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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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断ち切るべき畏怖の念 (3)

 隣に立つココと共に目の前の倒すべき敵を見据える。

 その姿はココにとっての畏怖の対象である彼女の母親の姿を模しており、時間が経つにつれてより一層、威圧感を増していく。


 『倒す? 倒すだと? 一体誰をだ? まさか……この私をか?』


 そんなココの母親の姿を模した敵、暴走した迷宮の核はそう口にして少しイラついた表情で尋ねてきた。

 これに対しココは怒り心頭といった具合で中指を立てると。


 「そんな事もわからないのか? です、このクズ親! 理解力がないならとっとと自分の世界に帰るです! というか帰れ!!」


 そう吐き捨てた。

 そんなココに彼女の母親の姿を模した敵は。


 『あぁ? 少し黙っていろこの愚女が!! 弱い分際でいちいち吠えるな!! 耳障りだ!!』


 凄みを増した表情で怒鳴りつける。

 怒鳴られたココはさきほどの威勢はどこへ行ったのか、ビクっと震えると。


 「ひっ!! か、カイトさま助けて!!」


 そう言ってこちらの背中の後ろに隠れた。


 「ココ……」


 そんなココの行動に思わず苦笑いしてしまうが、その様子を見ていたココの母親の姿を模した敵はこちらの背後に隠れたココの事は無視して、まるで値踏みするかのようにこちらをじっと見て、頭のてっぺんから足の爪先までまじまじと観察した後、鼻で笑うと。


 『はっ! なんだ大した事ないなヒューマン』


 そう評価を下して嘲笑するような表情を見せた。

 その言葉に思わず苛っとしてしまう。


 「あ? 今ので何がわかったってっていうんだ? 気持ち悪い視線をこっちに向けただけだろーが!」


 なのでそう言い返すとココの母親の姿を模した敵は鼻で笑い。


 『わかるさヒューマン、お前からは強者が無意識のうちに周囲に放つ圧というものがまるで感じられない。近づいたら怪我をすると一発でわかるような肌を切り裂く刺々しさがまったくこれっぽっちもない。言うなれば至って平凡……凡人だ。いや、それすらも過大評価か……そうだな、はっきり言ってお前は三下以下だ。よくもまぁ、その程度で私を倒すなどと戯言を言えたものだ。思い上がりも甚だしい。身の程をわきまえろヒューマン風情が!』


 そう言ってこちらを指差してきた。

 何とも言いたい放題言ってくれるもんだと若干頭にきたが、しかし何かを言い返す前に、背後に隠れていたココが怒り心頭といった具合で顔を出すと。


 「カイトさまの事を何も知らない分際で適当な事言うなです!! カイトさまが三下以下? 笑わせるなです、このクソ親! 見る目ないですか? これだから世間を知らない野生の獣は困るのです! 少しは檻から出て外の世界を見て、上には上がいるって事を知るのです」


 そう吐き捨てて、挑発するようにべーっと舌を出して見せた。

 それを見たココの母親の姿を模した敵は顔を引き攣らせ。


 『あ? 今何つった愚女……もっぺん言ってみろ!』


 そう凄みを増した声色でココを睨みつける。

 睨まれたココはすぐさま怯えた表情となり再び自分の背後に隠れてしまった。

 そんなココをちらっと見て少し考えてしまう。肝心のココがこんな状態で畏怖の克服などできるだろうか? と……


 (これは少しアプローチを変えないとダメか?)


 そう思った時だった。

 ココの言葉にブチ切れたココの母親の姿を模した敵は。


 『もういい愚女、どうやらもう一度徹底的に躾け直さないといけないようだ……そのヒューマンを殺してお前を連れ帰り己の立場をわからせてやる』


 そう言うと拳を握り、力を込めるとその全身から禍々しいオーラが一気にあふれ出し、ココの母親の姿を模した敵の外見を変化させていく。


 「な、なんだ!?」


 その光景を見て何かの攻撃の前兆か?と警戒し、魔術障壁を展開するが、しかしビクビクと震えて自分の背後に隠れているココはちらっと顔を覗かせてその光景を目にし。


 「ひっ!!」


 怯えた声をあげると、ガクガク震えながらこちらの服の袖を掴み。


 「カイトさま、あれ自己進化(ボディーメイク)です! ヤバいです!!」


 そう訴えてきた。

 とはいえ、自分にはその自己進化(ボディーメイク)というものがなんなのかさっぱりわからない。

 なのでココに尋ねてみる。

 するととんでもない言葉が返ってきた。


 「自己進化(ボディーメイク)? なんだそれ?」

 「より戦闘に特化した姿をデザインして、自らの体を強制的にデザインした姿に作り変えて無理矢理進化する秘儀です。種族の中でも上位の……というかクソ親たちにしか使えないヤバいやつです!!」

 「……まじかよ」


 それを聞いて、ココの母親の姿を模した敵のほうを見ると、全身からあふれだした禍々しいオーラがその全身のフォルムをまるで粘土でもこねるかのように変化させていた。


 ギガバイソンが2本足で立っているという印象だった外観は、完全に2足歩行の生物のフォルムに変化し、尻尾も伸びてより長くなった。

 背中から生える背びれはより鋭利で棘々しい形状に変化し、さらには巨大な竜の翼のようなものまで生えだした。

 それは肩の後ろあたりと腰あたりにそれぞれ上下左右に出現し、4つの翼を有する。


 そして増えたのは翼だけではない、頭部の角も更にもう1本生え、計3本の角を頭に有する姿となった。


 完全に2足歩行を前提とする姿へと変化したため、どことなく全身がスマートになったような印象を受ける。

 恐らくはあれがデザインされた、より動きやすく、快適化された姿という事なのだろう。

 しかし、その形状か変化し終えても全身からあふれ出す禍々しいオーラは、まるでス〇パーサ〇ヤ人のように体の周囲に放出されたままだった。


 そんな自己進化(ボディーメイク)し終えたココの母親の姿を模した敵を恐る恐る鑑定眼で覗いてみる。

 すると、とんでもないステータス値が表示された。


 「なっ!? なんじゃこりゃ!?」


 そのステータス値はすべての項目が測定値を振り切れ、すべて計測不能となっていた。

 レベル差がありすぎてすべての項目が???となっていたハーフダルムやアシュラとはまた違った種類の脅威であり、衝撃を受けてしまう。


 そしてトドメはそのレベルの数値だ。

 鑑定眼で表示されたそのレベルはこう表記されていた、ビリオンと……

 レベル:ビリオン。つまりは10億……まったくもって理解が追いつかなかった。


 「冗談だろ? こんなの見た事ねーぞ……レベル:ビリオンってなんだそりゃ? 10億なんてそんなのありかよ!」


 思わずそう口にするとココの母親の姿を模した敵はニヤリと笑い。


 『どうした? 身の程がわかって身が竦みだしたか? 私のこの進化した姿を見て。恐怖したか? 絶望したか? 万が一にも勝てる見込みがないとこの強者の放つ圧を感じて。逃げ出したくなったか? 命乞いをしたくなったか? 己に待ち受ける運命を感じて。まぁ、気を落とすな。弱者が強者にそれを感じるのは至極当然の事だ」


 そう言うとその手に高密度の禍々しいオーラを圧縮して具現化し、生み出した斧を手に取り。


 『何せ私は当の昔に種としての到達すべき頂に立ち、その先に進んでいる……そう、すでに極限というものを超越してるのだ、わかるかヒューマン? 私はすでに究極を超えている』


 そう言い切った。

 なるほど、確かに鑑定眼で覗くステータスには変化した種族名がこう表記されていた。

 (スーパー)ギガバイソン(きわみ)Zwei -超越(ムテキ)-と……

 ギガバイソンという種族を超越した究極進化形態、ゆえに超越(ムテキ)なのだ。


 そして、その個体名はこう表記されていた。

 ザ・マザー<激情態>と……


 (名前がマザーね……まぁ、ココの母親だから間違ってはないんだが、暴走した迷宮の核も個人名までは読み取れなかったのか? しかし激情態とは……確かに今激おこ状態だろうけどさ。というより種族名はそれでいいの? なんかスーパーと極みとツヴァイって英語日本語ドイツ語混ざってない? 規格統一しなくて平気なの?)


 思わず心の中でそんな疑問を呈した時だった。

 (スーパー)ギガバイソン(きわみ)Zwei -超越(ムテキ)-の姿となったザ・マザー<激情態>がその4つの翼を大きく広げると、背中の背びれが目も開けていられないほどの眩しすぎる発光を放つ。

 そして、その直後ザ・マザー<激情態>は上空へと口を大きく広げ、そのまま周囲に爆風が吹き荒れるほどの強力な威力を誇る超火力放射熱線を上空に向かって放った。


 「ぐっ!!」


 強力な威力を誇る超火力放射熱線を放った余波ともいえる周囲に吹き荒れる爆風に吹き飛ばされそうになるが、魔術障壁他、複数の異能の発動によって、なんとかその場に留まる事ができた。


 とはいえ、なぜこちらに攻撃せず、上空に熱線を放ったのか? まったく理解できなかったが、すぐにその意図を理解した。


 「こいつ、まさか!!」


 ザ・マザー<激情態>が吐き出し放った強力な威力を誇る超火力放射熱線は大気圏を超え、宇宙空間を突き進み、衛星を打ち砕く。

 そして粉々に砕け散った衛星の欠片をすべて支配、掌握し、大気圏に突入させ、そして地球でいえば恐竜の時代に終止符をうった超大型の隕石レベルの雨を無数に大地へと降り注がせた。


 そんな空から降り注ぐ無数の巨大な火の玉を見上げながら。


 「ジャイアント・インパクトを引き起こすつもりかよ!? どんだけ規格外なんだクソッタレ!!」


 思わず叫んでいた。

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