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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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騎士の時代の終わり(2)

 決着をつける。そう口にしたフミコを見てリュカルは小さく笑う。


 「決着をつけよう、か……しかしどうするつもりだ? 俺の過去を……前世の記憶を覗いたならわかるだろ? 俺の決意を理解したのならわかるだろ? 俺は絶対に、もう二度と自分からは仕掛けない。無謀な賭けにでない。そしてお前は自ら仕掛けても俺を倒せないともうわかっているはずだ。つまりは俺が仕掛けるのを待つしかない。だが、俺は動かない。絶対にな? そんな状況で、お前はどうするつもりだ?」


 そう問われたフミコもリュカルと同じく小さく笑うと。


 「どうするつもりか、ね……まぁ、まずはこの精神世界から外に出るかな? ここはあなたの精神世界だしね。あなた優位の世界で戦うつもりはないかな? 何より他人の……ううん、違うな。誰の精神世界であっても、ここで戦う気は起こらないかな。あたしにとって、精神世界は特別な場所だから……かい君との大切な記憶が詰まった場所だから……だから決着は外の世界でつけよう」


 そう言って手にしていたアビリティーユニットGX-A04に取り付けられていたバイクのメーターのように見えるアビリティーチェッカーに軽く触れる。

 すると空間全体が眩しく光り出した。


 そうして地面と空の境目が、空間全体が曖昧になっていく。

 今立っている場所を認識できなくなっていく。

 やがて、体が浮かんでいるのか、何もない空間に落ちているのか、どっちともつかない無重力感に見舞われた。


 そんな中で、しかし目の前のリュカルは取り乱す様子もなくフミコに告げる。


 「まぁ、構わんさ。どっちで戦おうが俺が敗れる道理はない」


 それを聞いたフミコも小さく鼻で笑い言い返した。


 「それはどうかな?」


 そうして景色は再び元の空間に、バルコニーへと戻る。

 今まさにフミコの突き出した手を弾いたリュカルは、そのまま数歩後ろに下がってフミコから距離を取った。

 そうして自らの手をまじまじと見つめ、小さく舌打ちした。


 「忌々しい真似を」


 そんなリュカルを挑発するようにフミコは言う。


 「だったらパリィすればよかったじゃない、精神世界に入り込んだあたしを。けどできなかった……残念だね? まぁ安心して、もうそれはしないから。だって」

 「決着をつけるからか?」


 フミコが口にする前にリュカルがそう言うと、フミコはニヤリと笑い。


 「えぇ、そうよ。あたしはここであなたを倒す」


 そうしてレーザーブレードを構える。

 それを見てリュカルも刃が生えた腕を真横に振るい。


 「できるものならやってみろ……お前が何を仕掛けてこようと、そのすべてを俺は弾く!!」


 そう叫んで構えを取った。

 そんなリュカルを見てフミコは深呼吸すると数秒目を瞑り、そして目を見開き一気に駆ける。

 目にも止まらぬ速さでリュカルの懐に飛び込むと常人には絶対に反応できぬ速さの斬撃を繰り出す。


 だが、これにリュカルは恐るべき反射神経で反応する。

 絶対に反応できぬ速さの斬撃を、絶対に対処できぬ速さで弾き返す。

 しかし、そんな事は想定済みだ。

 だからフミコは続けて斬撃を繰り出すのはなく懐から94式拳銃を取り出し引き金を引く。


 とはいえ、そんなものが今更切り札になるわけがない。

 銃口から放たれた弾丸は呆気なくリュカルの振るった腕から生えた刃に真っ二つにされる。

 だが気にせずフミコはもう一発撃ちつけると、それと同時にレーザーブレードをさらに振るう。


 銃撃と斬撃を同時に繰り出し、フミコはリュカルに息もつかせぬ攻勢をしかける。

 しかけ続ける。

 だが、そのすべてが弾かれる。弾かれる。弾かれる。


 やがて、パリィの連続成功回数が90回の大台に近づいていく。

 そう、まもなく訪れる。カウンターアタックが。

 90回分のダメージ総量+10回のダメージ総量+30回のダメージ総量+60回のダメージ総量という、とんでもない攻撃力になっている絶対回避不可の攻撃が訪れる。


 だがフミコは気にせず弾かれるとわかっている攻撃をあえて続け、パリィの連続成功回数を加算させていく。

 そう、まるでカウンターアタックをはやく放てと言わんばかりに。


 (なんだこいつ? さっきからどう考えても単調な攻撃ばかり放ってわざと弾かれようとしてないか? 最初の頃にあった裏を突こうって気がまるで感じられねーぞ?)


 リュカルは不審に思いながらも、しかしだからと言ってこちらから何かを仕掛けはしない。

 当然だ。何せもうパリィの連続回数は大台に達するのだから。


 (まぁいい、これで90回!! チェックメイトだ!!)


 リュカルはそう思い、フミコの斬撃を弾くとそのまま両手を大きく広げ、直後、その両手が眩しく虹色に光輝きだした。

 それはカウンターアタックを放つサイン。

 それを見たフミコはニヤリと笑い。


 「そう、それを待ってたんだよ」


 そう呟くと右手で首からかけて白衣の胸元に隠していた身代わりのペンダントを引っ張り出し、強く握りしめると。


 「さぁ来い!! ここで決める!」


 そう叫んだ。

 これにリュカルも負けじと叫び。


 「なめるなぁぁぁぁぁ!!! カウンターアタック!!」


 眩しく虹色に光り輝く広げた両手をそのまま勢いよく叩きつけ、重なり合ったリュカルの両手の先から目を開けていられないほどの眩しい虹色の光量があふれ出し、それは虹色の光の濁流となってバルコニー全体を飲み込んだ。

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