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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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ココ救出奪還作戦 (12)

 「ま、銃弾くらい余裕で弾くか」


 フミコはリュカルが弾丸をすべて弾いたのを見て、手にしていた94式拳銃を手放す。

 94式拳銃はすでに全弾を撃ちつくしてホールドオープンの状態となっており、そしてこの欠陥拳銃はこの状態から次弾を装填するのがかなりめんどくさい拳銃であった。


 そんなわけでフミコは惜しげもなく94式拳銃を霧散させ、その手に新たに丸木弓を出現させ、矢を構える。


 (本当ならタ弾を試したいところだけど、ダメージ総量が一気に跳ね上がるからなぁ……しばらくはこれで様子見かな?)


 そう思いながら矢を射るが、当然ながらこの一射は初見パリィによって弾かれる。

 だからこそ、フミコはその手に矢を何本も持ってそれらを続けざまに連続して射る。

 しかし、これらはあっさりとリュカルによって弾かれてしまうが、フミコは気にせず矢を構えながら壁沿いに走り、少し起動を逸らして矢を射る。

 それだけでなく、緩急つけた速度の矢を射たり、構え方を大幅に変えて射たり、射法を変化させたり、ほんの少しの呪力を矢に込めて射たりして反応を見定める。


 結果、初見パリィが反応したのはほんの少しの呪力をこめた矢だけであった。

 つまりは同じ矢を射る動作でも、呪力という異能を付与したらそれはまったくの別物と見なされるわけだ。

 そして、矢を射るという動作は射法を変えても、つがえ方を変えても初見パリィとならなかった。


 つまりは弓矢での攻撃という大枠でしか初見パリィは反応せず、細かな流派の違いには反応しないというわけだ。

 これは裏を返せば、同じ弓矢の攻撃であっても、対処する際に反応しなければならない箇所がまったく違う、見た目にはまったく別物に思える初披露の他流派の攻撃を交互に行っても、同じ弓矢での攻撃であるという判定ゆえに初見パリィが発動しないという事を意味する。

 それは言うなれば、リュカルがパリィに失敗するリスクが増えるという事だ。


 完全に初見であるにも関わらず初見パリィが発動しない。

 だが常識的に考えて、素人であろうと玄人であろうと同じ弓矢での攻撃だからと言って、まったくの別物といえる他流派の攻撃を初見で防げるはずがないのだ。

 突破口はこのあたりではないか? フミコはそう判断した。


 そして、通常の矢と呪力を込めた矢が別個と判断された以上、アビリティーユニットでのレーザーブレードの斬撃と銅剣での斬撃も当然、別個と判断されるだろう。

 つまりは……


 (銅剣での最初の一撃は確実に初見パリィに弾かれる……けど、その後なら斬撃はどれも同じって判断されるから初見パリィが発動する事はない!!)


 フミコはニヤリと笑い、丸木弓を構えながらリュカルに向かって一気に駆ける。


 「はぁぁぁぁ!!!」


 そして走りながら力強く弓を引き、矢を射た直後、丸木弓を手放して霧散させ、新たにその手に銅剣を出現させる。

 そして銅剣を手にして先ほど射た矢に続く形で力いっぱい銅剣を振るった。


 リュカルは矢を難なく弾くが、直後フミコが放った斬撃にはまったく反応できなかった。

 しかし問題はない。何もしなくても初見パリィが弾いてくれるからだ。

 そしてリュカルはすぐに腕を振るい、フミコの次なる斬撃を弾く。


 斬撃を弾かれたフミコだが、直後、新たにもう一本銅剣を出現させ、二刀流での斬撃を仕掛けていく。

 だが間髪入れず二刀流で仕掛けようがリュカルは慌てる事無く、初見パリィが発動せずとも難なく弾く。


 (っち! こいつ、ひょっとして初見パリィがなくても初見の攻撃、普通に防げるんじゃないの? どんな反射神経してんのよ!!)


 フミコはそう思いながらも攻撃の手を緩めない。いくつもの剣技を織り交ぜ、リュカルに一息つく暇を与えず攻撃を続けるが、しかしどれだけ対応が困難な剣技で斬りかかろうが、リュカルはすべてに対応した。

 そして驚くことに、リュカルはまったく疲労の色を見せていないのだ。


 「っち!」


 息つく暇もなく二刀流での斬撃を続けていたフミコだったが、さすがに限界が近づいたため、一旦地を蹴って後方に下がり距離を取る。

 そして銅剣を構え、警戒をしながらも肩で息をして体力の回復に努める。


 そんなフミコはリュカルの様子を見て思わず眉を潜める。


 「はぁ……はぁ……こいつ、一体何なの? なんでそんな平然としていられるわけ?」


 そう、リュカルはまったく疲労の色を見せていなかった。

 とはいえ、ここまでの戦いで積極的に動いているのはフミコだけだ。リュカル自身は特にその場から動くことなくただ攻撃を弾いているだけである。

 で、あるならば、リュカルが疲労の色を見せていないも当然と思えるかもしれないが、しかし攻撃を弾いてるだけとはいえ、初見パリィを除けば、すべての攻撃の動きや特性を見極め、恐るべき集中力と反射神経でもってこれらを弾いているのだ。

 普通に考えて、精神的に疲弊していてもおかしくないのだが、しかしリュカルにはそんな様子は一切なかった。


 (ふぅ……さて、このまま攻撃を続けて崩せるタイミングをうかがうべき? それとも違ったアプローチに変えるべきか……)


 フミコはそこまで考え、それから思い出す。

 現在のパリィの連続回数を……


 (29回……次でカウンターアタックがくる)


 フミコの頬に冷や汗が伝う。

 手にした銅剣を構え直すも、しかし一歩を踏み出す事ができなかった。

 そんなフミコを見てリュカルが鼻で笑う。


 「ふん、どうした? もう怖気づいたのか? ……まぁそれも仕方ないか。何せ、お前の攻撃は俺には届かないんだ。どんな攻撃であれ、俺は絶対に弾いてみせるからな。だから躊躇するのも無理はないか」


 そんなリュカルを見てフミコは少しイラっとしてしまった。

 何クソと思い、今にも飛び掛かりそうになるが、しかし思い踏みとどまる。


 (何やってるんだあたし、落ち着け! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……いや、何かが、おかしい)


 そしてカラクリに気付く。


 (そうか! そういう事か! リーナちゃんはあいつの扱うパリィの異能は初撃パリィ、初見パリィ、カウンターアタックの3つだけだって言ってたけど、違ったんだ! ()()()()()、あいつは異能を使ってたんだ!)


 それに気づけばもう攻略の糸口は見えたようなものだ。

 フミコはニヤリと笑うと。


 「へぇ、そうやって相手の精神に干渉してたわけだ……なるほどなるほど、あんたのやり口理解したよ」


 そう言って構えていた銅剣を下げて棒立ちの状態になる。

 そんなフミコを見てリュカルは訝しむ表情になる。


 「何だと?」

 「ほんと、普通に考えればおかしいんだよね? だってあんたの異能って相手の攻撃を弾いて、その弾いた回数でもって相手にカウンターを与えるってものじゃない。でもそれって、あんた自体が何か仕掛けるわけじゃないよね?」


 この指摘にリュカルははじめて動揺したような仕草をみせた。


 「お前! どうしてそれを!!」

 「どうしてって、普通に見てればわかるでしょ?」


 そんなリュカルにフミコはリーナ(成長ギャル化版)から聞いたという事は伏せ、さぞ当然というように答えた。

 そして指摘する。


 「で、あんたの異能は相手があんたに攻撃を仕掛けない限り成立しないよね? 自分から攻撃するわけじゃなく常に受け身だ。だからあんたが主体となっての戦闘はできない……それだとパリィの回数を稼げないもんね? で、それはあんたにとっては相手を倒す唯一の方法を手放す事になる。そりゃ自分から動いて仕掛けるなんて絶対に無理だよね?」


 この指摘にリュカルは。


 「言いたいことはわかった。けど、それだといつまでも戦闘が始まらない事になるぞ? しかし、こうして戦いはとっくにはじまっている。これをどう説明する?」


 そう言って平静を装うが、しかしフミコはこれを鼻で笑い。


 「攻撃を仕掛けたのはあたしからだったけどね? まぁ、これも今考えればおかしかったんだけどさ。だってあたしは最初、このバルコニーに来てからずっと、隙だらけの状態をわざと見せつけてたのに、あんた全然仕掛けてこなかったじゃない」


 そう指摘した。


 そう、フミコはこのバルコニーに突入してからレーザーブレードを手にしながらも、それを構えもせず、ただブラブラさせながら壁沿いを歩いていたのだ。

 そんな隙だらけの状態を見せてつけていたにも関わらず、リュカルは先制攻撃の絶好のチャンスに一切の反応を示さず、ただフミコが攻撃を仕掛けてくるのをじっと待っていた。


 つまりは自らの攻撃では相手を仕留められないと言っているようなものなのだ。

 どれだけこちらが「いつでも殺せる」という隙だらけな状態を相手に見せても、殺しにこれないのだから……


 「あたしはあんたが初手でどう動くか見極めたかった。けど、あんたは動かず、結局あたしから仕掛けた。あたしはいくらでも待つつもりでいたけど、結局そうなった……これって自分を攻撃するように誘導する精神干渉を行ったって事でしょ? で、さっきのもそう。あの程度の挑発で普段は乗せられる事はないのに、危うく乗りそうになった。まったく……とことん意地汚い異能だよね」


 そう、こちらの攻撃が尽く弾かれ、そしてその弾いた連続回数が大台に達した時にこれまでのダメージ総量が跳ね返ってくると言うなら、攻撃しなければいい話なのだ。

 こちらが攻撃しなければ、攻撃を弾かれる連続回数が増える事はない。

 そして、その連続回数をリセットしたくないリュカルは絶対にこちらに攻撃してこない。


 言うなれば、異能のカラクリに気付けば、そこで戦闘はストップしてしまうという事だ。

 しかしそれでは困る。

 そこで登場するのがリュカルの扱う4つ目の異能、精神干渉だ。


 攻撃を止めた相手の精神に干渉し、こちらに攻撃するよう誘導する。

 そうする事でパリィの連続回数は積み重ねられていくのである。


 リュカルの異能を見抜いたフミコは両手に持っていた銅剣を手放し霧散させる。

 そうして完全に戦闘態勢を解いた。

 そんなフミコを見てリュカルは忌々しそうな表情を浮かべるが、しかしそれも一瞬。

 リュカルはやれやれと言わんばかりに肩をすかせると。


 「で? それを知ったところで何になる? じゃあ戦闘をやめるか? けど、それでいいのか? 確かお前、俺たちから仲間を取り返すんじゃなかったのか? まぁ、俺たちの王とはまったく違う名を語っていたがな」


 そう挑発するように言ってきた。

 恐らくはこの言葉にも精神干渉がかけられているのだろう。

 だが、カラクリがわかった以上はこの言葉に乗せられる事もない。

 なのでフミコは尋ねた。


 「……まぁ、それもそうなんだけどね? 結局は先に進むにはあんたは倒さないといけない……だからひとつ聞きたいんだけど、あなた前世は騎士だとか言ってたよね? だとすれば、その異常な反射神経、反応速度、状況判断、対応能力……すべてその騎士時代に手に入れたものなの?」


 これにリュカルはすぐには答えず、少し間を開けてから。


 「さて、どうだかな?」


 それだけ答えた。

 なので続けて尋ねる。


 「じゃあ、その騎士時代にあなたは()()()()()()()()()()()()?」

 「何?」

 「瞬時に次の攻撃にも対応できるあれだけの対応能力、パリィの連続回数を稼ぐだけの異能とはいえ、並大抵の努力であそこまではできないよ。つまりは前世は相当腕の立つ騎士だったって事だよね? けど、騎士っていうなら攻撃を弾くだけじゃなくて敵に攻撃を浴びせなきゃ話にならないよね? その腕前はどれほどのものだったのかな? もし、そちらにも自信があるのなら、たとえパリィの異能があっても、チャンスがあるなら殺しにくるよね? なんでそれをしないの? しない理由は何? だから聞いてるんだよ、騎士時代にあなたは()()()()()()()()()()()()ってね?」


 この言葉にリュカルははじめて腕をプルプルと振るわせながら怒りに満ちた声をあげる。


 「お前……騎士の誇りを愚弄するか!」


 これをフミコは鼻で笑うと。


 「してないよ? けど、もしそう思うなら見せてみてよ、騎士の誇りとやらを」


 逆に挑発してみせる。

 だが、この言葉にリュカルが乗る事はなかった。

 どれだけの間が空こうとリュカルは仕掛けてこない。

 なのでフミコはため息をつくと。


 「仕方がない……まだ30回だ。大丈夫でしょ」


 そう口にして懐からアビリティーユニットを取り出し、アビリティーユニットに取り付けてあるアビリティーチェッカーの画面上に浮かびあがっている針と無数のエンブレムすべてに直接手のひらで触れ、リュカルへとアビリティーユニットを向ける。


 『Take away ability』


 直後、リュカルから異能を奪うべくアビリティーユニットGX-A04から音声が鳴り響くが、しかし何も起こらなかった。

 確かに一瞬だけ、リュカルの体から光りの暴風があふれだしたが、すぐにそれは掻き消えたのだ。


 そう、初見パリィである。

 初見パリィによって、リュカルの異能を奪う行為はパリィされたのだ。

 それを見たフミコは感心したような表情になり。


 「へぇ、本当に異能を奪う行為もあいつへの攻撃と判定されるんだ」


 そう口にした。


 そう、フミコはリーナ(成長ギャル化版)からこの事を伝えられていたのだ。

 異能を奪えると思った時に異能を奪う行為を発動すると初見パリィされるから、まずはまったく関係ない場面で異能を奪う行為を行ったほうがいいと。

 そうすれば、本当にリュカルから異能を奪う時に初見パリィは発動しないから異能を確実に奪えると。


 ゆえにフミコはこのタイミングで異能を奪う行為を行ったわけだが、しかしそうする事によって初見パリィは発動し、そしてそれによってパリィの連続成功回数は30回に達した。


 そう、それは2度目の回避不能のカウンターアタックが来ることを意味していた。

 リュカルは鼻で笑うと。


 「何をするつもりだったかは知らないが、結果的に自分を追い詰める事になったな? その迂闊さを悔いる事だ!!」


 そう言ってリュカルは体勢を低くし、両腕を重ね合わせ、手のひらを開き前に突き出す。

 直後、重なって開いた両手のひらの先に10回目のカウンターアタックの時より眩しさが増した光が輝きだす。

 それをリュカルは勢いよく重ね合わせた両腕とともに前に突き出し解き放った。


 「さぁ俺を侮辱した事を後悔しながら逝けぇぇぇぇ!! カウンターアタック!!」


 絶対に回避不能のさきほどより威力を増したビームがリュカルの手のひらから放たれ、それは一瞬でフミコを飲み込んだ。

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