旅の始まり(4)
「世界を救う……? 俺が?」
老人の言葉に耳を疑ったが、老人は本気のようだ。
持っていたアタッシュケースを開け中身を見せてくる。
「そうじゃ、そしてこいつがそのためのアイテムじゃ」
そう言って見せてきたアタッシュケースの中には数点の代物が入っていた。
銃のグリップとおぼしきものにそのグリップがついていない拳銃。
そして用途がよくわからないストップウォッチのような外観のガジェット。
とてもジムクベルトと対等に戦える代物には見えなかった。
「銃の組み立てキットか? ガンマンにでもなれってか?」
「もっとよく見てみよ」
「いや、そう言われても……」
「ユニットをよく見よ」
「ユニット? このグリップみたいなやつのことか?」
とりあえず銃のグリップのようなものを手に取って見る。
ちょうど人差し指あたりのところに何かボタンがあるが、拳銃っぽいやつを取り付けたら引き金にでもなるんだろうか? 重さはそこまで重くなく質感は金属のようだ。
グリップの上部には穴が空いており脇には窪みのようなものがある。
取扱説明書でもない限りはこれだけ渡されてもどう使うかさっぱりだった。
というかこのグリップのようなものを色んな角度から見てみるが別段すごい代物のようには思えない。
これが本当に世界を救うアイテムなのか?
「ふむ……そいつが何なのか? 本当にこれで世界を救えるのか? と疑問に思っとる顔じゃの」
神を自称する老人はアタッシュケースをこちらに押しつけるとニヤリと笑ってパチンと指を鳴らす。
すると止まっていた時間が緩やかに動きだした。
「そいつはアビリティーユニットGX-A03。まぁいわゆるマルチウェポンじゃ」
「マルチウェポン?」
「剣にも銃にもなる。試しにボタンを押してみよ」
言われるまま人差し指あたりのところにあるボタンを押すとブーンという音と共にグリップ上部の穴からレーザーの刃が飛び出した。
「おわ!? なんか出た!」
「貴様らの感覚でいうとレーザーブレードだと言えばわかりやすいかの」
「へぇーレーザーの刃ってだけあって軽いな!」
つい子供のように振り回してしまう、そのたびにブーンという音が鳴った。
まるで某SF映画のラ○トセーバーのようだ。
「玩具を手にして楽しいのはわかるが気をつけよ。金属の刃と違ってそれはレーザーの刃、軽く触れただけで高熱で指も体もなくなるぞ?」
「……まじかよ」
ちょっと怖くなったのでボタンを押してレーザーの刃をしまった。
それを待っていたかのように神を自称する老人はアタッシュケースの中のグリップのない拳銃を指さす。
「もう気付いとるじゃろが、それをグリップに付けることで銃になる。GX-A03ガンモードじゃな」
アタッシュケースからグリップのない拳銃を取り出しグリップを取り付ける。
実物の拳銃を手に取ったことがないので重さの比較はできないがエアガンの拳銃を持ってるような感覚だ。
「何だか軽い感じがするけど、拳銃ってこんな重さなのか?」
「貴様が言うところの拳銃よりは断然軽いぞ? 何せ実弾ではなくレーザーを飛ばすからの」
「レーザーガンみたいなものか」
「試しに撃ってみよ、ほれ」
神を自称する老人はゆっくりと動き出した怪物を指さす。
言われるがまま銃口を怪物に向けて引き金を引いた。
ヒュンという音と共に発光弾が飛び出し怪物に直撃する。
「軽っ! 銃って反動あるんじゃなかったっけ? まるで感じないんだけど?」
「まぁそりゃ実弾ではなくレーザーのエネルギーを圧縮した弾丸である発光弾を発射するからの。曳光弾のように弾丸が飛んでいく間に発光することで軌跡が見えるが根本的に実弾とは違う」
「……なるほど、わからん」
「まぁ、理系が苦手と豪語していた貴様に詳しい原理を解説するだけ時間の無駄じゃろう。まずは慣れろじゃ」
「おい、今そこはかとなくバカにしただろ」
老人に文句を言おうとしたが、すでに時間停止から解放された怪物たちが正常に動き出していた。
静寂から一転、パニックとなって混乱する周囲の喧騒も耳に戻ってくる。
自分をさきほど殴り飛ばした怪物もこちらへと迫ってきた。
「くそ、いきなり実戦で使い方を覚えろとか鬼かよ」
迫り来る怪物に銃口を向けて引き金を引く。
発射される発光弾が怪物にあたり、怪物は一瞬ひるむが再びこちらへと迫ってくる。
「これ効いてるのかよ?」
「効いとる効いとる。ほっほ、実戦というよりチュートリアルじゃ。次元の迷い子相手ならいい訓練になる」
「次元の迷い子?」
「あの怪物どものことじゃ、あれはジムクベルト出現の副産物みたいなものでな。ジムクベルトと違って高次元の存在じゃない。まぁ近場か下位次元からはじき飛ばされて次元の狭間を彷徨ってたところをジムクベルトに釣られるように出口に殺到して吹き出したといったところかの」
「お、おう……なるほど? さっぱりわからん」
「まぁ気にするな、連中は倒せる。まずは戦い方を覚えろ」
「覚えろって……くそ、いい加減な」
言ってる間に自分の周りに怪物たちが集まってきていた。
ちょっとヤバイ数のようにも思えるが避難所の人たちが逃げる時間は稼げるだろう。
とりあえず適当に連射してみる。
ゾロゾロと密集して集まってくれたおかげか外すことはなかった。
何もない宙にぶっ放すでもしない限りどれかには必ず当たる。
だが……
「おいおい、まじで全然効いてる感じしないんだけど!?」
発光弾をくらって次元の迷い子というらしい怪物たちは確かに一瞬後ずさったりひるんだりするが、すぐにこちらへと向かってくる。
そして拳銃一丁では対処するには限界があった。
「当たる可能性が高いから面積が大きい体のほうを狙うのはわかるが、そこを狙うなら心臓を撃たないとのう……あと即死を狙うならヘッドショットじゃぞ? 脳天をぶち抜け脳天を」
軽い調子で神を自称する老人は言うがこちらは周囲を囲まれていてそんな余裕あるわけがない。
経験者なら冷静に狙えるだろうがこちらは素人だ。
とにかく撃たなきゃと闇雲に撃ちまくってるのはよくないだろうが、そんな心に余裕を持っていられるほど悠長な状況でもない。
とはいえ、それで数が減らせるならと一旦大雑把な乱れ撃ちを止めて正面の怪物の頭部に狙いを定める。
乱れ撃ちをやめたことにより多くの怪物たちが一気に間合いを詰めてくるが、焦る気持ちを抑えて集中して銃を構え引き金を引く。
銃口から解き放たれた発光弾が一直線に怪物の頭めがけて飛んでいき、怪物の頭部をぶち抜いた。