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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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断ち切るべき畏怖の念 (13)

 「アルティメット・ギガバイソン……これがココが自己進化(ボディーメイク)した姿か」


 そう口にした後、視線はココに釘付けとなった。

 とはいえ眩しいオーラが消えた後に現れたその姿は、しかし見た目はまったくと言っていいほど変化がない。

 見る人は見れば「え? あんな派手な演出しておいて変化なし? 一体何が変わったの?」と首を傾げるだろう。


 無理もない。何せこれまでのザ・マザー<激情態>は自己進化(ボディーメイク)するたびに見た目が大幅に変化してきた。

 であるならば、自己進化(ボディーメイク)は体全体の形状を大幅に変化させてパワーアップする秘術なのだと誤解してしまうだろう。


 しかし実際は、その場その場で最善だと思う姿に自身を変化させるという秘術であり、必ずしも姿形を大幅に変化させる必要はないのだ。

 現にザ・マザー<激情態>も人型に近いフォルムになってからはそれをベースとして変化し、大幅な姿形の変更を行っていない。


 つまりはこれ以上の外見の変化は必要ないと判断すれば、どれだけ自己進化(ボディーメイク)を行使しても外見は変わらないままなのである。

 では外見に変化がないならば一体何が変化するのか?

 それは言うまでもなく目には見えない部分だ。


 体内構造を変化させ、筋肉の配置、エネルギー効率などあらゆる面で自己進化(ボディーメイク)前よりも最適化された体へと進化する。

 そう、中身が完全に別物となっているのだ。

 だからこそ、鑑定眼で視るココのステータス値もとんでもない事になっている。


 とはいえ、以前からココは規格外であったが、もはやそういったレベルではなくなっているのだ。

 さすがはレベル:ビリオンの娘というべきか。


 そんなココを見て自分も負けていられないなと「混種能力:剣」を構え直そうとした時だった。


 「っ!!」


 体がぐらつき視界がぼやけた。


 (な、なんだ?)


 一体何がどうなったのか? わけがわからぬまま、その場に倒れてしまう。


 「カイトさま!!」


 そんな自分の状況にココが悲痛な声をあげてこちらに駆け寄ってくる。

 とはいえ、まだ戦闘は終わっていない。

 自分の事は気にせず母親との戦いに集中しろと言いたかったが、倒れた直後から体中が痙攣し、起き上がる事も言葉を発する事もできなかった。


 (くそ! 一体どうしちまったんだ? なんで体が動かない? 攻撃を受けたわけでもないのに……)


 そこまで思って、しかし肝心な事を思いだす。

 そう、すでにここに至るまでに自分は致命的なダメージを負っている事に。


 自分はすでに、ザ・マザー<激情態>の攻撃でアストラルシールドを砕かれた際にアストラル体を傷つけられているのだ。

 その事実がこの精神世界でどれだけの意味を持つか……その答えが今の自分の状況だ。


 (クソッタレが!! ここにきて動けなくなるとかそんなのありかよ!?)


 そう思いながらも、しかし一方でザ・マザー<激情態>はココが自身の手で倒さなければ意味がない相手だ。

 であるならば、むしろここで自分が戦線離脱した方がココのためになるのではないか? との考えも浮かぶ。


 いずれにせよ、こうなってしまってはアストラル体が完全に修復されるまで自分は動くことはできない。

 後はココ自らが母親に対する恐怖を克服し、畏怖の念を自らの手で断ち切ってもらうしかない。


 (頼むぞココ、君なら絶対に打ち勝てると信じてるからな!)


 そんな心の声が届いたかどうかはわからないが、心配そうな表情で駆け寄ってきたココは自分の体を抱え上げると。


 「カイトさま!! そんな……なんで!? あのクソ親に一体何をされたのです? カイトさま!! ココのカイトさま!! ココの声聞こえてますか? 聞いてくれてますか? 愛してくれてますか? 子作りしたいって思ってますか? ココを抱きたい触れ合いたいまぐわいたいって思ってますか? キスしたいって思ってますか? そうなんですね? ココとキスしたいんですね? 舌いれるキスしたいんですね? そうすれば治るんですね? わかったです!! ココ、愛するカイトさまのためにはりきっていっぱいカイトさまの事を想ってキスするです!! だってココはカイトさまのココですから!!」


 突然怒涛の勢いでそんな事を言って唇をつきだし顔を近づけてきた。

 おい、何言ってんだこのアルティメットギガバイソン、というか体が動かない抵抗できない体に何しようとしてんだやめろコラ! いくら精神世界とはいえこんな事フミコにバレたらどうなるかわかったもんじゃないからやめろ! というか戦闘中にこいつ何やっとんねん! やめろ! 無抵抗な体に変な事するんじゃない!

 あ、あー-----!!!


 思えば、ココと初めて会った時も、ギガバイソンから人間の姿になって自分に抱きついてきた時も勢いのままにキスされた事を思い出した。

 うん、ほんとどうしようこれ……


 そうして、フミコにバレたらどうなるんだ? と戦々恐々している脳内とは裏腹に、抵抗できない体はココの欲情に晒され続けてしまうが、しかしそんな目の前の戦闘を無視して暴走を続けるココを見てザ・マザー<激情態>の怒りが限界に達した。


 「この愚女め、よりにもよって私の目の前でそんなヒューマン風情といたりだすか!! どこまで私の神経を逆なでしたら気が済むんだ? あぁ!?」


 そう叫んだと同時、両肩から生える棘で覆われた触手の先が裂け、大量の牙を備えた蛇の口のような形態に変化する。

 そしてそれらは顎を開き奇声をあげてココを威嚇する。

 だが、そんな威嚇にココは動揺する事なく、弄んでいた自分の体をそっとやさしく地面に寝かせると。


 「うるさいなクソ親、今ココがココのカイトさまと愛を確かめ合ってるのに邪魔しないでほしいんだけど? 空気読めないわけ? ほんと、とんだクソ親子です。あれだけ子を孕め孕め口うるさく言ってたくせにココとカイトさまの子作りを邪魔をするとか頭沸いてるとしかいいようがないわ!」


 そう言ってゆっくりと立ち上がると拳を握りしめてザ・マザー<激情態>を睨み。


 「もういい加減うんざりだクソ親……もう二度とココとカイトさまの前に姿を現さないよう、ワンパンで粉々に砕いてやる」


 そう宣言した。

 そんなココの全身からは怒りに満ちた禍々しいオーラがあふれ出していた。

 それを見たザ・マザー<激情態>は一言「あ?」と不機嫌そうに口にすると鋭い眼光でココを睨み。


 「口の利き方がなってねーぞ愚女。てめー、誰に向かってもの言ってやがる? あぁ? ワンパンだ? はん! やれるものならやってみろや!!」


 そう怒鳴り散らした。

 これを聞いたココは小さくため息をつくと。


 「言われなくてもそうするさクソ親、いい加減子離れさせてやる」


 そう言って姿勢を低くし拳を握りしめて構え、その拳に体中からあふれ出す禍々しいオーラをすべて収束させる。

 そうして拳に強大なエネルギーが宿り、圧倒的な威圧感を放ってザ・マザー<激情態>にプレッシャーをかける。

 そんなココを見てザ・マザー<激情態>は舌打ちすると。


 「黙れ愚女、イキがりやがって……本当に神経を逆なでする事しかしないな、ならば望み通り殺してやる」


 そう言って両手を広げて姿勢を低くし、広げた両手をマグマ・エンヴェロップ・スライサーに変えて構える。

 さらには両肩から生える8本の触手も、そのすべてが大量の牙を備えた蛇の口の先からマグマ・エンヴェロップ・スライサーを生み出し、計10本の灼熱の刃を構えるザ・マザー<激情態>がそのすべてをココへと向け。


 「ここがおまえの墓場となるのだ」


 そう憎しみを込めて告げた。

 ココはそんなザ・マザー<激情態>を睨み返し。


 「口ばっか動かしてないで体を動かしたらどう? クソ親」


 言葉の奥底に怒りをこめて吐き捨てた。

 それを聞いたザ・マザー<激情態>が怒りで顔を歪め。


 「調子に乗るな愚女が!!」


 一瞬でココのすぐ目の前へと移動し、ココへと10本の灼熱の刃を叩き込む。

 だが、そんなザ・マザー<激情態>が放った攻撃など気にせず、回避もしようとせず、ココはただ目の前に現れたクソ親に向かって構えていた拳を怒りのままにシンプルに放つ。


 「ココとカイトさまの邪魔ばっかしやがって!! 迷惑なんだよクソ親!! さっさと自分の世界に帰りやがれ!! ココの邪魔をするんじゃねー-----!!!!」


 何か特別な武道の技術を用いたわけでもない。

 本当にただのシンプルな正拳突きだ。


 いや、正拳突きと言っていいのかもわからないくらいの本当にただの拳をふるっただけのパンチだ。

 そう、にも関わらず、その繰り出されたパンチから放たれた衝撃波は暴風を生み、目の前に迫っていた10本の灼熱の刃を尽く吹き飛ばし消滅させた。


 「なに!? そんなバカな!!」


 その事に驚くザ・マザー<激情態>の顔面に10本の灼熱の刃を消滅させたココの拳がめり込み、そして。


 「とっとと失せやがれ!!!」


 ココの怒りの叫びとともに拳はザ・マザー<激情態>を地平線の彼方へと殴り飛ばした。


 「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ザ・マザー<激情態>の叫び声が徐々に小さくなってやがて聞こえなくなり、その姿も地平線の彼方へと消えた。

 とはいえ、これで終わったとは思えない。

 それはココが一番よくわかっているだろう、だからココは足元からテニスボールほどの大きさの石を拾い上げると。


 「二度とココの前に姿を見せるな!!!」


 そう叫んでザ・マザー<激情態>を殴り飛ばした方向へと投げつけた。

 その投石は軍艦に搭載された速射砲よりも速い速度で地平線の彼方へと飛んでいき、地平線の向こうで大きな爆発音がしたかと思うと数秒後に巨大な煙が地平線の彼方に立ち上がった。


 それを見たココは「ふぅ」と小さく息を吐くと。


 「終わったです……これでもう、ココとカイトさまの邪魔をする愚か者はいないです」


 そう勝利を宣言した。

 ここに母と娘、パーフェクトギガバイソン・エクシードとアルティメット・ギガバイソン、人に愛するギガバイソンと娘を人以外の魔物と交配させたい母という究極の人型ギガバイソン上位種親子頂上決戦の幕は下りたのであった。

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