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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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断ち切るべき畏怖の念 (5)

 ザ・マザー<激情態>が両目から放ったレーザービームをこちらに放った直後。


 (体は動かないが……やれるか!?)


 その対抗策として闇魔法のダークミストを放つ。

 確かに体は動かないが、異能を行使する事は可能である。

 なので、この相手の攻撃を飲み込み、そのまま相手へと跳ね返す事が可能な闇魔法を放ったわけだが、しかし……


 「っ!!」


 ザ・マザー<激情態>が両目から放ったレーザービームはダークミストをあっさりと蹴散らしてしまった。


 「やっぱりただの闇魔法じゃどうにもならないか……だったら!!」


 バブルの異能によって強固な泡を生み出してその中に入り、さらに泡の外側を錬金術によってより強固な外壁で包み込み、その強固な外壁を土魔法で生み出した硬質な岩石で覆い、それをさらに何重にも展開した魔術障壁で取り囲んで、その外側に爆発反応装甲を無数に設置。

 それと同時に補助魔法によって自分とココの防御力を底上げする。


 体が動かないため、アイテムによる防御力底上げのドーピングはできないが、ユニットリンクのおかげで補助魔法の効果はいつもの倍以上であった。

 何よりここは精神世界、心の持ちようがパラメーターの上昇に大きく作用する世界だ。

 ならば自分自身がネガティブにならない限りは効果は絶大ははずである。


 (あとは……試してみるか!)


 さらにアストラルシールドを展開し、これをココにも()()する。

 本来、アストラルシールドは自身の内側にあるアストラル体を活性化させ、自分以外には認識する事ができない、視認できないオーラで自身の体を包み込む上級ランクの魔術障壁だ。


 ゆえにアストラルシールドは術者にしか視認する事がでず、術者本人にしか効果を発揮しないが、他人のアストラル体とパスを繋ぐ事でパスを繋いだ相手にもアストラルシールドの効果を共有し、尚且つパスを繋いだ相手のアストラル体も使ってアストラルシールドをより強化できるようになったのだ。

 とはいえ、この技術は本来の魔術障壁の異能にはない技術である。


 このアストラル体の共有とアストラルシールドの強化を可能とした異能の名は「共鳴」

 とある異世界でとある国の大総統となった転生者から奪った異能である。


 その転生者はこの「共鳴」の異能を使って仲間や賛同者を増やし、とある国の大総統へと登りつめていた。

 この「共鳴」という異能は、言うなれば簡易版ユニットリンクシステムといったところであり、ユニットリンクほど繋がった相手同士の能力値が向上するわけではないが、共鳴し繋がった相手の隠れた特性を深く繋がれば繋がるほど引き出す事ができるのだ。


 とはいえ、共鳴するためにはまず互いの信頼関係がある事が絶対条件なのだが、実際は信頼関係を構築できなくとも、相手に共感させる事ができたら簡易的な異能は発動するらしい。

それが「共鳴」が完全に発動する前の段階の異能である「共感」であり、その転生者が大総統に選任されるまでの選挙戦ではほぼこの「共感」しか使っていない。


 「共感」によって広く浅く国民の心を掴んだその転生者は大総統を決める最後の決戦投票を対立候補と機械審査で争う事になった。

 その国では国のトップである大総統を全国民の投票による直接選挙で選び、決定するが、しかしごく稀に複数の候補者の得票数が同率という事態が発生する。


 そして、その転生者が争った選挙においても、それが発生した。

 相手は名家の当主であり、長年議会の議長を務め、国民のためを思う政策を実行してきた(と表向きはなっている)政党を率いてきた党首。

 当然ながら国民の幅広い層から熱い支持があり、特に保守層、中道右派からの信頼は厚く盤石、そう思われていた……

 だが、結果は彼と転生者との決選投票による一騎打ちへと持ち込まれたのだ。


 これは転生者が「共感」によってその強固な牙城を切り崩せたのが大きいだろう。

 さらに転生者が一部の国民の現保守派に対する不満の受け皿となり、この層の票を丸々取り込めたというのも支持率をあげる追い風となった。

 こうして得票数が拮抗して同率となったわけだが、ならば全国民による再度の信任投票が行われるのではないか? と思うかもしれないが、この国はそれをしない。


 再度の投票は莫大な予算と時間もかかり政治空白も生まれる。はっきり言ってコスパが悪いのだ。

 何より今更大きな政策転換、方針転換、マニフェストの大幅な変更でもない限り、再投票前の論戦を見てもらっても意味を成さない。

 そんな状態で全国民に決選投票のための再選挙をおこなえば、相手陣営の票の切り崩し工作という名の賄賂が横行し、国と政治が腐敗してしまう。


 それを避けるため、決選投票による一騎打ちが実施される事態となった場合は、政府の意思からは完全に独立した高度なAIによる候補者2名の機械審査が行われ、そこでAIによってどちらが大総統にふさわしいか判断されるのである。


 これは一見すれば人がAIに支配されているように、AIの言いなりになっているように見えるかもしれないが、そもそもこの機械審査は得票数が同率の候補者が現れて選挙では決まらなかった時にしか使用されないし、その厳正な審査を行うAIの思考回路も、国民の世代ごとの感情や関心事、トレンドを学習させて作られたものだ。

 だからこそ、ある意味では国民の総意を担っていると言えるが、だからといって最終的な判断を本当にAIに任せていいものなのか? というのは今なお学会や国会において議論が続いている議題である。


 とはいえ、このAIはハッキングなどできない強固なセキュリティーに守られているのだが、そんなAI相手であっても「共鳴」の異能は作用した。

 それがAIやプログラミングされたシステム、機械と繋がり、心を通わせてこちらへと取り込む「共振」だ。


 この「共振」は「共感」と同じく広く浅い繋がりしか持てないが、それでもAI相手に「共感」と同様の効果が得られるのは大きい。

 そうして「共振」によって政府の意思からは完全に独立した高度なAIを味方につけた転生者は大総統に任命されたわけだが、ここから「共鳴」の異能が本領を発揮する。


 自らの政権を発足させた転生者は「共鳴」によって繋がった仲間の秘めたる才能を知り、それに似あった閣僚のポストや活躍できる場を的確に提供する事ができた。

 「共感」と違い「共鳴」はより狭く深く相手を知る事ができる。

 だからこそ、裏切りの兆候があればすぐに察する事ができるし、たとえ政敵であってもパスを繋げられればその思考を読み解き、適切な誘導によって賛同する仲間に変える事ができた。


 そうしてその転生者は長期政権を築いていたのだ。


 そんな「共鳴」を使い、ココとパスを繋いでアストラルシールドを強化したわけだが、しかし、どれだけ防御を固めても、究極を超えていると自負するザ・マザー<激情態>の攻撃は防ぐ事はできなかった。

 ザ・マザー<激情態>が両目から放ったレーザービームはあっさりと無数の異能が重なり合ってできた防御の殻をあっさりと破壊、そのまま動けない自分とココを貫き、大爆発を起こした。


 「うわっ!?」

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 爆発に巻き込まれそのまま数十メートル吹き飛び地面に激突、そのまま地面を転がり数メートル進んだところで仰向けの状態で止まった。

 とはいえ、アストラルシールドを展開していたおかげか自分もココも目立った外傷はなかった。

 そんな自分たちに向かって追い打ちをかけるようにザ・マザー<激情態>は背びれを眩しく光らせると、その背びれの光を尻尾へと移す。

 それはまるで背びれのエネルビーを尻尾に集めているかのようであった。


 そしてこちらに背を向け、眩しく光り輝く尻尾を一振りすると、尻尾の先から広範囲に強力な衝撃波の刃が放たれた。


 「っ!?」


 その衝撃波の刃は一瞬で精神世界の景色をガラリと変え、そして自分とココのアストラルシールドを掻き消した。

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