ココ救出奪還作戦 (2)
「それにしても、とんでもない数だな……」
改めて監視塔の周辺を見回すが、ここが城塞都市テルカの中であるという事を忘れてしまうほどに、そこには大量の魔物が所せましと肩を寄せ合い蠢いていた。
何万人もの観客が押し寄せる有名な野外ロックフェスのステージ側から観客を見るとこういった感じの景色が見れるのだろうか?
とすれば、まさにこれはアーティストの視線だ。
とはいえ、野外ロックフェスとは違って、彼らはこちらに対してまったくもって友好的ではないのだが……
「だよね……というか時間が経つたびに増えていってない?」
自分の隣に立つフミコが双眼鏡を覗き込みならそう言うと、そんなフミコの隣に立つ寺崎歩美も目を凝らしながら周囲を見回し。
「ですね、地面から湧き出した黒い靄の中からどんどん新手が出てきてる感じです。けど、ざっと見た感じ数は多いですけど、どれも雑魚ばかりって感じじゃないですか?」
そう口にするが、これに対しフミコが。
「歩美、油断大敵だよ。確かに雑魚ばかりだけど、中には外見は他と同じでもこちらが歯が立たないほど強い、洒落にならない高レベルのイレギュラー個体だっているかもしれない。常に最悪は想定しておくべき。それに雑魚ばかりと言っても人海戦術で来られたらこっちだって体力が持たない。いずれにせよ、あの数は脅威だよ」
そう言って寺崎歩美をたしなめる。
しかし、当の寺崎歩美は言われた事をちゃんと理解しているのか怪しい素振りで。
「はい! 気をつけます先輩!! だからこれからもどんどん歩美の事指導してください!! いつでもどこでも!」
そんな事を言ってフミコに抱きつく。
これにフミコは「こら歩美! まじめな話してる時に抱きつくな!」と寺崎歩美を引き離そうとするが、しかし寺崎歩美は離れようとせず「嫌です先輩、もっとご指導賜りたいので」などと言ってより一層くっついていく。
これにはフミコも「いい加減にしろ!」と怒鳴るが、しかし寺崎歩美は離れようとはしなかった。
そんなふたりの様子に思わず苦笑しながら、フミコとケティーの毎度の喧嘩もあれだが、それとは別の意味でこれも少々厄介だなとため息をつきたくなった。
何にせよ、今は目の前の事に集中だ。
改めて監視塔の頂上に陣取るココの様子を確認する。
監視塔の周辺の地面から湧き出している黒い靄は、監視塔の頂上にいるココの周囲でもっとも濃くなっている。
つまりは……
「黒い靄をどうにかしない事にはココもスタンピードは終わらないしココも正気に戻らないって事だよな。けど、どうすりゃいいんだ?」
それに懸案事項はそれだけではない。
監視塔の頂上に陣取るココ。そのココを守るように、監視塔の中腹から上層のバルコニーには4体の魔物が鎮座していた。
その4体は地上にいる有象無象の魔物たちとは違い、それぞれが魔王軍最高幹部ヘイマンを優に超える実力を兼ね備えた個体であった。
言うなれば、スタンピードのボスであるココに仕える四天王といったところだろう。
そして、その4体の実力はスタンピードの影響化という事もあって現状、この異世界の魔王すら凌駕する力を誇っている。
そして、スタンピードに取り込まれたココはさらに力を増しており、実質、ココは現時点においてこの異世界における真の魔王と化していた。
「うーん……方法はわからないけど、これはマジで急いだほうがいいな。悠長にしている暇はないっぽいぞ」
そう口にすると寺崎歩美がフミコに抱きつきながら。
「何かまずい事態でも発生したの?」
そう尋ねてきた。なので監視塔を指差しながら説明する。
「あれを見て他の連中がココを倒しに監視塔周辺に集結してくるかもしれない。とはいえ、寺崎にはわるいがGX-A04の連中には何かできるとは思えないし、できないと思う。けど、召喚者の連中は話が別だ」
「召喚者たちにはココさんを倒せると?」
「いや、無理だろうな? 何せクソリーマンのおっさんの話じゃ魔王軍の幹部だったやつにすら苦戦するレベルなんだ。なら今のココに勝つなんて絶対に不可能だろ」
「じゃあ何が問題なの?」
「わからないか? 召喚者は確実に返り討ちにあって死ぬ。さすがに異能を奪う前にそれをされるのはまずい……何より連中はパーティーを組んで行動してるだろ? つまりは男女揃ってココに挑むわけだ。つまりは……」
そこまで言って寺崎歩美はようやく気付いた。
「そうか! 男の子だけが返り討ちにあって死ぬならいざ知らず、女の子も一緒だったら……獲物を奪われる事を嫌うアシュラにココさんが殺されちゃう!」
「そういう事。だから召喚者たちが何かする前にココを正気に戻さないといけないってわけだ」
そう言って改めて監視塔に視線を向ける。
地面から湧き出した黒い靄からは今も続々と魔物があふれ出し、数はどんどんと増えていっている。
そんな光景を見ながら寺崎歩美がこんな事を聞いてきた。
「ところで、ココさんってギガバイソンっていう巨大な牛の魔物なんですよね?」
「そうだけど?」
「牛って背中にあんな怪獣みたいな背びれ生えてます? というか二本足で立ってるし……」
「……普通は生えてない、な……」
寺崎歩美が指摘した通り、監視塔の頂上に陣取るココは今、本来のギガバイソンの姿であるにも関わらず二本足で立っていた。
そして、その背中には東〇が世界に誇る、最も有名な怪獣王を連想させる背びれが生えており、尻尾の先には鋭利な棘まで生えていた。
さらには両肩から鋭くとがった巨大な棘も生えており、頭の角は禍々しい形に変化している。
かつてヴィーゼント・カーニバルで戦ったギガバイソンのレヴェントンはベルシの『隷属進化』によって強化されたギガバイソンEという種族になって2本足でたち、斧を握る手もあった。
だが、そんなギガバイソンEのレヴェントンでもここまでの外見の変化は起こっていなかった。
では、今のココは一体どういった状態なのか?
そんなココの背中の背びれから紫電が迸り、やがて背びれ全体が眩しく光り出す。
そして、ココが大きく口を開いた瞬間、その口から強力な放射熱線が放たれた。
その光景はまさに東〇が世界に誇る、最も有名な怪獣王が放射熱線を吐いた瞬間、もしくは円〇ロが世界に誇る光の巨人の戦士の敵怪獣が攻撃を放った瞬間を連想させた。
その光景を見た寺崎歩美は。
「牛って熱線放てるんだーへぇー」
もはや考える事をやめた顔でそんな事を口走った。
うん、そうなるよね……もう牛と言っても魔物だから! で通せないよね、あれ……
それもそのはず、今のココを鑑定眼で視ると種族名がこう表示される。
「超ギガバイソン極」と……
超ギガバイソンってなんだよ! 極って種族名につけるものじゃねーだろ!
そんなツッコみはさておき、現状の戦力でこれは何とかなるものなのだろうか?
そう考え、そしてある結論を出す。
「緊急事態だ。追加の仲間を招集しよう!」
これにはフミコが「はぁ? 今から? 一体誰を? そもそも皆予定があるから無理でしょ」と不満を漏らすが、構わずこう答えた。
「リーナちゃんだよ。未来のリーナちゃんなら召喚するわけだから問題ないはず」
そう言って未来のリーナを召喚すべく右手を突き出す。
それを見たフミコは何やら怒ってわーわー騒いでいるが気にせず魔法陣を浮かび上がらせる。
「召喚……こい! リーナ=ギル=ドルクジルヴァニア!」
そして右手の先に浮かび上がった魔法陣の中から一人の人物が飛び出してきた。
「おわ!? 何何ってあれ? これってもしかして!? っ!! あーし、ひょっとしてマスターに求められちゃった? やりぃー!」
そう言って笑顔でピースサインを見せてきたその人物はリーナ(成長ギャル化版)であった。




