表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
7章:運命の乙女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/537

運命の乙女(6)

 FN P90。

 それは近年登場した銃器カテゴリーであるPDW(個人防御火器)を代表する銃器と言える。

 そもそもPDWは近年登場したカテゴリーゆえに、まだまだ区分が曖昧だ。


 特徴としてはサブマシンガン以上、ライフル未満といった所である。

 サブマシンガン(短機関銃)と違うところは、短機関銃が拳銃用の弾丸を使用するのに対してPDWは拳銃用の弾丸ではなく専用の弾丸を使う。

 それゆえに拳銃弾との互換性はなく、調達や持ち運びに手間が生じるが、ライフル銃より携帯しやすく、短機関銃のように片手での対応が可能、さらに短距離でなくともボディアーマーに対して強力な貫通力を持つというところで特殊部隊や狭い施設の強襲部隊に制圧部隊、警察の機動化部隊などで重宝されている。


 日本での認知度で言えば1996年に発生した在ペルー日本大使公邸占拠事件におけるペルー軍の突入部隊がP90を使用していたのが最も有名だろう。

 発射速度は毎分900発、とはいえ弾倉には50発しか弾丸は装填できない。


 しかし、アビリティーユニットのPDWモードに弾倉の装填作業という概念は存在しない。

 まるでFPSやガンシューティングゲームのように、50発を撃ち切れば軽い動作で最装填され無限に撃ち続ける事ができる。

 ここらの理屈はわからないが、カグによるとそういう事らしい。


 なので恐るべき速さで突っ込んでくるシャルルに向かって遠慮なく撃ちまくる。

 トリガーハッピー状態とまではいかないが、ライフルと違って発射反動が小さく撃ちやすいため気兼ねなく引き金を引ける。


 高速で撃ち出される弾丸にシャルルは一瞬驚きながらも、足を止めることなく突っ込んでくる。

 普通に考えたら銃口を向けられて連射されたら、まず遮蔽物に身を隠して弾丸の雨が止むのを待つだろう。

 しかし、シャルルはそれをしなかった。


 まるで鴨が葱を背負ってくるような状況だが、これは知識の差かもしれない。

 この異世界の文明レベルは産業革命あたり、地球で考えればその当時の銃はボルトアクション方式も登場していたが、基本連射できる速度は速くない。


 装填できる弾数も少なく、連射の速度が速ければ速いほど、すぐに弾を装填する作業に追われる。

 つまりは隙が生じるという事だ。


 当然、この当時でも機関銃は存在する。

 何せ産業革命によって、こういった火器の進化が加速していくのだから。

 しかし、当時の機関銃は重機関銃で水冷式、つまりは水で常に冷やしていないと撃てなくなる代物だ。

 よって必然的に巨大化し、気軽に持ち運んだり、持ち上げて撃ったりはできなかった。

 いい例がマキシム機関銃やヴィッカーズ重機関銃だろう。


 これらの重機関銃は水冷式のため水の持ち運びは必須。

 さらに銃身を冷やすための冷却水はすぐ蒸発するため、戦場で連続で使用するには常に水の補給が必要となる。

 そして厄介な事にどれだけ水で冷やそうと数百発撃つごとに銃身の交換が必要となり、銃弾もすぐに撃ち尽くすため弾薬の補給は欠かせない。

 そのため運用するには1丁の重機関銃に数名の人員が必要だった。ゆえに機関銃は数名で構成される機関銃分隊で運用された。


 それ以前から存在するガトリング砲やミトラィユーズ砲も似たようなもので、基本連射や斉射が行える銃は単独では扱えないのだ。


 だからこそ、シャルルには小柄で個人で持ち運べる短機関銃という存在がわからない。

 きっと1回限りで無数の弾丸を一気に撃ち尽くす銃という認識をしたのだろう。

 だから進軍しても問題ないと踏んだのだ。


 だが、当然PDWはそんな代物ではない。

 無限にリロードできるとなれば尚更だ。

 だからP90が撃ち出す弾丸は容赦なくシャルルに弾丸の雨を浴びせる。


 しかし、シャルルは弾丸の雨に倒れる事はなかった。

 両手を前に突き出してジャマダハルを盾代わりにし、弾丸の雨を受け止める。


 しかし、P90の弾薬は5.7x28mm弾という小口径ながら、その独自の構造や発射速度と相まってライフル銃並の貫通力を持つ。

 シャルルが盾代わりとしたジャマダハルはすぐに砕けて粉砕されてしまう。


 シャルルは驚いた表情をするも、すぐに砕けたジャマダハルを捨てると地面を蹴って後ろに下がり距離をとる。

 その距離はP90の射程内であったが、一旦撃つのを止める。


 銃口はシャルルに向けて、ドットサイトスコープ越しに姿を確認し次の行動に備える。


 (何だかんだで奴は背徳の女神への糸口だ。背徳の女神か運命の乙女、どちらかが異世界転生者か召喚者である以上は殺さずに情報を吐かせる必要がある!)


 銃口を向けられたシャルルは一瞬強張った顔をしたが、すぐに表情を緩めて笑う。


 「ふふ……まったく、それ本当に銃? それも運命の乙女の取り巻きの力なのかしら?」

 「さてな? そういうお前も人間離れした動きをしてるが?」

 「ふふ……そうかしら? まぁ、背徳の女神から頂いた力ではあるかしら?」


 そう言って、妖艶な笑みを浮かべてシャルルはメタリックな球を手に取り握る。


 「スチーム、オン」


 つぶやいた直後、球からカチっと音がして蒸気が噴出しシャルルの全身を覆う。

 それを見てより一層警戒を強める。

 今までの流れからいって、あの蒸気が噴出した直後に恐るべき速度の突撃を繰り出している。


 しかし、今回はそれはなかった。

 すぐに蒸気は消え去り、シャルルの姿が浮かび上がる。

 その姿はさきほどまでと、少し様相が違っていた。


 体のラインがわかるピッタリとしたタイトな黒いインナースーツの上に何重にもベルトのようなものを巻き付けた格好だったシャルルだが、その身体中に巻き付いていたベルトに無数のホルスターがついており、そこに柄が短い小型斧、ハチェットがいくつも納められていた。


 「さて、じゃあ続きといきましょうか?」


 そう言ってシャルルは無数のホルスターに納められたハチェットの中から両腰にある2本のハチェットを両手で引き抜くと、躊躇う事なくこちらに投擲してきた。


 「おわ!?」


 恐るべき速度で飛んできたハチェットを慌ててかわす。

 そんなこちらの様子を見てシャルルは口元を歪ませる。


 「ふふ……今度はこちらの番のようですわね?」


 言ってホルスターから次々とハチェットを引き抜いてはこちらに恐るべき速さで次々と投擲してくる。

 それらは正確にこちらへと向かってくるため、慌てて街灯の影に隠れる。


 「くそ! 立場が逆転してるじゃねーか!!」


 叫んで、しかし合間を縫って反撃の射撃を放つが、すぐにハチェットが飛んでくるため連射ができない。


 「フミコ!! 無事か!?」

 「うん! 大丈夫だよ!!」


 街灯に隠れながら叫ぶと、別の街灯の影に隠れていたフミコが答える。

 なんとかフミコと連携をとって押さえ込むしかないが、シャルルの投擲攻撃はそのタイミングを掴ませてはくれない。


 (くそ! どうする? このままじゃ、この街灯も壊されかねないぞ?)


 こうしてる今もシャルルはハチェットをこちらに投げ続けている。

 というか、そんなにハチェットってあったか? いくら体中のベルトにホルスターがついているとはいえ、明らかに数がおかしくないか?

 そう思ってちらっと街灯の影から顔を出してシャルルのほうを見ると、ハチェットを引き抜いたホルスターにどこからか新たなハチェットが出現して補充されるという現象が起きていた。


 (おいおいおい、そんなのありかよ? 弾が自動リロードできる身で言うべきことじゃないかもしれないが)


 向こうも自動でリロードできる以上、投げるハチェットが底をつくのを待つという手は使えない。条件は対等というわけだ。

 なら無理にでも仕掛けないとダメだろう。

 意を決してP90の外装をパージしてPDWモードを解除する。


 「フミコ!! いけるか!?」

 「かい君が望むならいつでも!!」

 「よし!! 仕掛けるぞ!!」


 叫んでアビリティーチェッカーをグリップに装填、液晶画面上にエンブレムが複数浮かび上がる。

 時を同じくフミコも銅矛から銅剣に武器を持ち変える。

 そしてフミコは2本の銅剣を重ね合わせ枝剣を生み出すと緑色の大蛇を召喚する。


 「いっけー!!」


 フミコは叫んで6匹の大蛇をシャルルへと放つ。

 それを見たシャルルはハチェットの投擲攻撃を大蛇へと連続して放った。


 シャルルの注意がフミコの放った大蛇たちに向いたその隙を見逃さず、街灯の影から一気に大通りへと飛び出す。

 そしてシャルルへと向かって一気に駆ける。


 走りながらアビリティーチェッカーの液晶画面上に浮かび上がった複数のエンブレムの中から斧のエンブレムをタッチする。


 「斧には斧で対抗ってな!!」


 叫ぶと同時にグリップの周囲の空間に紫電が迸り、何もない空間に柄が半透明に浮かび上がる。

 やがてそれは完全に物質化し一気にグリップの元へとくっついていく。

 そして柄の先に紫電迸る光の刃が出現する。


 それは極寒の異世界で喜多村卓也(きたむらたくや)から奪った聖斧の能力。

 それを使用する際のアビリティーユニット・アックスモードの姿だった。


 「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 アビリティーユニット・アックスモードを大きく振りかぶり、シャルル目がけて振り下ろす。

 これをシャルルは両手にハチェットを構えて受け止める。

 しかし……


 「なんですって!?」


 シャルルが驚いてハチェットを手放し、慌てて後ろに下がる。

 アビリティーユニット・アックスモードは光の刃からもわかる通り、基本的にレーザーブレードと同じくレーザーの刃だ。

 故にハチェットをあっさりと焼き切ったのだ。


 シャルルは舌打ちして新たにハチェットをホルスターから抜き取るとこちらに投擲してくるが、これを聖斧の力で受け止める。


 タクヤが使っていた聖斧の属性は土。岩や地面を自在に操る能力を持っている。

 アックスモードのレーザーの刃を地面に突き刺すと地面が盛り上がって壁となった。

 シャルルの放ったハチェットはこれにあっさりと弾かれてしまう。


 「ち! 面倒ね!!」


 シャルルが舌打ちしてさらにハチェットを投げ放ってくるが、それらをすべて壁は弾く。


 「さぁ、今度はこっちの番だ!!」


 アビリティーユニット・アックスモードを大きく振りかぶり、そのまま壁に叩きつける。


 「ストーンブラスト!!」


 アビリティーユニット・アックスモードに叩きつけられた壁はそのまま無数の石の飛礫となりシャルルへと襲いかかる。


 「ぐはぁぁぁ!!!」


 シャルルはこれをかわす事ができずにまともに食らって後ろへと大きく吹き飛んだ。

 その際にメタリックな球を落としてしまう。

 シャルルの懐から落ちたそれは、そのまま地面を転がりこちらの足下まできて止まった。


 「こいつは……」


 気になってそのメタリックな球を拾い上げる。

 見た感じ銀色のただの球のように見えるが、これの正体はなんだろうか?

 あぁも何度も蒸気を生み出せる代物とは一体……


 するとストーンブラストをくらって吹き飛び、倒れていたシャルルが弱々しくも起き上がってこちらを睨む。


 「やめ……なさい。それは……あなたに扱える代物……じゃない」


 ハチェットを杖代わりにして起き上がろうとするシャルルだったがうまくいかず、再び倒れてしまう。

 それでも、こちらを睨む事をやめない。


 そんなシャルルを見てため息が出た。

 やれやれ、これはもうこれ以上の戦闘は無理だな……

 このメタリックな球が何なのかも含めて情報を吐かせるか。


 そう思ってシャルルへと近づこうとしたその時だった。

 シュンと何かがこちら目がけて飛んできた。


 「かい君危ない!!」


 フミコが叫び、緑色の大蛇が自分の目の前に盾になるような形で身代わりとなる。

 その大蛇にまるでクナイのような刃物が突き刺さる。


 「な!? どこから!?」


 アビリティーユニット・アックスモードを構えて周囲を警戒する。

 フミコもこちらに駆けつけて周囲を見回す。


 すると、大通りの先から誰かがこちらへとゆっくりと歩いてくる。

 その姿はどこか少女のようだった。


 こちらへと近づいてくるにつれ、容姿もはっきりしてくる。

 格好はシャルルと同じく体のラインがわかるピッタリとしたタイトな黒いインナースーツの上に何重にもベルトのようなものを巻き付けたもので、その身体中に巻き付いていたベルトにはシャルル同様、無数のホルスターがついている。


 そのホルスターには投げナイフや細い針、クナイ、トゥルス、ダガーナイフなどがが収まっていた。

 さらに両手にはククリナイフのような形状の武器を手にしている。


 短髪ながらもちょこんと後ろ髪を括った小柄な少女は倒れているシャルルの元までくるとため息をつく。


 「一体何をやっているのですかシャル?」

 「ふふ……ほんの少し油断しただけよ?」

 「その割にはかなりダメージを受けてるようですが?」


 言って小柄な少女はこちらを睨む。


 「さて、シャルをこんな目にあわせた以上、運命の乙女陣営から奪い取るにしてもただでとはいきませんね? 生死の境を彷徨うくらいまでは痛めつけないと気が済みません」

 「言いがかりだな? 仕掛けてきたのはそっちだぞ?」


 あと俺は運命の乙女の取り巻きじゃねー! と言おうとしたが、情報が聞き出せるチャンスかもしれないからあえて否定はしない事にした。


 「ふん……どうとでも言えますね?」

 「聞く耳なしかよ! てめーは一体何だ?」

 「私ですか? 私はソナタ。背徳の女神直属の部隊「トリニティーブラッド」に属する者です」


 そう言ってソナタと名乗った少女は姿勢を低くしククリナイフを構える。

 次の瞬間、地を蹴って目にも止まらぬ速さで斬りかかってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ