混沌の戦場の終結 (2)
「は? ギルドのみんなに頼む? 何言ってんだ? そりゃ無理だろ。だって他の面子はそれぞれ用事があったから今回これなくてこの面子なんだぞ?」
リーナ(成長ギャル化版)の返答に思わず眉を潜めてしまう。
そう、今回自分とフミコ、ココの3人だけでこの異世界に来たのは他でもない、今いる3人以外がギルドの仕事や用事で不在だったからだ。
でなければ召喚者が大勢いるとわかった時やココがスタンピードに取り込まれた時に応援要請を出さないわけがない。
そして、もし他の面子を呼べていたのなら、もう少しスムーズに事を運べただろう。
しかし、実際はそうではない。
ギルドの仕事が重なっている以上は誰も呼べるわけがないのだ。
であるにも関わらずリーナ(成長ギャル化版)はギルドのみんなに頼めばいいと言った。
しかも自分は数年前の過去にこの状況を経験しているのだから間違いないとまで言っているのだ。
リーナ(成長ギャル化版)を疑うわけではないが、本当だろうか?
そんな自分の疑問にリーナ(成長ギャル化版)は。
「マスター、ちょっと考えすぎっしょ! 確かにみんな依頼受けてたし、ケティーお姉ちゃんにリエルお姉ちゃんも商談に元の世界の整備のお仕事優先してるけど、マスターが応援要請だせばみんなマスターを優先するし、まじで。ていうかぶっちゃけギルドの仕事のいくつかはマスターがこの世界で活動してる間にもう達成してるはずっしょ! だから遠慮する必要なくね? ってあーしは思うけど?」
そう言って笑い飛ばした。
いや、本当にそうだろうか? というかいくつかの仕事はもう達成してるって初耳なんだけど?
まぁリーナ(成長ギャル化版)からすれば過去の事だから知ってて当然なんだろうけど、俺が今それをここで知る手段なくない? と思ってしまったが、とりあえずはリーナ(成長ギャル化版)の言う通りに皆に連絡する事にした。
そして、普通にギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>のメンバー全員が揃った。
まじか……
リーナ(成長ギャル化版)の言う通り、ドリーとヨハンが請け負っていた依頼はすでに完了したようだ。
キャシー、シーナ、シルビアの3人が請け負っていた依頼もほぼ終わったも同然らしく、ギルドの仕事に関しては現状片付いたと言っていい。
ケティーも商談が意外に早くに終わったらしく、手持無沙汰で暇を持て余していたようだ。
リエルは元の世界で溜まりに溜まっていた整備の仕事の多くがやんごとなき理由でキャンセルとなり、おかげで溜まっていた仕事はわずか数件となったため、短い時間で終わらせる事ができたという。
そのおかげもあって、リアルはすぐに次元の狭間の空間も戻る事ができ、TD-66のメンテナンスに取り掛かれたため、現在TD-66は万全の状態で待機している。
リーナとエマも<アカデミー>が主催する学校から帰ってきたところなので喜んでこっちの世界にやってきた。
というか、エマはともかくリーナはここに未来の自分がいるというにやってきて大丈夫なのだろうか? 確かリーナ(成長ギャル化版)は今現在含めて、成長した未来の自分に会った事はないと言っていたはずだが……
そう思ったのだが、リーナ(成長ギャル化版)はリーナと鉢合わせないように、リーナが来たらどこかへと姿をくらませてしまった。
とはいえ、重要な案件も話し合わなければならないので、姿は見せずともインカムで会話をする事はできた。
そんなリーナ(成長ギャル化版)がいなくなり、今目の前にいるリーナは幼女のほうなのだが、そんなリーナの隣にはエマとそれともう一人、別の幼女が立っていた。
彼女は新たなギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>のメンバーであり、リーナとエマの新たな友達である。
彼女の名はイレーナ、かつて邪神結社カルテルのナンバー2であるウラス・ヨルドを討伐しにスロル山に向かった際、その麓にある宿場町で戦った邪神結社カルテルのメンバーであるアズフによって殺され、その死体を魔導書ネクロミコンの中にストックされていた幼女だ。
アズフが自分たちとの戦闘の中で自らの劣勢を覆すため、こちらを牽制する人質として利用するためにアズフによって蘇生されて人質として使われていたが、アズフを倒した後、身寄りもないという事でそのままギルドで保護したのだ。
そんな彼女はリーナやエマと年齢が近いという事もあり、すぐにふたりと仲良くなり、正式にギルドに加入する事になった。
そうしてヨハンを後見人とし、リーナ、エマとの3人でギルド内サークル<リトルトラベラーズ>を結成。
エマが住む区画で発生する小さな害虫の討伐依頼や清掃活動、区画内で採れる素材の調査やイベントのお手伝い等を行っている。
まだまだ居住区内での活動に限定しているが、いずれドルクジルヴァニアの外でも活動しよう、冒険しようと密かに計画を練っているようだ。
後見人のヨハンはその事に肝を冷やしているが、まぁTD-66もいるし危険と判断したら強制的に連れ帰ってきたらいいだろうと今は自由にさせている。
そんなギルド内サークル<リトルトラベラーズ>まで招集したのはリーナ(成長ギャル化版)の提言もあったからだ。
リーナ(成長ギャル化版)曰く、今回がギルド内サークル<リトルトラベラーズ>にとって正式なシニアデビューであり、この経験が3人にとって今後の大きな成長の糧になるのだとか。
そう言われては断る事もできず招集してしまったが、本当に大丈夫なのだろうか?
何にせよ、今回の招集したギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>の活躍及び※ギルド内サークル<リトルトラベラーズ>の活躍を描いた物語はいずれまたどこかで……
とにかく招集した全員を迷宮攻略組、城壁内に残存するスタンピードを駆除する組、召喚者を探索し、アシュラを監視する組、召喚者から異能を奪う組に分け、そうして行動を開始したのだった。
結論から言うと召喚者たちからそこまでの数の異能は奪えなかった。
召喚者たちの半数の女性たちはすでにアシュラによって食い殺され、異能は奪われており、残りの半数の男性陣に関しても、自分たちと野村健太郎グループが争い、その結果生じたスタンピードに取り込まれたココを救出するための作戦に時間を費やしている間に量産型たちがそれなりの数の召喚者たちから異能を奪い殺していたからだ。
アシュラのターゲットである女性の召喚者に関してはアシュラとの戦闘を避けるため、鼻から相手にしていないため問題はないが、残りの召喚者に関しては正直かなり手痛い。
そんなわけで、全ギルドメンバーを招集しても、数人の召喚者を発見できたにすぎず、彼らから異能を奪う役目はフミコと寺崎歩美にほぼ任せたため、結果的に自分がこの世界で奪った異能は一条昴から奪った勇者の異能のみであった。
普通に考えれば、ひとつの世界で40人も召喚者がいるという、転生者・転移者・召喚者から異能を奪う事でしか強くなれない異世界渡航者にとってのボーナスステージでガッカリするような数字だが、フミコと寺崎歩美を強化できたからよしとしよう。
まぁフミコは異世界渡航者の力を強化しなくても問題はないのだが……
それに奪えた異能が1つだけとはいえ、唯一奪った勇者の異能はかなり強力であり、すでに保有している勇者の異能を大幅に強化できるはずだ。
ならば悪くはないだろう。
そうして、この世界にいた最後の召喚者から異能を奪い、召喚者がいなくなった直後だった。
ケティーとリエル、リトルトラベラーズの面々がいる自分たちの司令本部へと改造した監視塔に戻ろうとした時、自分とフミコ、寺崎歩美の目の前にアシュラが姿を見せた。
「つ!!」
「げ! こいつ!!」
「アシュラ!!」
その事に誰もが体をこわばらせ、警戒するが、しかし当のアシュラは飄々とした態度で笑ってみせると。
「よう、後輩。楽しい楽しいゲームが終わっちまったな? っつーわけでお待ちかねのゲームの結果発表だ! ひひ!」
そう言ってすぐに目を細め、低いトーンでこう口にした。
「ガッカリだぜ? 後輩……何やってんだお前、やる気あんのか?」
※リーナ、エマ、イレーナを主人公に据えたギルド内サークル<リトルトラベラーズ>の活躍を描いたスピンオフ作品「リトルトラベラーズ頑張ります!」は絶賛構想中です、いずれそのうちどこかのタイミングで(あ




