……まじかよ」


 そんなにかかるなら、そもそも遠く離れた仲間とも連絡が取れるわけだし、わざわざ飛行船で移動しなくても良かったのでは? と思ってしまうが、そこは色々と事情があるらしい。


 「とにかく、君たちを首都トルディウムまで送るよ。ここにいても仕方がないからね」


 ヘンリーがそう言うとクラウスがヘンリーの傍へと歩いていく。


 「できるだけヘンリーに近づけ、でないと転移できないぞ」

 「どういう事だ?」

 「僕の『転移』のスキルは僕を中心とした狭い範囲の中にいる人間や任意の物しか一緒に転移できないからね……できる限り近づいてほしい」


 そう言うヘンリーの元に近づくが、フミコは頑なに自分の背中に隠れたままだった。


 「フミコ……さすがにそれは失礼では?」

 「ははは……構わないよ? フミコさんにはそっちのほうが安心できるのだろうし」


 苦笑いしながらもヘンリーはそう言って片手を真上に掲げる。


 「では行くよ! 転移! トルディウム!」


 ヘンリーが叫ぶとヘンリーを中心として円形状に地面が光り輝き魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣は輝きを増し、中にいる全員を光の中に包み込んだ。


 魔法陣と光が消えた時、そこにはもう誰もいなかった。



 眩しい光に思わず目をつむってしまったが、それは一瞬だった。

 目を開けると、景色は一変していた。


 合流地点に選んだ木以外何もない放牧地ではなく、石畳の道路に整備された綺麗な中世欧州を彷彿とさせる街並みが広がっていた。


 工業都市グラスガムと違って工場の煙突などは見当たらず、車や路面電車も走っていない。

 代わりに大通りを行き交っている移動手段は馬車だ。


 産業革命のような時代からまるで時間が遡ったような錯覚を覚える。

 ここは首都トルディウム、運命の乙女がいる街だ。

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