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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場
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ココ救出奪還作戦 (9)

フミコが両手でゆっくりと扉を押すと、嫌な音を立てて重たい扉は開く。

開いたその先には広いバルコニーが広がっていた。

フミコは無言でバルコニーに足を踏みいれ、そしてその先に待ち構えている魔物を見据える。


その魔物は二本足で立つ人型の外見をしており、全身はまるで甲冑を着こんでいるように見える硬質な黒い鱗に全身を覆われていた。

恐らくは薄暗い場所で遭遇したならば人と見間違えるだろうその魔物は、バルコニーに踏み込んできたフミコを見ても微動だにしない。

ただ仁王立ちしてバルコニーに立ち尽くしているだけである。


しかし、それだけでも周囲に与えるプレッシャー、威圧感は半端なかった。

もしも、このバルコニーに踏み込んできたのがこの異世界の冒険者だったり、量産型(まるよん)の連中だったならば、恐らくは彼らは恐怖で動けなくなっていたり失禁していただろう。

それほどまでにこの魔物の放つオーラは凄まじいのだ。


そんな魔物に対し、フミコは何を思うでもなくゆっくりと歩を進めていく。

直後、フミコの背後で扉がしまった。

フミコは一瞬だけその事を気にするかのように視線を背後に向けるが、しかし何事もなかったかのように視線を元に戻すと。


「あなた、転生者なんだってね?」


そう魔物に話しかけた。

その一方でフミコは懐からバイクのメーターのように見えるアビリティーチェッカーを取り出し、手にしたバイクのハンドルグリップのように見えるアビリティーユニットGX-A04に装着、浮かび上がった針を指で動かし剣のエンブレムを指す。

そのままアビリティーユニットを持った手をだらんと垂らした後、フミコは真っすぐ魔物へとは向かわずに壁に沿ってゆっくりと歩く。


そんなフミコに魔物は興味深そうに尋ねた。


「ほう?どこで知った?」


魔物を見据えながら壁に沿って歩くフミコは、歩きながらアビリティーユニットのボタンをカチっと押しレーザーの刃を出す。

ブーンという音を響かせながら、フミコはレーザーブレードを構えるでもなく、ただ手に持って歩き、答える。


「仲間から聞いたのよ、あなたがそうだってね」


壁沿いに歩くフミコを視線だけで追う魔物はその場から動こうとはしない。

しかし、ずっと仁王立ちのままというわけではなく、ゆっくりと壁沿いに歩くフミコを常に視界に収めながら魔物は両腕を胸の前で交差させ、力を込めるとそのまま勢いよく両腕を開く。

すると、その両腕から鋭く尖った長い鎌のような刃が一気に生えた。


その長い鎌が生えた両腕を、しかし魔物はだらんと垂れ下げたまま構えを取らず、戦闘態勢に入ろうとはしなかった。

それはまるで、フミコが戦闘態勢に入るまで自分も入らないと言っているかのようであった。


「ほう、それは興味深い。お前の仲間に俺と同じ前世の記憶を持つ者がいるのか」

「さてね?少なくとも、あなたが生前過ごした世界の事は知らないかな?あくまであなたが転生者だって知ってるだけ」

「そうか……まぁ、俺たちの王も別世界の存在だしな」

「へぇ?それはわかってるんだ」


フミコは手にしたレーザーブレードを構えず、ただ魔物に視線を向けながら壁に沿ってゆっくりと歩く。

魔物も刃を生やした両腕を構えず、壁に沿って歩くフミコに視線を向けるだけでその場から動こうとしない。

どちらも仕掛けようとせず、距離を縮めようともしない。

ただただ問答が続く。


「俺たちは王に導かれるがままこの地に集った、王に従うために……そう、この地に集ったすべてのものは共有している。王の崇高な理念も何もかもすべて」

「王の崇高な理念?何それ?ココがそんな大それたもの持ってないでしょ」

「ココ?誰だそれは?一体誰の事を言っている」

「あなたが今さっき自分たちの王だって言った相手だよ、まさか名前を知らないの?」

「はっ!そんな名は知らないな?俺たちの王はそんな名ではない!お前、理由はわからないが、さては適当な事を言って探りを入れてるな?もしくは忠誠心を削ぐ気か……まったく俺を王から引き剥がそうなど笑わせる。俺は王を一目見た時から平伏すにふさわしい相手だと認めたのだ!その王を愚弄するな!!俺の忠誠心を見くびるな!!」

「何を言い出すかと思ったら……あのね?ココはあたしたちの大切な仲間だ。スタンピードで引き寄せられただけのついさっき下僕になったばかりの魔物がわかったような口を利くな!」


魔物とフミコは互いに戦闘態勢を取らず、距離も詰めず、されど互いの主張をぶつけ合う。

そして、魔物がフミコに問う。


「お前、何が目的だ?」


これにフミコはきっぱりと答えた。


「ココを返してもらう」


それを聞いた魔物は目を細めると。


「……お前、俺たちの王を奪いに来たのか?」


そう尋ねてきた。これにフミコはため息をつくと。


「あなたたちの王じゃない、あたしたちの仲間だ。何度も言わせるな!」


そう語気を強めて言い放ち、はじめてレーザーブレードを突き出してその剣先を魔物に向ける。


「さぁ返してもらうぞ、あたしたちの仲間を!」


それを聞いた魔物は小さく深呼吸すると。


「リュカルだ」


そう口にした。これにはフミコも眉を潜める。


「は?」

「俺の名だ……俺はこの今の体の種族名を知らん。どんな魔物なのかも、本来どこに生息しているのかも、どのような特徴を有し、平均的な強さがどの程度なのかもまったく知らん。だから前世の名を名乗る。誇り高き騎士だった前世の名を持って、王を守るために戦う!!人間ごときに俺たちの王を引き渡してなるものか」


そうリュカルと名乗った魔物は宣言し、鋭く尖った長い鎌のような刃が生えた両腕でファイティングポーズを取る。

ようやく闘志を見せた相手を見てフミコは小さく息を吐き出すと歩を止めてレーザーブレードを軽く振るって構え。


「あたしはフミコ。ココの友人だ。リュカル、ココは返してもらうよ!!」


そのまま床を蹴って一気にリュカルに向かって駆ける。


「はぁぁぁぁぁ!!!!」


一瞬にしてフミコはリュカルの懐に入り込み、そしてレーザーブレードを振るう。

それは誰がどう見ても防ぎようのない一閃であった。

しかもフミコが振るったのはただの剣ではない、レーザーの刃だ。


リュカルが腕から生やした鋭く尖った長い鎌のような刃がどれだけ頑丈で硬かろうがレーザーの刃に対抗できるわけがない。

受け止めようとしても腕を焼き切られるのが目に見えている。

そう、そのはずなのだ。

だが……


「っ!!」


弾かれた。


その距離も速度も絶対に相手には対応不可能だったはずなのに弾かれた。

絶対に対応不可能なはずのレーザーの刃を弾かれた。


そんなありえない光景を見て、常人ならば思考が停止するだろう。

何が起こったのだ?と混乱するだろう。


しかし、フミコは驚愕のあまり思考停止に陥る事も混乱する事もなかった。

ただ、純粋に攻撃を弾かれた事実を目にして。


(これが初撃パリィ!!)


そう冷静に受け止めていた。




時は少し遡る。

それは監視塔に突入する直前、フミコはリーナ(成長ギャル化版)からリュカルの異能について事前に知らされていた。




「フミコお姉ちゃん、相手の転生者の異能はずばり『パリィ』だよ」


リーナ(成長ギャル化版)のその言葉にフミコは首を傾げた。


「ぱりぃ?何それ?」


そんなフミコと違い、隣で話を聞いていた寺崎歩美は。


「それってゲームでよくある敵の攻撃を弾いたり受け流したりするやつ?」


そう言ってロ〇サガとかダー〇ソウルとかエ〇デンとかと具体的な名前を列挙しだしたが、ここでは割愛しておく。

そんな寺崎歩美にリーナ(成長ギャル化版)は笑顔でうんうんと頷くと。


「まぁ、イメージとしてはあってるっしょ!つってもフミコお姉ちゃんの相手の転生者はパリィの後に反撃はしてこないんだけどね。まじありえないっしょ?チャンス逃しすぎでマジウケるし!」


そう言って一人ゲラゲラと笑い出す。

そんなリーナ(成長ギャル化版)を見てフミコと寺崎歩美はそのテンションについていけないと言わんばかりに二人して愛想笑いを浮かべる。

リーナ(成長ギャル化版)はそれを見て。


「まぁ、パリィの後に相手が攻撃してこないのは相手の異能の性質上仕方ないってのもあるっちゃあるんだけどねーマジちょっと面倒な異能だし」


そう肩をすかして見せた。


「どういう事?」


それを聞いて首を傾げるフミコにリーナ(成長ギャル化版)は異能の確信を告げる。


「まぁぶっちゃけると、その相手のパリィの異能って、パリィを連続で成功させれば成功させた分だけボーナスがつくんだよね。だから反撃なんかしてパリィが途切れたら相手からしたらマジ最悪ってわけ、ウケるっしょ?けど、色々と面倒なパリィもあって、そのひとつが『初撃パリィ』つまり()()()()()()()()()()()()()ってわけ。()()()()()()()()()()ね?そういう異能なの、ヤバいっしょ」

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