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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
17章:混沌の戦場

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混沌の戦場 (17)

 野村健太郎は一体何が起こったのか理解できなかった。


 どうして最上級の強力な従魔契約が打ち破られたのか?

 何故自分に従っているはずの魔物たちが自分の支配を離れたのか?

 どれも理解が追いつかなかった。


 そもそも野村健太郎がココに仕掛けた最上級の強力な従魔契約は途中までは機能していたのだ。

 そう、あと一歩でココは確実に野村健太郎にテイムされ、彼の支配下に下ったはずなのだ。

 しかし、実際はそうはならなかった。


 テイムの秘奥義である最上級の強力な従魔契約は打ち破られ、さらには支配下に置いていたはずのスタンピードの魔物たちもすべてココに奪われた。


 どうして失敗した?

 奪った変換師の力……反転はその効果を十分に発揮しなかったのか?

 回数制限のあるテイムの秘奥義は常に成功するわけではないのか?

 ブーストによる底上げが足りなかったのか?

 5人のユニットリンクでは出力不足だったのか?

 奪ったばかりの異能は8割の力しか出せないという話だったが、それが原因なのか?


 野村健太郎はあらゆる可能性を考えるが、しかし答えは導きだせなかった。

 というよりも、野村健太郎の考えはどれも正解でどれも間違いであった。


 まず、彼の仕掛けた反転は確かに効果を発揮した。

 一時的とはいえ、確かにココのレベルと野村健太郎とのレベルを反転させたのだ。

 その証拠に、ココは自身の周囲に展開した無数の最上級の強力な従魔契約の陣によって頭を抱えてその場にしゃがみ込み、泣き叫んでいる。


 そう、単純にこの時点ではテイムの秘奥義は成功しかけていた。

 だが、ここで野村健太郎は重大な過ちを犯していた……


 その重大な過ちとは「矛盾」だ。

 反転と最上級の強力な従魔契約を同時に行使するという、単純なミスともいうべき矛盾を引き起こしたのだ。


 野村健太郎がココに仕掛けたテイムの秘奥義である最上級の強力な従魔契約。これは回数制限があるとはいえ、自分よりも格上の相手をテイムできる奥の手だ。

 とはいえ、これを発動するには多くの発動条件がある。


 その発動条件は相手や状況によって変化し、成功させるためのこれといったマニュアルはない。

 つまりは本当に発動条件を満たせているのか? 実際のところは本人にすらわからないのだ。


 ただ、確実に言える事は、自分よりも強い相手を自分との立場、関係性をひっくり返して従えてしまう強力な契約だ。

 それは言うなれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。

 つまりは、確実にわかっている発動条件のひとつは「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」。


 そして、野村健太郎は最上級の強力な従魔契約の発動と同時に反転も行使し、ココと自身のレベルを一時的とはいえ反転させた。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ではこの状態で従える相手は自分よりも強い相手である事が条件の最上級の強力な従魔契約を行使すればどうなるか?


 答えは見ての通り。

 従魔契約は失敗し、激昂したココによって野村健太郎は命の危険に晒された。


 「反転」という一発逆転の力を得て高揚していたとはいえ、野村健太郎はテイムの秘奥義を行使するなら「反転」は使ってはいけなかったのだ。

 さらに言えば、彼はその異能を奪ったばかりでその特性も掴めていない状況で、正式なメンテも行っていたいため出力は本来の性能の8割……常識人ならこんなものを速攻行使しようとは普通思わないだろう。


 とはいえ、仮に野村健太郎が矛盾に気付き、反転を行使しなかったとしても、彼がココを使役(テイム)できていたかと言われると、それはまずもってありえないだろう。

 それは、テイムの異能も同様にメンテしていないため8割の出力しかだせないからといった理由ではなく、単純にカイトと野村健太郎との実力差が天と地ほど離れているからだ。


 これまでにカイトは数えきれないほどの異世界を巡っている。

 訪れた異世界の出来事ひとつひとつを丁寧に本編において描いていないため意外に思うかもしれないが、それはもうかなりの数を実際は巡っている。

 そして、巡った異世界の数だけ転生者・転移者・召喚者からその異能を奪い殺めている。


 今回の異世界のように転生者・転移者・召喚者が複数人いた異世界もいくつかあった。

 そして異世界渡航者は奪った異能の数だけその力が増す。スペックが強化される。

 そう、すでにカイトは野村健太郎が少しばかりチートな異能をひとつふたつ手に入れたところで、すぐに追いつける、どうにかできるレベルではなくなっているのだ。


 そして、そんなカイトによって「束縛(菌糸隷属強化)」「保護(菌糸隷属強化)」「加護(菌糸隷属強化)」の能力で守られているカイトの仲間たちはそう易々と彼の庇護下から引き剥がし、支配する事はできないのである。

 たとえ野村健太郎が正式にGX-A04をメンテナンスしてテイムとブーストの力を100%発揮できるようにし、すべての日本国民にGX-A04を配って彼らとユニットリンクで繋がってブーストで強化しテイムを行使したとしても、ココを使役(テイム)するのは不可能だろう。

 何をしたとしても、奪う事も、引き抜く事も、服従させる事も、寝取る事もできないのだ。


 それほどまでに今のカイトは強く、仲間との絆も強いのだ。

 とはいえ、それでもアシュラの足もとには現時点で遠く及ばないのだが……




 「な、何が……どうなって?」


 なぜ失敗したのか? 考えても答えが出せない野村健太郎だったが、すぐに全身に耐えきれぬほどの激痛を感じ、直後とんでもない量の血を一気に吐き出す。


 「がはぁぁぁぁ!?」


 吐血し、しばらく息が荒く身震いが止まらなかった野村健太郎だが、そこでようやく気付く。


 「ゲホっゲホっ……はぁ、はぁ……く、失敗の反動……か? ぐぞ! こんなの聞いてないぞ」


 野村健太郎は息も切れ切れにそう言って再び吐血する。

 これは奪った異能の特性を理解しないままに即座に行使すると起こる現象だ。

 異世界渡航者あるあると言ってもいいだろう。


 相手が行使しているのを他人として見ている分には便利な異能だったり、チートのように見えてしまいがちだが、実際には異能には他人には見えない部分で多くの制約がある。

 本来なら、それを次の異世界にたどり着くまでの間に次元の狭間の空間で把握して、使える異能か使えない異能かの判断をするところなのだが、量産型(まるよん)はその過程をすっ飛ばす事ができるため、リスクに気付かず異能を行使してしまうのだ。


 今回の野村健太郎に限って言えば、回数制限のあるテイムの秘奥義「最上級の強力な従魔契約」はその発動条件を満たさないまま行使したり、格下相手に発動した場合はペナルティーが発生し、更に契約に失敗した場合はその代償として臓器の一部をもっていかれるのだ。

 そして野村健太郎は発動条件の未達に加え、反転を平行して行使してしまったがゆえに格下相手への行使となってしまい、その結果の失敗と、とんでもない反動を受ける事になり、ゆえに内蔵の多くを持っていかれる結果となったのだ。


 そんなわけで野村健太郎は今意識も朦朧としている状態なのだが、そんな野村健太郎の前に誰かがやってきて彼の胸倉をつかんで無理矢理立たせ、こう怒鳴り散らした。


 「このクソリーマンが!! てめーココに何をした!? ふざけやがって!! ただですむと思うなよ!!」


 そして思い切り野村健太郎の顔を殴りつける。

 その人物は言うまでもなくカイトであった。

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