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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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断ち切るべき畏怖の念 (6)

 ザ・マザー<激情態>が放った衝撃波の刃によってアストラルシールドは搔き消された。


 「なっ!? まじかよくそったれが!!」


 なので慌ててアストラルシールドを展開しようとするが、それと同時にアストラルシールドが消滅した事によって、ザ・マザー<激情態>が放った衝撃波の刃の余波とも言うべき、衝撃波の刃が通り過ぎた後に発生した暴風に抗う間もなく吹き飛ばされてしまう。


 「おわ!?」

 「わわ!? か、カイトさまー--!!」


 そして、吹き飛ばされたのは自分だけではなかった。

 ココも同じく暴風に吹き飛ばされ、宙を舞っていた。


 「くそ! ここで離れ離れになるのはまずい!! ココ!! 手を伸ばせ!! はやく!!」

 「はいですカイトさま!! ココを助けて!!」


 暴風に吹き飛ばされてバラバラになるのを避けるため、ココへと手を伸ばし、それを見て同じくこちらへと手を伸ばしたココの手を取ろうとするが、しかし……


 『おいおいおい、吹っ飛んだ物干しざおがお空で余裕かましてんじゃねーぞ? 目障りだ!! 突き落としてやる!!』


 ザ・マザー<激情態>が怒り心頭といった具合で怒鳴り、その背中の4つの翼を激しくバタつかせた。

 すると直後、吹き荒れていた暴風がさらに勢いを猛烈に増していき強烈な嵐となる。


 「な、なんだ!? 風の勢いが!? 突風ってレベルじゃないぞこれ!!」


 その勢いは留まる事を知らず、一瞬で1キロほど流されてしまった。

 そして、当然ながら、あと少しで手が届きそうだったココは風に流され真逆の方向へと飛ばされていく。


 「カイトさまー------!!!!」


 ココの叫び声はすぐに風の音に掻き消され聞こえなくなり、その姿も一瞬で小さくなって見えなくなった。


 「ココーーー!!! くそ!! あと少しだったのに!!」


 思わず歯噛みして拳を握りしめるが、そうしてる間にも体は暴風で上下左右に激しく揺れながら猛スピードで飛ばされていく。

 体全体が激しくシェイクされていうるような感覚で目が回るのは当然の事、堪える事もできず飛ばされながら嘔吐してしまう。


 しかし不幸中の幸いか、激しい風にシェイクされているおかげで嘔吐物はすぐに飛び散り、意外にも服につく事はなかった。

 そんなところで運を使わなくてもいいのにと思いながらも、何とか体勢を立て直そうと飛行魔法を行使するが、バランスを取る事ができなかった。


 (くそ!! この暴風のせいか? 一体どれだけの風速出てるんだよ!?)


 暴風のせいで飛行魔法も安定せず、どこに飛ばされるかもわからない状況にも関わらず、ふとそんな疑問が沸いたので、鑑定眼を発動し周囲を見回す。

 本来、鑑定眼に気候情報を見る機能は存在しないが、しかしここは精神世界、心の持ちようがすべてを決する世界だ。

 ならば鑑定眼でも「そういった情報が視れる!」と強く思いこめば、この場に限って言えばそういった機能が追加されるわけである。


 そうして見回した鑑定眼には現在の状況が表示された。

 そこには……


 「……は? まじかよ!? あいつ台風でも引き起こしたっていうのか?」


 とんでもない数値が表示されていた。

 最大瞬間風速115m、中心気圧860hPaと……


 近代化し、正式な計測が可能となり統計が開始された明治時代以降の日本で過去最大の被害をもたらした台風は1959年に発生した伊勢湾台風だ。

 この台風災害史上最悪の死者、負傷者、行方不明者をだした台風の中心気圧は895 hPa、最大瞬間風速は75mであった。

 そんな台風よりも表示された数値は強力だと告げている。


 (クソッタレが!! 超強力な台風を発生させるとか規模がおかしいだろ!! 個人に対する攻撃の域を超えてるぞ?)


 そう思いながらも、しかしここが精神世界である以上、心の持ちよう次第では誰にでもこの規模の攻撃は放てる可能性がある事を深く噛みしめ。


 (だからこそココにもこれくらいはやってもらわないと、暴走した迷宮の核に囚われたままになってしまうぞ)


 補助魔法で飛行魔法と風魔法を強化し、ようやくその場に留まる事ができた。


 「ふぅ……なんとか止まったが……しかしこの嵐、どうする? 一体暴風域はどれだけの範囲なんだ? というか一体どれだけ飛ばされたんだ?」


 そんな事を思いながら、無駄だとわかっていても大声で叫ぶ。


 「おーい!! ココーーー!! どこだー-? 返事しろー--!!」


 だが当然ながら返事は返ってこない。

 というか風の音ですべて掻き消されて、たとえココが返事をしていても現状聞き取る事はできないだろう。

 思わずため息がでてしまった。


 「はぁ……まぁ、ここはココの精神世界なんだから万が一にもココに命の危険はないだろうけど……それにしたってこの嵐は邪魔だな。まずはこれをどうにかしないと」


 そう思って目の前の光景を直視して思わず苦笑してしまう。


 「いや、どうにかしないとって……どうすんねん、これ」


 かつて台風を人工的に消滅させたり、人の手によってコントロールしようという研究がなされた事があった。


 1947年、アメリカが巻雲計画という航空機からドライアイスを撒いてハリケーンを制御しようという実験を行っており、雲の形状が変化した事が報告されている。


 また1969年にはハリケーンの中心に形成される壁雲に航空機からヨウ化銀を散布し、直後にハリケーンの風速が約30%軽減したという報告が残っている。


 ただし、この結果が人工的な介入によるものの影響なのか、介入しなくてもハリケーンの勢力は弱まったのかの判別はできず、効果判定が難しいため人工的に制御できるかどうかの結論はでなかった。


 とはいえ、現在進められている人工的に台風を制御しようというタイフーンショット計画の中身は、いくつかのアップグレードはあるものの、かつてアメリカが実施した実験とほぼ同様の内容である。

 結局のところ、大型台風を制御する事を可能とするだけの物量と予算を確保できるかどうかという話なのだ。

 それさえ確保できれば、今後の技術発展によって台風を制御するというのも夢物語ではなくなるかもしれない。


 そして、その方法は台風のエネルギー源である水蒸気の供給を建つ事。

 この流れ込む水蒸気をどうにかできれば台風はエネルギー源を供給できず弱まるのである。


 (まぁ、仕組みが分かっていても、それを実行できないから机上の空論なんだがな……ドローンをいくつか召喚してインパクト物質を投下させる手もあるが……ココの母親を模した敵が黙ってないだろうな)


 そう思い、少し考えた後。


 (成功するかどうかわからない……下手したら乗っ取られてさらに事態を悪化させる可能性もあるが……一か八か賭けてみるか!)


 ひとり頷いてアビリティーチェッカーが装着されたアビリティーユニットを手に取り。


 「一か八かじゃないな……ここは精神世界、心の持ちようがすべてを決する世界だ、だったら強く思わないとな!! これでいけると!!」


 そう力強く口にして、アビリティーチェッカーの液晶画面上に投影された「混種能力:超巨大積乱雲」のエンブレムをタッチする。


 『ability blend……supercell』


 アビリティーユニットが音声を発し、直後、アビリティーチェッカーの液晶画面上に投影されていた「混種能力:超巨大積乱雲」のエンブレムがどんどん巨大化し、雲頂高度が上空30kmまで達する規模に発達した超巨大な積乱雲群となって周囲一帯を飲み込んだ。


 そんな超巨大積乱雲を見上げてニヤリと笑う。


 「さて、それじゃ力比べといこうか!! 俺のスーパーセルと伊勢湾台風超えの嵐、どっちが上かってな!!」


 「混種能力:超巨大積乱雲」が発動し、そして強力な嵐同士の衝突がはじまる。

 科学的にこれが正しいかはわからない。

 もしかしたら学者にはバカにされて笑われるかもしれない。

 というか、確実に笑われるような気がする。


 けど……ここは現実の世界じゃない。

 そう、ここは精神世界、心の持ちよう次第ですべてが決する世界だ。


 だからこそ、こちらの思いが強ければ必ず届く!

 必ず勝てる!


 そうして嵐が去り、空が晴れた。


 「どうだ見たか! クソッタレが!!」


 そんな晴れた空を見上げ、自然と言葉が漏れていた。

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