受け継がれし鋼の魂(4)
クラタス、それは日本の制作チームである水道橋重工が開発した全高約4メートルで重量は約5トンもある人が搭乗し操縦可能なロボである。
このロボは30関節が油圧駆動で脚部が4輪タイヤと自走可能(ただし整地のみ)であり、将来的にはタイヤで走るのでなく4脚歩行で不整地も走破したいと目論んでいるようだ。
操縦に関してはパイロットはクラタスの胴体部分の中にあるコックピットに乗り込み、独特な制御装置によって操作する。
またコックピット内の大型モニターには前方後方のカメラ映像が映し出され、これによって外の状況を確認する事ができる。
このモニターにはドローンによる俯瞰映像も映し出され、クラタス操縦者にとってドローンの映像はある種生命線ともいえる。
ちなみにコックピットに乗り込まずとも遠隔操作も可能なのだとか。
武装は左手に装備したBB弾を発射できるツインBBロータリーキャノンに水道橋重工が開発したペットボトルなり花火なりを発射するLOHAS Launcher。そして物を掴むことができるアイアン・クロウ。
さらにはパイルバンカーなどの武器も装備可能だという。
とはいえ、どれも殺傷能力が低い武装ばかりではあるがそれも当然で、もともとはトイロボットのプロトタイプであり、量産化の目途が立てばサバゲーなどで遊んでもらえる事を目的に開発されたからだ。
そんなクラタスの名前の由来は水道橋重工のメンバーであり製作者である倉田氏の名前からきている。
「な、ななな!!ま、また変なビースターが!?」
マーヤはクラタスを見て開いた口が塞がらないといった表情を見せるが、これで終わりではない。
バイオスターとやらと戦うために、もう1機呼び出したいところだが、どうやらクラタスの武装は追加で召喚しないといけないようだ。
となれば、こちらの召喚術はそっちで手一杯になる。
ならば追加の機体を召喚する役目はヨハンに任せよう。
「ヨハン!!すまないがもう1機追加で召喚したい!頼めないか?」
そうヨハンに声をかけるが、しかしヨハンは。
「え?僕がこれを召喚?い、いや……召喚できるのは僕が理解できるものに限るから……」
困惑した表情でそう言った。
そう、面倒な事に召喚術にはそのような制約があるのだ。
ヨハンは確かにTD-66を見てロボの存在は知っているが、しかしTD-66は自律型AIのためこちらが乗り込んで操縦する必要がないぶん、ヨハンからすれば自分たちと同じ生物という認識でいままできている。
だからここでヨハンにロボを召喚させるには認識を改めさせないといけないわけだが、とはいえ、今からヨハンに色々と説明している時間はない。
なのでとりあえず連絡用に皆に渡しているスマホにある動画のURLを送る。
「ヨハン!!とりあえずスマホに送ったその動画を見てくれ!!そしてそいつを召喚してほしい!」
そう言ってヨハンの返事を待たずにクラタスの脚部に飛び乗って胴体に手を伸ばし、コックピットを開閉させるボタンを押す。
すると胴体が開き、コックピットが姿を現す。
そのコックピットの中に素早く乗り込み、ヘルメットをかぶって開閉ボタンを押しコックピットを閉め、目の前の大型モニターに外の様子が映し出された。
「さて、それじゃあ起動といきますか!!武装はそのままだとBB弾になっちまうから召喚術で実弾に換装して……」
そうして準備を開始した。
「動画を送ったってカイト、一体何を……」
カイトの言葉にヨハンは困惑しながらも懐からスマホを取り出し、送られてきた動画のURLを開く。
そして、それを見たヨハンはニヤリと笑うと。
「はは、まったく……カイトも意地が悪い、こんなのを召喚しろだなんて……」
そう言ってカイトが乗りこんだクラタスを見上げる。
とはいえ、ヨハンにはひとつの懸念があった。それは……
「けど、これって相手の速さには対応できるのかな?」
そう口にしながらも、しかし今はバイオスターと戦える戦力が多いに越した事はないのは事実。
なのでヨハンは右手を突き出し叫ぶ。
「召喚……こい!Eagle Prime!」
ヨハンの右手の先に右手の先に魔法陣が浮かび上がり、直後そこから高さ5メートルはあろうかというメカが出現した。
そのメカはクラタスとは異なり、脚部はあるもののクラタスと違い履帯による無限軌道、腕には巨大な重機アームと巨大なチェンソーを備えた見た目が厳つい重量15トンを超える超巨大なロボというより凶悪なマシーンであった。
その名もEagle Prime、今はもう倒産してしまったアメリカの会社がかつて開発した巨大ロボットだ。
人が搭乗可能な巨大な鋼鉄のロボットに実際に人が乗り込み、そして互いのプライドをかけて戦う。
そんなアニメの話のような話が現実でかつて実現した事をご存じだろうか?
そう、それこそがクラタスとEagle Primeによる世界初の日米巨大ロボ対決である。
クラタスが世間に大々的に披露されたのは2012年、ワンダーフェスにおいてである。
ここでの発表は世界に衝撃を与え、激震をもたらした。
さらにはア〇ゾンで販売がアナウンスされたものだから、そりゃ業界は沸きあがったのである。
一方で世界初の有人戦闘ロボットの開発を目指していたアメリカのスタートアップ企業MegaBotsは水道橋重工に先越されてしまったものの、2014年に彼らが開発した二人乗り戦闘ロボのMark IIであるIron Gloryを完成させる。
そんなMegaBotsは世界初の有人戦闘ロボの称号を持つクラタスに動画サイトにて決闘を申し込んだのだ。
我々は巨大ロボを手に入れた、そして君たちも巨大ロボを持っている。次に何をすべきかわかるだろ?我々は決闘を申し込むと……
これに水道橋重工はもう少しカッコいいの作れよ!デカいものに銃をつけりゃいいってアメリカ文化じゃ勝てないぞと挑発し、決闘を受諾した。
こうして世界中のロボットファンが大興奮する中、2017年、場所は非公開ながらもネットで全世界に配信される形で日米巨大ロボ決戦が幕を開けたのである。
戦いは2本勝負、ルールは接触・破壊可能な武装で戦い、相手をノックアウトさせるか、ロボットを無力化させるか、何らかの理由でパイロットが降参すれば勝ちというものであり、最初の戦いではMegaBotsのIron Gloryが射撃準備に入っている間にクラタスが猛スピードで突進してパンチを放って打ちのめし、一気に勝負を決めた。
だが、2戦目に登場したMegaBotsのEagle Primeはその圧倒的なパワーでもってクラタスを追い詰め、最後は巨大チェンソーで腕を切断寸前まで切り刻みクラタスを敗北に追い込んだ。
結果としては1勝1敗の引き分けとなった日米巨大ロボ対決だが、この対決が世界の技術者に与えた影響は計り知れない。
現にこの日米巨大ロボ対決後、MegaBotsには世界中の巨大ロボット開発チームから自分たちとも戦え!と挑戦状が続々届いたという。
そこでMegaBotsは世界初のロボットバトルトーナメントを開催しようと模索するが、これが実現する事はなかった。
結局のところ、クラタスとの戦いのためにEagle Primeを改修する費用に多くを投じすぎたため資金ぶりが悪化したのだ。
再起をかけたロボットバトルトーナメント構想も資金は調達未達でお蔵入り……
そうして倒産するはめになり、債務履行のため、クラタスと日米巨大ロボ対決をおこなったEagle Primeは売りにだされてしまった……
ちなみに、この日米巨大ロボ対決においてEagle Primeは約230kgの鉄製ナイフアームや危険すぎて1度しか使われなかったといういわく付きのドリルアームを披露しなかった。
それらがもし使用されていたらどうなっていたか……
そんな重量15トンもの巨大なロボをヨハンは召喚したわけだが、やはりスピードという面では不安が残る。
(確かに超重量なのは安心材料だが、攻撃を当てられなければで意味なくないかな?つまり武装は6インチダブルバレル圧縮空気砲一択になってしまうけど……)
そう考え込んでいるヨハンを横目にフミコが素早くEagle Primeのコックピットに乗り込む。
それを見たヨハンはビックリして思考を停止した。
「へ?ちょ、ちょっとフミコ!?」
「ヨハン、これちょっと使わせてもらうよ」
「使わせてもらうって何言って!?」
「かい君と一緒に戦うためだよ!」
そう口にしたフミコにヨハンは慌てだす。
「無茶だ!!そもそも操縦方法は召喚した僕にはわかるけどフミコは……」
しかし、その言葉を言い切る前に今度は寺崎歩美が素早い動きでEagle Primeのコックピットに乗り込んだ。
「これって二人乗りだよね?歩美も乗るし!」
「ちょっと歩美?」
そう言って後部座席に座り込んだ寺崎歩美のほうにフミコは振り返るが、寺崎歩美は軽い調子でヘルメットを被ると。
「心配しないでください先輩、歩美がサポートしますから!というか歩美以外に先輩とこれに乗れる人いませんから!」
「何勝手に言ってるのよ!!」
「どっちにしたって二人乗りなんですから!それじゃいきますよ!!」
そう言ってEagle Primeを動かし始める。
そんな様子を見てヨハンはため息をつき。
「これは武装の換装やらのサポートをここでやりつつ、みんなを護らないといけないってわけだね」
そう言って気を引き締めた。
ヨハンたちが見つめる先でTD-66、クラタス、Eagle Primeとバイオ装甲をまとった4足歩行の怪物との戦いが始まった。
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