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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
間章

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量産型(4)

 誠学はアシュラの言葉と一変した空気に思わず唾を飲み込み、恐れから一歩後ろへと下がる。

 だが……


 (何を弱気になっているんだ!! 相手が格上なのはわかっていた事だろ!! それを承知で挑んでいるんだ!! それを今更ビビってるんじゃねー! ボクを信じてこいつを託してくれた女神のためにも……絶対に引くわけには……負けるわけにはいかねー!!)


 心の中で叫んでから自らの頬を叩いて気合いを入れ直す。


 「っしゃあ!! 闘魂セルフ注入!!」


 叫んで再度アビリティーユニットをゆっくりとこちらへと歩いてくるアシュラへと向け。


 「ファイヤーボール!!」


 炎の魔法攻撃を放った。

 しかし、結果はさきほどと変わらない。

 アシュラは特に焦る様子もなく、歩きながら飛んでくる虫を払いのけるような仕草で誠学の放ったファイターボールを弾く。


 それを見た誠学は。


 「だったらこれならどうだ!! ウインドカッター!!」


 アビリティーユニットを真横に振るい、風の刃を放つ。

 だが、これもアシュラには届かない。

 先程と同じく、虫を払いのける感覚であっさりと弾いた。


 「っち! サンダーボルト!! ストーンブラスト!!」


 誠学は続けざまに雷撃と石の礫の魔法攻撃をアシュラに放つが、これもまた何食わぬ顔で弾かれてしまう。

 そうして迫りくるアシュラを見て焦る誠学だったが、しかし視線を少し横に向け、そこに広がる壮大な海を見て口元を歪ませる。


 「ここが浜辺でよかった……これだけ大量の海水があれば、間違いなく水魔法の最大のパフォーマンスを発揮できる!!」


 誠学はそう言うとアビリティーユニットをゆっくりと迫ってくるアシュラではなく、すぐ横に広がる海へと向けて叫んだ。


 「これで押し流してやる!! タイダルウェイブ!!」


 直後、浜辺へと押し寄せる波の高さが数倍に一気に跳ね上がり、巨大な津波となって浜辺を……そこにいるアシュラを飲み込むべく襲い掛かる。

 その勢いはあまりに速く、避難する暇などない。

 そう、もはや成す術なく飲み込まれる未来しかない、そのはずだった……だが。


 「はぁ……所詮は二軍、つまらねー攻撃だな? 退屈すぎてあくびが止まらねーわ」


 アシュラはそう言って大きなあくびをしながら指をパチンと鳴らす。

 すると、浜辺を飲み込まんとしていた巨大な壁のような波が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「な!?」


 そのあまりの光景に誠学は開いた口が塞がらない。

 しかし、無理もないだろう。何せ、巨大な津波が割れて海水が消滅したせいで海底の地面がむき出しになり、海が割れて道ができたような光景が広がっているのだから……


 それは見る人によっては旧約聖書の有名なエピソードを連想してしまうだろう。

 実際、誠学も真っ先に思い浮かんだのがそれだった。


 「なんだよこれ……モーゼかよ」


 茫然とする誠学のすぐ目の前にアシュラが立ち。


 「さて、遊びはもう終わりか? そんじゃそろそろ俺様のエサになれや? まずくて食えたもんじゃない男の肉を連続で食うとか苦痛だけどよ? そこは先輩として我慢してやるぜ、感謝しろよ?」


 そう言って舌なめずりする。

 そんなアシュラを見て誠学は我に返り。


 「っ!!」


 素早くアビリティーチェッカーに投影された針の先に指で触れて動かして銃のエンブレムに向け、アビリティーユニット・ブラスターモードに変更すると、アビリティーユニットのボタンをカチっと押して光弾を放つ。

 とはいえ当然ながら、アシュラにそんな攻撃は効かない。

 さきほどまでと同様に、虫を払いのけるような仕草で光弾を弾く。


 だが誠学は気にせず撃ち続け、そうしながら地面を蹴って一気に後方に下がってアシュラと距離を取る。

 そんな誠学との距離をアシュラはすぐに詰めようとはしない。

 さきほどまでと変わらず、ゆっくりと誠学に向かって歩いていく。


 そんなアシュラの、すぐには迫ってこない様子を見て誠学は、クラッチレバーかアクセルレーバーのどちらかのように見えるそのレバーを軽く握り、直後にアビリティユニットのボタンをカチっと押す。

 すると光弾が連続して放たれ、アシュラの周囲の砂浜に被弾。直後、砂浜が爆発し、アシュラは爆発によって吹き上がった砂煙の中にその姿を消した。


 それを確認してから誠学は再びバイクのメーターのようなアビリティーチェッカー上に投影された針に触れて動かし、針の先を新たなエンブレムに向ける。

 そのエンブレムはバイクのようなデザインのエンブレムであった。


 直後、誠学が握るアビリティーユニットとその先に取り付けられたバイクのメーターのようなアビリティーチェッカーの反対側にもうひとつのアビリティーユニットのようなハンドルグリップが現れる。

 そして、バイクのメーターのようなアビリティーチェッカー上に5つのエンブレムが投影された。


 それはアビリティーユニット・ビークルモードが起動した証。

 量産型であるGX-A04にのみ搭載されたマシンを具現化し、移動できるモードだ。

 そんなビークルモードで現状選択できるのは5つ。


 陸上を走行するバイクスタイル(デフォルト)。

 水上を走行する水上オートバイスタイル。

 雪上を走行するスノーモービルスタイル。

 空飛ぶバイクであるホバーバイクスタイル。

 そして、全地形対応車であるバギースタイルだ。


 これらの中から誠学は空飛ぶバイクであるホバーバイクスタイルを選択。

 直後、ハンドルグリップを持つ誠学の周囲に半透明の物質が浮かびあがり、それらは完全な物体となってアビリティーユニットへとくっつき、その姿が日本で初めて製品化された空飛ぶバイクである「XTURISMO(エックストゥーリズモ)」となった。


 誠学はシートに乗り込むとハンドルグリップを握り「XTURISMO」を始動させ、宙に浮かぶと。


 「不本意だが今は戦略的撤退だ!! 一度体勢を立て直す!!」


 そう叫んでアシュラから逃げるべく、一気に数メートル上昇してから一目散にその場から離れていった。


 (とにかく今は逃げる!! 今のボクじゃ勝てない……くそ!!)


 誠学は苦虫を嚙んだような表情で「XTURISMO」を飛ばすが、しかし。


 「おいおい。ここに来て逃げるとか、てめー一体何しにきたんだ?」


 砂煙の中から姿を現したアシュラは逃走を図る誠学の後ろ姿を見てため息をつくと。


 「ま、微塵も興味がわかねー二軍だ。ここで見逃しても問題ねーし、数分後にはその存在も忘れてるだろうからほっといてもいいんだけどよぉ?」


 そう言いながらもパチンと指を鳴らし。


 「けど、まぁ、あれが餌だったとわかった以上は取り逃すのは気が引けるな? というか食ってやらねーと失礼だ」


 うんうんと頷くと、砂浜の下に埋もれていた海鳥たちの白骨化した死体が次々と地面から飛び出してきて、それはアシュラの背中にくっつくと結合して巨大な骨の翼となり、大きく羽ばたき出す。

 そうして、アシュラは巨大な骨の翼をまとって空に舞い上がると。


 「さて、それじゃ狩りといこうか」


 再び指をパチンと鳴らす。

 すると眼下に広がる海が一瞬で消滅し、どこまでも続く砂漠となった。

 そして太陽は一瞬にしてその姿を消し、空は一気に暗黒の闇夜となる。

 とはいえ、完全に真っ暗というわけではない。

 怪しく赤く輝く巨大な月が、どこまでも続く砂漠を薄っすらと照らしていた。


 そんな赤い月を背後に従えてアシュラは巨大な骨の翼と両手を広げて闇夜の空に君臨する。

 「XTURISMO」で逃走を図っていた誠学は後ろを振り返って、そんなアシュラを見て軽く舌打ちした。


 「くそ! なんだそれ!? かっこいいじゃないか」


 誠学の羨望のような声がアシュラに届いたのか、アシュラは口元を歪ませると。


 「なぁに、ただの形式美だ」


 そう言って、逃げる誠学へと一気に襲い掛かった。

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