その贈り物は誰からのものなのか?(2)
朝食の準備も終えて、皆が起きてくるまで時間があるので展望台で読書をしていると、めずらしくフミコが展望台にやってきた。
いや、別段展望台にやってくる事自体はめずらしくも何ともないのだが、まだ朝食までには少し時間があるにも関わらず、フミコが目覚めてここを訪れたというのは意外だった。
なので。
「おはようフミコ! めずらしいな、こんな早くに目覚めるなんてって……っ!?」
そう声をかけたが直後、思わず言葉に詰まった。
そしてすぐに目を逸らす。
無理もない、何せフミコはいつもの巫女服ではなく、大胆にも胸元を強調する洋服を着ており、しかも展望台の最上階たる展望デッキに登りきるには、手すりを両手で掴みながらでないと登れない梯子を登らないといけないのだが、これが設計ミスのせいで中々に狭く、おかげで登るときに腕が体につかえてしまう。
その影響から胸元が露出している服を着ているフミコは今とんでもないサービス全快な状態となっており、さらに朝一で下着をつけるのを忘れたのか、もはや直視できなかった。
「ん? どうしたのかい君? 顔を背けて」
登り切って展望デッキにやってきたフミコはこちらが顔を背けている事に首を傾げる。
どうやら自身の格好が大変な事になっている事に気付いていないようだ。
なので
「フミコが洋服なんてめずらしいな? うん、でもまずは身だしなみを整えようか?」
そうやんわりと伝えると。
「そうでしょ! えへへ、似合う? たまにはこういうのもいいかなって……というかかい君、なんでこっち見てくれないの? それに身だしなみって……」
フミコはそう言って自身の格好を改めて見て。
「っ!!」
顔を真っ赤にさせると素早くこちらに背を向け、乱れた衣服をただす。
そうして顔を真っ赤にさせながらこちらを向くと。
「あはは、普段着慣れない服を無理に着るものじゃないね。失敗失敗……」
そう言って苦笑いを浮かべながら可愛らしく自身の頭を叩く素振りをしてみせた。
そんなフミコを横目で見て。
「ま、まぁ何事にも失敗はつきものだからあまり気にしない方がいいよ、うん」
そう当たり障りのない言葉をかけたが、しかしフミコはジト目でこちらを見ると。
「……見た?」
そう問いかけてきた。
どう答えるべきが考え、少し間をあけてから。
「ノーコメントで」
そう返したが、しかしフミコは。
「……見たんだね?」
再度問いかけてくる。
なのでフミコのほうを向いて頭を下げた。
「はい、それはもうバッチリと……けど、不可抗力だと思います」
そして改まった口調で謝るとフミコが慌てだす。
「ちょ、ちょっとかい君? なんでそんな他人行儀なの? やめてよ! 別に攻めてないよ? これはあたしの失敗なんだし、ちょーっとアピールできるかなー? と思ってチョイスした服で自爆しただけだし! ん? でもこれって結果的にアピールになった? いやいや、そういう方向のアピールじゃないでしょ! いや、違わなくはないけど!! というか今更じゃない? 以前だってほら!」
もはやフミコは自分でも何を言ってるのかわからなくなったのか、目をグルグル回しながら苦し紛れに「あ、そうだお茶飲む?」と水筒を差しだしてきた。
なので、とりあえずフミコが水筒を受け取り。
「お、おう……ありがとう。というかフミコも飲んで一旦落ち着けば?」
そう言ってコップにお茶を注ぎフミコに手渡した。
フミコは素早くそれを飲み干すと深呼吸して一旦気持ちを落ち着かせた。
そんなフミコを見て、もう大丈夫だろうと尋ねてみる。
「で? 一体何の用? 朝食ならもう準備はできてるから、早めに食べたいっていうなら問題はないけど」
するとフミコは再び慌てた表情になってこちらにある物を見せてきた。
「そう! かい君!! ちょっとこれを見てほしいの!!」
「ん? 見てほしいって一体……っ!!」
それは見覚えのあるアタッシュケースだった。
思わず懐に手を入れてアビリティーユニットを取り出し、その手にカグから手渡されたアビリティーユニットが収納されていたアタッシュケースを出現させる。
「同じだ……大きさも形も」
自らの持つアタッシュケースとフミコが見せてきたアタッシュケースを見比べてそう呟くと、フミコも頷いてアタッシュケースを開けて中身を見せてきた。
そこにはバイクのハンドルグリップのようなものとバイクのメーターのようなものが入っていた。
「それは?」
それだけを見るとただ単にバイクの部品の一部が入っているようにも見える。
しかし、そうではないだろう。なんだか嫌な予感がした。
そして、その予感を後押しするように、フミコがある言葉を発する。
「わからない……けど、たぶんアビリティーユニットだと思う」
アビリティーユニット……つまりは神を自称する連中からの贈り物だ。
アシュラは自身のアビリティーユニットはインプラント型だと言っていた。だからアシュラがアビリティーユニットを手にして戦うという事はなかったが、アシュラより後に生まれた異世界渡航者である自分や先輩の高杉夏治はアシュラとは違い装備型であり、アビリティーユニットを手にして戦う。
そして、先輩の高杉夏治の使っていたアビリティーユニットはカードリーダーのような代物であり、アビリティーカードを挿入するか読み込む事で異能を発揮するという、自分のアビリティーユニットとは外見も使用の際のアプローチの仕方もまったく違っていた。
そう、アビリティーユニットはGX-A00/01、GX-A02、GX-A03で外見も使い方もまったく違うのだ。
だから、自分の使っているアビリティーユニットと見た目が違うからといって、これがアビリティーユニットでないとは言えないのだ。
何より持って来たフミコがアビリティーユニットだと思うと言っている以上、すでにフミコはこれを起動させてしまったのだろう。
「最悪だ……」
思わず口に出してしまったが、これを聞いたフミコが。
「ごめんかい君、もっと慎重に確認するべきだった……」
そうしゅんとした顔で言ったので。
「いや、別にフミコを責めたわけじゃないんだ。それに普通、こんなものを見たらまずは色々確認しちゃうもんな! 仕方ないよ」
慌ててフォローしてから。
「それでフミコ、これをどこで?」
そう尋ねると。
「うん、それが朝起きたらベットの横のテーブルに置いてあったの。なんだろうと思って開けてみたらこれが入ってて、それで手に取ったら起動して……ほんと迂闊だった」
フミコはそう言って再び申し訳なさそうな表情となった。
そんなフミコをなんとかなだめながら考える。
(新しいアビリティーユニットだと? 一体どういう事だ? なんでフミコに? というかベットの横に置いてあった? つまりはフミコが寝ている寝室に侵入したのか? カグのやろうか、スプルのやろうが? ありえねーだろ!! 何フミコの寝室に無断で入ってるんだふざけんな!! たとえ自称じゃなく本物の神であっても許される事じゃねーぞ!! 次会ったら絶対に一発ぶん殴ってやる!!)
拳を握りしめ、怒りに震えていると、そんな自分を見てフミコは首を傾げるが、しかしすぐに本題に入る。
「ねぇかい君、どう思う?」
真剣な表情で訊ねてくるフミコを見て、こちらも素直に意見を述べた。
「……そうだな。このタイミングでアビリティーユニットをフミコに渡す意図が正直読めない。というか、もしフミコに何かしらの役割を与えたくてアビリティーユニットを託したのなら、なんで何も言わず寝室に置いておったんだ? 普通、直接渡して説明なりなんなりするだろ。でなきゃ、何をさせたいのかさっぱりわからん」
「だよね。一体あのカラス、何考えてるんだろ?」
「そもそも、これはカグのやろうが置いていったのか?」
「違うの?」
「もしかしたらスプルのほうかもしれない。アビリティーユニットを開発した張本人らしいからな」
「かい君が戦いの最中に出会ったっていう別の自称神だっけ? そいつがこの新しいのが完成したから置いていったの? でもそれだと、先にかい君に強化アイテムの正式版を持ってくるんじゃないの? そもそもなんであたしなの?」
「うーん……」
ふたりして頭を捻って考えるが、結論はでなかった。
そもそも、まったくもって意図が読めない。一体神を自称するあの連中はフミコにこれを渡して何がしたいのだ? そこがまずもってさっぱりだった。
そして、さっぱりな事を永遠と考えて悩んでも仕方がない。なので、まずは今できる事をする事にした。
「朝食までには少し時間がある。まずはこれが新しいアビリティーユニットだっていうなら、こいつがどういったツールなのか調べるか」
そう言って向かったのがメンテナンス施設だ。
普段はここでアビリティーユニットGX-A03をメンテナンスしているが、ここの装置でフミコが持って来た謎のアビリティーユニットらしきものを徹底的に調べる。
すると驚くべき事がわかった。それは……
「アビリティーユニットGX-A04だって!? まじで新型なのか……それに俺のアビリティーユニットにはない機能が色々あるぞ?」
そう、アビリティーユニットGX-A04にはアビリティーユニットGX-A03にはない便利な機能が充実していた。
まずはヒントサーチ。
この機能は目的地の異世界で一度だけ、その異世界にいる転生者、転移者、召喚者の現在地がわかるという超便利な喉から手が出るほどほしい機能である。
とはいえ、これは目的地で一度しか使用できないため、ヒントサーチを行った際、ターゲットがその場からとてつもなく遠くに離れていたり、相手が高速で移動していた場合に、再度のサーチをかけられないという問題もあり、使いどころを見極めなければならないだろう。
とはいえ、これを使えば探索時間は一から探すより短縮できるはずだ。
次にビークルモード。
これはバイクなどの乗り物にそれぞれの状況や地形に応じて変形させられるという機能であり、ひょっとしたら、この機能のためにGX-A04は見た目がハンドルグリップとメーターなのかもしれない。
その他にもGX-A03にはない便利な機能が色々備わっていたが、一番目を引いた機能、それは……
「ユニットリンクシステム? これって……」
その内容に思わず唾を飲み込んでしまった。




