旅の始まり(5)
脳天をぶち抜かれて怪物がバタっと倒れる。
「うお!? やったか?」
「ほっほ、ヘッドショット見事じゃ! その感覚を忘れずほれ、次いってみよう」
神を自称する老人に言われ、別の怪物の頭部に狙いを定め引き金を引く。
一度感覚を覚えたからか、次もあっさりとヘッドショットが決まった。
とはいえ周囲を取り囲まれてる状態では2匹倒したところで怪物の数が減った気がしない。
「くそ! 悠長に1匹ずつ撃ち殺してる時間なんてねーぞ」
周囲を取り囲んでる怪物達は一斉に詰め寄ってくる。
これを1匹ずつ丁寧に撃ち殺していてはとても間に合わない。
そんな状況を見て神を自称する老人がアタッシュケースの中にある最後の代物に言及する。
「ふむ、ではアビリティーチェッカーを取り付けてみよ」
「アビリティーチェッカー?」
「もう一つ、ガジェットがアタッシュケースの中にあったじゃろ?」
言われて見ればストップウォッチのような外観の、どのような用途で使うのかパッと見ではわからないガジェットがあった。
「これを……取り付ける? っていうかこれ一体何?」
液晶画面のついたストップウォッチのような外観のアビリティチェッカーというらしいガジェットは側面にボタンがあり裏側に小さな突起があった。
「まずはアビリティーユニットから拳銃の部分を外すのじゃ」
言われるまま銃身を取り外しグリップだけの元の状態に戻す。
「そしてグリップ脇に窪みがあるじゃろ? そこにアビリティーチェッカーを取り付けるのじゃ」
言われてグリップの脇を見る。謎の窪みがあるのはずっと気になっていたがストップウォッチのような外観のガジェットの裏面にある突起はこの窪みに取り付けるためのものだったようだ。
老人の言う通り窪みに取り付けてみる。
……しかし、何も起こらなかった
「………ん? 何? どういうこと? 何も起こりませんけど故障ですか?」
「いや、そんなはずはないぞよ? ちゃんと起動するはずじゃ……あ、いかんいかん忘れておったわい、まずはアビリティ-チェッカーのボタンを押さないとの」
神を自称する老人はめんごめんごと言いながらテヘペロとお茶目な表情で謝罪してきた。
やめろ爺、気持ち悪いわ。
「なんで最初の肝心な部分を忘れるんだよ自称神さんよ?」
「自称とか言うな! 神さまにだって物忘れの一つや二つあるわい」
「……あっそ」
ダメだこの爺さん……
とりあえずストップウォッチのような外観のアビリティーチェッカーというらしいガジェットの側面にあるボタンを押す。
すると液晶画面にStartUpという文字が浮かび上がった。そしてアビリティーチェッカーをグリップの窪みに取り付ける。
すると液晶画面の文字がNowLoadingに変わる。そして液晶画面の上にエンブレムのようなものが投影された。
「うお!? 何だこれ!?」
「そいつがメニュー画面じゃよ」
「メニュー画面?」
「まぁゲームでいえば……って貴様はしないんじゃったな。まぁそこで貴様のステータスを見れたりできるが……今はそれでも能力強奪でもなくガンモードじゃの。そのエンブレムに指で触れてみよ」
自称神の老人に言われるまま液晶画面上に浮かび上がったエンブレムに人差し指で触れる。
特に感触はなかったがスマホを操作するような感覚でエンブレムを動かすことができた。
「おい、これって」
「大体わかってきたじゃろ? それをスライドさせて銃のエンブレムを持ってくるんじゃ」
言われるままエンブレムを横にスライドさせると新しいエンブレムが浮かび上がった。
そうしてどんどんスライドさせてるうちに銃のエンブレムが出てきた。
「こいつか」
「そのエンブレムをタッチせい」
言われる通りにすると今度は複数の銃のエンブレムが出てきた。
「おい、どうなってんだこれ?」
「今タッチした銃のエンブレムはライフルモード。そして今出てるのはスタイル選択じゃ」
「……ん? どゆこと?」
「ライフル小銃にも種類は色々あっての、スタイル選択とはその種類を選ぶ画面じゃ」
無趣味な身としては映画もドラマもアニメもあまり見ないしゲームもしないので銃の詳しい区分なんてわからないからスタイル選択といわれても何を選べばいいかさっぱりだった。
自称神の老人によればライフルモードのスタイル選択で今表示されてるのは5つ。
1つ、オートドックスなアサルトライフル。
2つ、大口径をぶっ放つためセミオート射撃となったバトルライフル。
3つ、騎兵銃・戦車兵や工兵用の軽便銃たるカービン。
4つ、狙撃専門のスナイパーライフル。
5つ、戦車や軽装甲車両に非装甲車両、トーチカや機関銃座の破壊を目的とした対物ライフル。
という事らしい……
状況に応じてスタイルを使い分けられるようだ。
と言っても経験値のない自分では適切なスタイルなど選べない気がするが……
そして自称神の老人が言うには更に銃の機能をポイントを貯めて解放すれば重機関銃モードやガトリング銃モード、高射機関砲モード、散弾銃モードがあるらしい。
ポイントを貯めるというのがまったくもって意味不明だが、とにかく現時点ではこれらは機能にはまだないらしい。
また拳銃モードでアビリティーチェッカーを取り付けて銃のエンブレムを選ぶとサブマシンガンかPDWのモードを選べるらしいが現時点ですべてを理解するのは無理だろうとの事だった。
ついでにアビリティーユニットを収納していたアタッシュケースにもオプション機能があって、アタッシュケース側面にも窪みがありそこにグリップを取り付けるとアタッシュケースがSAM(携帯式防空ミサイルシステム)となるらしい。もはや理解不能である。
デフォルトでは地対空誘導弾だがこれもアビリティーチェッカーを取り付けることでロケットランチャーやグレネードランチャーにスタイル変更可能らしい。
これもポイントでの解放が条件と言っていたが、いやだからポイントってなんだよ?
「まぁ、これで貴様も理解したじゃろ?」
「いや、ほんと理解不能なポイント制度があった気がしましたけど?」
「そこは今はスルーしていいわい。とにかく今はアサルトライフルを選べ」
言われるままにアサルトライフルのエンブレムをタッチする。
するとグリップの周囲の空間に紫電が迸り何もない空間に銃身や銃床、マガジンなどが半透明に浮かび上がる。
やがてそれは完全に物質化し一気にグリップの元へとくっついていきアサルトライフルへと姿を変えた。
「うお!? すげー!! ライフル銃になった!!」
「そいつはブルパップ方式のステアーAUGをモデルにしとる。まぁ名前は好きにつけい」
「よくわからんがそうだな……名前はアサルトスペシャルだ!!」
銃の方式とかデモルの銃の名前を言われても自分にはさっぱりなのでわかりやすい名前にしたが、なぜか爺は残念な生き物を見る目をこちらに向けてきた。
「貴様……壊滅的にネーミングセンスがないのう……大丈夫か?」
「あぁん!? うるせーな!! 名前は好きにしろって言っただろ!?」
「いや、貴様がそれでいいんなら構わんがの」
「てめー、そこはかとなくバカにしただろ?」
神を自称する老人に詰め寄ろうとしたが、それを制するように自分たちを取り囲んでいた怪物たちが一斉に襲いかかってきた。
そういえば忘れてたけどこいつら今まで律儀に待っててくれてたのか?
いや、さきほどの時間停止を神を自称する老人が説明の間だけ行ってたんだろう……まめな爺だ。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!!! くたばれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
とりあえずライフル銃を撃ちまくった。
拳銃の時と違って威力は段違いで効果もてきめんだった。
あっという間に周囲の怪物立つが一掃されていく。
とはいえ、すべてを倒せたわけではない。
「くっそ! こいつすばしっこく避けやがる!!」
とにかく無我夢中で連射しまくるが当たる気配がなかった。
すると神を自称する老人が呆れた顔をこちらへと向けてくる。
「貴様もう少し狙いを定められんのか?」
「うるせー! 連射できるなら狙い定める必要ねーだろ!」
「これは射撃に関しても一から教える必要がありそうじゃな」
「あぁ!?」
「もう射撃は諦めて剣でとどめをさせ」
神を自称する老人に言われて言い返そうとしたが今は従うことにした。
アビリティーチェッカーを外すとアサルトライフルの外装がパージされグリップだけの状態に戻る。
そのままレーザーブレードを出して怪物へと斬りかかった。
「おらぁぁ!!」
一振り目は交されたが二振り目は怪物の腕に届き、これを斬り落とす。
悲痛な雄叫びを上げる怪物に体勢を立て直す暇を与えずそのままレーザーの刃を怪物の腹へと突き刺した。
レーザーの刃は金属の刃のように肉厚で阻まれるといったことはなくそのまま怪物の体を貫いた。
「ほっほ、やったの」
バタンと倒れた怪物を見て神を自称する老人は満足げに頷く。
息を整えながら今し方自分が倒した怪物を見る。
銃で倒した時と違って手に震えがあった。
これが敵を倒したという実感なのか高揚なのか、あるいは怪物であれ命を奪ったという恐れなのか、
まだ興奮して自分のことなのにわからなかった。
「終わった………のか?」
周囲を見回して残党がいないかを確認するが怪物は生き残っている怪物はいなかった。
どうやらすべて倒したらしい。
「はぁ………疲れた」
思わずその場にしゃがみ込んでしまったがすぐに爺に促される。
「ほっほ、気持ちはわかるがここで休んでもらっては困るぞい? 戦い方のチュートリアルは終わった。次は実務の話じゃ」
「実務だ?」
「言ったじゃろ? ジムクベルトは倒すことはできんが追い出すことはできると……その方法についてじゃ」
「このアビリティーチャッカー? っていうのを使うんだろ?」
「ほっほ、さすがに話がわかってきたの」
「そりゃな……で? これを起動した時に浮かび上がったエンブレムのどれかを使ってジムクベルトを追い出すのか?」
アビリティーチェッカーを手にして液晶画面を覗き込む。
大きさも外見もストップウォッチのようなものだがボタンを押して起動してもそのままの状態ではエンブレムは浮かび上がらない。やはりグリップに取り付けないといけないようだ。
「それは少し違うの……正確に言えばアビリティーユニットでジムクベルトに直接何かできることはない」
「…………は? じゃあこれの意味は?」
「だから説明を最後まで聞けと散々言ったじゃろうに……アビリティーユニットはジムクベルト出現の原因を排除するための間接的にジムクベルトに対抗する装備じゃ」
「………??」
「まぁ、まだまだ説明が必要じゃが……物は試しじゃ、まずメニュー画面を出してみよ」
言われてグリップにアビリティーチェッカーを取り付けて複数のエンブレムを浮かび上がらせる。
その中の一つで一番大きいエンブレムをタッチするように爺が指示してきたので言われるままタッチする。
すると……
『Take away ability』
音声が鳴り響いた。
「おぉ!? これ音出るのかよ?」
「ふむ、ちょうどいいところに人がいるの。あやつにグリップを向けてみよ」
爺の言った方向を見ると怪物たちに襲われて倒れていた人達のうち、満身創痍でフラフラしながらも立ち上がっている人がいた。
そういえば忘れてたがこの人達助けないのかよ? と思いながらも言われた通りにグリップを向けた。
すると突然その人の体から光りの暴風があふれ出した。
「な、なんだ!?」
思わず後ずさったが光りの暴風はそのままグリップへと押し寄せてきて収束しグリップの中へと吸い込まれていく。
やがて光の暴風はすべてグリップの中に吸い込まれ収まった。
するとアビリティーチャッカーの液晶画面上に新たなエンブレムが浮かび上がった。
「こ、これは?」
「それは今あの者から奪った能力を示すエンブレムじゃ」
「奪った?」
光の暴風が収まって彼は再びその場に倒れていた。
能力を奪ったって、とてもエスパーの類いには見えないおじさんだが…一体どういうことだろうか?
「奪ったってどういうことだ?」
「これから詳しく話すわい、ようするにアビリティーユニットとは他者の能力を奪うツールじゃ」