その贈り物は誰からのものなのか?(3)
ユニットリンクシステム。それはまさにGX-A04の量産型という特性を最大限にいかせる機能である。
量産型であるがゆえに大量に存在するGX-A04は単体でみると確かに性能値が低く、出力不足が否めない。だが、そんな欠点を補う事が出来るのがユニットリンクシステムだ。
それは言葉通り、GX-A04が他のユニットと接続する事で接続した相手と自身のステータスを融合させて性能値を大幅に向上させる事が可能となり、接続するユニットの数が多ければ多いほど、その威力は増すという、まさに集団戦に特化した量産型ならではの機能なのである。
「なるほど、接続したユニットの数だけ性能値を底上げできるわけか……つまりは単独で行動せず、このGX-A04を所持した集団で行動する事が前提って事か」
その言葉を聞いたフミコが不安そうな表情となった。
「え? それって、かい君と別れて、このGX-A04? ってのを持ってる連中と行動を共にしないといけないって事? そんなのやだよ!!」
そして、離れたくないと言わんばかりにこちらの腕につがみついてきた。
そんなフミコを見て苦笑いを浮かべながら。
「いやフミコ、まだそうと決まったわけじゃ……それに、もしカグやスプルがそうするつもりなら、すでに連れ去られているはずだろ? だからあまり心配はしなくていいんじゃないか?」
そう言ってフミコを安心させようとするが、一方でカグやスプルの狙いが何なのかわからない以上、フミコが突然拉致られないように警戒しなければならないとも考える。
本当に、連中はこんなものを何も言わずにフミコに渡して一体何を企んでいるんだ?
何より、このGX-A04を調べて一番気になったのは使用条件だ。
それは「特になし」となっている。
使用条件に制限がない……つまりは誰にでも扱えるというわけだ。自分の扱っているGX-A03のように、適合者にしか扱えないという代物ではない。
だからこその低スペックであり、だからこその量産型であり、だからこその大量のユニットを接続して威力を高める集団戦仕様なのだろう。
これが意味するところはつまり、ますますこのユニット単体では意味をなさない、使えない代物だという事だ。
(あの神を自称するクソ野郎共! これをフミコに渡してフミコをどうするつもりなんだ? こんなものフミコが持ってたら連中に連れ去られるリスクが増すだろ! つまりは俺が預かっとくべきか?)
そう考えてから、改めて使用条件に制限がない、誰でも扱えるという事実に着目する。
自分が地球でカグからGX-A03を渡された時は正義感が強すぎるやつや信仰心の強いやつはダメだと言っていた。
だが、この量産型は誰にでも扱えて、ユニットの総数がどれだけなのかはわからないが、恐らくは数えるだけしかないなんて事はなく、それなりの数が製造されているはずだ。つまりは、使い捨ての駒を大量に生み出せるというわけである。
どれだけ戦死しても、替えはいくらでもいる。いくらでも補充できる。
だからどんどん失敗を恐れず投入できるのだ。厄介な転生者・転移者・召喚者がいる異世界であれ、アシュラの元であれ……
何とも虫唾が走る、反吐が出る戦略だ。
そして、そんな反吐が出る戦略にフミコが組み込まれようとしていると思うと怒りがこみ上げてくる。
(ふざけるな! 連中にフミコを絶対に渡してなるものか!)
そう決意を固くして、GX-A04をメンテ装置から取り出してアタッシュケースにしまい。
「とはいえ、カグにスプルのやろうが何かしてくるとも限らない……だから、これは俺が預かっとくよ」
そうフミコを安心させるように言うとフミコは頷き。
「うん、お願い」
そう言ってから安心したような表情で。
「ところでお腹すいちゃったな。もうみんな起きてくる頃だろうし、食堂行こう! 朝ごはん朝ごはん!」
こちらの手を引いてきた。
そんなフミコに促されるまま。
「わかったよ、朝食にしよう」
GX-A04が入ったアタッシュケースをロッカーの中にしまって鍵をかけ、フミコとともに食堂へと向かった。
フミコからGX-A04を引き離したカイトはこの時はまだ気づいていなかった。
三途の川で先輩である高杉夏治からデータを引き継いだ際、実はGX-A02のある機能を引き継いでおり、その機能の存在に気付いてないがゆえにまだその機能を解放していないという事実を。
その解放していない機能の名はプロトリンクシステム。
ユニットリンクシステムの原型であり、当初はGX-A02といずれ現れる後継のGX-A03との共闘を想定して組み込まれていた機能だ。
高杉夏治が早い段階でアシュラに敗れたためにプロトリンクシステムの完成形はGX-A03に搭載されなかったが、しかし完成したシステムはそのまま量産型に転用されユニットリンクシステムとなったのだ。
そんなユニットリンクシステムの原型であるプロトリンクシステムを、カイトは高杉夏治からデータを引き継いだため、実は機能を解放すればいつでも使用可能となっていたのだ。
つまりは、量産型とシステム面で共闘が可能な状態にすでになっているのである。
しかし、この時点ではまだその事をカイトは知る由もなかった。
止むことのない雨が大地に降り注いでいた。
ここはとある異世界のとある丘の上。そこは雨で大地はぬかるみ、足場が悪くなっている。
当然ながらそんな場所で動き回っていてはズボンは泥だらけだ。
そんな場所でカイトは今、あるふたりの人物と対峙している。
いや、正確には一人の人間と一体の鉄人形だ。
人間の方はマジシャンのような恰好をしたペレーゴという名の男性であり、異世界転生者である。
そんな彼の横に立つのはペレーゴによって生み出され、彼の命令に従う鉄人形のトッポだ。
トッポはペレーゴの命に従い、縦横無尽に雨の中、カイトの周りを目にも見えぬ速さで飛び回り、カイトを攪乱する。
そう、ペレーゴはこの異世界で名の知れたパペット使いであり、彼の扱う数体存在する鉄人形はどれも強力で並みの冒険者では歯が立たず、ゆえにペレーゴは大陸最強との呼び声も高いのだ。
そんなペレーゴの扱う鉄人形の中でも最もスピードに秀でて、かつ頑丈な体を持つトッポの前にカイトは戦いが始まってすぐの頃は苦戦を強いられていたが、しかし、すぐにそのトッポの動きにも対応し、逆に今はトッポを窮地に追いやっている。
それもそのはず、カイトは魔導書でハーフダルムと戦っていた時とは比べ物にならないほど強くなっているからだ。
あれからすでに無数の異世界を巡り、所持する異能の数も増え、既存の異能の性能も格段に強化されている。
特に貴族の末っ子に転生したおかげで家督を継げない事から、誰にお咎めを受ける事も無いので魔法の習得に没頭していたら、いつの間にか王国一の魔導士になってしまい、爵位をもらって救国の英雄になった転生者や、難癖をつけられ婚約破棄されたので隣国に行ったら、そこで奇跡の力を発揮しすぎて救国の聖女として王子に求婚されて世界を救ってしまった転生者。辺境の地でのんびり発明しながらスローライフを送ろうとしたら発明品がなぜか王国でバカ売れして王家御用達の発明家になってしまった転移者といった彼らの異能はあまりに強力で、魔法、支援・サポート、錬金術の能力値が何十倍にも跳ね上がってしまっていた。
今ならハーフダルムに勝てるんじゃないか? アシュラともそれなりに戦えるんじゃないか? と錯覚してしまうほどに……
そんなカイトの攻撃を受けてよろめき、後方へと下がったトッポにペレーゴは命令を下す。
「トッポ!! 合体だ!!」
ペレーゴの命令を受けて鉄人形たるトッポの体が真っ二つに割れ、そのまま鉄のボディが鎧となってペレーゴの体に向かい合体、ペレーゴの姿を鎧を身に纏った姿に変える。
それは自らが生み出した鉄人形を自らが着こみ、その性能を最大限に引き出すパペット使いの最後の手段、いうなれば秘奥義だ。
そんなペレーゴを見てカイトもアビリティーチェッカーを取り出し、あるエンブレムをタッチし叫ぶ。
「だったらこっちも装甲を纏わせてもらうぞ!! 装着!!」
直後、カイトの周囲にメタリックな機械の鎧が出現し、カイトの体に装着されていく。
そして、カイトの姿が全身メタリックなパワードスーツに身を包んだものとなった。
それはこの異世界より前に訪れた異世界で手に入れた異能、「装甲装着」である。
その異能を手に入れた異世界は地球とよく似た世界ながらもどこか違った歴史を歩んだ異世界であり、平行世界からの侵略を受けていた。
そして、平行世界からの侵略に対抗するため人々はパワードスーツを身に纏い、平行世界からやってくる化け物と戦っているという特撮全快の世界観であったのだが、その異世界で何があったのか? についての詳細はいずれまた、何かの機会で……
何にせよ、纏ったパワードスーツはさらに魔導書で八重野伊代から奪った変身ヒロインに変身できる異能と同義と見なされ、より強力なものとなっていた。
ゆえにパワードスーツを纏った状態のカイトがペレーゴに負けるわけはない。
よって戦いはカイトが一方的にペレーゴを追い込んでいく事となる。
そんなカイトとペレーゴが戦っている場所から少し離れた所では別の戦いが繰り広げられていた。
フミコとペレーゴの仲間の女剣士との戦いである。
「どけぇ!! 邪魔をするな!! 私は主の剣!! いつ何時も離れるわけにはいかないのだ!!」
女剣士が叫び、強烈な突きをフミコに放つ。
これをフミコは銅剣で受け流すが、しかし完全には受け流す事はできず、腕から血が飛び出す。
「っ!! 足止めをするとはいったけど、殺さずにってのはさすがに厳しいな」
そう言いながらもフミコは女剣士に目に見えた反撃はせず、ただ攻撃を受け流すだけだ。
必要でない限り異世界の人間は極力殺さない。そう思ってはいるが、しかしそうもいかない時もある。
そして、今がその時のような気がする。
フミコは反撃すべきか考え、そして雨によってぬかるんだ地面に足を取られた。
「しまっ!!」
その一瞬の隙を女剣士は見逃さない。
「いまだっ!!」
女剣士の斬撃はフミコの手から銅剣を弾き飛ばす。
そして、フミコはそのまま体勢を崩し、地面に倒れ泥まみれとなった。
そんなフミコを追撃すべく、女剣士は剣を倒れたフミコへと突き刺そうとする。
「っ!!」
フミコは慌てて銅矛を取り出そうとするが、その時頭の中で誰かの声が聞こえた。
『そんなものに頼らず、われの与えた力を使え』
突然の事に混乱するフミコだったが。
「は? 誰? ていうか何を言って……」
次の瞬間にはハンドルグリップのように見える何かを手にしていた。
「え?」
驚くフミコだったが、しかし自分でも驚くほどにそのハンドルグリップが手に馴染んでおり、すぐにその使い方を理解した。
素早くバイクのメーターのようなものをハンドルグリップに取り付け、投影された針を剣のエンブレムに向け、ハンドルグリップのボタンをカチっと押す。
直後、ブーンという音と共にハンドルグリップの先からレーザーの刃が出現し、フミコを剣で突き刺そうとしていた女剣士の腹を突き刺し、貫いた。
「がはぁ!?」
レーザーブレードに貫かれた女剣士はそのまま吐血し、フミコの上に覆いかぶさるように倒れこみ、絶命した。
フミコはそんな女剣士の死体を横へとどけて起き上がり、その場から少し距離を取る。
倒れた事により泥だらけになった全身も、女剣士の最後の吐血を浴びて血にまみれた顔も、雨に打たれて全身ずぶ濡れである事も気にせず、フミコが自身が手にしているアビリティーユニットGX-A04を見つめる。
「なんでこれが……これはかい君が預かってたはずじゃ」
そんなフミコの頭の中に再び声が聞こえる。
『それはわれがそなたに与えた力だ。疑問に思うことでもないだろ』
そんな声を聞いたフミコは雨に打たれる中、周囲を見回して叫ぶ。
「さっきから何? あなた、誰!? 一体何なの!?」
しかし、周囲には誰もいない。
ただ雨が地面に降り注ぐ音が途切れる事無く続く中、フミコの頭の中にのみ声は届く。
そして、その声はフミコにこう告げた。
『われか? われは白亜。端的にいれば……そなたを導く女神だ』




