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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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断ち切るべき畏怖の念 (2)

 ココの精神世界、そこは普段のココの性格からは想像もつかないほどに辛気臭い場所であった。


 陽は昇らず、どこまで行っても薄暗い風景が続き、足元の地面は地平線の彼方まで続く白煙に覆われて確認する事はできず、本当にそこに地面があるのか、白煙の下に隠れている地形は平地なのか急こう配の坂道なのか、先には何もない断崖絶壁なのか、沼地なのか、それすらわからず、動き回るのをためらってしまう。

 そんな世界の中心には巨大な鬼火が揺らめいており、その巨大な鬼火の前には一人の少女が両手両足を縄で縛られた状態で宙に浮かぶ木の棒に吊るされていた。


 その少女とは言うまでもなくココであり、吊るされたその姿は一糸まとわぬ裸の状態であった。

 そんなココは目の前の巨大な鬼火に向かって怒鳴り散らす。


 「いい加減この縄を解いてココを解放するです!! ココはこんなところで油を売ってる場合ではないのです!! いいから解け!!」


 そう言ってジタバタと暴れるココであったが、しかしどれだけ暴れようとココの両手足を縛る縄は解けない。

 それは普段のココの規格外な怪力を知っている者ならば目を疑う光景だろう。ココがあんなただの縄ごときを引きちぎれないなんて、と……しかしここは精神世界、本人の深層心理が作用する世界だ。

 つまりは、それほどまでにココは恐れているのだ。自らを縄で縛り、つるし上げた相手を。

 口では威勢よく、反抗的な言葉を叫びながらも、心の片隅では怯えているのだ。この相手には逆らってはいけないと……絶対に叶わないと。


 ココがそこまで恐れる相手、その正体とは……


 『黙りなさいこの愚女が!! 種の役目も果たさず、気ままに放浪を続けておいて何ですかその態度は!! 恥を知りなさい!!』


 両手両足を縛られて吊るされているココの目の前に浮かぶ巨大な鬼火からそんな怒鳴り声が聞こえてくる。

 そうして、その巨大な鬼火は徐々に形を変え、やがて巨大な牛型の魔物の姿に……(スーパー)ギガバイソン(きわみ)の姿に変わった。


 とはいえ、その外見はどこかココよりも歳を取っているようにも見えるがそれもそのはず、その(スーパー)ギガバイソン(きわみ)はまごうことなきココの母親なのだから……


 そんな母親に対しココはより一層体をバタつかせると。


 「黙るです!! 何が恥か!! 勝手な事言うなです!! ココはもうカイトさまのものなのです!! ココの心も体もすべてカイトさまのものなのです!! ココを孕ませらせるのはカイトさまだけなのです!! そう、ココはもうカイトさまの孕み袋なのです!! そんなココの体内にギガバイソンなんて畜生の子種を1ミリたりとも入れるものですか!! 受け入れるものですか!! 何度も言わせるなです!! いい加減諦めて自分の世界に帰るです!!」


 そう大きな声で怒鳴り散らす。

 これを聞いたココの母親は頭が痛いとばかりに大きなため息をつくような素振りを見せた。


 『本当にこの子は……勘弁してくれないか? 種族の恥だよあんたは! 嘆かわしい……よりにもよってヒューマン風情にうつつを抜かすとは、どういう思考回路をしたらそうなるわけだい? 家畜にでもなり下がったわけか? 嘆かわしい……恥を知れ!!』


 この言葉にココはさらにヒートアップし、さらに口悪くし言い返す。


 「黙れです!! カイトさまの偉大さを知らない分際で!! 勝手な事を抜かすなです!! 嘆かわしいのはそっちです!! カイトさまを他のヒューマンと一緒くたに語るなど笑止千万!! おつむが足りてない証拠です!! 恥を知るのはどっちか? です!!」


 その物言いにココの母親は凄みを増して。


 『あぁ? 何だって? もっかい言ってみろコラ!! まったくこのこの愚女は!! 口の利き方がなってないぞ! これはさらにお仕置きが必要みたいだな?』


 そう言いながら吊るされているココに近づくが、しかし何かを思いついたような仕草をすると歩みを止め。


 『いや、まぁ、そうだな……確かにこの愚女の頭のネジが数本抜けて、ヒューマンにすり寄ったそのおかげで異種交配が可能になったわけだし、そこは感謝するとしよう』


 そう口にするとニヤリと笑う。


 『喜べ愚女、その異種交配が可能になった体に貴様が愛するヒューマン以上に優秀な子種を命一杯くれてやる! 何せここには多種多様な種族が大量にいるからな? そしてこいつら本当に節操がない。特に進化した種族に対しては目の色を変えて迫ってくるぞ? 何せ優秀な上位種に種付けしたい雄どもばかりだからな?』

 「なっ!? 正気か? このクズ親!!」

 『はん、いい加減種の役割を果たせ。優秀な子を孕むんだよ愚女』

 「ココはカイトさまの子以外孕む気がないと何度言ったらわかるです!! いい加減にしろです!!」

 『そう言う割にはそのヒューマンの子を孕む気配がまったくないじゃないか、違うか?』

 「そ、それは……う、うるさいです!!」

 『ぐうの音も出ないか? まぁ、だから優秀な子種をくれてやろうって言ってるんだ。これは言うなれば親心というやつだ、感謝しろよ?愚女』

 「誰がするかですか、このクズ親!!」


 ココがそう叫んだ直後、ココが吊るされている場所の真下の白煙の中から続々と異形の魔物たちが続々と顔を覗かせ這い上がってくる。


 「ひっ!! く、くるなです!!」


 ココはそれらを見て青ざめた表情となり、必死に逃げようと暴れるが、しかし両手足を縛る縄はやはり解けない。

 そんなココの足首を白煙から這い出た異形の魔物が手を伸ばして掴む。

 それを皮切りに、そのココの足首を掴んだ異形の魔物の体を掴んで白煙から這い上がってきた別の魔物がさらにココの足首を掴む。


 「い、いやですー--!!! 触るなです!!」


 必死に叫ぶココだが、しかし叫んだところで状況は改善しない。

 さらに別の魔物が足首を掴んだ魔物の体を伝って這い上がり、今度はココの太ももに手を伸ばす。

 そしてさらに別の魔物がその太ももを掴んだ魔物の体を伝って這い上がり、今度は腰にしがみつき、別の魔物は腹に、別の魔物は胸に、脇に、肩に、首にと容赦なく掴みかかってき、そうして吊るされているココの体を白煙の中へと引きずり降ろそうとする。


 次々と這い上がってくる魔物たちに体中抱きつかれ、白煙の中へと引きずり降ろされていくココは、それでも必死に抗おうと声をあげる。

 届かないとわかっていても、それでも叫ぶ。

 助けを求めて、声の限り。


 「いやー-----!!! くるなですー----!!! 触るなですー----!!! ココに触っていいのはカイトさまだけです!! 汚らわしい手でココに触るなです!! 気持ち悪い舌でなめるなです!! この体はカイトさまのものです!! カイトさまー----!!! ココを助けてー-----!!! カイトさまー---!!!! カイトさまー----!!!!」


 しかし、その叫びも空しく、ココは無数の魔物たちによって白煙の中へと引きずりこまれる。

 この後に待っているのは言うまでもなく、終わる事のない強姦だ。

 抗う事も出来ず、ただただ永遠と犯され続ける……そんな絶望的な未来が訪れようとしたその時だった。


 「ココから離れろクソッタレども!!」


 天から救世主の声が聞こえた。

 直後、すべてを吹き飛ばす暴風が吹き荒れ、大地を隠していた白煙が消滅し、ココを白煙の中へと引きずり込んだ無数の魔物たちが一斉に遠くへと吹き飛ばされた。


 そうして無骨な岩の大地がむき出しとなった地面に倒れているココの前に一人の少年が降り立つ。

 それは一体誰か? 言う間もなくカイトである。


 その手にはつむじ風を纏った風の剣が握られており、それを後ろに振るうと風のカッターが放たれ、ココの両手足を縛っていた縄を切り落とした。

 自らを拘束していたものがなくなり、自由となったココへとカイトは振り返って安心させるように笑顔を見せた。


 「大丈夫かココ? 助けにきたぞ! さぁ、一緒に帰ろう」


 そう言ってカイトは風の刃を消してアビリティーユニットをズボンのポケットにしまうと着ていたジャケットを脱いで裸の状態のココの肩にこれで隠せと言わんばかりにかけてあげた。


 「カイトさま」


 ココはそんなカイトにかけてもらったジャケットに顔を近づけ。


 「カイトさまのやさしさを感じる……はぁ、カイトさまの臭いだ……クンカクンカ……あぁ、カイトさま、好き!!」


 そう言ってものすごい形相でジャケットの臭いを嗅いだ後、目を閉じて顔を前に出しキスをせがんできたが、カイトはこれを無視して目の前の敵を睨む。


 「あれがココに憑依した暴走した迷宮の核ってわけか……ギガバイソンの姿形をしているが、恐らくは寄生した相手の精神を乗っ取ってその者の情報を徹底的に調べあげ、寄生した相手が絶対に抵抗できない、敵わない、服従するしかないと思う相手に擬態して支配するわけか……まったく、悪趣味な事この上ないな……」


 そうして、小声でブツブツと呟くカイトの横に不服そうなココがやってくる。


 「ちょっとカイトさま!? ひどいです!! あんまりです!! ココがこんなにもカイトさまを求めているのに!! 放置はあんまりです!!」


 ココのそんな訴えをカイトは苦笑いでスルーし。


 「さぁ、ココあれを倒すぞ! ふたりで!!」


 そう言ってココへと拳を突き出す。

 そんなカイトの拳を見て、ココは不服そうな表情を一辺、笑顔になると。


 「はいですカイトさま!! ココ、カイトさまとだったらクズ親だろうと余裕で倒せる気がするです!!」


 そう言って拳を突き出してカイトの拳を突き。


 「さぁ覚悟するです!! ココとカイトさまの愛の力、思い知るがいいです!!」


 カイトと一緒に母親と対峙した。




 決戦の地はココの精神世界、倒すべき敵はココに寄生した暴走した迷宮の核。

 その暴走した迷宮の核が形成した姿はココの母親の姿。


 ココを更に凌駕するギガバイソンの究極進化形態である(スーパー)ギガバイソン(きわみ)Zwei-超越(ムテキ)-。

 それはココにとっての畏怖の対象……その名もザ・マザー<激情態>。


 暴走した迷宮の核に付け込まれる原因ともなっているその畏怖の念を断ち切り、ココをスタンピードから解放するための戦いが今はじまる。

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