混沌の戦場 (12)
松野元気は状況がまったく飲み込めず、一瞬思考が停止して固まってしまうが、すぐに我に返り、こちらにガン〇ムのビームサーベルもしくはスター〇ォーズのライトセイバーに似た何かを向けてくるビジネススーツの男とその仲間とおぼしき集団に愛想笑いを浮かべながら話しかける。
「あれ? 君たち一体ここで何をしてるんだい? というかそれ、どういう状況? おかしいなー? 彼、一様僕の知り合いで召喚勇者のひとりなんだけど?」
しかし、松野元気の言葉にビジネススーツの男は一切反応を示さなかった。
それどころか、ビジネススーツの男の仲間とおぼしき連中も、それぞれその手にガン〇ムのビームサーベルもしくはスター〇ォーズのライトセイバーに似た何かを持ってこちらに近づいてくる。
うん、まずい……この状況はどう考えてもまずい気がする!
そう思い、松野元気は背後にちらっと視線を向ける。
今、松野元気の後ろには彼の手引きによって城塞都市テルカに入り込んだ魔王軍最高幹部の一人ヘイマンがおり、更にその彼の護衛の魔族数名もヘイマンの後方に控えている。
それだけではない、まだ城塞都市テルカには入り込んでいないものの、今秘密の抜け穴内にはスタンピード第2派で襲ってくるはずの魔物たちが続々となだれ込んできて大渋滞を起こしており、それらはじきに抜け穴を抜け出して出口からあふれ出し、テルカ内部で暴れだすだろう。
言うなれば、あと少しで松野元気の目的は完遂するのだ。
しかし、今ここで計画をキャンセルすればすべてが水の泡。魔王に近づくチャンスが遠のいてしまう。
(どうする? 魔族といるところを見られてしまった以上殺すしかないが、しかしこいつらの実力がわからない以上、ヘイマンを戦わせるわけにはいかない……何せどういう経緯でそうなったかさっぱりだが、片岡のやつが殺されてるんだ。万が一、同じようにヘイマンが殺される事があればすべてがご破算だ。それだけは避けなければ!)
松野元気は短い時間であらゆる可能性を考え、そしてある結論を導き出す。
それは……
「なぁ、君たち僕と同じ召喚勇者だよね? しかも僕らよりも後に召喚された、そうでしょ? まったく教会の人たちもいじわるだなー、こういう事はちゃんと教えておいてほしいよね。でないとお互い、遭遇した時に困るよね? 今みたいに」
松野元気は冷や汗をかきながらも、極めて冷静を装いながらそう言って、ビジネススーツの男とその仲間たちが殺した片岡というらしい男の死体を指差して尋ねた。
「揉めたんでしょ? 片岡と……で、殺した。違う?」
しかし、ビジネススーツの男は何も答えない。
それでも松野元気は続ける。
「ま、何で揉めたかは知らないけど。大方魔王軍への対処に仕方について意見の食い違いが発生したとか何とか……そんなとこでしょ? うん、わかるよ。片岡のやつ、自分は前線で戦わない支援職のくせに、戦闘職にガンガン行け! って口悪く言うやつだったし、何言ってんだ? って感じたんでしょ?」
松野元気はそう言うとニヤリと笑い。
「ねぇ君たちさぁ。そんな片岡を殺したくらいだからさ、思うんだけど実はこの魔王軍との戦争に疑問を持ってたりしない? なんで僕たちが戦わないといけないんだって思ってるんでしょ? でなきゃ同じ召喚勇者を殺すなんて人類に対する利敵行為しないよね?」
そう訊ねた。
これに対し、ビジネススーツの男がはじめて口を開く。
「だとしたらどうする?」
これを聞いた松野元気は口元を歪め。
「僕と一緒に魔王軍と戦わずに戦争を終わらせない?」
そう口にした。
これを聞いたビジネススーツの男は無表情のまま聞き返す。
「ほう? どうやって?」
ビジネススーツの男の反応に松野元気は内心でガッツポーズを取った。
(よし! いいぞ食いついた!!)
そして心を落ち着かせるため一息つくと、まずは自分のスキルとその効果、そしてそれを利用して今実行している計画について話した。
これをビジネススーツの男は何の反応も示さず聞いていたが、気にせず松野元気は自身が計画しているすべてを語り、ビジネススーツの男に訊ねる。
「どうかな? 僕の計画、興味を持ってもらえたかな?」
これに対しビジネススーツの男は眼鏡をくいっと持ち上げると。
「そうだな。一言でいうなら、つまらん……それ以外の感想が出てこないな?」
そう切り捨てた。
ビジネススーツの男の言葉に松野元気は呆気に取られる。
「は?」
そんな松野元気にビジネススーツの男、野村健太郎ははっきりと。
「正直言って、今お前が述べた計画はティーンエイジャーの考えるくだらない夢物語、その域を出ない実につまらない発想の代物だ。そんなものに命をベットして乗るバカはいないだろう。もう少し具体性と信憑性、説得力、それにプレゼン力を鍛えろ。話にならん」
そうノーを突き付けると。
「大体、最終目標が好きな女を手に入れるためだ? バカバカしい……まぁ、ティーンエイジャーの発想だから仕方ないのかもしれないが、あまりに視野が狭すぎる。いや、見ている世界が小さすぎると言うべきか。魔王を制御し、人類全体を救える可能性のある力を得ながら、それで望むものがそんなくだらないものとは……まぁ、ティーンエイジャーはまだまだ自分の知る世界が狭い、周囲の大人や環境、社会に保護された生き物だ。自分が今いる環境の中でしか選択肢がないのは事実、それも仕方ないのかもしれないが、それでも実に哀れだ」
わざとらしく顔に手を当てて首を振り、松野元気の発想を嘆く。
これに松野元気は反発した。
「な、何だと!? おまえ、僕の望むものの何がバカバカしいって言うんだ!!」
そんな松野元気を野村健太郎は哀れな生き物を見る目で見るとため息をつき。
「何がバカバカしいかわからない、か……まさしく自分が今いる狭い環境しか知らない、その中でしか選択肢を見つけられない、望むものを見いだせない自ら籠に閉じこもった渡り鳥だな? 鳥籠の扉は開いていて広い世界に逃げ出せる、飛び出せるというのにそれをせず、狭い鳥籠の中に引きこもっている……いいか? せっかく望むものが何でも手に入る絶対的な力を得たんだ。それなのになぜ、いつまでも自分が保護されていた環境下での選択肢を選び続けるんだ? もう狭く限られた選択肢を選ぶ必要はないというのに」
そう言うと野村健太郎はポケットからスマホを取り出し、松野元気にある写真を見せる。
それはとある有名なバントのボーカルの写真だった。
「なぁ、誰もが知ってるヒット曲を生み出して売れだしたミュージシャンが、売れなかった下積み時代を支えてくれていた奥さんを捨てて、有名な女優やアイドルと再婚するって話よくあるだろ? ミュージシャンだけじゃない、俳優や芸人でもたまにあるな? あれをどう思う?」
野村健太郎の質問に松野元気は眉を潜めながらも率直に答えた。
「どうって……そんなの最低だ」
「まぁ道徳的観点ではそうかもしれないな? けどな、世界が広がるってそういう事だぞ? 狭い限られた選択肢の中では売れない時代……幼馴染だったのか同級生だったのか先輩後輩だったのかサークル仲間だったのか行きつけの店の店員だったのか近所の知り合いだったのか知らないが、苦楽を共にしてくれたそれらが自分のすべてと錯覚してしまう。そして、ほとんどの人がそこで一生を終えてしまうだろう。けど、ごく一部の人間はそうではない。広く世間に認知され、受け入れられ、その世界が劇的に広がり、今までと違って選択肢が大きく増える。限られた狭い選択肢の中で選ぶ必要はなくなるんだ。より上の選択肢に目を向けられるんだ。それなのに、狭い世界の選択肢を選び続けるのは怠慢だとは思わないか? お前の発想がまさにそれだ。せっかくほとんどの人が得られない、より大きな選択肢を選べるようになったというのに」
野村健太郎のいい様に松野元気はため息をつき。
「言いたいことはわからなくはないけど、その発想、どうかと思うよ?」
そう言うと背後にいる魔族たちに目を向ける。
「それに、どれだけ世界中の有名なセレブや女優が目の前にいようとも、僕は伊集院さん以外を好きになる気にはなれないね!」
松野元気はそれだけ言うと、テイマーのスキルを行使してヘイマンたち魔族に命令を下した。
「ヘイマン!! あいつらを殺れ!!」
松野元気のその命令にヘイマンは「あ?」と声をあげて眉を吊り上げる。
当然だ。
何せヘイマン自身は松野元気に「従魔契約」されたつもりはないのだ。
あくまで自分と松野元気は「対等に」交渉し付き合っている。そう思い込んでいるのだ。
しかし、当然ながらそんな事はない。
ふたりの関係は「従魔契約」を結んだ時点で対等ではない。
これまでは魔族側との交渉に支障が出るからあえて強制しなかっただけだ。
だが、ここに至ってはもう隠すつもりはない。
何せ、この局面を切り抜けられなければ次には進めないのだから。
(このビジネススーツのサラリーマンと他の連中が召喚勇者としてどれだけの実力を持っているかはわからないが、魔王軍最高幹部に勝てるとは思えない! 現時点であの「勇者」の一条ですら苦戦する相手なんだからな!!)
そう思い、戦闘はヘイマンに任せて自分は後方に下がろうと思った時だった。
「それがお前の力か」
野村健太郎はそう言うと、ガン〇ムのビームサーベルもしくはスター〇ォーズのライトセイバーに似た何かを引っ込めると、手にしているバイクのメーターのようなものの画面上に浮かびあがっている針と無数のエンブレムすべてに直接手のひらで触れる。
すると。
『Take away ability』
音声が鳴り響き、直後松野元気の体から光りの暴風があふれ出し、野村健太郎の持つバイクのハンドルグリップのように見える何かにあふれだした光りの暴風が吸い込まれていく。
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
それと同時に松野元気は苦しみもがき、地面に倒れ込んだ。
そして数秒後、松野元気の体からあふれ出した光りの暴風がすべて吸い込まれると、松野元気は倒れたその場から動かなくなった。
そんな松野元気に野村健太郎は近づいていき。
「さて、それじゃ仕上げだ」
そう言ってバイクのハンドルグリップのように見える代物からガン〇ムのビームサーベルもしくはスター〇ォーズのライトセイバーに似た何か……レーザーの刃を出して松野元気の腹を突き刺し殺害した。
こうして野村健太郎は短時間の間に2つの異能を得る。
そんな野村健太郎にヘイマンと護衛の魔族たちは片膝をつき頭を下げた。
「何なりとお申し付けを、我が主」
それを見た野村健太郎はニヤリと笑う。
「従魔契約がそのまま異能を奪った俺に引き継がれたわけか。面白い」
そして振り返り、野村健太郎についてきた量産型たちに告げる。
「なぁ、ちょっと提案なんだが……今奪ったこの異能、少し試さないか?」
その言葉に皆が顔を見合わせ、誰かが口を開いた。
「試すって誰に?」
この当然の疑問に野村健太郎は眼鏡をくいっと持ち上げてから。
「もちろん先輩だ。GX-A03……あのガキにな?」
そう言って狂気に顔を歪めた。
よろしければ☆評価、ブクマ、リアクション、感想などなどお願いします!




